41:Supra furca in via.
ムジカでいるときは使ってない6弦のギターを持って、軽く鳴らす。
開場直前の音出しはよくあることだし、今回のスタッフ陣は豊川の計らいでローブを着ている。
そこに混ざれば、音出しはスタッフがやっているものだと思わせられる。
軽く音出しを追えて袖に捌けると、リズム隊が少し怪訝な表情でこちらを見ている。
「やれるんだよね、碧」
「スコアは覚えた。あとは合わせる」
ルイナスを出さない、かつ、俺ができる最大限のパフォーマンス。
楽奈がやっているような無型ではなく、型に則ったやり方。
トレースはできても、オリジナルにはなれない。
「メロディラインはそっちが基本なんだから、しっかりしてよね」
「分かってらい。MyGO!!!!!のリズムキーパーには期待してんだ」
リズム隊に笑いかけるとなんだお前みたいな顔で見られた。
ちょっとショックかもしれない。
「神崎、くん」
ステージが少し覗ける場所で、リズム隊と入れ替わるように高松が声をかけてきた。
「...お前はただ詩えばいい。お前の詩は届く、燈」
「...うん...っ!」
サポーターとしては不自由ない会話のはずだが、何故だか殺気を感じる。
近くにいたピンク髪を捕まえて、訳を聞く。
「なぁ愛音、なんで俺は立希からあんなに威嚇されてる?」
「りっきーともりんのこと大好きだからって、前にも言ったのに」
「...そういう意味?」
「違うけど同じ」
人間の心は分からない。
そう言った心の揺れ動きは、もっとよくわからない。
「...よし、行くよ」
「円陣!円陣やろ!」
「...早くしてよね」
「じゃあともりん!」
「え、えっと...My、GO!!!!!」
やっぱりばらばらだ。
でも、それがこのバンドの良さでもある。
ばらばらだけど、同じ方向へ。
迷子でも、前に進む強さが。
「...羨ましい」
ローブの内側で呟いた言葉は、歓声によって空気となった。
ステージに上がる人影が四人であることに、観客はどよめいた。
それを見てか、燈が口を開く。
『楽奈ちゃんは、風邪です。今日は、いないけど。頼れる人が、います』
言葉と共に五人目がステージに上がり、ローブのフードを外す。
クロユリをあしらった仮面をつけたギタリスト。
『ギター、ルイナス』
『...よろしく』
ルイナスが軽いパフォーマンスをすると、観客の熱気が高まる。
『詩を、聞いてください。「碧天伴走」』
楽奈がいない以上、身バレ劇はできない。
俺が代役をすることもできるが、その場合の仮面は俺が剥がさなければならない。
それは、オーディエンスが求めているものではないだろう。
というか、第一に俺が嫌だ。
だから、その劇はパス。
代わりに、演奏に集中する。
「(やっぱり、あいつはすごい)...っ」
仮面の内側で笑いそうになるのをこらえながら、ギターをかき鳴らす。
きっといつもの、楽奈の自由奔放なスタイルのギターを聞き慣れているオーディエンスからすれば、俺のギターはつまらなく聞こえるのだろう。
でも、それでいい。
俺の仕事は、それで...。
ふと後ろを向けば、立希と目が合う。
その目は、「もっとやれんでしょ」と言ってるようで。
「(やってやろうじゃ、ねえかよ)」
ギアをあげる。
その瞬間に、オーディエンスのボルテージも上がった気がして。
なんだか楽しくなってきた。
ギターを弾いて楽しくなってたことなんて、いつぶりだろう。
ムジカの時も、もちろん楽しかったけど、ムジカの時とは違う楽しさ。
義務感でやるギターなんて、うまく聞こえても楽しくなきゃな。
「...うまくやっているようですね、ルイナス」
「えぇ、彼の実力は元々高いのですもの。彼の技量にかかれば」
「...燈の歌、いい」
「えぇ、とてもいいものですわね」
「いや声色と顔が全く合ってないけど」
声色は神たるオブリビオニスなのに、表情は年相応。
その方がやりやすいとは思っていても、どこか仲良しごっこのような気がして、にゃむは少しだけ苦手意識がある。
「だって、いい詩なんですのよ?」
「そりゃ分かるけど、でも今は神サマでいてよ」
「...分かりましたわ」
眼光が鋭く、声も一層低くなる。
スイッチが切り替わった。
『ありがとう、ございました...!!』
ステージから聞こえる挨拶を合図に、5人が手を握り、心臓の位置へ。
「では、参りましょう。Ave、Mujica」