石造りの街中を馬車が音を立てながら進んでいく。そして視界に飛び込んできたのはレンガの家々が立ち並ぶ、中世ヨーロッパのような街並み。車やバイクは走ってすらいない。
そう、異世界である。今この瞬間、俺こと沖田陽斗は異世界の大地へと降り立ったのである。
「マジか……本当に異世界なのか……マジか」
おのぼりさん丸出し、といった様子で俺は街中を興奮で震えながら見回した。獣耳やエルフ耳といった他種族の者達もいる。
「ハロー異世界……こんなに嬉しいことはない……!」
いつか夢見たファンタジーに満ち溢れた世界がすぐそこに。興奮しないわけがない。
ここで、一つ疑問に思う。
ここってどこだ?
そもそもこれからどうやって生きていけば良いんだ?
………ふむん。
「……あの女神何も教えてくれなかったなクソッタレ」
ぺっと唾を吐き、悪態をつきながら壁を蹴る。……これくらいは許されてもいいと思った。
取り敢えずは情報収集だ。情報が無いと何も出来ない。しかし、人並みのコミュニケーション能力を備えていると自負してはいるが、こういった異世界で有りがちな、有り体に言うと荒くれ者に聞くのは流石に無理だし、かといって女性に声をかけると不審者と思われかねない。今の格好をよく見てみろ。パーカーだ。ファンタジーぶち壊しのパーカーだ。周りの奇異なものを見る視線がさっきから容赦無く突き刺さる。
俺は尋ねられそうな、優しそうな外見の人を探して街を歩く。すると、老いたおじいさんを見つけた。
「あの。少し宜しいですかね? 冒険者ギルド的なものを探しているんですけども……」
おじいさんは反応しない。聞こえてなかったのかしら。
「あのーすみません! 冒険者ギルド的なものを探しているんですけどー!!」
「おお、なんだ若者よ。ワシに何か用かな?」
やっと反応した。
「冒険者ギルドを探しているんですけど!」
「あんだってぇぇ? ばーさんのギプスがなんだってー?」
誰もアンタのばあさんのギプス事情なんて知りたくねぇ。こちとら真面目な話してんだ。ほら見ろ、通行人笑っちゃってるじゃねぇか。
「ぼ、う、け、ん、しゃ、ぎ、る、ど、です! 冒険者が集まるギルドを探しているんです!」
「ぼ、う、こ、う、し、め、つ、け? ……何だってぇぇ? もう一回お願いできるかなー?」
ちょっ!? 公衆の面前で何てこと口走ってんだこのジジイ!?
「違いますよ! 冒険者ギルド! 冒険者ギルドですってば!」
「ぼう……けんしゃぎるどですかい? ああ、それならここの通りを真っ直ぐ行って右じゃのう。……して、お主、見ない顔じゃな。他所から来たのかね?」
「ああ、真っ直ぐ行って右っすね。あざぁっした。……まあ、そうですね。ずっと遠い所から一人旅してきて、今日この街に着いたんすよ」
「するってーことは、冒険者を目指してるってことかのう。ここは駆け出し冒険者の街、アクセルじゃ。ようこそ、歓迎するぞ、期待の新星よ」
「……うっす。ありあざっした!!」
ここは駆け出し冒険者の街、アクセルというらしい。死んだ後、異世界へ送られた際におけるスタート地点としては理想的であろう。しかし、冒険者ギルドの位置や転生先の街のことに関して何の説明もしなかったあの駄女神は許さない。許さないったら許さないのだ。あの神、本当に適当すぎる。罰が当たってしまえ。
俺はおじいさんに礼を言い、教わった道をすたすたと歩いていく。すると、大きな看板が見えてきた。ここが冒険者ギルドのようだ。
冒険者ギルドとは、ファンタジー系のゲーム等に必ずと言っていい程に出てくる、冒険者に仕事を斡旋したりその支援をする組織のことだ。異世界における派遣業的なものなのだ。
辿り着いたギルドは大きな建物で中からは美味しそうな食べ物の香りが嗅覚を刺激する。
深呼吸して、中に入る。すると、給仕と思しき女性が食事が乗ったトレイを持ちながら笑顔で挨拶してくる。
「いらっしゃいませ! お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いているお席へどうぞ!」
どことなく薄暗い店内は酒場が併設されているようである。席には鎧を着た連中がそこかしこで屯し、雑談に興じたり情報交換をしたりしていた。
中に入ってきた、ファンタジー感ぶち壊しの服と新参者であることもあり、ちらちらと視線を受ける。
