迷う心の在り処   作:ユイトアクエリア

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もう戻らない


43:Im 'non iens retro

「っ...ふ...ぅ...」

 

楽曲:『天球のMúsica』の一体化したコールを聞きながら、ゆっくり息を整える。

この後の演技パートに支障がないように。

 

「ぁ...は...っ」

 

息がうまく吸えない。

テンションが上がり過ぎていつもしないことしてたからか?

いや違う。いつもならこんなしてたって体力は持つ。

 

「っ――」

 

やばい、倒れる。

が、俺の体はいつまでも地面に付かず。

 

「...ドロ、リス」

『大丈夫かい?』

「あぁ...悪い」

 

初華...ドロリスの支えで地面を今一度踏みしめる。

...大丈夫、息も吸える。

 

『ところで...勝負はボクの勝ち、ということでいいかな?』

「勝負?あぁ...そうだな。俺は倒れたし、君は俺を支えてなお立ってる。君の勝ちだ」

『...ありがとう。ボクはようやく、剣になれる...とは言ったけど』

 

ドロリスは、オブリビオニスの方を向いて一礼。

 

『ボクだけで、この場所を守ろうなんて、微塵も考えてないんだ。元よりボクは、オブリビオニス神に会いに来ただけだから。パラディーススの守護は、君に任せてもいいかな』

「剣になりたいとか言っといて、盾に任せるのか?」

『だって、守れる範囲はそっちのほうが広いじゃないか。それに』

 

――望まれない命のボクは、ここで消えなきゃいけない。

 

『神様の騎士になれば、存在理由ができるかと思ったんだけど。どうやら、そうじゃないみたいだ』

「...敗者の手向けだ、持ってけよ」

 

ルイナスのマスクを投げ渡す。

 

『...これは、君の存在証明だろう?』

「俺は負けたんだよ。あとは任せる。パラディーススの守護は、見えないとこでやるさ」

『いや、でもそれは』

「オブリビオニス神は厳しいぞ。剣になりたいなら、まずは下僕から始めることだな」

 

そう言って、俺は舞台袖に引っ込む。

俺が倒れかけるところはアドリブだったが、あとは大体うまくいった、はず。

それにしても。

 

「任せる、か。ほんとにそうなっちまいそうだ...」

 

ステージが見えなくなった場所で、咳を2発。

口を押えた右手には、赤黒い液体。

 

「うわ、まじかよ。息が吸えなくなってたのこれかぁ」

 

他人事のように呟いてから、状況を整理する。

無理をさせすぎたか?いや、これくらいならいつもやれてた。

ならば、なぜ?

 

「...ガタ?」

 

人の身に、ガタが来た?

あり得ない話ではないが、あり得ない寄りだろう。

もっと重めの病気のほうが、信憑性がある。

 

「...まぁ、念のためってことで」

 

このライブが無事に終わったら、市立のでかい病院に駆け込むとしよう。

 


 

と思ってたんだけどなぁ。

 

なんで俺、点滴につながれてるんだろ。

 




まぁほら、そういうことですよねと。
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