口調は読み直して頑張ってるうちに分からなくなったので許してください
理論的なのは適当です
広い街。一人と一柱などかき消されてしまいそうな喧騒の中。呆然と上条当麻は立ち尽くしていた。
見知った見知らぬ世界。
手元には役に立たない財布。
やがて自宅に帰ってくるだろうインデックス。
明らかに繋がらなさそうなスマホ。
さてどうしよう。正直なにから手をつけていいのか皆目見当もつかない。
「あのー、すみません、ここってなんていう場所ですかね?」
のでとりあえず聞き込みである。英語も出来ないのにイギリスからロシアまでたどり着いた上条当麻、こんな所で臆することはない。
「ルグニカ王国だろう、大丈夫かいアンタ」
「うぉああぁぁッ!! やっぱりかぁああああッ!!!」
突然叫び出したツンツン頭に老婆は気味悪そうに去っていったが、好奇の目を向けられようが今のこいつには関係無かった。
「なぜッ!? ホアイ!? 俺の右手ホアイッ!?!?」
「Whyだ馬鹿、叫ぶな耳にくる。 なんだ、何か知っているのか」
「ルグニカって国の名前も! 街のこの噴水も! リゼロと同じなんだよ!! あぁクソ幻覚かっ!? それともマジで世界が作られてんのか!?」
だとしたらなんのために、誰がこんな事を。
捲し立てる上条に、オティヌスは顎に手を当て。
「リゼロ、とは先程の作品の略称でいいのか?」
「あ、あぁ」
「なるほどな。貴様、軽く、軽くでいい。リゼロとやらのあらすじを聞かせろ」
戦争の神様にライトノベルのあらすじを話す日が来るなんて……
人生何があるかわかったもんじゃない。
人に聞かれて何か起こったら怖いので、念の為路地裏に入って歩きながら話し始める。
「……とまあ、あらすじはこんな感じか」
適当な段差に腰掛けて、なるべく短く分かりやすくを心がけて上条は説明したが、果たしてちゃんと伝わったのかは不明だ。この神は実力の伴った傲岸不遜の塊なので心配は要らないだろうが。
「魔法と言ったな、まあファンタジーだ不思議では無い、が……魔力じゃないなこれは」
実際要らなさそうだった。
「えっ分かるのか? あーっと、確かマナってのがこの世界における魔力の名称で、マナを排出?するゲートってのがあって……」
「若干疑問形なのはなんなんだ」
アニメは二期まで見ているが原作は三章の途中のまでしか読んでいないし、アニメはアニメで実は色々なあれやそれやで深く見れていない。
今ここで正解を見れないのだから合っているか不安にもなるだろう。
「まあいい。 にしても近いが違うな、魔力ではないせいで読みづらい」
オティヌスが居心地悪そうに足を組みなおした。
「なぁ、オティヌス。幻覚か、作られた空間に連れてこられたか……どっちだと思う?」
魔力に似たものを感じるというオティヌスの言葉から、魔術サイドの仕業だと考えたのだろう。
与えられた二択に、少女は間を開けず答えた。
「連れてこられた、だろうな」
「それってかなりヤバいんじゃ……」
魔神、という単語が頭に浮かぶ。上条は敢えて『作られた空間に連れてこられた』と言った。自分の居た世界がまた作り替えられたかもしれない可能性を、無意識に外したのだろう。
「これは憶測で、私自身そんなことはありえないと突っぱねたいのだが」
「? なんだよ」
いつになく勿体ぶる理解者に、不穏な空気を感じる上条。
「この異世界は元から存在していたんじゃないか」
「??????」
突拍子も無い話に、頭がこんがらがる。
「位相とかいう次元ではなく、本当に異世界が存在していた。私も感知出来ないレベルで、根本から違う世界がな」
「ちょ、ちょっと待て。 つまりなんだ、俺二次元にきちゃったってことか!?」
青髪辺りがハンカチ噛みながら血涙を流しそうだ。もっともあいつは女の子とのイチャラブ(規制音)パラダイスを望みそうだが。
「違うと断言できないのが悔しいが、その線は薄いだろうな」
「そっか……」
「ほう、残念そうだな」
冷たい、すごく冷たい。上条だってどこに出しても恥ずかしい立派な思春期男子である。二次元に夢見て何が悪い。
「か、完全に違うんだとしたらなんで来れたんだ」
とりあえず話を変えてみる。
「今はそこを考えても仕方ないだろうよ。言えるとするなら、いくら力を持っていたとしてここまで異なる世界に連れてくるのは労力がいるはずだ、それなりのな」
「……つまり、相応の目的があるってことか」
「あぁ、しかもお前の右手はそれに関して厄介な代物だしな。ところで人間。リゼロという作品にも主人公がいるんだろう?」
言われて気づく。状況の把握を優先したが、ここが本当に上条の知るリゼロの世界ならば主人公の菜月昴が居るはずだ。
「まずい」
