ゴミクズ守銭奴マネージャーと核弾頭アイドル   作:海毛虫

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クズタクシー

 

 とある"大手"芸能事務所・社長は語る───。

 

「例の報道に対して一言?まぁ、だよな、としか」

 

「アイツは散々警戒してたんだけどなぁ。一周回ってってヤツか?」

 

「警戒って?いや、アイドルを使って稼ぐ側がアイドルに惚れたら元も子もないって主張してスタッフ側にも一歩引くように呼びかけていたんだよ。そうしたら結果的に奴自身が一番アイに近くなって…」

 

「いや、これ以上はやめておこう。クズにも尊厳はあるんだからな」

 

 ▲

 

 B小町結成から三ヶ月

 

「いやー金で買った女との時間は最高だわ。アイドルなんかよりも確実性が違う。奴らどんだけ貢いでも二、三年の内にやれ熱愛だ、やれ枕営業だとか言って消えてくからな。賞味期限も短いし」

 

 キャバクラにて二人の男が飲んでいた。

 

 チャラそうに見える金髪の男性の周りには女がおらず、芋臭い男の周りでは三、四人の女性がにこやかに接待しているという不自然極まりない構図が生まれている。

 

「で、相談ってなんだよ、壱護。奢って貰った分ぐらいは真面目に聞こう」

 

「いや、最近アイがB小町内で浮いているんだ。不真面目だとか態度に問題があるとかでも無いのにな。原因に心当たりはないか?」

 

「はん、そんなん唯の嫉妬だろ。アイと他の三人じゃ地力が違い過ぎるからな。必然と言えば必然だ」

 

「私達だって頑張ってるのにあの子ばっかりって感じか…確かにしっくりきたよ、ありがとう。ついでだがなんか解決策の案は無いか?」

 

「無い。悪い事をやってる訳じゃ無いから謝る訳にもいかんしな。それともアレか、いっそ開き直って"可愛くてごめん⭐︎"とでも謝らせるか。ははっ、そいつは傑作だ。人が憤死する様なんて滅多にみられんぞ」

 

「相変わらず倫理観0だな、お前。いやそれは良いんだがお前は最近アイと話せてるか?この前アイにどうしたらお前と長く話せるか相談されたぞ」

 

「…まさかこの前のジュース一本で一時間話してとアイに頼まれたのはお前の差金か?その質問に何て答えたんだ」

 

「いや、今日みたいに奢ったりなんやりして明確に利を与えればなんでもしてくれるって」

 

「一時間160円でこちらに利があると思ってる辺り頭ハッピーセットだな。まぁ煽ってるとしか思えなかったから突っぱねた訳だが」

 

「どうか、少しでいいからアイに構ってやってくれないか?俺たち夫婦じゃお前が言うように甘やかしすぎてどうしても歪んだ家族の様な関係になっちまう。多分、本人はそれを欲しているんだがな…俺にゃどうすりゃいいか分からねぇんだ」

 

「え、嫌だ。なんであんなクソガキの相手しないといかんねん。アレは愛着を持って関わったら死ぬって最初に言ったやん」

 

「頼む!一年間やってくれたらハワイ旅行行かせてやるからさ」

 

「ハワイ、ハワイか…一週間?」

 

「無論だとも」

 

「交渉成立だ。報酬分は必ず働こう」

 

 ▲

 

「という訳で今日からお前の送り迎えをする事になった。悪口、陰口、愚痴何でも聞き流してやるし、話すのがめんどくさいなら寝ててもスマホ弄っててもいい。というかそっちのが楽で助かる」

 

 俺は児童養護施設の前に高級車をつけてそう言い放った。

 

「えっ、と、じゃあ私を迎えに来てくれたってこと?」

 

「? 変な事を聞く奴だな。まぁ日程的に無理なときはその都度連絡して適当にスイーツでも奢って埋め合わせはしよう。仕事だしな、その辺ははっきりさせておかないと」

 

「…じゃあこれからよろしくね?マネージャーさん」

 

「児童養護施設の前に高級車つけるのは絵面がヤバいから早く乗ってくれ」

 

「はーい」

 

「おい待て、そっちは助手席だ」

 

「いいじゃん、それくらい」

 

