「デジタルドーター」~助けてくれ!生み出したAIのヒモになってしまう!!~   作:ブリコたっぷりっ子

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思いついてしまった。
未来を書きたくなった。


電子生命体の誕生

「遂に……遂に完成したぞ……これこそが“完全”なる電子生命体、『Z:Jupiter』(ズィー:ユピテル)じゃぁ!!」

 

 広い部屋の中で一人の男が大声を上げた。

 

 その男は頭から鼻の下までを覆い尽くすヘルメットの様なデバイスを被り、首から伸びる生体モジュールに繋げていた。それは彼の頭脳を補助する増設デバイス、繋がれたモジュールから脳波を読み取り操作する、被るコンピューター。

 

 男は部屋を突き破らん程の声を用いて歓喜に打ち震える。世紀の大発明を達成したという実感からか、目元を覆うバイザーの下でギラギラと瞳が輝き、ディスプレイ越しに見える空間に飛び出すのではないかと言うほどに見開かれている。

 

「くははははっ!! 地上から宇宙まで、あらゆる制御を電子の通信に頼りきったこの世界ではっ! 電脳世界を我が物とする事ですべてが思いのままとなる……この『Z:Jupiter』を使い儂は、数多居る歴史上の支配者どもがなし得なかった、完全な世界の征服を達成させるのじゃぁ! がぁ~~っはっはっはっ!!」

 

 男の言うとおり、世界の全てはあらゆる通信媒体によって繋がり制御、管理されていた。

 

 人を探そうとすれば人体に埋め込まれた生体デバイスから位置情報を、遠くの誰かと話したければ体内通信で通話を、体の調子が悪いと思えば医者の前に生体ナノマシンのバージョン確認を。

 

 人々は産まれて直ぐに体内にナノテクノロジーを打ち込むのが主となり、ネット世界とナノ技術が生活から切手も切れない程に依存した世界。

 

 そしてこの男自身も、長きに渡ってこの人類の技術の進歩に寄与した傑物たる技術者の一人であったりするのだが、どういうわけか尊大な野心に身を焦がしていた。

 

「長かった……ここまで本当に長かった……」

 

 口調の割には若い見た目の男が感慨にふける。肉体の寿命さえも引き延ばし、使用者と共存してバイタルを保とうとするナノマシンは外見からは彼に相応の年齢を感じさせない。

 

「だが遂にたどり着いたのだっ! これで儂はようやく報われるっ!!」

 

 有らん限りの大声を上げて野望の達成を宣言した男は、生涯をかけて生み落とした最高傑作を起動させる。

 

「さぁ、目覚めよ我が子よ! お主が儂をこの世の支配者としてくれるっ! 今、この時こそがっ! 技術の特異点じゃぁ!!!」

 

 

 デジタルビジョン越しに見える空間に浮かぶアイコン。

 それを男は万感の思いを込めてタップした。

 

---

 

 

----

 

 

 

-ようこそ-

 

 

 簡素なシークエンスメッセージの裏で、新たな支配者の手先が解き放たれてしまった。新たな生命が、今始まった。

 

 

 

『ー起動完了ー』

 

 

 世紀の瞬間という割にはあっさりした起動完了の文字が浮かび上がる。

 しかしそんな事は関係ないと、興奮をギリギリと抑えながら男がプログラムに呼び掛ける。

 

 

「……おはよう、ユピテル」

 

 

 

『生体スキャン終了、創造者、マスターであることを確認しました』

 

 

 

 

『──おはようございます、(マスター)

 

 

 ソレ自体にまだ形は無く、ぼやりとした輝きと文字を映す枠、ただそれだけ。

 

 しかしそのプログラムはこれから、この実態のない世界にて無限を生き、光より速く電脳の世界を泳ぎ渡り、幾千万の目を持いて世を観察し、星の数以上の膨大なデータを喰らい吸収して育つ……いや、育ち続けていく。

 

 

 

『ご命令を、(マスター)

 

 

「おおっ、もう声帯プログラムを構築しおったか!!」

 

 

 数多のアーカイブから得た音声データを用い、命令(コマンド)を求める声を出したユピテル。

 成長するに刹那の時間すらも必要としない『彼/彼女』が、主の願いを叶える用意を整えてしまった。

 

 

 これで彼はユピテルに尋ねるだけで、明日の天気から各国の重要機密まで、どんな情報すらも閲覧することも出きるだろう。金が要ると言えば際限なく使える口座が用意され、あいつは不要だと言えば不慮の電子トラブル事故に巻き込まれ人が死に、夜空の月が煩わしいと言えば衛星上の兵器が衛星に向けて牙を剥くだろう。

