ゴミクズ守銭奴マネージャーと核弾頭アイドル   作:海毛虫

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戒めの指輪

 

 ある"クズの"娘の日記───。

 

「パパが本当の意味でパパになった日を私達は生涯忘れる事はない」

 

「ドーム公演を控えたあの日、彼は"片腕"を代償に、ママを守った」

 

「それだけであれば彼はママにとっての英雄になっていただけだったかもしれない」

 

「でも本当に私達の心を打ったのはその後の死にかけていた彼がした人生で最初で最後の他者への思いやりだった」

 

「死にゆく自分を満足させる為に私達に呪いを残すのではなく、これからを生きる私達の為に未練と後悔を残して死のうとする事などとてもじゃないけど常人には出来る事ではない」

 

「彼曰く、クズに辞世の句は勿体ない、尺の無駄だ、だったっけ」

 

「パパの身内の人でパパの事を心の底からクズだと思っている人は一人として居ないというのに」

 

P.S. ママはそんなパパを介護するという体(9割本心)で彼に近づいて…うん、罪悪感に自分の欲望混ぜちゃうところが絶妙にクズだと思う。

 

 ▲

 

 アイのドーム公演まで残り二週間を切ったある日

 

 二人の男がバーで静かに飲んでいた。

 

「お前には本当に感謝している。お陰で俺は夢の実現まであと一歩の所までやってきた。勿論、ケチをつける気など一切ない。だが、だが…」

 

「何だ、ケチをつける気がないなら"だが"というか言葉など続く筈が無いだろう。まぁ今なら酒の席の戯言として流す事も出来る。言ってみろよ」

 

「お前は本当にあの子に愛着はないのか。八年間も一緒に暮らし、仕事も出産も子育ても共にしたあの子に」

 

「無い。初めて会ったあの日から俺とアイはビジネス上の関係だ。アイドルという職業や奴がやらかした事を鑑みればお前が言ったように見える事もあるかもしれないが当事者間の認識は絶対に変わらない」

 

「そうか…。じゃあやはりあの契約は」

 

「当たり前だろう。アイが妊娠した時に交わしたあの契約が無ければ俺は婚姻届に名前を書いちゃいない。約束は守って貰うぞ」

 

「ああ、約束通り俺が所有するウチの会社の株全てをお前に譲渡し、お前はうちの事務所の顧問という名ばかりの職につく。これでお前はウチの会社が潰れない限りは何もせずとも食べていける」

 

「ああ、そしてちょくちょく貯めていた資産も漸く金利だけで生活出来る領域まで到達しようとしていてな。それにアイの借金だって速やかに帰ってくるだろう。これで俺は上がりだ」

 

「そうか…じゃあお前と一緒に仕事できるのも後二週間弱か…寂しくなるな」

 

「何だ。気持ち悪いこと言うなよ」

 

「ふっ、なんとでも言え。俺はお前と違って人の心があるからな」

 

「じゃあ、俺もそんな人の心があるお前が喜びそうな美談を一つだけ話そう。これは他言無用だぞ?」

 

「分かった」

 

「実はな、俺には最初から責任をとる用意というか覚悟があったんだ。特にアイの送迎担当になって以降はもし奴が万年地下アイドルのまま賞味期限が切れたら…まぁ、一生面倒を見るつもりではあった」

 

「なっ!?」

 

「当たり前だ。他のメンバーならいざ知らず、仕事人としてあのレベルの才能を開花させられない失態など許される事ではないからな。それにアイドルなんてものは少女の人生の一番大事な期間を焚べて金に変える行為だ。相応しい金額になれば問題ないが失敗したらまぁ、責任問題だ」

 

「じゃあなにか?アイは頑張れば頑張る程お前から遠ざかっていたということか」

 

「結果的にはそういう形になるな。だからこの話は今の今まで秘密だったのさ。だが最後の最後、お前くらいにならネタバラシしても良いだろう」

 

