「今日は、今まで応援して来てくれた皆んなに大事な話があるんだ」
───今すぐ、あの核爆弾女の口を塞がなければ俺は惨たらしく死ぬ
満員の東京ドーム
最高潮の空気感
期待と羨望の眼差し
皆が、社会が、アイを見ていた
───それ程までに今日のアイは完成されていた
精神への理解、過去との和解
嘘と本当、表裏の狭間
完全な自立、幼年期の終わり
誰一人、何人たりとも並び立つ事ができない
───原因は…まぁ、俺のせいだから何ともし難いけど
上司として、友達として、親として、夫として
そして、恋人として
結局俺は彼女にとってのナニカになり過ぎたのだ
自業自得といえば自業自得である
───でも、俺は死ぬ時はもうちょい安らかに死にたい
少なくとも嫉妬の業火に焼き尽くされて死ぬのは嫌だ
何故、アイは安寧を好まないのだろうか
いや、それこそがその危険さこそが魅力の一因なのだ
自分で売ってきた女の子なので嫌でも理由が分かってしまう
───アイが何故かこちらに向かってくる
アイドルを堕としてしまった罪は償えない程、重い
古来より、皆んなのものを独り占めしようとした奴の末路なぞ碌なモノではないのだ
何をする気かは知らないがまぁ、大人しく執行を待つとしよう
右手を掴まれ、何処かに連れて行かれる
───スポットライトなんて初めて浴びるな
会場が困惑の雰囲気に包み込まれる
一生分の視線が刺さる、存在が咎められる
アイはいつもこんな場所に居たのか
彼女への罪悪感が、気後れが彼女に自由を許す
「皆んな注目!実は私、アイドルを始めた九年前のその日からこの人の事が大好きでした。色々やらかして六年前にk…むぐっ」
ガチ恋ファンにとってあまりにもあんまりの事を言い出したので咄嗟に口を塞ぐ。恋も愛もコイツで知った身としちゃ最初から全部嘘でしたはあまりにも惨すぎる。
「テメェこの核爆弾アイドルがぁ!皆さんすいません、こいつは疲労が祟って頭がおかしくなったみたいです。…いや、本当に何でもないっすよ。ボディタッチ?…あっそっか、コイツ普通触っちゃいけないんだ」
気付いた時には既に時遅し、アイに抱き返される。
「おい、待て、自爆心中女、いや、待ってください。えっと…どうしよ」
「もう諦めたら?多分何とかなるでしょ」
「楽観を通り越してそれは盲目というモノだろう。はぁ、海外移住も視野に入れないとな。これ下手したらこの世から村八分だぞ」
「君と一緒なら何処へだってついていくよ」
「それただの呪いの言葉なんだよなぁ。で、この場はどうする。多分俺が市中引き回しになっても皆んなの怒りは治らなさそうだけど」
段々、結婚6年目の中堅夫婦の日常会話になっていく。
「ううん、君の事を知ればきっと皆んな許してくれるでしょ。エピソードは山の様にあるんだし、自伝でも書いたら?タイトルはそうだなぁ『ゴミクズ守銭奴マネージャーと核弾頭アイドル』って」
「ふん、この場を生き残った後にペンを持つ手が残ってたら考えんでも無い。というかよく考えたらアイに嫉妬する俺のストーカー女も今大量発生したのか…わりぃ、やっぱ俺死んだわ」
「…それに関してだけは私も何も言えないけど、本当なんで私より君の方が殺されかける回数が多いの?」
そう言いながらアイは愛おしそうに俺の左腕の傷口を指でなぞる。
「それが分かったら、俺の人生の困難の大部分は解消するからなぁ。でもまぁもう慣れた。…ここだけの話なんだけど俺のストーカーって同じ刑務所に入れると殺し合っちゃうらしいから分けて収容されてるらしいよ。地獄か何かかな」
「ぷっ…くくっ、何それめっちゃ面白いじゃん。何人収監されてるのさ」
アイはお腹を抱えて笑っている。
なんかもう、会話の雰囲気が男子高校生の昼食中のソレにまで落ちてる。
「で?結局どうする。あんまりにもあんまり過ぎてブーイングすらおこってないが」
「そうだねぇ、あっプロポーズとか?一応六年前にしたのは偽装結婚だったから式もあげてないし、初手婚姻届だったし」
「うん、やっぱお前一回黙ろうか。言っちゃいけないことボロボロ言いやがって、まぁ最初から手遅れだからもう誤差だけどさ。というかこれ損害賠償発生するレベルの暴露だよなぁ。お前、広告何個出てたっけ?」
「分かんない⭐︎ でも、多分払えないからよろしくね?」
「あーあ。俺もこれで無一文確定か。自己破産と生活保護の申請のやり方調べとかないとなぁ。多分あの家も差し押さえされるし、暫くは四畳半暮らしを覚悟しといた方がいいな」
「やった!君との距離が近くなるね」
「ポジティブもそこまでいけば病的だな。で、そう言えば何故誰も俺たちを止めにこないんだ?」
「興味?だと思うよ。ほら、私って秘密主義だったからさ。好きな食べ物すら公開して無いんだよね」