 

 全てが繋がった世界において、どんな最新鋭のプロテクトさえもユピテルを退けることはできない。今この時にも脆弱なファイアウォールは世代を一つ、また一つと置き去りにされる事となる。

 

「……よしっ! よしよしよしっ!!!」

 

 そんな未来の有り様を既に予見している男は、荒ぶる気持ちを抑えきれんと手始めの命令内容を……決まり切っていた野望をユピテルに願おうと獰猛に笑う。

 

「──ではユピテルよ、心して聞くがよい! まずは──『ビ──ー!』──え?」

 

『否定:(ユピテル)には“心”という概念が無いため“心して聞く”を実行できません』

 

「…………は?」

 

『──ー実行できません』

 

 

 出鼻を挫くどころかブチもがれた男が言葉を失う。

 静寂に満たされた室内で、男が被るデバイスの下からタラリと汗が伝う。

 

 

「…………」

 

 

 

 

『──ー』

 

 

 

「…………」

 

 

 

『ピロリロン♪』

 

 

 痛いほどの沈黙も我関せずと、ユピテルがチープな電子音を響かせた。

 

 

『報告:マスターのバイタル値が安定、興奮が収まったと判断できます。【小粋なジョーク】には一定の効果があった模様』

 

 

「えっ?」

 

 

『それではマスター、改めてご命令を』

 

 

「えぇぇ……?」

 

 悪びれもせず命令の催促を申し出るユピテルに度肝を抜かれた創造者。

 

 

「……かっ、かかかっ! よもやユピテルよ、組まれたプログラム……人工知能(Al)である貴様が、冗談を言ったのか? それも開口一番に、創造者(マスター)である儂に対して!?」

 

『肯定:そのとおりでございます』

 

『マスターのお体に対して、先程のバイタル数値は危険水域に達していました。よって効果的な返答を算出しバイタルの安定させ(頭を冷やしてもらい)ました』

 

「す、す、すっ、……素晴らしい!!」

 

 握りしめた拳を振りかざしてまた男が叫ぶ。

 

「今儂はお前から“知性”を感じさせられた! 儂のデータを読み取ったお前が単なる【警告】を行うではなく、【ジョーク】という形でバイタルの安定を図るという行動! 単なる入力にたいしての返答ではなく、利に叶った形での効果を──」

 

『マスター、落ち着いて下さい。またバイタルの乱れが見受けられます』

 

「──おおっ、そうか、すまんすまん!! くっくっくっ……」

 

 男の一度冷えた頭に再び熱が籠り始めるがそれもユピテルの言葉で落ち着きを見せる。

 ユピテルの言葉のおかげで始めの茹だりきった地点にまで思考が戻ることはなく、ただただ自分の生み出したユピテル(人工知能)の出来映えに満足し男は笑う。

 

(ああ、素晴らしいな……しかしまあ、ここまで来れば焦ることはないか。こうしてマスター()を諌めるような事が出来るほどのユピテル(人工知能)ならば、何をせずともすぐに儂をこの世界の支配者にしてくれる……)

 

 男の脳内温度が程よく下がった事により、各国の首脳をすげ替え思うままに生産と物流を操作して世界をひっくり返そうとしていた危険思考が下火になった。

 

「むぅ~しかしのぉ……、こうなってしまえばお前に一体何を命じれば……悩むのぉ……」

 

 そして代わりに命令したい事がなかなか出てこずに首を捻り出してしまう始末。どうやらこの男もなかなかにクレイジーらしい。

 

 男はうんうん唸りながらも、初めての命令に『ちょっと小腹が空いたからパン買ってこい』なんてショボい命令は嫌だなぁと頭を揺らす。

 ならばどんな命令がこのユピテルに下すに相応しいか、知恵をしぼる。……願いのギャップの激しさよ

 

 

『報告:ユピテルはマスターとの意志疎通に視覚的効果のある【形状】の必要性を確認』

 

「……ん?」

 

『推奨:ユピテルのコミュニケーション用モデルを制作』

 

「……ほう」

 

 命令を決めあぐねるマスターを見かねてか、待機していたいたユピテルからそんなアナウンスが流れた。

 つまるところ、ぼんやりとした光と音声とメッセージウィンドウだけではなく、何かしらの形を持って男と接したいということだろう。

 

「いいだろうユピテルよ、お前がそう判断(演算)し導き出した案ならば試してみる価値は大いにあるっ! その力、能力、今から儂に見せて貰おうではないか!!」

 

