この素晴らしい世界に盗賊を!   作:ハウンド・ドッグ

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 今回はカズマ視点です。
 どうぞ、ごゆるりと!


この冒険者に盗賊を!

「…………来ないわね」

 

 俺こと、佐藤和真(サトウカズマ)がこのろくでもない異世界に駄女神(アクア)を道連れに転生してしばらくが経った。出だしでつまずき、ギルド内の親切なプリーストにお金を貸してもらって()()()の冒険者になり、金を作る為に土木工事の作業員をやって、その給料で買ったショートソードでアクアと共にジャイアントトード討伐のクエストに出たのだが…………結果は散々なものだった。勝手に突っ込み二度もカエルに食われたアクアを助け出してとどめを刺したものの、幸先は良くない。悪過ぎる。異世界転生って「俺TUEEE!」が当たり前じゃなかったっけ。

 アクアの提案の下、ギルドの掲示板にパーティー募集の旨を書いた求人の張り紙を出してから半日が経とうとしているが、未だに一人も未来の英雄様候補は来ない。来ない理由もわかってる。

 

「…………なあ、ハードル下げようぜ。目的は魔王討伐だから仕方無いっちゃ仕方無いんだが…………。流石に、上級職のみ募集してますってのは厳しいだろ」

 

「うう…………だってだって…………」

 

 この異世界の冒険者としての職には《上級職》というものがある。アクアが就いた《アークプリースト》もその内の一つで、それらは普通の人間では早々就けない、言ってみれば勇者候補なのだ。当然、そのような勇者候補は既に他のパーティーで優遇されている。アクアは魔王討伐の為に出来るだけ強力な人材でパーティーを固めたいのだろう。しかし、現実はそう上手くいかない。

 

「このままじゃ一人も来ないぞ? 大体、お前は上級職かもしれんが俺は最弱職なんだ。周りがいきなりエリートばかりじゃ俺の肩身が狭くなる。ちょっと、募集のハードル下げて…………」

 

 俺が立ち上がろうとしたその時だった。

 

「上級職の冒険者募集を見て来たのですが、ここで良いのでしょうか?」

 

 どことなく気怠げな、眠そうな赤い瞳。そして黒くしっとりとした質感の肩口まで届くか届かないかの髪。俺達に声を掛けてきたのは、黒マントにブーツ、杖を持ちトンガリ帽子を被った魔法使い然とした少女だった。年齢は十二〜十三だろうか。片目を眼帯で隠した小柄で細身な少女はマントをバサリと翻し、こう言ったのだ。

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!!」

 

「…………冷やかしに来たのか?」

 

「ち、ちがわい!!」

 

 思わず突っ込んだ俺に、そのめぐみんと名乗る子は慌てて否定する。

 

「その赤い瞳…………もしかして、貴方紅魔族?」

 

 アクアの問いにその子は首肯し自身の冒険者カードを渡した。

 

「いかにも! 我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん! 我が必殺の魔法は山をも崩し、岩を……も…………く、だ…………く…………」

 

 めぐみんは突然ばさりと崩れ落ちる。きゅるる、と寂しく鳴り響く音。

 

「…………と、いう訳で優秀な魔法使いはいりませんか? …………そして図々しいお願いなのですが、もう三日も何も食べてないのです。面接の前に何か食べさせてくれませんか…………?」

 

「……メシを奢るくらいは構わないけどさ、その眼帯はどうしたんだ? 怪我でもしてるならこいつに治してもらったらどうだ? こいつ、回復魔法だけは得意だから」

 

「だ、だけぇ!?」

 

「フッ…………これは我が強力な魔力を抑えるマジックアイテム…………もしこれが外されることがあれば、その時はこの世に大いなる災厄がもたらされるでしょう…………」

 

「封印、みたいなものか…………」

 

「まあ嘘ですが。単にオシャレで着けてるだけ…………あ、あっごめんなさい。止めて下さい、引っ張らないで下さい!!」

 

 めぐみんの眼帯を引っ張る俺にアクアが紅魔族について説明する。彼女達紅魔族ら生まれつき高い知力と魔力を持ち、大抵は魔法使いのエキスパートになる素質を秘めているということ。紅魔族は、名前の由来となっている特徴的な紅い瞳と、それぞれが変な名前を持っているという。なるほど、からかっているわけではないらしい。

