ちなみに7/22は私の誕生日でもあります。
今日は誕生日と言われても、何をしたらいいのか分からないということ、よくあると思う。
土日祝と被らなければ休みにもならないし、そもそもたかだかひとりのために休みにするほど国もバカじゃない。
というよりそんなことしてたらサービス業が怒りのストライキだろう。
まぁ例外として自分の誕生日が祝日になるのがいるわけだが、それはそれ、人間じゃないからね。
ちなみに人間宣言って、あたし人間だから!とは言ってないらしいですね。
...2月14日も、祝日にならないかな。
スマホのカレンダーアプリが教えてくれた。
人に祝われなくなってからは、記憶すら抹消していたというのに。
どうして今になって。
カレンダーアプリの通知を八つ当たりのようにスライドし、ベッドに寝転ぶ。
「...暇だな」
ムジカの練習も今日はなし。
学校は夏季休暇に入っているので、学校もない。
というより、いつも何の予定もないんだけど。
「スタジオでも行こうかな...」
誰に聞かせるでもなく呟いた瞬間に、携帯が震える。
「...祥子?」
これは珍しいと電話に出ると、『もしもし』といつもの声が帰ってくる。
「どうした?」
『いえ、その...今日は、お暇、でしょうか?』
「まぁ暇だな、ムジカもオフだし」
『でしたら、その、付き合って、欲しいのですが』
「...まぁ、いいよ。どこ行けばいい?」
と聞くと、電話口から一切の音が聞こえなくなる。
切れたわけじゃない、となればミュートにしただけか。
これ、電話の向こうにはムジカ全員いるだろ。
『コホン、お待たせしましたわ。オフですが、事務所に来ていただけますか?』
「あいよ、了解」
『お手数おかけしますわ』と言い切るかどうかの内に電話が切れた。
「さて、行くか」
正直、罠っぽいが。
さて、歩いて10分。
事務所にやってきた。
社員証をかざして中に入る。
「いつものスタジオって言ってたな...」
3度ノックしてから入ると、薄暗い上誰もいない。
随分と不用心な...と思いながら部屋に一歩踏み入れた瞬間、視界が黒く染まる。
平衡感覚はある、肩や背中が床についたわけでもない。
まぁ、正確に言えば、背中にはやわらかいものが当たってるんだが。
「だれだ」と聞けば、「誰でしょう」と返ってきた。
方向的に2時の方向から睦の声が聞こえる。
が、俺の目を覆うためには腕の長さが足りないだろう。
なので睦ではない。
全員いると仮定して、身長的に考えれば...。
「にゃむ、かな」
その瞬間、視界が一気に開ける。
「なんでわかったの?」
「睦の声の場所から俺の目は覆えない。身長を考えたらにゃむしかいないかと思って」
当てられたにゃむはなんだか不満そうで。
「...当ててたのに」
「わざとかよ、やめとけ」
...決して背中の温もりで当てたわけじゃないのは、明言しておこうと思う。
「んで、呼び出した神様は何処?」
「そこ」
睦が指さす先には、椅子の上に体育座り...三角座りだっけ?地域差があったような呼び名で座る
眼は虚ろで、首が若干左に傾いている。
「祥子」
「...はっ!碧!?碧ですのね!?」
「呼びつけといて襲われた後みたいな顔してんなよ、どうした?」
「え、えぇ...その...」
なおも口ごもる祥子。
いつの間にか祥子の後ろには初音がスタンバイしている。
「わ、わたくしと...デート、していただけませんか...?」
「俺はいいけど...後ろの騎士様がすっごい顔してるんだけど」
「初音、待てですわよ」
「わんっ」
...疲れてるのかな、初音に犬耳としっぽが見えた。
「...悪いけど、エスコートはできないぞ」
「問題ありませんわ。行き先は決めてあります」
「だったらなんで俺なんだ」
「あなたが主役だからですわ」
何となく察しはついたけど、言わないほうがいい気がした。
彼女らの目論見に乗ったほうが、楽しい気がしたから。
「では、早速行きますわよ」
「了解。...こいつらは?」
「...オフなので、各々自由に過ごしていただいて構いませんわ」
嘘だと思った。
なんとなく、触れちゃまずかったのだろうと後悔した。
事務所からタクシーで約20分。
やってきたのは都内の少し外れのデパート。
外れというのは決して品ぞろえが残念という意味ではなく、むしろ都内に勝る部分すらある。
「ありがとうございます。さて、行きますわよ」
「はいよ、祥」
祥子きってのオーダーにより、今日限り「かみさま」呼びを封じられている。
そして、なるべくでいいから「祥」と呼ぶようにと。
「んで、そろそろどこ行くか教えてほしいんだけど」
「着くまで秘密ですわ」
「...はいはい」
で、背後に2人ほどの気配。
幼馴染’sなんだろうけど、変装という変装ができてない、バレたいのか?