そして、ここが本当にリゼロの世界なら、主人公が歩む道は__
正しいのかは分からない。それを止めることが最善なのか。
作品の読者だった時は、物語として意味があるものだと思えたかもしれない。
それでも上条は走る、死の冷たさは知っているから。
「ックソ! 広いな王都!」
「焦るな、貴様の右手が通用するかも分からないんだぞ!」
ありがたい助言に、走りながらチラリと右手を見た。
その通りだ。前提が、根本が、ルールが違う。
だがそれがどうした。
「……盗品蔵……えぇと、一番最初は確かそこで」
細かい地理はさすがに分からない。闇雲に探してもこの広い街で一人の人間を見つけるのは難しいだろう。
そもそもだ、今が最初の時系列であるという確信も無い。
「日付なんか聞いても分かんないだろうしな」
また路地裏へ入る。確か盗品蔵は通りを一本外れた貧困街の方にあったはずだ。
影の落ちる路地は、昼間だというのに暗い。
「い、嫌な予感がしてきた……」
やっぱり戻って人に聞いてみようか、と進んできた道を引き返そうとしてちょうど向こうから歩いてきた人影に思い切り突っ込んだ。
「ったぁ!?」
「おい、いてぇじゃねぇか」
「ごめ__」
謝罪の言葉を口にしようとして、相手の顔を見上げた上条はそこで口を開いたまま固まった。
ぶつかった大男とその背後の二人は、逃がさないと言うように上条を取り囲む。
「どうしてくれんだ、なぁ」
「ブルッちまったか? 出すもん出せば痛い目は見ないぜ」
薄笑いを浮かべる男達に、愛想笑いすら出てこない。
「よ、よりによって」
「あ?」
「よりによって俺が鉢合わせんのかよぉおおおおおぉおお!!!」
絶叫したツンツン頭に呆気に取られた三人。その隙に横を素早くすり抜けて路地の出口へと走る。
普段からスキルアウトと楽しい楽しい追いかけっこしている男を舐めてはいけない。
「な!? 待てやコラァ!!」
「誰が待つか!!」
三人相手に逃げの一手を打たずどうする。異能を持たないチンピラなんかは特に。
「あいつらが居たってことは」
一話だと仮定して菜月昴とあのチンピラ共がかち合った後なら、もうエミリアとは合流しているはずだ。
しかし上条がこの世界に来てからそう時間は経ってないとはいえ、噴水の前に彼がいなかったことを考えると菜月昴と同じタイミングで飛ばされた訳では無いのだが。
路地から無事脱出した上条は後ろを確認してから、表通りを見渡した。
「最初の噴水を中心に探した方がいいんじゃないか?」
「有りだと思うけど、アニメに沿って動いて良いものか……」
最低限知識はある、あるが、アニメと原作どちらを優先すべきなのか判断がつかない。話の大筋は変わらないが、結構違った、はずだ。
「せめてあのリンガ屋のおっちゃんに会いたい……」
数度セーブポイントになっているのもあり一方的に馴染み深いおっちゃんを思い浮かべた。
常に移動しているであろうチンピラよりも店は指標になるだろう、と上条は考える。
実際は命の危険がない見知ったものに巡り会いたいだけなのだが。
「歩いてるだけで日が暮れてきた」
オレンジがかった陽の光が眩しい。
立ち並ぶ露商店は数え切れない。流れていく人を目で追いながら、上条は流石に肩を落としそうになる。
ドーナツみたいな絵が描かれた看板の前を通り過ぎる。お腹が減ったなぁ、と寂しく歩いていた。
「っ、と?」
ふらり、と体が傾きかけて右足を前に出した。地面を踏みつけて倒れるのを阻止する。
「もうバテたか」
「……なんだ?」
否定しようとして上条は首を傾げた。目眩がした訳では無い。地面に向かって体が動いた、いや、感覚としては世界が動いたの方が正しい気がする。
手を開いて握る。おかしな感覚は無かった。
「こんな状況じゃそりゃ疲れるか」
口に出して自分を納得させておく。
止まるなら端に寄れ、という通行人の視線に縮こまりながら露商店の間にある日陰に挟まる。
落ち着こう。突飛な現実に振り回されるのはいつもだが、それにしたってこれはベクトルが違う。
どこぞの白い怪物が脳内を通り過ぎて行ったが無視しよう。
「す、すげぇ疲れた」
しゃがみ込むと一気に疲労が襲ってきて、上条は渋い声で唸った。
果たしてこの世界に菜月昴はいるのだろうか。
__いてもらわなきゃ困る。
例えば、例えばだ、『上条当麻』が『菜月昴』として連れてこられたとしたら。
暫定元凶嫉妬の魔女の性質上そんなことはありえないのだが、どうしたってそんな考えが浮かんでしまう。
そもそもだ、連れてきたのが嫉妬の魔女ならばなぜ上条は『死に戻り』を把握しているのか。
彼女はそれを許すような存在では無い。
では何かの間違いで対象が書き換わっているとしたら?