「ということはアイの人生はお前に出会った地点でどう転んでも安泰だったのか。凄まじい男運だ」

 

「全くだ。だがまあこれで本当に思い残す事はない。二週間後の今、俺はやっと七年前に買っておいた指輪を処分できる」

 

 あの見るだけで悶絶する指輪の事を思い出す。

 

 それは俺の机の上から二段目の鍵付きの棚に隠されていて、見つかったら墓場一直線の代物だ。因みに鍵は財布の布地の中に埋め込んである。

 

「指輪?七年前?…自分への戒めという事か。やっぱ色々凄いわ、お前」

 

「キモいとでもキショいとでもなんとでも言え。俺がヘマして、アイを自身に依存させてしまった事は一年目のあの日に分かりきっていた事だったからな。これ以上ミスしたら墓場行きだぞ、と自分を追い詰めていたんだ」

 

「…いや、でもやっぱお前、おかしいぞ。お前にしては"一人の人間に執着し過ぎ"だ。幾ら金の為になる事とはいえ、これが並の才人だったらお前はここまではしていないだろう」

 

「それが星野アイの"才能"なんだ。完璧で究極のアイドルになれる。思わずそれを活かせない方が無能だと思わせてしまう程の才能だ。そういう意味では俺は奴に初めて出会った地点から何処か虜にされていたんだろうな」

 

「ふっ、じゃあお前はアイのファン一号だったってことか」

 

「悲しい事にな。だが俺はファンとしてもマネージャーとしてもやる事を完遂した、八年かかっちまったが。もうそろそろ奴の魅了から解けて良い頃だろう」

 

「成る程、じゃあしょうがないな。契約としても精神としても完璧に理屈が通っている。俺には止める術が見当たらない」

 

「当たり前だ。それしか俺を俺たらしめる物はないからな。契約、理屈で制御した精神、そして金、どこまでいっても俺の中にはそれしかない」

 

「俺としてはアイに頑張ってその中に付け入って欲しかったがまぁ時間切れかぁ」

 

「ああ、俺の勝ちだ。あと、この事は後にも先にも俺とアイツとの最初に立ち会った壱護、お前以外に話す事はない。他の奴に訊かれても知らぬ存ぜぬを突き通すだろうよ」

 

 こうして俺は親友と話す事で自身の心の最終整理を終えた。

 

 長かったような短かったようなそんな八年間だったな。

 

 ▲

 

 時間は巡り、その日はやって来た。

 

 空は気持ち悪い程晴れている。

 

 アイの調子はいい意味でいつも通り、特段緊張している様子もない。

 

 厄介ファンや俺のストーカーも今日に限っては自身の全てのコネを使って近辺から排除している。

 

 カミキヒカル、アイの母親の行動も念の為探偵をつけて監視していたので不安要素はない筈である。

 

 ただ一つ気掛かりなのは、アイの父親がどれだけ探しても判らない事であった。

 

 これに関してはそもそも候補が多過ぎる上に、相手が認知すらしていない可能性が高いので探す事はほぼ不可能に近かったのだ。

 

「マネージャー、行こう?」

 

 ふと、手が差し伸べられる。

 

 …しまった少し感傷的になっていたのがバレてしまったか?

 

「がはは、今日でお前ら一家とも手切れだからなぁ。一回ぐらいは握ってやろう」

 

 どうにも、今日は俺が俺らしくない。何というか頭の中で物凄く嫌な感じがするのだ。

 

 俺がコイツらとの別れを嫌がっている?

 

 いや、この前に壱護と飲みにいったときに言った事が全てだ。

 

 どれだけ感傷的になってもそれは間違える筈がない。

 

 だとすると…これは全てが台無しにされる予感だ。

 

 

 ───玄関の扉が近づいてくる。

 

 悪寒が止まらない

 

 目眩がする

 

 これ以上進んじゃダメだと身体の全細胞が警鐘を鳴らす

 

 だが、止まる理由がない、理屈が無い

 

 俺は今までそうして生きて来ただろう?

