ゴミクズ守銭奴マネージャーと核弾頭アイドル   作:海毛虫

6 / 15
愛の魔女

 

 ある児童養護施設の職員の証言───。

 

「あの子のこと?はい、覚えていますよ」

 

「どんな子だったかって?いや今とは別人ですよ。周囲に溶け込むのが上手くて、どんなグループでもそこそこ上手くやっていく。そんな子でした」

 

「でもちょっと自己主張がなさすぎて心配になるような子でもありました。でもそんな心配は全て杞憂だったみたいですね」

 

「ええ、あの子は本当に良い人と出会いましたよ。少々、口が悪すぎるのが玉に瑕ですが…」

 

 

 ▲

 

 …また、女がつけてきている。

 

 年齢は40歳前半くらいと言った所か。

 

 格好は水商売をやっている人間特有のアンバランスな服装。

 

 …これは、いつもの俺の女難関係じゃない可能性もあるか。

 

 サッとスマホを取り出し、連絡を取る。

 

「壱護、俺だ。済まないが迎えの車を一台頼む。誰かにつけられているみたいでな。いつもの女難なら良かったんだが、どうやらそうじゃないみたいだ」

 

「マネージャーどうしたの?」

 

「黙って帽子を深く被り直せ。そして絶対に後ろを振り向くな。妙なのがつけてきてる。…しょうがないから少しこっちに寄れ」

 

「…分かった」

 

「ったく、俺の趣味の用事に無理矢理ついてくるから。兎に角、壱護に迎えを頼んだ。20分くらいで到着するらしい。…で、その間は絶対に相手に情報を抜かれちゃ駄目だ。いくらウィッグやカラコンまで付けて別人に変装しているとはいえ、相手はそれを見破ってつけてきた奴だ」

 

「また厄介ファンってやつ?」

 

「いや、相手は女だ。…言っとくがいつもの女難ではない可能性が非常に高い。まだ憶測に過ぎないが多分鉢合わせたらお前にとってかなり良くない事が起こる。こっちとしてもお前のメンタルが安定しないと収入に支障がでるからな。…悪い事は言わない、今日は素直に引いとけ」

 

「…うん、分かったよ。ありがとね」

 

「礼なんてするな、これは出かけるリスクを軽く見た俺のヘマだ。自分が悪いときは舌も回らんのだよ。ストーカーはこっちで処理しとくからお前は帰ってガキの面倒でもみとけ」

 

 そう言い残し、俺はそのストーカーの処理方法を練り始めた。

 

 ▲

 

「で、アンタ、何の用だ」

 

 人通りの無い道で問題の人物に声をかける。

 

「初めまして、マネージャーさん。"うちの子"がいつもお世話になっております。星野アイの母です」

 

 正体はやはり最悪の予想が的中する形になったか。

 

 じゃあ何故現れたのかも大体察しが付く。

 

「で?今更母親面しようってか?いい感じに腐ってんねぇ」

 

「…アイには本当に悪い事をしたと思っています。ですがやっとこちらにも受け入れる余裕が出来ました。今まで与えられなかった分、存分に愛してあげないと…母親として気が済まないのです」

 

「余裕?寝言は寝て言えよ、腐れ女。余裕が出来たのはアイツの方だろ。お前は娘に集ろうとしてるだけの醜い乞食だ」

 

「…貴方達だって、娘を商品として使ってお金儲けをしてるじゃないですか」

 

「じゃあ何だ?お前がアイツを引き取ったらアイドル辞めさせるのか?出来ないよなぁ。ほら、どうだ、なんとかいってみろよ」

 

「黙れ!私は知ってるんだぞ!お前が生粋の金の亡者だってことを!どうせアイの事も程のいい金蔓ぐらいにしか思っていないんでしょ!」

 

そうだとも(・・・・・)。で、何か問題はあるか?」

 

「は?」

 

「少なくとも愛だ何だと一銭の価値にもならないものを使って全財産巻き上げようとしてるお前よりはよっぽどフェアな契約だぞ?」

 

「…そんな事、あの子が知ったらどう思うでしょうね」

 

「生憎だが、俺は詐欺師としては能がなくてね。アイツと俺の関係は最初からその前提の上で成り立っている。言ってしまえば利害が一致しただけのビジネスパートナーだ」

 

「なんなのよ!?アンタ、愛しもせずに子供の時間を金に換えるとか人の心がないのよ!」

 

