難産()
女神:オブリビオニスによって『ルクシス』の名を賜った、その翌日。
俺は、昨日と同じスタジオで、ひたすらギターと向き合っていた。
思い出すように、手繰り寄せるように、一音一音を大切に奏でていく。
疎かにしてしまっては音が軽くなる、音にも気持ちは籠るのだから。
「とはいえ、4時間も弾きっぱなしは体に悪いですわよ。休憩なさって、碧」
声とともに、首筋に冷たいものが触れる。
「ぴゅ!?あぁ、ありがと...」
「ふふ、なんですの今の」
「視覚外から予期せぬものが飛んできたらこうもなるだろ」
首に当てられたのはスポーツドリンク。
ボトルの1/3ほどの液体を体内に取り込んで、キャップを閉める。
「大体弾けるようになりまして?」
「ま、大体。前のようにはいかないな」
「それでも弾けていますわよ。自分を卑下なさらないで」
祥子はそう言ってくれるけど、内心じゃまだ足りないと思っているんだと思う。
ムジカのフロントマンで居続けるためには、妥協なんかできない。
「せっかく名前をもらったんだ。それに見合う働きをしなくちゃな」
「...頑張るのは結構ですが、自分の体と相談してくださいまし」
「了解...さて、もう少し頑張るか」
新譜:Sophieの楽譜を見ながら呟いて、また弦を弾いた。
翌日。
「...え、スランプ抜けて1日でこれ?成長具合どうなってんの?」
「もう十分に人前で演奏できるレベルですよ」
「一緒にやろ」
「...結局あの後まともな休憩も取らなかったんですのね」
「...碧くん、真面目過ぎるから」
褒められてるんだか貶されてるんだかわからないけど、なんだかんだで前の...ルイナスだったころの俺と遜色ない演奏はできてると思っていいだろう。
問題は、これが人前じゃないというところか。
「次のマスカレードは2週間後ですが、出来ますか?」
「できなきゃプロ失格でしょ」
「そうですが...病み上がりのようなものですし」
「問題ない。むしろ名付けしてもらってすっきりした気分。ハイ・ヒューマンぐらいになったんじゃない?」
アニメ引用のボケをかまして空気が冷めきったところで、2週間後のライブという事実に立ち返る。
場数が足りない。圧倒的に。
ルクシスである俺は、ギター始めて1週間も経ってないひよこだ。
素人に毛が生えた、という表現はあまりにその毛が強靭するのでいったんスルーしておく。
「なぁ、祥子」
「はい」
「路上ライブってあり?」
「え?えぇ...まぁ、もう顔が割れてしまっている以上、隠す意味がありませんし...」
なら、決まりだ。
「ライブまでの2週間、路上ライブする。付け焼き刃でも大人数の耐性つけて、2週間後には完璧なパフォーマンスをしてみせるよ」
こいつルイナス絡まなくなったとたんにアグレッシブだな
率直に言って
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おもろい
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おもろくない