迷う心の在り処   作:ユイトアクエリア

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器であること


57:esse vas

朝、6時半。

予知夢にも悪夢にも侵されなかった俺は、ゆっくりと目を覚ました。

床で寝てることに少しばかりの疑問を覚えたが、立ち上がって横を見れば、俺のベッドに祥子が寝てたので、昨夜の状況を思い出し、納得した。

 

とりあえず朝飯を用意しようと、食パンをトースターに放り込み、祥子の分もともう1枚入れてからつまみを捻る。

その間にお手洗いだの洗面だのなんだのを済ませ、半分ぐらい焼けたであろう食パンにチーズを乗せる。

 

あの言葉。思い出すなといったときの、あの声色。

突き放すようなものではなかった。むしろ、こちらを気遣っていたような気もする。

血を吐く咳が代償だと言っていたなら、果たしてそれは何を意味するのか。

全て思い出すとき、それは俺が死ぬときなのだろうか。

なにも、わからない。

と、後ろから物音がした。

 

「ん...あら、碧。早いんですのね」

「祥子。おはよう。ご飯できるから、顔洗ってきな」

「えぇ、そうしますわ」

 

とても普通に家族をしている。

妹のためにご飯を作るお兄ちゃん。見てくれはいい。

でも、今の俺は。

 

「祥子の知ってる俺じゃない」

 

それはすなわち、祥子が好きな俺ではない。

ガワが神崎碧である以上、祥子は気を遣ってくれるだろう。

けれど、それはだめだ。

コネでムジカの舞台に立つわけにはいかない。

俺は、俺の力で。

 

「お兄様?眉間に皺が寄ってますわ。老けて見られますわよ?」

 

いつの間にか戻ってきていた。

注意力も落ちてる、本当にまずいかも。

 

「...それはまずいね。朝飯、できたよ。紅茶がいい?」

「そうですわね...お兄様はコーヒーですの?」

「そう、だね」

「でしたら、わたくしもそうしようかしら」

 

まただ。

祥子は俺に合わせようとするところがある。

 

「...一応紅茶あるけど」

「わざわざ変わっていただくのも非効率ですし。何より、わたくしがお兄様の淹れてくださったコーヒーが飲みたいのですわ」

「そ、っか」

 

いや、違う。

こんなやさしさが俺に向けられていいわけがない。

 

「...お兄様?」

「...や、なんでも。甘めがいい?」

「えぇ。お願いいたします」

「了解」

 

痛い。辛い。苦しい。

祥子の優しさがつらい。

俺に向けられているものであって、俺じゃないのが苦しい。

なにより。

 

「...嬉しそうだね、祥子」

「だって、お兄様とご飯を食べるなんて久々ですのよ?」

 

そんな純粋な笑顔を向けられてしまうのが、痛い。

 

「それは、良かったね」

「他人行儀ですわね」

「実感がないんだ、仕方ないだろう」

「...そういうことにしておきますわ」

 

 

これはきっと、記憶を失ってしまった罰だ。

俺は、今。

罰を受けている。




こいつの卑屈さどうにかなんないかな、ムカついてきたな()

率直に言って

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