 

「あ、ゆっくり、ゆっくりですよ? ゆっくり長く離して下さ…………イッタイメガァァァァ!!」

 

「悪い。からかってるのかと思った。変な名前だし」

 

 眼帯を解放され、痛みに悶絶しながらも気を取り直しためぐみんはその発言に抗議する。

 

「変な名前とは失礼な。私から言わせれば、街の人達の方が変な名前をしていると思うのです」

 

「ちなみに、両親の名前は?」

 

「母はゆいゆい! 父はひょいざぶろー!」

 

「「…………」」

 

 無言。

 

「…………とりあえず、この子の種族は質の良い魔法使いが多いんだな? 仲間にしてもいいか?」

 

「おい、私の両親の名前について言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」

 

 ずずい、と顔を近付けてくるめぐみんにアクアは冒険者カードを返す。

 

「いーんじゃない? 冒険者カードは偽造出来ないし、彼女は上級職の、強力な攻撃魔法を操る魔法使い、アークウィザードで間違いないわ。カードにも高い魔力値が記されてるし、これは期待出来ると思うわ」

 

 曰く、爆裂魔法は習得が極めて難しい爆発系の、最上級クラスの魔法らしい。

 

「おい、その子や彼女ではなく、私のことは名前で呼んでほしい」

 

 抗議の声を飛ばしてくるめぐみんに俺はメニュー表を渡した。

 

「まあ、何か頼むといいよ。俺はカズマ。こいつはアクアだ。よろしく、アークウィザード」

 

 めぐみんは何か言いたげな顔をしたものの、それは口に出さずにメニュー表を受け取った。すると、その時。

 

「あの…………パーティー募集ってまだやってますかね?」

 

「んー? アンタ、職業は?」

 

「ちょっアクア!? 初対面なのに失礼だろ!?」

 

「あー…………一応、盗賊やってます」

 

「結構よ。他当たって」

 

「即答!?」

 

「それはちょっと酷くないですか?」

 

「…………ウッス」

 

「ああ待って! 帰らないで!! とりあえず面接だけでも!!」

 

 話し掛けてきたのは灰色のポンチョを纏った、癖がかった茶髪に黒目の、歳は俺と同じくらいの少年であった。アクアの即答によりすごすごと退散しようとする所をどうにか引き止め、アクアを説得して納得させる。アクアは非常に渋々、といった様子であったが。

 

「まあ、座れよ」

 

「あざっす…………」

 

「はぁ…………んじゃ、冒険者カード見せて」

 

「ウッス…………」

 

 職業は盗賊。めぐみん曰く、地味な職業で成り手も少ないが、ダンジョン探索においてその専用スキルによって優位性を発揮する職業らしい。レベルは4。名前は…………うん?

 

「ちょっと、いいですかね? こっち来てもらって」

 

「ええ…………構いませんけど」

 

 もしかして。彼ももしかしたら、転生者なのかもしれない。俺はそう思った。だって名前が思いっ切り日本人の名前だからだ。俺は彼に自身の冒険者カードを見せる。

 

「オキタ……ハルト……だよな」

 

「ええ。沖田陽斗です。えっと、貴方はサトウ、カズマ……ですよね?」

 

「はい、佐藤和真です」

 

「えっと…………もしかして」

 

「待て。ここから先は同時に行こう。きっと、同じことを言うと思うから」

 

「「せーの…………お前って異世界転生だよな!!」」

 

「よっし……同類発見!!」

 

「まさか面接官が日本人だったなんて……」

 

「カズマ、でいいぜ。よろしく。えーと……」

 

「ハルトでいいよ。こちらこそよろしく、カズマ」

 

「よろしく、ハルト!」

 

 ビンゴだった。ハルトは俺と同じ日本人だったのだ。俺達は固い握手を交わす。

 

「やっぱり、ハルトを転生させたのってアクアか?」

 

「アクア……? あー……そんな名前だったかもしんない」

 

「特典は何を貰ったんだ?」

 

「病気にならないっていうのを貰ったよ。…………めっちゃ地味って言われたけど」

 