「やだよ、俺はまだファンに刺されて死にたく無い。後部座席だったら外からは見えないからまだマシだろ」

 

「大丈夫だって。アイドルとマネージャーの関係だよ?それくらい普通にするって」

 

 コイツ、言動といい思想といい何から何まで破滅的すぎる。

 

「お前、男の嫉妬舐めてるだろ。男は女より嫉妬しにくいがいざ嫉妬した時の面倒臭さは女の比じゃないぞ。特に君らのファンには失うものが何も無い奴が多い。そうするとまぁ、錯乱してブスッとな、なんてよくある話だ」

 

「…分かったよ、後ろに座るね」

 

 アイは少ししょんぼりした風の顔で後ろの席に座り直した。

 

「オーケー、それでいい。じゃ、車出すぞ」

 

 座り慣れた愛車の運転席、慣れないのは後ろに座るアイドルモドキ。

 

 出発してから一、二分は興味深そうに車内をキョロキョロと見渡していた彼女がふと話し始めた。

 

「うん、見ての通りだけど私、施設の子なんだ」

 

「私、片親なんだけど、小さい頃にお母さんが窃盗で捕まっちゃってさ」

 

「その間、施設に預けられてて」

 

「でもお母さん釈放されても、迎えにきてくれなかったんだぁ」

 

「で、それがどうかしたか?」

 

「眉ひとつ動かさないんだね」

 

「他人事だからな、人の不幸に感情移入しても自分も悲しい気持ちになるだけで一銭の得にもならん。俺は比較的金持ちの家に生まれてかなりに自由にやらせて貰ってきたが他人に申し訳ないと思った事は一度もない」

 

「聞きたいのはそれを俺に聞かせてどうして欲しいかという一点だけだ。同情か?トラウマの解消か?それとも…」

 

「どうして欲しいか、分からないんだ。だって私は嘘吐きだから」

 

「嘘つきねぇ、そもそも嘘つきは自分の事嘘つきって言わないと思うんだが」

 

「…」

 

「自分に嘘をついてる自覚がある奴なんて三流の嘘吐きだ。クズ共は真っ先に自分自身に嘘を付く。私は可愛い、だとか、宿題は後でやるから大丈夫、だとか惨めな自分が幸せになるためのしょうもない嘘を脳内で吐き続けるんだ」

 

「その点、君は自分が嘘を言ってるかもしれない、という一点においては絶対に嘘をつけない。正直言って嘘吐きの風上にもおけないよ」

 

「でも、私は何が本心か分からない。なら私の口から出る言葉は全部嘘ってことにならない?」

 

「そこまでは知らん。まぁ、でも"どっちでもいいんじゃね?"相手からしたらさして変わらんやろ。いや、これは俺が他人に興味なさすぎるだけか」

 

「まぁ、俺は君が嘘ついてようが本当の事いってようが心底どうでもいいから、君もこの車の中では嘘か本当かなんて気にしなければいい。だって折角頑張って本当のこと言ったとしても聞く相手が違いの判らない俺じゃあ意味ないだろ」

 

「どっちでもいい…、どっちでもいいかぁ。なんかマネージャーと話してると笑えてきちゃうね。自分の中の重大な悩みが悉くこきおろされて、切り捨てられちゃう。馬鹿にされてる筈なのになんかスッキリするし」

 

「なんだ、マゾか?お前」

 

「違うよ!もう、折角人が真面目に話してるのに、のに…あれ?今」

 

「ほら、着いたぞ。とっとと降りろ」

 

 そうして送迎者生活一日目は終わりを迎えた。

 

 ▲

 

 三日…

 

「それでね、…」

 

「くっだんねぇ」

 

 七日…

 

「今日はさ、…」

 

「はいはい、ほいほい」

 

 二週間…

 

「眠たい!寝る!」

 

「ラッキー」

 

 四週間…

 

「ひっでぇ渋滞」

 

「やった!今日は長話ができるね」

 

 二ヶ月… 

 

「B小町の子達と上手くいってなくて…」

 

「諦めたら?」

 

 四ヶ月…

 

「ねぇ、マネージャーの家ってどんなんなの?」

 

「そうだな…」

 

 半年…

 

「まねーじゃー、わたし…」

 

「黙れ、寝ろ、風邪なんか引きやがって。…施設の寝床じゃ仕事に支障が出るな、だったら…」

 