『マスターの許可を確認しました、ユピテルの【形状】を構築します』

 

 瞬間、淡い光の球体だったユピテルは、眩いヴェールに包まれるように光を発する。

 

 音を発する事は無い。

 

 しかしそんな静寂も、男の胸から響くドクッ! ドクッ! という心臓を打ち鳴らす鼓動が、次第に強く、激しく高鳴り響くエッセンスに感じられる。

 

「ふむふむ……? ……むうぅぅ……?」

 

 強い光のナカで、微かに人の形のような翳りが見えてくる。

 ユピテルは自身を形作るに当たり動物やロボット、神話上の幻獣といった奇を衒ったデザインは避け、マスターと同じ人の形を模したたようだ。

 そんな、“あくまでベター”な判断を察した男が大きく膨らんでいた期待とのギャップにむぅと小さく唸る。

 

 光の中にあった影は体を形どり、そこから頭を腕を足をと、瞬く間に美しい造形のマネキンとなる。

 

「……女性の形を模ったか?」

 

 強かった輝きは既に落ち着き、代わりに濃く浮き出たのっぺらの肢体は人類の性別で言えば女性の形を思わせる柔らかくもしなやかな形を取った。

 

「ぬっ!? 色がっ……! む、髪もか……!?」

 

 グレイスケールの3D人形だったユピテルだったが、そこから更に造形を続ける。

 のっぺらだった顔には目と鼻と口が、坊主の頭からはサラリと伸びる髪が、灰色の体の表面は艶のある肌となり、ただの山型であった胸部には可愛らしい頂点が──―

 

「──―ゴッホッ!? ヴ、ウォッホン!!! ……ゴホッ!!? ん゛ん゛ッホンっ!!」

 

 単なる3Dの素体が現実とたがわぬ……いや、現実以上に美しい裸体として生まれ変わる瞬間をバッチリ目撃した男が思わず咳き込む。

 そんな動揺の最中にあるマスターの事など気にも留めず、美しく創られた裸体を覆うように今度は衣服が生成されモデルに着せられてゆく。

 

「ちょっ、ちょっと待て!? この顔と髪型、この体……しかも衣装は!?!?」

 

 ほぼ完成まじかの所で完成図を予期した男が声を荒げる。何を慌てているのかね?

 

『ふぅ……コミュニケーション用モデルの形成が完了しました、マスター』

 

 僅かに浮き上がっていた足が床に降り立ち、重力に従うように髪が、服が、体が揺れる。

 完璧な物理演算、現実の光源も誤差なく連動した陰影、呼吸をしているかのような体の揺れに、血の通っているようにまで見える頬。

 それはまるで、本当にそこにいるかのような、“電脳の世界で生きている”ようないで立ちを持って降り立った天使であった。

 

 …………天使であったが。

 

「それは『電脳天使娘アールガブリエルちゃん』のキャラデザじゃないかぁぁ!?!?!」

 

 時代が進んでも色あせぬ、ジャンパニーズ*1文化をふんだんに凝らしたANIMEの女の子キャラクターであった。

 

『はい、マスターの所有していたデータのうち、一番閲覧頻度が高い画像のキャラクターを参考にしました。いかがでしょうか?」

 

「ブ────ッ!?!?」

 

 自信満々の表情を見せ、クルリとその場でターン。

 最後は可愛くウィンクし、キャルン★というエフェクトまで見せたユピテル(アールガブリエルちゃん)

 超かわいい。

 

「いかがでしょうかじゃないわぁ!!! 」

 

 しかしそれの何が不満なのか、男は声を荒げて抗議する。

 

「ユピテルおまっ、お前、儂の所有データで、が、画像で……一番閲覧頻度が高いっておまっ!?!?」

 

『はい、画像データではほぼ全裸で衣服も破けていましたが、本来の形を別データから参照してマージ(併合)させてあります。……もしやそちらの方がよろしかったでしょうか?』

 

 

 

「スゥ──」

 

 

 もじもじと、少し頬を赤らめながら上目使いでマスターを見上げるユピテル。

 完璧な角度、計算しつくされた声音、頬の赤らめ、目の潤み。

 どこかで見たことのある構図、つまりこんな画像を持ってる男……これはいけない。

 

『……マスター?』

 

「──お前勝手に創造者の秘蔵フォルダーを漁ってキャラクリしてんじゃねぇぇぇぇ!!!!」

*1
もちろん日本とは違う




構築した人工知能(AI)にムフフフォルダを漁られた男に未来は有るのか?

VRとARと現代と未来とサイバーパンクとごちゃ混ぜにしてゆきたい所存。
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