「…………ってことは実質ノーチートかよ」

 

「カズマは何を?」

 

駄女神(アイツ)

 

「アイツって…………おいチト待て。そっくりさんかと思ったけどまさか!!」

 

「そう。そのまさかだ。あの駄女神を特典として貰ってきた。今の所ちっとも役に立ってないが」

 

「…………苦労してんね」

 

 その後も色々話した。ハルトは一ヶ月と少し前にこの世界に転生しており、ソロだったこと。ジャイアントトード討伐を失敗してカエルに軽いトラウマを持ったこと。その後、昨日まではここの酒場でバイトしていたこと。つい最近まで冒険者だったことを忘れていたこと。労働者をやっていたという下りは物凄くデジャブだった。そういえば、酒場でやたらと元気が良い男の店員がいたっけ。どうやらそれがハルトだったようだ。…………マジで? コイツも苦労してんだな…………。

 俺達は席に戻る。アクアとめぐみんがハルトの冒険者カードを見て何やら話し合いをしていた。めぐみんはハルトをダンジョン攻略の為に入れてもいいんじゃないか、と。アクアは上級職の《アサシン》じゃないとイヤ、と。ハルト曰く、アサシンは盗賊の上級職らしい。最初になれる職業でアサシンもあったらしいが、あえて盗賊にしていたようだった。レベル1の段階でのスキルポイントは3。だが、アクア曰く、その程度のスキルポイントでは例え上級職になれたとしても、やっていけるギリギリのだそうで、それなら潔くアサシンでなく盗賊にした方がマシ、だそうだ。ギリギリのラインではすぐに限界を迎えてしまうという。しかし、敏捷には眼を見張るものがあった。ハルトは生前陸上部だったらしく、脚には自信がある、と言っていた。まあ、大会に出してもらえる程では無かったらしいが。結果的には多数決となり、ハルトを除いて二対一でパーティー入りが決まった。アクアは不服そうにしていたが。…………どんだけ上級職の冒険者が欲しいんだよ。まあ、理由を聞いたら「私は女神だから〜」とか言っちゃうんだろうけど。

 何はともあれ、まず二人のパーティー加入が決まった。

 

──このすばぁ!(四人で)──

 

 俺達は満腹になっためぐみんと飛び入りで参加したハルトを連れてジャイアントトードにリベンジに来ていた。ハルトは一度クエストに失敗しているというので、都合が良いだろう。

 平原の遠く離れた場所にジャイアントトードが一匹おり、こちらに気付いて向かって来る。

 

「爆裂魔法は最強魔法。その分、魔法を使うのに準備時間がかかります。準備が整うまで、あのカエルの足止めをお願いします」

 

「おう。やってやる」

 

「ん。任せて」

 

 めぐみんは杖でカエルを指し示す。俺は鞘から剣を抜く。ハルトもダガーを構えた。

 更に、逆方向からも別の個体が近付いてきた。

 

「遠い方のカエルを魔法の標的にしてくれ!」

 

「わかりました」

 

「近い方は……おい、行くぞアクア。お前、一応は元なんたらなんだろ? たまには元なんたらの実力を見せてみろ」

 

「元って何!? ちゃんと現在進行形で女神よ私は!」

 

「本当にござるかぁ〜?」

 

「本当よ!」

 

「うっそだー」

 

 ハルトがアクアに茶化しを入れ、アクアはそれに猛抗議する。すると、めぐみんが振り返った。

 

「……女神?」

 

「……を自称している可哀想な子だよ。たまにこういったことを口走るけど、そっとしておいてほしい」

 

「可哀想に……」

 

「ほんとそれ」

 

 俺の言葉にめぐみんは同情の瞳でアクアを見る。ハルトはうんうん、と頷いている。

 

「な、何よ! 打撃が効き辛いカエルだけど……今度こそ……!!」

 

「なぁ!?」

 

 涙目になったアクアは半ばヤケクソ気味にカエルへ向けて猛然と駆け出した。

 

「見てなさいカズマ! 今日こそは女神の力を見せてやるわ!!」

 

「カズマ……」

 

「はいカズマです」

 

「アクアっていつもあんな感じなのか?」

 

「…………否定できないな」

 