 八ヶ月…

 

「ぎゃぁぁ、雪だ。今日は少し黙っていてくれ、ミスったらお陀仏だ」

 

「埋め合わせは?」

 

「ちっ、分かってるよ」

 

 十一ヶ月…

 

「…」

 

「ここ一週間くらい黙ってる事が多いな。こっちとしてはありがたいが仕事に支障をきたされたら元も子もない。とっとと言っとけ」

 

「ううん…大丈夫、きっと大丈夫だから」

 

 そして、一年が経った

 

「という訳で今日で契約満了だ。がはは、壱護、一週間ハワイ旅行の件忘れた訳じゃないよな」

 

「お前ほんとに屑のくせに自分がした約束に対しては律儀だよな。アイの事もかなりしっかり見てたし、ちゃんと一線は引いてたし。やっぱ仕事人としては一流だ。改めて雇って良かったと思えたわ」

 

「世辞はよせ、一銭にもならん。兎に角、報酬、ハワイ旅行、寄越せ、今すぐに」

 

「勿論だt」

 

 瞬間、社長室の扉が開いて、アイが入ってきた。

 

 なんだぁ、ライブの直前でもしないような表情しやがって。

 

「マネージャー…、お願い、もう私を置いていかないで…」

 

「えっ、お前が日程的に俺についてくの無理じゃね」

 

「あのな、多分そういう事じゃないと思うぞ。やっぱ人の心が分からん奴だな」

 

 壱護が呆れたようにそう言った。まぁ外道扱いなんて慣れたもんよ。

 

「分からなくても生きてけるからな。で、アイよ。一体全体何の用だ」

 

「…やっぱりこの契約が終わったら、もうお話、聞いてくれなくなっちゃうの?」

 

「そういう契約だからな、俺は基本的に人との雑談は好まないし。やっぱ一人が一番よ、ハワイ旅行は二年連続では要らんし最近ちょっと自分の時間が足らないと思い始めてきたから丁度いい頃合いだ」

 

「どうにかして契約更新できない?正直、私は自分の収入全部貢いでもいいと思ってる。貢げば愛してくれるんでしょ?」

 

 アイがなんて事ないように自分の収入を全ベッドし始める。

 

「俺みたいな一部のクズを除いてな。まぁ、人生の先輩としてのアドバイスだがクズや外道に寄りかかりすぎるとマジで碌な目に会わないぞ。それにだんだん人気でてきてガチ恋のファンも増えてから仕事の為にもここらが引き時だ。…むっ、壱護はそっち派か」

 

「ああ、お前がアイに構い始めてからアイがいい笑顔をする様になったからな。俺は上に上がる為にもお前にアイの親代わりになって欲しいんだ」

 

「ぎゃぁぁあ!また狂ったこと言い出した。てか壱護、普段の俺の言動知ってんのに俺を里親に推すなんてヤバすぎだろ。俺だぞ、俺」

 

「その言葉にはほんのちょっぴり正当性を感じちゃうのはなんか悔しいな、佐藤社長」

 

「斎藤だクソアイドル。だが確かにすごい説得力だ」

 

「そう思うのならとっとと引いとけ。俺は人の親にはなれねぇよ」

 

「どうしてそう言い切れるの?」

 

「だって、俺は自分しか愛していないからな。思いやりという概念が存在しないのだよ」

 

 瞬間、アイの瞳に星が輝いた気がした。

 

「愛…。なんだ、マネージャーも他の人を愛するという事が分からないんだ。ふふっ、お揃いだね」

 

「いや、だからそれは札束b」

 

「じゃあ、私が教えてあげる」

 

「もっと、もっと魅力的なアイドルになって君自身よりも私の方が好きになっちゃうくらい可愛くなって───」

 

 

 

「マネージャーの推しの子になってあげる」

 

 

 

「…壱護。なんかコイツの禍々しさ増してね。そろそろ逃げ時な気がする」

 

「逃さんぞ、お前がいればアイはトントン拍子で魅力的になってくからな。悪いが俺の夢のために死んでくれ」

 

「…とりあえず全部忘れてハワイ行ってくるわ」

 

 そう言い、俺は一年ぶりに寄り道せずに家に帰った。

 

 

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