ゴミクズ守銭奴マネージャーと核弾頭アイドル   作:海毛虫

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札束ビンタ

 

 とある"元"アイドルマネージャーは語る───。

 

「正直言って俺はアイツの事を核弾頭付きATMくらいにしか思っていなかった。起爆の気配が少しでもしたら稼いだ金持ってfireする気満々だったしな」

 

「じゃあ、なぜこんな事になったかって?知らねぇー、それがわかれば"元"だなんてついてませんよ」

 

「アイツがどんなひでぇ末路を辿ろうが知ったこっちゃ無いが俺を巻き込むな俺を」

 

「今からでも何とかなりません?ほら、うまく情報操作して無かった事にするとか、…無理?、諦めて腹括れ?いやだぁぁぁ!俺は核爆弾と一緒の墓に入る趣味はねぇって!」

 

 ▲

 

 "芸能事務所を立ち上げるから一枚噛まないか?"

 

 古い友人である斎藤壱護の誘いに乗ったのは奴の才能に集って楽に生きたかったというだけだ。

 

 壱護が才人であり努力家である事など学生時代に割れていたことであったし、仕事仲間が気心知れた奴だったら職場の人間関係の心配も要らない。

 

 ただ、マネジメントする相手がアイドルであるという点のみが懸念点ではあったがそこは奴の人を見る目とやらを信じることにした。

 

 でもまぁ、アイドルの末路なんて大概酷いもんである。

 

 あんまり感情移入し過ぎない方が良いかもな、と自分なりの方針を頭の中で組み立てていく。

 

 そんな感じで事務所の立ち上げやら何やらの仕事をやっていたら壱護が例のアイドル候補を4人連れてきた。

 

 サッと顔合わせし…壱護を無言で給湯室に引っ張り込み鍵を閉めた。

 

「いや、これはダメだろ」

 

 最初に口をついた言葉は否定だった。

 

「まじか、人選でお前に否定されるの初めてだわ」

 

 壱護は何故か事の重大さを理解せず呑気にそんな事を言っている。

 

「いや、そこの右から三人はまぁいい。いつものお前らしい優れたチョイスだと俺も思う。でも、そいつだけはやめとけ」

 

「は?何でだ?一番才能あると思うのだが」

 

「"あり過ぎる"んだよ。あんなん素人の俺らにどうこう出来ねぇ。元いた場所に返してきなさい」

 

「そこをどうにかするのが俺たちの仕事じゃないのか?」

 

「いや、俺たちが手綱を握れる範疇をとうに超えてるよ。俺もお前もアイツ相手に正気を保てる保証がない。現にお前、今アレを子供が出来ない自分たち夫婦の娘代わりにとか気の狂ったこと考えてるだろう。もう十分魅入られてるんだよ」

 

「…あっ!確かに客観的に見たらかなりヤバい事考えてたわ。出会って一週間の子を引き取って家族として育てようだなんて。済まねぇ、目が覚めた。じゃあ教えてくれないか、お前から見て彼女は、アイはどう見える」

 

 難しい質問だ。直感と経験で関わったらヤバいことだけは分かるのだが上手く言語化出来ない。だが、あえて言うとするならば───

 

「…深く関わった奴を全員不幸にするタイプのろくでなしだ。それも無自覚なんで尚更タチが悪い。壱護が見出したように人を魅了する才能もあるのだろうがそれを育てるまでに俺たちがおかしくなっちまう」

 

「謂わゆるファムファタールって奴か。昔から女運が致命的に悪いお前が言う事だから間違いないか。でも才能あるんだよなぁ」

 

「いや、あんなんがアイドルとしての才能を開花させたら色んな人の人生が狂いまくる。正直、社会というか公共の福祉の為にも田舎の風俗店に埋まっていて欲しいくらいだ」

 

「相変わらずド畜生だなお前。まぁだから副社長に選んだんだがな。…それと同じでこの狂った芸能界をのし上がる為には悍ましい呪いだってアイドルにしなきゃきっと勝てない。てっぺんは取れないんだ…だから!」

 

「分かった、わかったよ。うん、アレを使おう。でも俺は命が惜しい。精神汚染されそうになったらとっとと逃げるからな」

 

「それでいい。お互い死ぬ寸前までベストを尽くそう」

 

 こうして、父親代わりになる筈だった男は正気を取り戻し、捻くれたクズはB小町のマネージャーになった。

 

 ▲

 

 当たり前だが地下の底の自称アイドル(嘲笑)から芸能界のてっぺんのスーパースターまでの道は険しい所の騒ぎでは無い。

 

 スタートはまさに奈落の底から始まった。

 

 少ない予算で何とか取れたのは木っ端ライブハウスのステージのみ。

 

 観客はいい歳こいて女の子に全く相手にされず、かと言って2次元に逃げれる程文化的教養に優れている訳では無かったおっさんたちのみ。

 

