「っ...ふ...ぅ...」
楽曲:『天球のMúsica』の一体化したコールを聞きながら、ゆっくり息を整える。
この後の演技パートに支障がないように。
「ぁ...は...っ」
息がうまく吸えない。
テンションが上がり過ぎていつもしないことしてたからか?
いや違う。いつもならこんなしてたって体力は持つ。
「っ――」
やばい、倒れる。
が、俺の体はいつまでも地面に付かず。
「...ドロ、リス」
『大丈夫かい?』
「あぁ...悪い」
初華...ドロリスの支えで地面を今一度踏みしめる。
...大丈夫、息も吸える。
『ところで...勝負はボクの勝ち、ということでいいかな?』
「勝負?あぁ...そうだな。俺は倒れたし、君は俺を支えてなお立ってる。君の勝ちだ」
『...ありがとう。ボクはようやく、剣になれる...とは言ったけど』
ドロリスは、オブリビオニスの方を向いて一礼。
『ボクだけで、この場所を守ろうなんて、微塵も考えてないんだ。元よりボクは、オブリビオニス神に会いに来ただけだから。パラディーススの守護は、君に任せてもいいかな』
「剣になりたいとか言っといて、盾に任せるのか?」
『だって、守れる範囲はそっちのほうが広いじゃないか。それに』
――望まれない命のボクは、ここで消えなきゃいけない。
『神様の騎士になれば、存在理由ができるかと思ったんだけど。どうやら、そうじゃないみたいだ』
「...敗者の手向けだ、持ってけよ」
ルイナスのマスクを投げ渡す。
『...これは、君の存在証明だろう?』
「俺は負けたんだよ。あとは任せる。パラディーススの守護は、見えないとこでやるさ」
『いや、でもそれは』
「オブリビオニス神は厳しいぞ。剣になりたいなら、まずは下僕から始めることだな」
そう言って、俺は舞台袖に引っ込む。
俺が倒れかけるところはアドリブだったが、あとは大体うまくいった、はず。
それにしても。
「任せる、か。ほんとにそうなっちまいそうだ...」
ステージが見えなくなった場所で、咳を2発。
口を押えた右手には、赤黒い液体。
「うわ、まじかよ。息が吸えなくなってたのこれかぁ」
他人事のように呟いてから、状況を整理する。
無理をさせすぎたか?いや、これくらいならいつもやれてた。
ならば、なぜ?
「...ガタ?」
人の身に、ガタが来た?
あり得ない話ではないが、あり得ない寄りだろう。
もっと重めの病気のほうが、信憑性がある。
「...まぁ、念のためってことで」
このライブが無事に終わったら、市立のでかい病院に駆け込むとしよう。
と思ってたんだけどなぁ。
なんで俺、点滴につながれてるんだろ。
まぁほら、そういうことですよねと。