私は誰かを愛したい
愛する対象が欲しかった
『アイドルになればファンを愛せると思った』
心の底から愛してるって
言ってみたくて
愛してるって嘘を振りまいて来た
「吾郎…、ルビー…」
『母親になれば子供を愛せると思った』
私はまだ
子供たちに愛してるって言った事がない
その言葉を口にした時
もしそれが嘘だと気付いてしまったら…
そう思うと怖いから
『彼に寄りかかれば異性を愛せると思った』
結婚し、家庭のようなものを作った
でも、私達は体を重ねた事がない
彼の腕の中で、もし温もりが感じられなかったら
私は二度と誰も愛せないと答えが出てしまうから
だから私は今日も嘘を吐く
嘘が本当になる事を信じて
たとえその代償が
自分の命なんかじゃ釣り合って無かったとしても
*
「明日はいよいよリベンジドームだ!これでお前ら一家ともおさらばだ!」
「逃げられると思ってるの?マネージャー」
彼が冗談で私を拒絶する時、私は重い女の子っぽい言葉で返す。
そうすれば愛しているような感じに近づくから
私はやっぱり嘘吐きだ
意図的に具体的な話ししかせず
本質の、心の底のことは茶化して誤魔化す
「ふん、ツテなら沢山あるし、いざとなりゃ海外にだって飛んでやる」
彼は私にとって、答えを先延ばしにしてくれる存在だ
"どっちでもいい" "どうでもいい"
九年前、迎えに来てくれたあの日から
私は穏やかな猶予の時間を与えられた
近くにいて、
これ程"楽"な人は後にも先にも現れないだろう
でも、時間切れだ。
『分かんないよ、愛なんて』
今夜、私は答え合わせをする
彼が撃たれたあの日から、
『時間は、嘘の代償は、二度は払えない』
彼が私を求めなかったらそうすると決めていた
彼は死の淵で嘘を吐き、私への愛を悟った
『…最後に、抱きしめて、…愛してるって言って』
『嫌だね』
なら、私は関係が終わるこの日に、
人生の猶予が、穏やかな時間が終わるこの日になら
きっと答えを知られるだろう。
*
彼はあまり眠らない
だからいつも夢を見ないのだろう
『アイドルは夢を売る仕事だ』
いつものように、寝ている彼の部屋に入る
一緒に住んでから、私は毎日縋るように
彼のベッドに潜り込み、愛を探すのだ
でも感じられるものは
安心感、穏やかさ、緊張感、虚無感、恐怖感
そんなものがない混ぜになった感情が頭を巡り
逃げるようにそこを去る
本能的に、その先に答えがあるって分かるから
結局、問題を先送りにしてしまう
───時計の長針が、半周する
手が震え出した
───カチカチと音がする
視界が、目が眩んでいく、終わっていく
───彼の息遣いが少し変わる
もう、なにも感じない
「───そうか、そうなら、そうしろ」
いつの間にか彼の目が開いていた
彼は私がこうしている意図を全て悟ったのだろう
全く抵抗せず、こちらに目を向け続けている
言葉はその一言だけ
本当に何から何までやりやすい人だ
「…そうできたら、そうする」
私の手は未だに動かない
彼の目も変わらずに動かない
絶望が私の脳をよぎる、
九年間が、私の全てが揺らいでいく
涙は出ない
現実はその悲しみすら嘘だとこちらに突きつける
『多分これ、無理だぁ』
虚無感が私を満たす
私は今しか存在していないような、そんな錯覚を覚える
視界が、瞼が、降りた
恐怖感が私を追い詰める
なにも見えない暗闇の中、何かを探し始める
ふと、彼の無い筈の左腕に抱き寄せられる錯覚を覚え
腕の支えを失い彼に倒れ込む
安心感が私を包む
脳が溶けるような、魂が解けるような
不思議な感覚だ
穏やかさが私に吹き込んだ
いつか憧れた親の、家族のそれ
ただ何もしなくても、あるがままに幸せだ
「───答えは出たか?」
「いやぁ、中々上手くいかないものだね」
「ごめんね、夜遅くに押しかけちゃって」
「ふん、俺が全てが終わる前日にやる事を残す間抜けに見えるか?」
「今日のドーム中止にできないかなぁ、ほら仏の顔も三度までってさ」
「無駄だぞ、壱護には前回みたいな事にならない様に契約を変更していてな。ドームの日程が決定された時点でその予定をもって契約は満了だ」
「イヤだなぁ。君といたら私は楽だったのに。アイドルやってればなにしても何とかしてくれるし、許してくれる。ごめんね、君の愛に答えられなくて」