「マジか…………」

 

 呆れた瞳のハルト。俺は溜息を吐きながらもハルトにアクアのフォローに入ってもらうよう指示する。どうせ、この後の結果なんて見えているのだから。

 

「震えながら眠るがいい!! ゴッドレクイエム!! ───ゴッドレクイエムとは、女神の愛と悲しみの鎮魂歌! 相手は死ぬ! …………ひゅぐっ!?」

 

 カエルは大きな口を開けてアクアを食った。

 はい。見事なフラグ回収お疲れ様です。…………本当はフラグ回収の女神様なんじゃないのかアイツ。

 

「流石は女神。身を挺しての時間稼ぎか」

 

「……とりあえず、あのカエルは倒すな」

 

「頼む」

 

 ハルトはダガーを逆手に構え直してアクアを咥えて飲み込もうとモゴモゴしているカエルへ向けて走っていく。速いな。

 

「っ!?」

 

 めぐみんの周囲の空気がビリビリと震えだした。

 

「───黒より黒く、闇より暗き漆黒に。我が深紅の混淆を望みたもう」

 

 めぐみんから溢れ出る膨大な魔力が杖へと収束していく。

 

「───覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!」

 

 めぐみんが使おうとしている爆裂魔法が相当ヤバいというのは魔法を知らない俺でも理解出来る。

 

「───踊れ、踊れ、踊れ! 我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり! 万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ! これが、人類最大の威力の攻撃手段……これこそが究極の攻撃魔法!!」

 

 カエルの上空に幾つもの魔法陣が出現する。そして、めぐみんの杖の先が光った。

 

「───エクスプロージョン!!」

 

 魔法陣より放たれた一筋の閃光。強力無比なエネルギーを保持しているのであろうそれはカエルの頭上より降り注ぎ、爆ぜる。直後、目も眩む程の強烈な光、辺りを震わす轟音が発生。カエルは抵抗することすらも許されず爆発四散した。

 吹き荒れる爆風に俺は足を踏ん張り顔を庇う。そして、爆炎が晴れた。

 

「すっげー……これが魔法か」

 

 カエルのいた場所には巨大なクレーターが形成され、その凄まじさを物語っていた。が、その時。一匹のカエルが地中から這い出てきた。どうやら先程の爆音のせいで目覚めてしまったようである。めぐみんに一旦離れて魔法で攻撃するよう指示を出そうとしたが、思わず「へ?」という声が漏れた。…………めぐみんが倒れていたのだ。

 

「ふ……我が奥義である爆裂魔法はその絶大な威力故、消費魔力もまた絶大。……要約すると限界を超えた魔力を使ったので身動き一つ取れません」

 

「えええ…………」

 

「近くからカエルが湧き出すとか予想外です。……ヤバいです。食われます。すみません、ちょっと助けて……う、ぐぱっ!?」

 

 めぐみんが食われた。……ってお前らぁぁ!?

 

「ふぇぇ……」

 

「ったく……! ああもう近付くな生臭い!」

 

 すると、ハルトが粘液でねちょねちょになったアクアを連れて帰ってきた。ダガーで喉を掻き切って倒したらしい。

 

「……今、どういう状況?」

 

「……めぐみんが食われた」

 

「……はぁ!?」

 

「行ってくるぅぅ!!」

 

 俺はカエルに飛び掛かり、どうにかショートソードで倒す。……そして、悪夢が襲った。もう一匹出てきたのだ。……って嘘だろ!?

 

「カズマ……」

 

「はいカズマです……っておい待てハルト。何する気だ」

 

「足止め……すればいいんでしょ? …………後は任せる。アイルビーバッ……むぐぅあ!?」

 

 …………ハルトも食われた。

 それはとてもとても、悲壮な決意に満ち満ちた瞳を俺に向けて、食われた。

 

「くしょったりゃぁぁああ!!」

 

 俺はハルトを食ったカエルを倒し、街に戻ったのであった。…………粘液まみれでカエルにトラウマを持つこととなった三人を連れて。

 もうやだ日本に帰りたい。

 

──三日間で「ジャイアントトード」5匹討伐せよ──

 

──合計6匹の討伐に成功──

 

──依頼達成──




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