ゴミクズ守銭奴マネージャーと核弾頭アイドル   作:海毛虫

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一勝一敗

 

 とある映画監督は語る───。

 

【五反田泰志監督、コメディ映画は初挑戦との事ですがその意気込みを教えて下さい】

 

「コメディだろうがなんだろうが映画は映画だ。俺はいつも通り撮るべきものを撮っただけだ」

 

【何でも今回の映画の主人公にはモデルとなった実在の人物がいるとのことですが】

 

「ああ、本来ならソイツをそのまま使いたかったがね。奴はとんだ大根役者だったのさ。まぁ性格的に演技に向いていないことは分かりきっていた事ではあった」

 

【…失礼な質問かもしれないのですが映画の主人公とモデル本人ではどっちが面白いのでしょうか】

 

「本人だ。悔しい事にこれは断言できる。一回、皆が演技に詰まっていた時に本人とその相方をセットで呼んだ事があってな。入ってきた時にたまたましていた言葉の応酬だけでもう抱腹絶倒ものだった」

 

【最後に一言お願いします】

 

「この映画をクズの心労に捧ぐ。以上だ」

 

 ▲

 

 ガキが生まれてから二年

 

 あのアイドルモドキは順調に世の非モテ男子どもから金を巻き上げていた。

 

 ラジオアシスタント、モデル、歌手、タレント、etc… 

 

 そう遂に我々も少しは仕事を選ぶ側になったのだ。

 

 こうなれば俺の得意分野だ。上に上がる為に不要な仕事を切り捨てて、必要なもののみ受けていく。

 

 そして有能な人間との関係の構築も怠らない。

 

 無論、有能とは役職が良い事だけを指すわけではないのだがな。

 

 むしろ肩書きだけの粗大ゴミなどごまんと溢れる世の中だ。信じられるのは己の眼だけである。

 

 今回の仕事もそんな俺の眼に適った人物が指揮を取っている。

 

 加えてその仕事は新規事業開拓の足掛かりになる可能性を秘めていた。

 

 そう、アイの女優としての第一歩である。

 

 これさえ成功すればアイドルとしての賞味期限が切れた後もそこそこ食っていけるかもしれない。

 

 そうすれば我が事務所も割と長期的な安泰が見込まれるという物だ。

 

 という訳で今日は慎重な会話を心掛けよう。

 

「ハロー、万年B級監督、その辛気臭い顔は相変わらずだな。だがまぁウチのアレを使ってくれる事には感謝しておこう」

 

 慎重な会話(当社比)

 

 まぁ、コイツをここまで雑に扱っていいことには理由がある。

 

「なんだクズスポンサーじゃないか!えっ、お前マネージャーもやってたのか。いや、まぁそれはいい。…礼はよせ、まだ使えると決まった訳じゃないし使ったとしてもちょい役だ」

 

 そう、俺の実家の会社が昔コイツのスポンサーになったことがあって、その伝手で顔見知りなのだ。

 

 それにコイツの撮る映画は割と好みではあるので、俺としては出資する事もやぶさかではない。

 

「いやいや、この現場に来られただけでもう目的は果たされている。ウチのアイドルモドキは戦略級の精神汚染兵器でね。取り敢えず場に出しとけば何人かは完膚なきまでに脳を焼かれる。そうすれば"次"が来る可能性が上がるというものさ」

 

「まじか、お前がそこまで言うって事はよっぽどだな。期待しておこう。だが逆にその精神汚染レベルの可愛い奴が長時間近くにいるお前は大丈夫なのか?うっかり手を出したりしたら破滅一直線だぞ」

 

「馬鹿か、俺があのタイプの女にどれだけ苦渋を舐めさせられてきたと思っている。どんだけ面や声や立ち振る舞いが良くとも女としては見られんわ」

 

「む?顔自体は好みではあるのか」

 

「そうじゃなきゃアイドルなんてやらせんだろう。どこの世界に自分が不細工だと思ってる奴にアイドルをやらせようとする奴がいるんだ」

 

「いや、それは正論なんだが…今してるのは嗜好の話だ。ほら一言に美人といっても中身で色々カテゴリーがあるだろう?そういう意味では当たってるのか?」

 

「残念ながら大外れもいいとこだ。俺の好みは玲瓏な清楚系でね。奴は掠りもしてないから安心してくれ」

 