 同業者もみな魑魅魍魎揃いで、中には何をどう勘違いしたらその顔と体でアイドルを始めようと思えるのか不思議になるほど造形が終わっている女もいた。流石にコイツらと同格として12歳の少女達をステージに立たせる事にはいろんな意味で心が傷むなぁ。

 

 まぁ、やるんですけどね。

 

 ステージ後には準備しておいたグッズ販売、チェキ撮影、握手会を粛々と実行する。

 

 皮脂と加齢臭を滾らせて少女に迫るその姿は正に奈落の怪物。

 

 社会の底の底にはこんな化け物もいるんだぁ、と未知の生物を観察しているとなにやらそいつらに少し異常が生じている。

 

 幸い原因はすぐ分かった。

 

 あの女、星野アイだ。

 

 あの女性耐性のない木偶の坊どもはアイツが息をする様に撒き散らしている愛してるコールを心の底から本気にしてしまっている。

 

 熱心なファンが増える事は良い事だが、控えめにいって質が終わってるな。

 

 資金力も無し、将来性も無し、発信力も無い、うんこ製造機どもだ。

 

 別にうんこ製造機の女王を育てる為にこの仕事に就いた訳じゃ無いのでファンが増えたら自身の立場を分からせて早々にお引き取り願おう。

 

 まぁ、でも初ライブにしては上々の出来だ。

 

 勘違いおばドルのファンも総取り出来たし、実戦経験も積めた。

 

 あとは壱護と一緒に多少のアフターケアをしないとな。

 

 うだつの上がらない4、50代の溜め込まれ濁った性欲に晒されるには彼女達はまだ若過ぎる。

 

 …えっ、壱護が残りの三人をやるから俺がアイのフォローしろだって。

 

 嫌です(即答)

 

 ▲

 

 あの後、ごねにごねたが結局、星野アイとの単独接触を回避できなかった。

 

 まぁ、仕事は仕事だ。腹括ってやるしか無いか。

 

「こうして二人きりで話すのは何気に初めてだな、まぁ互いに時間は惜しいだろう。早速本題に入るがファンになんか嫌な事されてないか?」

 

「いや、全然大丈夫!みんないい人達だよ」

 

「それは流石に嘘が雑すぎるだろ」

 

「いやいや、ホントだよ?誰も私の事怒らないし、怒鳴らない。その上褒めてまでくれるしね」

 

 …

 

 …いや、待て、これはこっちの同情を誘う罠だ。壱護は俺のせいで失敗したから次は俺に取り入ろうってか。

 

 しかも多分、事実を都合よく切り取って話しているだけだろうから嘘は吐いていないというのがタチが悪い

 

「そうか、そいつは良かったな。イエスマンは大事にしとけよ。アイドルに必要なものは肯定だからな」

 

 それっぽい事を言って適当に場を流す。やっぱこええわ、この女。

 

「…でもやっぱり、ちょっとだけ怖かったかな。自分より何倍も年上の男の人があんなにも反応してちょっと変な感じがしたの」

 

 くそ、存外にめんどくさいなコイツ。何が何でも構ってもらう気だ。

 

「そうか、そうだったら先に言ってくれ。…まぁ、言ってる事は分かる。いい歳こいて何やってんだろうな、アイツら。相手は12歳だぞ?」

 

「話には聞いてたけど毒舌なんだね、マネージャー」

 

「ああ、言いたいことは言わないと気が済まない性分でね。いや、流石に君ら相手にはセーブするぞ?大事な商材だからな」

 

「…セーブできてないじゃん」

 

「まぁ、君相手にはこのぐらいの距離感がいいと思ってな。我々はあくまでビジネスパートナーだ。僕が仕事を持ってきて、君がそれをやる。そうすれば双方に金が入る。それだけが真実だ。友情やら絆やら愛やらそんな何の保証にもならない言葉より分かりやすいと思わないかね」

 

「…!そう、だね。…あの、もう一つ聞きたい事が出来たんだ、いい?」

 

「言ってみろ」

 

「人を愛するってどう言う意味なのかな?」

 

「そりゃ、札束ビンタだろ。俺はそれ以外の方法で真実の愛を与える方法をしらん」

 

「へ?」

 

「貢いだら割と心の底から愛して貰えるぞ、一部の奴ら以外は」

 

「その一部って?」

 

「人を人とも思わない生まれつきのクズどもだな。俺もその一人だ。正直君らのこともよく喋る財布くらいにしか思ってない」

 

「…私は自分の愛の言葉が嘘にしか思えなくて、人を好きになるとか分からなくて…」

 

 何だコイツ、ぶつぶつ言い始めたぞ。まぁいいや。

 

「何言ってんだ。札束の枚数は誤魔化せないだろ。嘘もへったくれもない」

 

「…」

 

 アイは何とも珍妙な表情をして黙り込んでしまった。

 

 多分、俺が斜め下のクズすぎて感情を処理しきれていないのだ。

 

 こうして俺は圧倒的勝利感と共に定時退勤するのであった。

 

 

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