迷う心の在り処   作:ユイトアクエリア

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終わりとしては美しい


50:Ut finis, pulchrum est.

「はっ...はっ...」

 

走る。走る。

雨の中、彼女は自分が濡れるのも厭わずに、走る。

 

「無事で...無事でいて...!」

 

道行く傘を差したまばらな人波を、縫うように走る。

同じように傘を差して歩けない理由が、彼女にある。

 

豊川の血に抗う肉親が、息絶えようとしている中。

彼女に傘を差してゆっくり歩くなんて選択肢はないも同然である。

 


 

碧の病室には、初華と睦がいた。

初華は冷たくなりつつある碧の手を握り、祈っている。

 

「碧くん...」

 

と、病室のドアが開き、祥子の姿が見えた。

 

「あっ、祥ちゃん!」

 

祥子が病室に入ってくる。

 

「祥ちゃんびしょ濡れ!タオルあるよ?」

「いえ、お構いなく。それより碧は?」

「...お医者さんが、今が一番危ないって」

「碧...どうして」

 

祥子は初華に代わって手を握る。

先ほどまで雨に打たれていたせいか、碧の冷たい手でも、祥子は暖かく感じた。

 

「まだ、暖かいですわね」

「祥、祈ってあげて」

「えぇ...戻ってきて、お兄様」

 


 

「よくもったほう、だと思うんだけどなぁ」

 

バンドギターにサブマネージャー兼用、学校に行きつつ交渉もこなす。

人並みの高校生よりは確実に頑張ったほうだろう。

結構満足してる。

 

『逝くのか』

「いやぁ全然。そのつもりはなかったんだけどね」

 

足元に広がる暗闇が、俺を放してくれない。

 

「なぁルイナス。俺は頑張ったよな?」

『ここでよくやったといえるほど、俺は察しが悪くない』

「クッソ。言われたら諦めてやろうと思ったのに」

『残されたほうが悲しむとは思わないのか』

「...思わないね。俺は元から一人だった」

 

嘘でもつかないとやってられない。

すごい苦しいし、怖い。

みんなにごめんと謝る時間があったら、きっと許さないと言われたはずだろう。

まぁでもそれも、もうどうでもいい話。

 

「ま、いい人生だったんじゃない?」

『未練しかない人生を100点みたいに言ってんじゃねえよ』

「いやぁだって、別に悔いなんてないしさ」

『悔いがないなら、無駄な問答してないでさっさと逝け。逝きたいならな』

 

相変わらず乱暴な半身だこと。

まぁでも、悔いがないのは大体ほんと。

よく頑張っただろ、俺。

 

『...ん、客か』

「客?」

 

見上げれば、AveMujicaの衣装を着た睦が降りてくる。

精神に干渉できるのは睦しかいないが、この場合は。

 

「モーティスかな」

「あったり~!遊びに来たよ!」

「...状況見ろよ。足埋まってるだろ俺」

「えーっと...じゃあ引っこ抜くね!えいっ!!」

 

モーティスが俺の腕をつかんで引っ張り上げると、いとも容易く暗闇からすっぽ抜けた。

ご丁寧に落ちないように台座まで。何でもありかこいつ。

 

「お前チートかよ...」

『...危機は脱した、ってとこだろ。死の運命から逃れるチャンスが生まれたとみてよさそうだ』

「碧くん、一緒に帰ろ?」

「...いや気まず、重篤で死にかけといてけろっと生き返るのなんか違うだろ」

『アニメの見過ぎだ。生き返るのに代償を求めるな。生者には今を生きる義務がある。義務を果たせ』

「お前も生者だろ...っ」

 

ルイナスの足はすでに暗闇に引きずられている。

 

『早く行け。俺は先に逝く。モーティス、その馬鹿を頼んだ』

「はーい!ほら、行くよ」

 

モーティスは俺の腕をつかんで、北方向へ飛んでいく。

 

「待てって、置いてくのか――」

 

モーティスの目には涙が浮かんでいた。

なら、俺が足掻くのも違うか。

と、頭の中に声が響く。

 

『一つ訂正だ。俺は生者ではなく、よくできた人形だ』

「...クソが、屁理屈こねやがって」

「人形でも、魂が宿れば生きてると同義なのに...」

 

モーティスに身を任せ、目を閉じた。

 


 

碧くんの意識を戻す前に、少しだけ独り占めしたい。

睦ちゃんの体に戻ったら、また私は出にくくなっちゃうから、今のうちに堪能したい。

碧君をぎゅーっと抱きしめて、ほっぺたにちゅーを一つ。

初めて、私をちゃんと見てくれた人。

怖がらずに、ちゃんとぶつかり続けてくれた人。

でもそれは、ルイナスくんだってそう。

私も悲しいよ。でも、碧君が生きてることは、何よりもみんなが喜ぶ。

ルイナスくんも、お前は生きろって言ったんだし、生きてもらわなきゃいけない。

 

「だいすき、だいすき」

 

私の思いは実らないし、碧くんもきっと睦ちゃんの好きに応える気はきっとない。

だから、ちょっとだけ悪いことしてる気分。

 

「碧くん、大好き」

 

せめて、言うだけ言わせてよ。

どうせ応えてくれないなら、意識ないうちにやっちゃうしかないじゃん。

ごめんね、睦ちゃん。後で感想文800字以内で書いてあげるから。

 




やっちゃったやつ(13日18時公開)
何やってんだお前

率直に言って

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