朝、6時半。
予知夢にも悪夢にも侵されなかった俺は、ゆっくりと目を覚ました。
床で寝てることに少しばかりの疑問を覚えたが、立ち上がって横を見れば、俺のベッドに祥子が寝てたので、昨夜の状況を思い出し、納得した。
とりあえず朝飯を用意しようと、食パンをトースターに放り込み、祥子の分もともう1枚入れてからつまみを捻る。
その間にお手洗いだの洗面だのなんだのを済ませ、半分ぐらい焼けたであろう食パンにチーズを乗せる。
あの言葉。思い出すなといったときの、あの声色。
突き放すようなものではなかった。むしろ、こちらを気遣っていたような気もする。
血を吐く咳が代償だと言っていたなら、果たしてそれは何を意味するのか。
全て思い出すとき、それは俺が死ぬときなのだろうか。
なにも、わからない。
と、後ろから物音がした。
「ん...あら、碧。早いんですのね」
「祥子。おはよう。ご飯できるから、顔洗ってきな」
「えぇ、そうしますわ」
とても普通に家族をしている。
妹のためにご飯を作るお兄ちゃん。見てくれはいい。
でも、今の俺は。
「祥子の知ってる俺じゃない」
それはすなわち、祥子が好きな俺ではない。
ガワが神崎碧である以上、祥子は気を遣ってくれるだろう。
けれど、それはだめだ。
コネでムジカの舞台に立つわけにはいかない。
俺は、俺の力で。
「お兄様?眉間に皺が寄ってますわ。老けて見られますわよ?」
いつの間にか戻ってきていた。
注意力も落ちてる、本当にまずいかも。
「...それはまずいね。朝飯、できたよ。紅茶がいい?」
「そうですわね...お兄様はコーヒーですの?」
「そう、だね」
「でしたら、わたくしもそうしようかしら」
まただ。
祥子は俺に合わせようとするところがある。
「...一応紅茶あるけど」
「わざわざ変わっていただくのも非効率ですし。何より、わたくしがお兄様の淹れてくださったコーヒーが飲みたいのですわ」
「そ、っか」
いや、違う。
こんなやさしさが俺に向けられていいわけがない。
「...お兄様?」
「...や、なんでも。甘めがいい?」
「えぇ。お願いいたします」
「了解」
痛い。辛い。苦しい。
祥子の優しさがつらい。
俺に向けられているものであって、俺じゃないのが苦しい。
なにより。
「...嬉しそうだね、祥子」
「だって、お兄様とご飯を食べるなんて久々ですのよ?」
そんな純粋な笑顔を向けられてしまうのが、痛い。
「それは、良かったね」
「他人行儀ですわね」
「実感がないんだ、仕方ないだろう」
「...そういうことにしておきますわ」
これはきっと、記憶を失ってしまった罰だ。
俺は、今。
罰を受けている。
こいつの卑屈さどうにかなんないかな、ムカついてきたな()
率直に言って
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おもろい
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おもろくない