「『カーテシーがあなたの欲情を掻き立てる』...すっげえ歌詞」
新曲の歌詞を検閲中、入院中の碧です。
AveMujicaの世界観がこの前のツーマン――世間ではマイムジライブとかいう俗称が流行ってるらしい...で人形劇から本格的に騎士と女神のそれにすり替わったので、楽曲も神話モチーフなのはわかるんだけど。
「隠さなくなったよなぁ...」
この歌詞を見て祥子は何を思うのだろうか。
特に何も思わないのか、それとももしや自分のことなのではと恥ずかしくなるのか、はたまたそういう方でもできたんですのねと思うのか。
真実は闇の中ですが。
これは決して初華の作詞力を褒めての言葉なのだが、出てくる言葉が妙に詩的で微妙にぼかされてるのがまた気持ち悪い。
直球に言えないのもあるが、そのギリギリを責めるラインがまた気持ち悪さを増すんだよな、生成AIかな?あれはギリギリとかじゃなくてアウトなの多いけど。
「...まぁ、俺がとやかく言う問題でもないだろ。事務所...はムジカの中身に関しちゃノータッチだし、あとは祥子のご機嫌次第かな」
歌詞を確認した旨を祥子にメールで飛ばして、目を閉じて布団に体重をかける。
それにしても、せっかくまともに動けない役立たずがここにいるんだから、祥子も事務仕事とか振ってくれればいいのにな。
そんなことを思っていると、控えめに病室のドアが開く。
「...碧くん?起きてる?」
「起きてるよ。おはよ、初華」
現れたのは初華。
荷物は少ないが背中にはギターケース、これから練習なのだろう。
「体調は大丈夫?どこか痛いところとかない?」
「今んとこはすこぶる好調。たまに血吐くけど問題はない。ありがと」
「...よかった、元気で。えっと、祥ちゃんから聞いたの。祥ちゃんの、お兄ちゃんだって」
祥子のことだ、きっと話すだろうなと思っていた。
祥子が話さなくても、きっと睦が話しただろう。
「...それで?」
「あ、その。えっと、ね。力に、なりたいなって。ほら、その...家族、だし」
「...ありがと。でも俺は平気だよ。初華にはいつも助けられてる。返しきれないほど」
「ほんと?嬉しいな。でも、返さなくたっていいよ。私も、碧くんには助けられっぱなしだから」
初華...初音は俺の手を握る。
「碧くんはずっと、私のこと助けてくれてた。名前のことも、思ってることも、全部肯定してくれた。碧くんのおかげだよ。私がまだ、ムジカでやっていけるのは」
「...それは違う。初音の意思の強さだよ。俺は、何も」
「ううん。私、碧くんが言ってくれなかったら、ずっと初華のままでやってたから。もしかしたら、苦しくなってたかもしれない。助けてくれたのは、間違いなく、碧くん。ありがとう」
俺の手を両手で握って祈るように胸の前で手を組む初音。
...視界としてはよろしくないので少し目を逸らす。
とはいえ、ここまで入れ込まれてるのも、血縁だからなのだろうか。
そう聞くのは無粋なので、やめておくが。
「...碧くん。その、ね。私、あの」
「...一応、言っとくけど、応えられないぞ」
「それでも、いいから。聞いてて、欲しくて」
初音の意志の強さに圧され、聞くことにした。
初音は一度目を閉じて、一度大きく深呼吸をしてから、目を開けて、
「碧くん。大好きです」
とだけ、そう言った。
「...ありがと。初音の気持ちはうれしいんだけど、ごめん。こんな死に体じゃ、さ」
「ううん。大好きって伝えたかっただけだから。それに、その。血縁になると、さ?結婚とか、できないし」
「早ぇよ。何早まってんだ色ボケ」
「あてっ!?うぅ...祥ちゃんみたい...」
初音の額に軽めのデコピン。
「でも、死に体じゃないよ。絶対治るから。私の歌の力で!...なんちゃって」
「...初音の歌はがんにも効くからな。治るといいな」
「うんっ!」
きっと遺伝なら治らないのだろう。
だけど。
みんなと過ごす時間を、ちょっとでも長くできたらと、そう思った。
これが豊川の血か...
率直に言って
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おもろい
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おもろくない