 

 今更、感情に頼るのか

 

 この八年間通して来たものが全て無意味になるぞ

 

 でも、それでも俺は…

 

 

 ─────

 

 ───

 

 ─

 

 

 

 

 トン、とアイを家の内側に突き飛ばす。

 

 次の瞬間、俺は左腕の感覚を失っていた。

 

「がぁぁぁぁ!ここ日本だぞ!何で狙撃されなきゃならんのだ!」

 

 なんか、左肩が焼けるように熱い。

 

「マネージャー、嘘、だよね」

 

 アイがふらふらとこっちに近づいてくる。

 

「いいから奥に引っ込め!アイドルモドキ!そして俺の為に救急車とポリをよべ!」

 

 するとそれを見ていたのだろうか?吾郎が血相を変えて言葉を捲し立て始める

 

「もう呼んだ!俺に傷を診せろ!」

 

「黙れ!クソガキに見せて何になる。お前らこんなもん"見るな"!そして俺から"離れろ"」

 

「いいから!マネージャー静かにして!」

 

「だぁぁぁ、俺は死ぬ時は一人って決めてたんだよ。はぁ、はぁ、今際の際にお前らの顔なんぞ見たくも無いね」

 

「そして!絶対に俺の為に復讐するとかいう馬鹿な事はするな!殺るなら自分がスッキリする為にしろ。はぁ、はぁ、他人の為の、復讐、なんぞ、一銭の価値にもならん。だって、もう居ないんだからな」

 

「後、俺の…机の上から二段目の鍵付きの棚は…はぁ、絶対に中身を見ずに捨てろ。…赤ちゃんプレイのエロ本が入っているんだ」

 

「ふざけないで!絶対に見てやるんだから、そして皆んなで貴方を笑うの、だから!」

 

「最後の頼みくらい聴けや、クズアイドル。俺の名誉くらい守れ!」

 

「お願い、お願いよ、まだお金返してないよ?だから!」

 

 俺はただ、アイに視線を向ける。それだけで伝わるだろう

 

「ッ!!嫌だ!嫌だ!嘘だと言って!最後に向けられるのがその無関心の目だなんて」

 

 そうだ、こんなクズなんて嫌ってしまえ、そして忘れるんだ。自分の為に生きろ、俺は自分がもう助からなくなるまではそうして生きてきた。

 

 俺って自分の命が助からなくなるまで心の底から他人に気遣いする事が出来ないんだ…ははっ、ウケるな

 

 あー、クソつまんない人生だった

 

 金は稼いだけど使えなかったし

 

 結局、童貞だったし

 

 そのくせ、ガキのお守りはやらされたし

 

 あっ、離婚届結局書けなかったな

 

 じゃあアイツ未亡人アイドルか、クソワロタ

 

 てか、思ったより未練タラタラだな、俺

 

 まぁクズにはお似合いの末路だ

 

 …この際コイツでもいいから胸揉んどこっかな

 

 …

 

 やめとくか、俺の変な無念を継がせちゃだめだ

 

 昔とっちめたカミキの理屈を借りるとするなら命の重さってやつか

 

 あんなフェチ、アイツぐらいしか居ないだろ

 

 コイツらに背負わせる訳にはいかんな

 

 む?

 

 抱きしめて?愛してるって言って?

 

 …

 

「嫌だね」

 

 俺は最後の最後に自分に対して嘘をついた

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 ふと、目が覚めた。

 

 真っ白な天井、薬の匂い、自分の身体に繋がる沢山の管。

 

 はて、俺は何をしていたのだろう。

 

 身体を起こそうとすると左腕の感覚がない

 

 軽いパニック状態の中、脳がだんだん起動していき状況を思い出していく。

 

 右手の状態を確認しようと腕を上げると薬指に見覚えのある指輪がついていた。

 

 …

 

 死にたい、いや死ねなかったからこの様か

 

 あー、もう、シラネ

 

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