「クズだなぁ。まぁ、やっぱそんなもんか。じゃあこの右手の指輪を外してくれ、煩わしくて叶わん」
「はいはい…、離婚届は?」
「俺の机の上から三段目の鍵付きの棚の中だ。婚姻届と同時に貰った一枚目の離婚届が入っている」
「相変わらず妙にロマンチストだよね、マネージャー」
「ふん、ロマン欠乏症は死に至る病だからな」
「じゃあチャチャっと書いちゃうね。後、他に何かある?」
「さてな、ガキ共の面倒は嘘でもいいからちゃんと見ろよ。流石に答えが出たからポイは人間としてヤバイぞ」
「どうだろ、多分ムリかも。演技するにしても私は親を知らないから分かんないし」
「はぁ、このゴミ女め。斎藤夫妻に引き取って貰おう。一応、俺も定期的に面倒は見る。じゃあとっとと失せろ、この家からもだ…む?」
水滴が彼の顔に落ちていた。
「───ごめん、今の、全部嘘」
「正宗君」
『愛してる』
「あぁ、やっと言えた。やっと見つけた」
「ごめんね、9年も待たせちゃって」
「あー、良かったぁ」
「この言葉は絶対」
「嘘じゃ無い」
───彼女の星の輝きが増す
「───頑張ったな、本当によく、頑張った」
「…うん、辛かった、怖かったよ」
───もう、全てに揺らぎはなく
「じゃあ、後は任せろ。いつも通り、何とかしてやる」
「じゃあ、お願いね?私の全てを、貴方に」
───実在する、右腕が愛を抱き寄せる
「あぁ、あとひとつだけ、アイのそれの後じゃ、クズの言葉なんて釣り合わないと思うがな。ケジメだからちゃんと言おう」
『君を心の底から愛している』
「多分、俺は一目惚れってヤツだったのかもな。でも理屈で動いていた脳はそれを上手く処理できなくて、逃げようとばかりした。でも、まぁ、死にかけて初めて分かったよ。自分が消えた後も幸せになって欲しかった」
「勿論、俺も男だ。愛を伝えたいっていう衝動もあったし、女の子としても日に日に魅力的になっていく君になにも感じなかった訳じゃない。でもまだ君の準備が整ってなかったからな」
「俺たちは極端だからさ、死ぬような状況にならないときっと答えなんて出っこないんだ。それで雑に体を重ねたらきっと今日の機会も失ってた」
「まぁ、俺の言いたいことはこんなもんだ。…じゃあ後は、君が明日に響かない程度に、そうしよう」
「うん、うん!」
ただ力の限り彼を抱きしめる。心と心が近付いて、何もかもが理解できる。
欠落した、私の過去が、幸せな今で埋まっていく
…しまった、服を脱ぐタイミングを逃した
でも、今の私は彼から離れられない、離れたくない
「…分かったよ」
器用に、私を抱きしめたまま、立ったり座ったりして私は脱がされていく
ああ、頭がとけてしまいそうだ、私の、私の全てが見られている
身体の全てで彼を感じられるようになったら、すかさず彼に絡みつき押し倒す。
全身を押し付け、女として、人間として、生き物として満たされる
口付けをする、適当にやったあの時とは比べるのも烏滸がましいほど甘い甘い口付けだった。
じゃあ、後は、ね…
──────
────
──
それは私の人生でこれ以上ないくらい良い目覚めだった。
昨日の事は夢の様な出来事だったけど、夢を見ない彼のお陰で何一つ夢では無かったことが分かる。
私の心の形も、愛することも、私から失われていない
じゃあ、ドームで引退ライブだ。
ここまで応援してくれたファンの皆に私のホンモノの愛を送ろう。
…ちょっと驚いたり、怒ったりしちゃう人もいるかもね。
でも、それも受け入れて私はアイドルをやめようと思う。
そして、彼の、彼だけの女の子になるの。
勿論、子供たちにも愛を伝えるよ
そこは履き違えちゃダメだからしっかりしないと
…彼は本当に珍しく、眠たそうに目を擦っていた。
きっと余りにも夢に近い一晩だったから彼の睡眠欲求も呼び起こされたのだろう。
結局、意地でも寝なかったっぽいけど
まぁ、そのおかげで私も夢が現実になったから感謝しないとね
そう思い、私は彼の頬に優しく口付けした
よろしければこの作品に求めているものを教えてください。最近、スランプ気味で何が皆さんにとって面白いか分からなくなったのです。
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