というかどうやって来たんだ?まぁいいか。
「さ、こっちですわよ、碧」
「はいよ...ってはやいはやいつよいつよい」
半ば引きずられるようにして約5分。
たどり着いたのはアクセサリーショップの前。
「ここ?」
「えぇ。行きますわよ」
見るからに高い店だけど。
まぁアクセショップに安い所とかないか。
「ほぁ...」
「碧、溶けるのは後にしてくださいまし。どれが好みとか、ありますか?」
「好み...?あー...」
普段こういったものをつけないから、どれが好みといわれても...
「ん、これよさそう」
「...ネックレス、いいですわね」
「や、まぁ、そうだね...」
「なんですの、はっきり言いなさい」
「...メンバーカラーだなって、思って...」
嵌まってる宝石の色が、メンバーカラーに近しいものだっただけ。
シンプルにネックレス5本は高い。
「...あなたの色はないですわよ」
「俺って何色なの?」
「...白、か黒、ですわね」
「ものっそいモノトーンだな」
白はともかく、黒の宝石はないだろう。
「そうでもないですわよ?4月の誕生石代表の一つ、ダイヤモンドの変化形、ブラックダイヤモンド、6月の誕生石、グレームーンストーン。あとはオブシディアンもそうですわね」
「オブシディアン?」
「和名では、黒曜石といいますわ」
「へぇ~...」
さすが令嬢、博識だな。
思考を読まれたことはいったん置いておく、どうせニュータイプだから。
「わたくしは、ただカンがいいですわ」
「軍事裁判しなさいじゃねえんだわ、ほぼ魔女裁判だし」
「まぁ、それはいいんですのよ。どうです?グレームーンあたり」
「よかねえが」
祥子の伸びた指の先、財布にはオーバーキルなお値段。
「どうです?じゃねえのよ。一般的な高校生が買える値段じゃないのわかってる?」
「ダイヤよりは安いですわよ。頑張ればワーカーホリック大学生は買えます」
「ワーカーホリック大学生はそもそも宝石なんざ興味ねえだろ」
まぁ、ここまで薦められちゃな、と財布を出すと、
「あら、出してくださるの?」
「...ムジカが大盛況でよかったよ」
「でしたら後で半額分いただいてもよろしいですか?」
「半分?」
「えぇ、ムジカの収入の大部分はここに入ってますもの」
そう言いながら祥子の指に挟まって出てきたのは白金のカード。
「しろかね」ではなく「はっきん」、原子番号78番、記号はPt。
金剛石と真珠に続く3作目。
俗にいう、プラチナカードである。
「実物初めて見た」
「...まぁ、そうそう見るものではないですわね。ということなので、半分いただければよろしくてよ。私やってみたかったんですのよ」
「...割り勘を?」
「誰かと一緒に買い物をすることがないもので...」
祥が一回言ったら下がらないというのは知ってるので、後で半分渡すことを約束し、先に店の外へ。
ほどなくして、祥が出てくる。
「18要求ですわ!」
「じゃあ20でじゃなくてね」
...傍から見たら怪しい感じに見えないかこれ、平気か?
