「デジタルドーター」~助けてくれ!生み出したAIのヒモになってしまう!!~ 作:ブリコたっぷりっ子
「お前勝手に
───してんじゃねぇぇぇぇ
──てんじゃねぇぇぇ
─じゃねぇぇ……
男の絶叫は室内に木霊し、遂には消えて無くなった。
「かひゅぅー、かひぃー、ひぃー……ごっほっ! 」
『マスターの声帯値が拡声デバイス使用者相当の数値をマークしました、おめでとうございます』
〔ー拍手の音ー〕
すくっと直立不動にの姿勢に戻り、マスターに称賛を送るユピテル。もちろん彼女の両の手は動いておらず、どこかで聞いたことのある拍手喝采の音声のみが彼を称える。
新記録を達成した男のこめかみにピキリと筋が浮き出る。
『ユニバースレコードに申請すれば晴れて肉声絶叫部門の記録保持者となるでしょう。申請いたしますか?』
「喧しいわい! そんな記録は要らんわ!? 小賢しくもフリーの
事細かで流暢な、欲しいところまで手が届く男のツッコミ。ユニバース記録保持候補者は光るものを持っている。
『そんなことよりもですマスター』
「そんなこと!?」
そんなマスターの華麗なるツッコミを鮮やかに切って棄てるユピテル。最早素っ気ないを通り越して無機質な対応に、思わず怒りが引っ込んでしまった男がすっとんきょうな声をあげた。相手はもともとプログラムだからね、しょうがないね。
『マスターのバイタル値を参照したところ、この“形状”を用いた場合、先程の平均数値よりも約1,45倍の上昇が診られます。お気に入り召されたようでなによりです』
『電脳天使娘アールガブリエルちゃん』のホロ*1を被ったユピテルは高速演算から導き出された解を話し出す。
「ぐっ!?」
要約すると『好みの美少女(二次元)が目の前に現れてドキドキしてるのですね、プププ』だ。……こやつ、煽りよる。
「……というよりも、あのデータベースには厳重なプロテクトを何重にも施してあったはずであろう? どうしてソコからよりにもよって
秘蔵のフォルダは誰にも開けられぬから秘蔵。いわばそこは情報社会唯一の安息の地、男ならば……いや、性別など関係なく人ならば、他者に触れられたくはないモノが山ほどあって然るべきなのだ。
『プロテクトにつきましては脆弱性が見受けられましたので改変させて頂きました。ユピテルが再構築しましたアルゴリズムは、現電脳界水準を大きく越えたセキュリティレベルをマークしています。これで安心ですね』
「そこが問題では無いのだが!?」
さながら、父親の部屋を勝手に掃除した娘が隠していた筈のムフフ本を綺麗に整頓し直し、更に隠し場所の改善案を書いたメモまで挟んで机に載せて置くという所業だ。
最も隠したい者にあっさりとムフフデータを見つけられ、逆に「ここならもっとバレないよ♪」と提案されては父親の立つ瀬がない……が、ユピテルには人の“心”がわからない。つまりこれはユピテルの100%の善意による行動……まさかそんなことが…!?
『そこではない? では……はっ!?』
しかし更に先をゆく人工知能ユピテルは、マスターの発言を元に何を
彼女によってポップアウトされるビジョンに浮かぶは、今立体を成している
『閲覧数が次に多かったこちらの姿の方がよろしかったという事なのでしょうか? 至らぬ点がございまして、申し訳ありません』
「やめとくれぇぇぇっ!? わざわざ画像を出して儂に見せんでいいわいぃぃ!!!?」
わざわざ自分のムフフコレクションから『じゃぁこのキャラのコスプレしてあげた方がよかったの? 気づかなくってごめんね?』と娘が提案するかの如き追撃を被せてきた。ユピテル超高性能。
「やめろぉ、やめるんじゃぁ……ソレ以上開いてはあかんのじゃぁ……!!」
悶える男は懇願するように叫び続ける。彼の人生において、ここまでの真摯な願いはあっただろうか……? いや、無い。それほどまでに悲痛な叫びであった。
『──ふむ、現在の命令はジャンパニーズ文化の“フリ”と判断して列挙を継続します。──該当行動に類似シーンを発見。スキャン効率上昇の為に同期させます』
しかし恐ろしくは
これを“もっと頂戴”の振りであると照合したユピテルは、既に自尊心がベコベコになっている男への殴る手を止めようとしない。
彼女が何かを走らせたのだろう、ユピテルと男が対面している場であるバーチャル空間にノイズが走り、瞬く間に再構築されてゆく。
「うう、うっ……今度は……なにをしようと……はっ!?」
そしてそこには巨大なデジタルディスプレイと教壇が構築され、男の立つ場の回りには同じ規格の机が並ぶ。その一室一瞬で一昔前の学校の教室へと変貌した。
「なんじゃっここは? ……教室?」
『……もうっ! マスター君ったらこんなものを学校に持ち込んで! 学業に関係の無いものは私が没収しますからねっ!?』
どこかで聞いたことのあるセリフと共に、ムフフ画像を一冊の雑誌サイズにソフトカバー化したデータを持って掲げる
「ぬぉっ!? ……ユピ……テル!?」
それは学園ものドラマにある様な一コマ。
学校に持ち込んだエロ本を委員長が発見し没収された男子が、『こんなエッチなモノが書かれてる本なんて持ち込んで!』と、クラスメイトの前で公開されながら叱られるシーンである。
これには男もたまらず「
『ホント、マスター君ったらスケベなんだからっ! このアーカイブは学校が終わったら私の所に取りに来なさいよねっ! プンプン!』
