迷う心の在り処   作:ユイトアクエリア

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君の代わりはいない


42:Illic 'nemo ut reponere te.

『ありがとう、ございました...!』

 

高松の声を合図に、ギターを置き、糸が切れた人形のようにその場に座る。

疲れ3割、緊張4割、その他3割。

後ろに下がる時間はない、このまま出続ける。

とはいえ暑いのでローブは脱いで隅のほうに置く、あとはスタッフさんに任せよう。

と、スポットライトが俺を照らす。

元々仮面で顔は見えづらくなってるが、一応目を閉じておく。

 


 

『...壊れてる?』

 

ルイナスの近くでしゃがみ込み、顔を覗き込むモーティス。

ルイナスの仮面を優しく外すと、ルイナスの顔が少しだけ歪む。

 

『いや、反応はある。寝てるだけだろう』

『ふーん。おーい新入り、起きた方がいいよ』

 

ティモリスの冷静な分析を受け、アモーリスが声をかける。

その声で目を開け、ルイナスがゆっくりと立ち上がる。

 

『...お前たちは?』

『死の騎士、モーティス』

『恐れの騎士、ティモリスだ』

『愛の騎士アモーリス、お前は?』

『...破滅の騎士、ルイナス...そうか、ここがパラディースス...』

 

あたりを見渡し、納得した表情をするルイナス。

 

『ルイナスにも、忘却したいものが?』

『この思い...忘れたいという、この気持ちを』

 

忘れたいという思いを忘れたい、などという矛盾。

それを叶えられうるのが、忘却の女神だという噂。

そんな最中、

 

『...来た』

 

モーティスが口を開いた。

モーティスの目線の先には、剣を持った女神:オブリビオニス。

それを理解した瞬間に、体が勝手に片膝立ちになり、跪く。

モーティス、ティモリス、アモーリスも同様だ。

 

『忘却の女神』

 

ティモリスが呟いたと同時に、アコレード*1を行うオブリビオニス。

同じことをアモーリスとモーティスに行うと、視線の先にいるルイナスに気づいて1歩踏み出し――止まった。

 

『放浪の騎士、破滅のルイナス。なぜここに?』

『どうもこうもない。あなたの騎士に、剣に...いや、盾になりに来たんだ』

『――それは、本心ですか?』

『...なぜ疑う?口から出るのは虚実でしかないからか?』

『そこではなく、なぜ()なのですか?』

 

ルイナスの盾になる、という発言に、オブリビオニスは疑問を抱く。

ルイナスは、至極当然、といった顔で答える。

 

『最後の一人になっても、たとえ、この命尽きようとも。ここを...貴女を、護り通すためですよ』

『――いいでしょう。貴方にも、忘却の加護を』

『ありがたき幸せ』

 

ルイナスにもアコレードを行う――寸前で、「待って!!」という声が通る。

 

『はぁ、はぁ...ぼ、ボクも、あなたの、騎士に...剣に...!!』

 

そういって跪く、ベージュ髪の騎士。

それを見たオブリビオニスは、騎士のほうへ歩き、目の前で足を止める。

 

『何度、繰り返すのです』

『...え?』

『何度忘却させようと、ドロリス。貴女は必ずここへやってくる』

『ボク、は...ここに来たのは、初めてで...』

 

忘却の加護(呪い)を受けて尚、ドロリスはパラディーススにいる。

そんなドロリスを、ルイナスが覗き込む(観察する)

 

『な、なに...?』

『加護は...ちゃんとかかってんだ。じゃ、アンタはそういうのに強いのか、あるいは』

 

ルイナスの指がドロリスの額に当たる。

 

『一生忘れられない経験をしたか、されたか...だな』

『ボクは、ただ...会いたくて』

『会いたいだけじゃここに来れないはずだ。少なくともそんな理由では来れない。――それが本当だとして、会いたいだけで女神の騎士にしてもらえるとでも?』

 

ルイナスは自分の(ギター)を構える。

 

『ドロリス、自分が有用だってこと、示して見せろ。我らが女神のお眼鏡に叶うかは、それ次第だ』

『...わかった』

 

ドロリスが椅子の上の(ギター)を取り、舞台の真ん中へ。

それに続くように騎士たちが定位置につくと、舞台は暗転し、オブリビオニスにスポットライトが当たる。

 

『たとえ世界が忘れようと、神であるわたくしは忘れない。この黄昏の楽園に、君臨し続ける!』

 


 

肺に溜まった空気を吐き出し、熱が篭る会場の空気と入れ替える。

うまく演れてただろうか、顔は強張ってなかっただろうか。

様々な不安が心を覆う。

 

「大丈夫。かっこよかったよ」

 

背中合わせなのをいいことに、初華が耳元で囁く。

 

「...ありがと」

 

背中合わせで助かった。

今、自分の顔、誰にも見られてほしくない。

多分、むちゃくちゃ顔赤い。

だけど。

 

――楽しい。

 

やっぱり、ムジカが。

 

楽しい。

 

 

 

*1
中世において騎士の資格を授与するための通過儀礼、後に称賛、表彰、栄誉などのより一般的な意味で使われるようになった




Q:どうして演奏パート書かないんですか?
A:書けない。楽器わからない。俺は雰囲気でバンドリを見ている。
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