「なんだ、アンタが人の心を語るのか。ウケるな」

 

「とにかく、あの子は私が引き取ります。貴方みたいな屑の所にはおいておけません。そして今度こそちゃんと愛を…」

 

 成る程、アイの愛情に関するバイアスはコイツの洗脳が原因か。やっぱ、会わせないで正解だったな。折角いい感じに能力が出力されるように年単位で調整してきたのに全て台無しにされるところだった。

 

「そいつは困る、アレにはまだ返して貰ってない金が沢山あってね。引き取ったら勿論、すぐに親の貴様に請求するが…払えるか?」

 

「…」

 

「やっぱり、俺と同族の屑だったな。改めて言っとくがアレは俺の資金源だ。今は焦げ付いているが上手くやれば失った金の数十倍規模の回収の見込みもある。横取りされるわけにはいかんのよ」

 

「オマエ、夜道には気をつけろよ…」

 

「はん、それを俺にいうか?何回襲われたと思っている。もう慣れたもんよ」

 

「じゃあな、我が同族よ、せいぜい頑張って体でも売るんだな」

 

 俺は完全勝利の感触を収めて帰路についた。

 

 ▲

 

 事務所に帰還すると、いきなり皆に出迎えられた。

 

「なんだぁ?お前ら、揃いも揃って」

 

「大丈夫だったか!」

 

「ああ、壱護。自分の不始末くらい自分でつけれる」

 

「まず、また助けてくれてありがとう、マネージャー。それで、相手はどんな人だったの?」

 

「秘密だ。お前相手に半端な嘘は通用しないからな、ただ最悪の事態だけは恐らく回避できたとだけいっておこう」

 

「…分かった、信じるね。じゃあ、吾郎?ルビー?少しママと一緒にあっちでお話しようか」

 

 そういうとアイは大人しく奥の部屋に引っ込んだ。

 

「で、相手は誰だったんだ」

 

 壱護が窓やドアを閉めて、そう切り出す。

 

「アイツの母親だ。アイを引き取るだなんだとふざけた事を言っていたよ」

 

「マジか、そりゃ言えないわ。で、どう対応した」

 

「ボロカスに言ってヘイトを俺に向けておいた。恐らく録音だとかもされて無いだろう。まぁ、されていたとしても問題の無い事しか言ってないがな」

 

「まじか、お前また危ない目に…」

 

「アイを完全に育て切ることで見込まれる収入に比べたらこれくらいの危険は安いもんよ。兎に角あの毒親をアイに接触させちゃ駄目だ。多分、一瞬で洗脳される」

 

「洗脳?」

 

「───アイの話し方にはヒステリー持ちの親を持つ子特有の特徴がある。考えるよりも先に場に即した言葉が出る癖だ」

 

「アレは理屈では意味不明な親の怒りを回避するための技術でな、多用すると自分の本当の意思が分からなくなる」

 

「で、親側だって馬鹿じゃない。語気を荒めれば子供に自分の言わせたい事を言わせる事が出来るなんてすぐに分かっちまう」

 

「そうして作られるのが親の思考を自分の思考だと勘違いする哀れなロボットだ。ここまでなら世の中にもごまんといるが、アイがああなってしまったのにはまだもう一段階別の理由がある」

 

「あのクズ親は自分で娘をロボットにしておいたくせに途中で捨てたのさ。そうして自分の思考を出力してくれる存在を失ったあの子は自分の事が分からなくなって自身の全ての言葉が嘘にしか思えなくなった」

 

「待てよ、ということは!」

 

「そうだ、あのクズ親がオーダーを下しアイに言葉を吐かせればそれはあの子にとっての真実になる。これは抗いようのない呪いのようなものだ」

 

「だからお前はあそこまで慎重に接触を拒んだのか」

 

「まぁな、今精神状態を改変されたら五年前に逆戻りだ。お前の夢も俺の計画もすべて終わる。俺はまだ一生一人で遊んで生きる夢を捨てちゃいない」

 

「ああ、とりあえずはドームだ。俺の夢もお前との契約も全てはそこに集約されている。そんなクズに足を掬われる訳にはいかないな」

 

「まぁ、クズ度合で俺が負けることはない。安心しておけ」

 

「今日一説得力のある言葉を言ったな」

 

 アイの家庭事情や幼少期のトラウマなど一ミリも興味はないが、仕事となれば話は別だ。

 

 自身の能力を全て使ってでも、アイの過去を解体しようとも。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。