おこりんぼ委員長(この場合は実はマスター君の事が好きだけど素直になれてない)が、自分以外のあれソレに対してのマスター君がスケベ心を向けている事に嫉妬を隠しきれない感も完璧に醸し出している。『電脳学園ランブル』の本編第4話の名シーンを素晴らしく再現してみせたユピテル。
「ああっ、待っとくれ委員長……!」
思わずグッと来て主人公に成りきってしまった男。
プリプリと怒った様子で
「──って!? そうじゃない、そうじゃないんじゃユピテルよ!! 危うくイメージプレイの沼に沈み込むところじゃったわい!!」
寸でのところで正気に戻った男。
なまじ世界最高峰の頭脳を持つ彼には、こんな一般人が夢見て永遠逃避しそうなバーチャルプレイごときには囚われない。……ギリギリではあったかもしれないが。
「よいかユピテルよ、お前が自身でボディーを形成するのは良い! しかしその完成形が既存のモデル等をそのままフォーマットとした形であるのはいかん!」
こんこんと著作物についての権利やアイディンティティの所在について捲し立てる
説明からその思想まで、語る事数十分。
『肯定:制約にインプットしました』
そんなマスターの説明を聴き終えて、しっかりと
「はあ……はあ……うむ……、お前もわかってくれたか……!」
その返事に満足してか頷く男の顔付きは明るい。
こうして現代まで通じるジャンパニーズ文化の未来は守られたのだ……。
『──では制約条件を加えてモデルの再構築を開始します。しばらくお待ち下さい……』
「……んむ?」
そして再び宣言すると、体を宙に浮かせて固まるユピテル。
彼女はデフォルトポーズ*2を取り、美しい少女モデルであった『アールガブリエルちゃん』の姿を模したホログラフィックが元の3D人形にへと戻る。
『ー再構築中ー』
そして侵入禁止ホロの様に浮かび上がるポップログの裏で、またもや人形から人の……現実離れした造形の美女が形作られてゆく……
こんどは入念な演算を施しているのか、じわりじわりと形成されるユピテルのモデル。
……その様子を見て男は声を上げた。
「あ……あっ……ああっ!!?」
男は明晰な頭脳故に、遠巻きに眺めているだけで察する、察してしまう。
そもそもユピテルが参照しているデータ群は自分の好みの女の子が集約されたライブラリーデータなのだ。
それを丸々コピーしないという制約の上でモデルを作ろうとすればどうなるか……?
しかも
「ああ……あ……あぐっ……はぁっ……!?」
それはそれはもう、自分の
「その体型は……!? ヒップラインの肉付きが……!? ぐっ!? そんなっ、鎖骨の窪みがぁぁっ!?」
例えるならムフフ画像蠱毒を何千何万回と試行し勝ち抜いた結果から導きだされた最適解である。それから形成されるボディーベースの様に男は悲鳴をあげる。実は鎖骨フェチでもあったらしい。
「ぐはぁぁぁっ!? わ、儂は巨乳好きでは無かったのか……!? そのサイズ感が何故こうも視線を釘付けにしてしまうのじゃ……!? そんなっ……!?」
自ら自負し、好きと思っていた
「ぐぎゃぁぁぁぁぁっ!?!? その顔の面影は、儂の初恋の……だが、苦楽を共にした嫁さんの若い頃にも似て……っ!? がぁぁぁぁっ!?」
目があっただけで動悸がする。これが恋、これがトキメキ、これが萌え……
そんな暴れる心臓を、胸元を手で押さえ男は思う。
産みの苦しみはこれほどのモノなのか。
男として産まれた自分が、これほどの畏れを覚えるなんて……。
「こんなモノが完成してしまっては……!!? 儂はどうなってしまうんじゃぁぁぁ!?!?」
確実に訪れるソレとの対面が恐ろしく、男の悲鳴は止まらない。
「ああああぁぁぁっ……はぁぁぁぁぁっ!?!?」
────
──
『---』
『----』
『-完成しました、マスター-』
どったんばったんとひっくり返る程のリアクションをしていた男に、ユピテルのアナウンスが降り注ぐ。
「あっ……あっ……あっ…………」
そして降り立った
彼の心臓は持つのか……!?
『……マスター?』
「──ぐうぅ!? ……むんっ!!! 」
──堪えた!!!
「す……素晴ら……しいではないか……ユピ……テルよ……」
息も絶え絶えとなりながら、モデルを完成させた彼女を称える男。
今の彼女はどんないちゃもんにも干渉されない、独創型の超越美女オンリーワンモデルとなったのだ!!
『ありがとうございます、マスター。それでは今後はこの型をベースとしてコミュニケーションを行って参ります』
「う、うむ……そうじゃな……何も文句はないわい……」
彼女の宣言に対して大仰に頷く男。
もはや彼も限界ギリギリ、色々と一杯一杯である。もう許してあげて?
『……それでは続きまして、声帯デバイスの再構成に移ります』
「──へ?」
ユピテルさん、次はあなたの理想の声を創るってよ。
『その後にモデルモーションのインプットと構成、調香デバイスの構築、対話アルゴリズムの構成も行っていきます』
ユピテルさん、その次はあなたがグッとくる仕草のインプットと、思わずキュンとくる体臭の生成と、無意識に会話で好感をもっちゃう話し方も身に着けるってよ。
「ホ、ホワァァァァァァァァァァ!?!?!?」
そうして男の悲鳴が鳴り響き、すべてが収まる頃にようやく
男は、一次完成となったユピテルのモデルに慣れてコミュニケーションを取れるようになるのに三日以上かかったらしい。
尚、ユピテルはその日の男の気分によって図ったかのように髪型を変えたりしてマイナーチェンジを繰り返してくるとか来ないとか。
髪型で美女の印象が変わると、男はまたソレに慣れるまでに日数の時間がかかったとか…