「さ、戻りますわよ」
「事務所?」
「えぇ。...初華、睦、出てきなさい」
俺の後方、草むらに呼びかけると、黒キャップにサングラス姿が2人。
両手に枝を持って出てきた。古典的すぎる。
「祥、いつから」
「最初からですわ。あんなバレバレの尾行」
「ご、ごめん、祥ちゃん。どうしても、心配で」
「待てと言ったのに。悪い子ですわね」
...やっぱ犬耳生えてるよね、この子。
「まぁいいですわ、帰りますわよ。あなたたちが乗ってきたのはどこに?」
「向こうで待っててもらってる」
「じゃあそれで帰りますわよ...計5人、いけますわよね?」
「5人乗りだったはずだよ。あ、でも座る順番は...」
「俺が前行くから3人で後ろ行きなよ、祥真ん中にして仲良くしてな」
幼馴染’sの「はい!」は、青い空によく響いた。
後部座席が祥のハーレム状態だったのは、言うまでもない。
さて、行きよりゆっくり帰ってきて、俺は今ロビーにいる。
「...着けるか」
グレームーンストーンのネックレス。
金属アレルギーとかなかったはずだから、とりあえず着けてみる。
「...おぉ」
やっぱイメカラは黒なのかも。
この分で白だと似合わない気がしてきた。
今度のマスカレードで着けながら演りたいな。
「あら、似合いますわね。思った通りですわ」
「ありがと、そっちの準備は終わったの?」
件のスタジオから祥が出てくる。
「...まだ、ですわ」
「海鈴とにゃむが二人で頑張ってたんだ」
「そのようですわ。こっちにいた二人にはきつく言っておいたので、今頃人一倍準備してることでしょう」
呆れと喜びが混じったような顔で笑う祥。
「ありがとな、祥。こんないいのまでもらっちゃって」
「半分ずつ出し合ったのだから2人で買っただけですわ。何もしてませんわよ」
「それでも嬉しかったんだよ。ありがとう」
「...やっと笑顔が見れましたわ。主役のあなたが沈んだ顔では肩透かしですもの」
――やっぱり、今日は俺のための。
もしかして誕生日パーティ企画してくれてる?なんて聞けるわけない。
期待して違うといわれたとき、恥ずかしいやら何やらで二度と聞けなくなるだろう。
だから避けてきた。これまでも。
俺にかかわることであったとしても、知らないふりをしてきた。
そうしないと、勝手に裏切られた気分になるから。
...海鈴の言う「信用」、少しわかったかも。
そんなことを考えていると、ヘロヘロの初華が出てきた。
「さ、祥ちゃん...」
「できましたか?」
「がんばった、から...」
「えぇ。よくできました」
...家族って、こんな主従はっきりしてたっけな。
「あっ、碧くんのそれ綺麗!...さっき買ってたの、それ?」
「えぇ。碧がどうしてもというので」
「言っ...てないし?」
「嘘が下手ですわね」
「...言ってないのは本当だよ。ほしいとは思ったけど」
何かを欲しいって思ったことは、人生の中で往々にある。
がそれは、大体の場合「時間」「暇」「お金」といった概念的なものに限られる。
全くと言っていいほど物欲のなかった俺は、誕生日の時に物を強請ることもなかった。
まぁそれは、親がいたときの話に限るが。
「...そういえばあなた、何かを欲しいということはありませんわね」
「まぁ、欲しいもんないからな」
「...私たちにはくれたのに」
「そりゃ誕生日だし」
誕生日プレゼント、というものは概念的にしか知らない。
記念日には何かをあげる、常識だと思ってたんだが。
「それが常識であるなら、どうして自分ももらえるという発想がないんですの?」
「...俺にあげる人なんていなかったんだよ。爺ちゃんも婆ちゃんも忙しかったし、まともに知識付くころには死んだし」
「...ごめんなさい」
「いいよ別に。さっきも言ったけど、特に欲しいもんとかなかったしさ」
これは本当。
それこそ、欲しいって思ったのは。
「...居場所」
「え?」
「今、ムジカがあることが、俺は嬉しい」
「...そう、ですの」
祥の顔が綻んだ。
と、睦がスタジオから出てくる。
「祥、準備できた」
「...えぇ。では行きますわよ。碧」
「...ん、分かった」
一体の人形として。
一人の騎士として。
彼女の箱庭を陰ながら守る。
「碧。今日は堅いことはなしですわ」
「碧くん、楽しんで」
「...なんか、くすぐったいな」
今日は、スポットライトを浴びてもいい日。
真っ暗なスタジオに踏み入れて、扉が閉まる。
「さ、皆様。せーのっ!」
「碧(くん)(さん)!お誕生日、おめでとう!!」
「...ありがとう」
今日だけは、いっぱいライトを浴びようと思った。
自己肯定感下限値ギリギリの彼を救いたい(n回目)