「てめぇが一番美味しそうに食べてたのは確か俺が食う為に取ってきたベニテングダケだったよな」
「あーあれか、確かにめちゃくちゃ美味しかったね、毒キノコだけど。そもそも一人だけ違うキノコ食べようとするのがいけないんだよ?」
「うるせぇ、お前らは松茸だったから文句ないだろ。俺はたまにお腹壊してもいいからベニテングダケを食いたくなるんだ」
「改めて思うけどやっぱり君、変人すぎるよ!私のキャラが霞むぐらいにキャラ濃いとかなんかおかしいよ。…ていうかさっきから何をしてるの?それは義手?」
「ん?ああ、知り合いに発明家がいてね。多機能な義手を提供してもらったんだがその機能の一つがこの状況を解決するのにおあつらえ向きだったんだ。だから急遽予定を前倒しにして今着ける事にした。…よし、完了だ」
「流石の私も全く話が見えてこないんだけど…それでどうするの?」
「いやぁ、俺も改めて昨日お前に最初から惚れてた事を認めちゃったからさ。晴れてドルオタ萌え豚の仲間入りってわけ。でも俺は散々こき下ろしてきた奴らと同格になるのはまっぴらごめんだ」
「…」
「知ってるか、飛ばない豚はただの豚っていう言葉。だから俺は飛ぶことにした」
左腕を、天に掲げる
瞬間、拳からワイヤーが撃ち放たれ、東京ドームの天井の支柱に絡みつく
「という訳で、あばよ、アイ。それにドルオタにマスコミ共。名シーンだぞ?見逃すなよ」
皆、あまりにも突飛な出来事過ぎてただ見ることしかできない。
ただ一人、九年間、彼の狂気を隣で見続けた彼女を除いては。
アイはその瞬間、ただ直感で彼に抱きついた
「私を置いてかないでよ」
「は?ちょ、おま、死ぬ気か?」
直後、二人は高速で上昇し始めた。
最早、観客は何かのアクション映画でも見ている様な心地になっている。
「てんめぇ、手元が狂ったら死ぬとこだったぞ」
「攫われるお姫様の気分っていいものだね」
アイを抱えながら、ぷらぷらとぶら下がる。
流石に警備員やら何やらが出て来たが、ここまで来れる奴は一人もいない
「うーん、元は右手使ってワイヤー掛け替える予定だったんだがお前で塞がっちまった…どーしよ」
「締まらないなぁ、そこは最後まで逃げ切ってよ。じゃあ振り子みたいにここからドームの端まで揺れてみるってのはどう?」
「まぁ、それでいっか!死んだらごめんな」
天井を蹴り、ワイヤーを伸ばす。
体が加速する
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」 「楽しいぃぃ!!!」
やっべ、普通に死ぬほど怖い、てか死ぬ
───チックタックとクズとアイドルが空を舞う
観客は最早、諦めてこの状況を楽しみ始めた。
振り子はどちらかに振り切れた瞬間、速度が0になる
狙うのは、その一瞬
無論、接着を解いたワイヤーが観客の頭に当たらないように通路に降りる事にも留意しなくてはならない
───今だ!
義手にコマンドを送り、ワイヤーの接着を解いた
「ぐぇっ!」
アイを抱き抱えながら背中から着地する、何とか無事みたいだ。
…着地地点に席が近いファンの一人と目が合った。
「えっと、ウチのクソアイドルがすみません」
何となく、気まずくなって謝っておいた
「あっ、君はリョースケ君。星の砂くれた人だよね、覚えてるよ。今まで応援してくれてありがとうね」
「は?へ?いや、ちょ…は?」
そりゃそうなる、空から推しが飛んできて自分の名前を覚えていたのだ。
「まぁ、そういう事で、失礼します」
とっととドームの普通の出口からトンズラをかます。
警備員は皆天井に登ろうとしていたので此方は手薄になっていた。
「今度こそ、あばよ、皆の衆。…暫くは放っておいてください、俺は疲れました」
そうして、手癖の悪いクズは皆んなのアイドルを盗み出してしまったのだ。
…ギャグなので細かい所は多めに見てください
よろしければこの作品に求めているものを教えてください。最近、スランプ気味で何が皆さんにとって面白いか分からなくなったのです。
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さっぱりとしたギャグ
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溜めたイチャイチャ
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星野アイについての掘り下げ・過去の解決
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原作ストーリーラインへの介入