いうなれば第2章になりますが、そんな仰々しくやるつもりはございません
漠然と、何かを失った感覚。
拭い切れない違和感が、ずっと心を巣食っている。
というより、心に穴が開いている、と考えたほうが意識としてはしやすい。
「...なんだかなぁ」
寝ても起きても景色が変わらないことに若干病み始めたのかな。
こういうの、ホームシックっていうんだっけか。
でも、今まで平気だったのに、なんでいきなりこうなり始めたのかはわからない。
「ま、いいか」
タブレット端末を起動し、音楽アプリを立ち上げる。
イヤホンを刺して...刺して...あれ?
「電池切れた?」
電源ボタンを押しなおせば、ちゃんと画面がついた。
おかしいな、ちゃんと押したはずなのに。
一旦気にせず、音源を流し、デジタルのギターを鳴らす。
気晴らしに迷子のやつでも弾いてみようかなんて思って。
「...あれ?」
...全部忘れた。
なんだっけ。
音楽がくぐもって聞こえる。
コードがわからない。
ギターが弾けない。
おかしい、そんなことはなかった。
今までデジタルのギターも弾けてたはず、なぜ今になって?
「...おかしい」
正確には、今まで流れるようにできていたはずの頭の中の楽譜と、音楽との同期ができない。
音楽と楽譜が合ってない。
気持ち悪い。
「どうして、こんな」
...違う、これができないとなれば。
急いで音源をムジカのものに切り替え、ギターを鳴らそうとする。
「違う、違う」
やっぱり、再生できない。
だから、弾けない。
どうしてだ?どうしてこうなった?
いや、そもそも。
「俺は、何をしてたんだ?」
AveMujicaの一員として、ギターを弾いてきたはずだ。
少なからず、ドロリスの後ろ、モーティスの代打として。
俺は、どうしてギターが弾けない?
いや、それ以前に。
どうしてムジカの音楽がわからない?
「それは、消えたからだよ」
「消え、た?」
いつの間にか病室にいた睦が言う。
「そう、碧くんにとって大事な人が一人、消えた」
「...それは、ムジカメンバーか?」
「そう。でもそうじゃないとも言える。思い出せないのが、惜しいぐらいに」
「教えてくれ、誰なんだ」
答えが知りたい。
このもやもやを晴らしたい。
「...その人の名前は、ルイナス」
「ルイナス...」
瞬間、頭痛に襲われる。
まるで、思い出すことを拒絶しているかのような。
「無理に思い出さないで。壊れてしまう」
「ぐっ...くそ...」
「ルイナスという人格が消えたせいで、碧くんは今、不安定な状態にある。記憶も、体も、何もかもが、自分のものじゃないみたいに、ほんのちょっとだけ、動きが遅れる」
「そう、いえば」
タブレットを起動したときも、押したはずなのに押せてなかった。
思考が常に行動より1歩先なせいで、押したと思った頃に手を離した。
でも、俺の指は電源ボタンを捉えてすらいなかった。
サイクル化した動きに違和感がなかったんだ。
「でも、じゃあなんで思い出せない?記憶がないのに体が引っ張られてるの、そこそこむかつくんだけど」
「...わからない。ルイナス自身が、自分に関する記憶にブロックをかけたのか...それとも、そこだけすっぽり抜けたのか...」
「...なんにせよ、もうムジカに俺の席はなさそうだ」
これで諦めがつく。
音楽をやれないんじゃ、バンドに入ってる意味はない。
もともと俺はそういう人間だった、ってことで。
「祥子ちゃんに人生預けたのに、逃げられると思ってるの?」
「は?」
――残りの人生、わたくしに下さいませんか?
いつか言われた言葉を思い出しながら、ため息をついて俯いた。
「...それは、ルイナスとかいうやつの人生のことだろ」
「違う。碧くんの全部を欲しいって言ったの」
「俺はそんな担がれる人間じゃねえんだよ」
「祥子ちゃんはずっと、碧くんだけを見てた!」
睦の大声に思わず顔を上げた。
「碧くんがずっと1歩引いてみてたの、祥子ちゃんは知ってる。私は祥子ちゃんのこと好きじゃないけど、わざと気づかないふりする碧くんは嫌い」
「じゃあ、もうそれでいいじゃねえかよ。なんで俺に構うんだ」
「碧くんがいなきゃ、ムジカは終わっちゃう」
何も解決できやしない。
俺はそんな力を持ってない。
じゃあいっそのこと、みんなに知ってもらって絶望してもらおう。
お前らの待ってたギタリストはこんなにヘタクソだったんだぞって。
「...やれば、満足かよ」
「...うん」
「言っとくが、ギター弾けないぞ」
「...睦ちゃんが、教えてくれる」
そう言って目を閉じた睦は、少しして目を開けるとノータイムでこっちに近寄ってきて、俺の手を取った。
「手取足取り教えてあげる。全部、何もかも」
「...おう、よろしく...?」
半分記憶ないけど、ルイナスとかいうやつは何をやらかしたの?
なんでこんな顔のいい女の子の好感度がマックスなの?
ルイナスが消えました。
2度の身体掌握、碧との記憶共有、ムジカの舞台には基本的にルイナス
という要因が重なりに重なって、今の碧くんはムジカで活動していたころの記憶の8割が消えています。ムジカのことは存在と曲とメンバーしかわかりません。
その上、思考と行動にラグがあります。
補足でした。
率直に言って
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おもろい
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おもろくない