緊張しながらも俺は奥にあるカウンターへと進んでいく。四つある受付の内、優しそうな女性職員の方の受付の列に並ぶ。
少しずつ列が進んでいき、やがて俺の番が来た。
「はい、今日はどうされましたか?」
「えーっと……冒険者になりたいんですけども、遠方から来たばかりで……」
「そうですか。では、登録手数料として千エリス掛かりますが大丈夫ですか?」
…………え。金取られんの。
慌ててパーカーのポケットを探る。すると、財布が入っていた。取って開けてみると、中にはお金が。エリス、と刻印が掘られており、総額五千エリスだ。……一エリス=一円だとすると、随分と懐が寂しいな。あの駄女神め。
俺は苦い顔を浮かべながら登録料として言われた千エリスを支払う。お姉さんはビジネススマイルでそれを受け取る。
「では、冒険者になりたいと仰るのですから、ある程度理解しているとは思いますが改めて簡単な説明を」
お姉さんは説明を始めた。
曰く、冒険者とは街の外に生息するモンスター、つまりは人に害を与えるモノの討伐を請け負う人の事であること。基本的には何でも屋みたいなものであり、冒険者はそれらの仕事を生業にしている人達の総称であること。冒険者には各職業があること。
冒険者カードなるものをお姉さんから差し出される。この世界で言うところの身分証だろうか。
「こちらにレベルという項目がありますよね? ご存知の通り、この世のあらゆるモノは魂を身体の内に秘めています。どのような存在も、生き物を食べたりもしくは殺したり。他の何かの生命活動にとどめを刺すことで、その存在の魂の記憶の一部を吸収できます。通称、経験値、と呼ばれるものですね」
お姉さんはカードの一部を指差した。
曰く、カードを持っていると吸収した経験値が表示され、それに応じたレベルが同じく表示されるということ。これらが冒険者の強さの目安になりどれだけ討伐したかもここに記録されるということ。経験値を貯めていくとレベルが上がり、ステータスが伸びたり新たなスキルを習得するためのポイントが得られたりなどの特典があること。
お姉さんに促され、俺はカウンターに置かれた水晶に触れる。これで俺自身のステータスがわかるらしい。選んだ職業によって様々な専用スキルが存在し、習得が可能になる為それらも鑑みて職業を選ぶよう伝えられる。
水晶が光ったと思ったらガチャガチャと音を立ててその周りの金属の部品が稼働し始め、レーザーのようなものが下に置かれたカードに照射される。すると、何やら文字が浮かび上がっていく。
レーザーの照射が終わると、お姉さんはカードの内容を見る。
「はい……ありがとうございます。オキタ、ハルト様ですね。15歳の早産まれで身長は163cm、体重は52kgで茶髪に黒目。ステータスは……敏捷が非常に高いですね! 筋力と知力も平均を少し上回っていて……後は平均的ですね。このステータスだと、選択できる職業は《冒険者》、《盗賊》、《アサシン》の三つですね」
ふむ。敏捷が高いと来たか。確かに俺は陸上部出身だったし、大会に出してもらえる程では無いにせよ、脚は速い自信がある。今後のこと、それこそダンジョンの攻略等も考えると、ここは《盗賊》にするべきだろうか。小狡く立ち回り財宝を掻っ攫っていくというのも良いかもしれない。《アサシン》は《盗賊》の上位互換らしいが、今の所は《盗賊》で行こうと思う。レベルが上がったら転職も可能らしいので、戦うことに慣れたらそうしようと思う。
「……じゃあ、《盗賊》で」
「盗賊ですね! 斥候やダンジョン探索に特化しており、地味ではありますが戦闘においては有用なスキルが多いことで知られている職業です! では……盗賊っと……」
俺の冒険者カードに職業が盗賊であることが記される。
「これで完了です! オキタハルト様、ようこそ冒険者ギルドへ! スタッフ一同、今後の活躍を期待しております!」
にこやかな笑みを浮かべてそう言うお姉さん。愛想笑いで返すがこの時俺の頭の中には一つの問題が過っていた。
そう、金である。
正直、残り四千エリスでこれからどう過ごしていけば良いのだろうか……。
そんな心配を他所に、俺の冒険者人生の幕が上がったのであった。
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