「ほう、だとしたら役者の仕事に手を出させたのは失敗だったな。彼女はここで演技を覚える。いや、俺が覚えさせる。そうすると立ち振る舞いをお前の好みに寄せることも可能になるんじゃないか」

 

 …

 

「…寄せる程度でどうにかなるんだったら、俺は中学時代に童貞を失ってるよ」

 

「くっくっくっ、まぁそういう事にしておこう。初めてお前に論争で勝ったな」

 

「言っとけ。俺をコケにしたんだ。奴にしっかり演技を覚えさせないと承知しないからな」

 

「無論だとも、スポンサー、いや今はマネージャーか」

 

 クッソ。言い負かされた、超悔しい。

 

 ▲

 

 そして悲しい事に不快な事は続く。

 

 それは撮影が始まってすぐのことだった。

 

「私よ、私!六年前、あのライブハウスで私を見つめていた人!これは運命の再会だわ 」

 

 エキストラの一人が突然発情しながら俺に迫ってきたのだ。

 

「ぎゃぁぁぁ、だから誰だお前!おいB級監督!なんでエキストラにこんなんが混じってんだよ!」

 

「知らん、人件費が安かったからじゃね?おい!カメラ回せ!これは面白そうだ」

 

 B級監督は大爆笑しながらそうすっとぼけた。

 

「その無機質な琥珀色の瞳をもう一度私に向けて、ねえ向けてよ!」

 

 肩を凄い力で掴まれ、醜い顔が迫ってくる。

 

 いや、取り敢えず、思考を止めるな。

 

「六年前、六年前…あっ思い出した。お前、初ライブのB小町にファンを総取りされた勘違いブサイクアイドルか。アイドル衣装が似合ってなさすぎて妙に印象に残ってたわ」

 

「それは貴方がいないからよ!貴方がマネジメントしてくれれば私は今すぐにでもトップアイドルになれるわ。だから!」

 

 

 

「何をしてるのかな?私のマネージャーに」

 

 それは底冷えした声だった。

 

 一瞬で空間が掌握されていく、誰も彼も彼女から目が離せなくなる。

 

「あんた、あんただ!よくも私の男達を奪いやがって!お前さえいなければ、私は楽しくアイドルやれたのに!」

 

「そう?それはご愁傷様だね。心底どうでもいいけど。…いっけないマネージャーの口癖がうつっちゃってる」

 

「黙れぇ!この寄生虫が!」

 

「寄生虫、寄生虫かぁ。それで(・・・)?そんな事は互いにとっくに知ってるよ」

 

「な、」

 

「色々とやらかしちゃう私だけど、それでも彼は私に価値があると思っているから色々と面倒を見てくれるし、私はその期待に答えて皆を魅せることで彼に返礼する」

 

「アイドルだって仕事なんだよ?そこには競争があって、負けた人が消えていくのは他の仕事と同じ。そんな事も理解していない人が気安く彼にマネジメントしてなんて頼まないで欲しいな」

 

「私は、わたしは、ただー」

 

「あっ、でも彼の目が好きってところだけは同感だよ。燻んだ黄金の瞳。真ん中には底の見えないまん丸の穴が開いているんだ。皆は金に目が眩んでいるお前に相応しいって馬鹿にしてるけど、私はそれだけじゃないって分かってるの。教えてあげないけど」

 

 

 

 

「おい、あの子、お前の邪悪な思想が移ってるぞ」

 

「五月蝿い、B級監督。とっととこの女を締め出してくれ」

 

「反応薄っす!お前んとこのアイドルが凄い迫力出してたんだぞ」

 

「これくらい日常会話だからな。このシチュエーションだって別に初めてじゃないし」

 

「成る程、こりゃお前じゃないとマネージャー務まらないわ。ところでお前役者に興味はないか?人間的に面白いから良いものが撮れるかもしれないんだ」

 

「生憎、俺は肉体労働とかいう割に合わない事はしない主義でね。俺がそんなことするよりもウチのアイドルモドキで雑に皆を汚染した方が手っ取り早いんだ」

 

「じゃあ、共演ならどうだ」

 

「してやっても良いがアイのブランドイメージを守る為に事務所NGで多分99%カットになるぞ。それでも良いならどうぞご自由に」

 

「ままならんなぁ」

 

 なんとか先程の敗北の借りを返した俺は少し溜飲が下がったのだった。

 

 

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