「……やめよう」
上条は頭を振って思考を止めた。彼らしくもない、弱々しい声だった。
あれ以上続けたら、上条はたどり着いてしまう。元の世界に帰れないかもしれない、という答えに。
禁書目録や美琴、それだけじゃない。あの学生寮に、学校に、あの世界に戻れなくなるのは嫌だった。
「でもなんの手がかりも__」
言葉が途切れる。人混みの中に『桃色』を見た。
短く切り揃えた髪、メイド服らしき衣装。
跳ねるように立ち上がり、その背中を掴もうと駆け出した。
「待ってくれ! __ええっと、メイド! メイドさん! 素敵な桃髪ショートのメイドさん!! 頼むちょっと止まって!! え、あのちょっと、気づいてるよな!?」
「往来でそんな風に声をかけられて止まる人は居ないわ」
ため息をついて、こちらを振り返る桃髪のメイド_ラム。
「あ、ありがとう」
「用件を言いなさい」
刺々しい物言いで睨まれた、早くしろと目が言っている。恐らくエミリアを探しているのだろうと、上条は薄ぼんやりと思い出す。確かエミリアはラムとはぐれて一人街をさまよっていた、はずだ。
確定的ではないが二人が同じタイミングで別々に王都へ訪れている、よりは可能性が高い。
だから、上条は小さく息を吸ってこう言った。
「人を、探しているんじゃないか」
表情の凄みが増した。果てしなくおっかない。
「すみません睨まないで別に俺がなにかした訳じゃないから!」
「……探していたとしたら?」
疑われている。
全ての動きを捉えられる様な緊張感。ラムはただ立っているだけなのにだ。
ごくり、と唾を飲み込む。
「たまたまだよ。ちょっと前アンタは人と歩いてた、それが今は一緒に居ない、んでもって急いでる様子ときたらな」
「……」
無言。真偽を確かめるごとく、ラムは上条の目を、口を見つめている。
「理由はもう一つ、これが本命。アンタと歩いてた子をさっき見かけたんだけど、物を盗られたみたいでさ」
フェルトが盗みを失敗したルートは無かった。だから、何度目であろうと基本盗品蔵にいけば合流できる。
もちろん、盗られた現場なんか見ていない。結果的にそうなっていても、騙している事に変わりは無いだろう。
上条はそれでも、ラムの信用を得るべく話続ける。
「遠目だったし盗られたものは分からねぇけどかなり大切そうだったからさ、すぐ見失っちゃったんだけど、そこで今度はア」
「どうして」
遮られて、背筋がヒヤリとする。嘘がバレたらシャレにならない。
「なにが?」
焦る上条を他所に、ラムは疑いに疑問の混ざった眼差しで。
「どうして、わざわざラムに伝えにきたの 」
街ですれ違った程度の相手だ、無視しても良かっただろう。街でのスリ騒ぎは日常茶飯事、なのに、何故。ただ疑問だった。
「放っておけないだろ」
即答。これは、嘘じゃない。
「……損な性格ね」
ラムは呆れた、とばかりに視線を斜め下に向けて息をついた。
「それで、この有様はどう説明をつけるのかしら。ラムはとても気になるわ」
大真面目な顔で、アンタの連れを探そうなんてかっこよくキメたのが間違いだったんだろうか。
そう言えば盗品蔵の場所なんて分かりゃしない。
意気揚々と歩き出してから二十分。オロオロする上条にイライラしたラムさんは足をタンッと鳴らして威嚇した。
「怖い怖いです怖いんだけど!」
なんだかとても久しぶりな気がする上条式三段活用が発動。が、ラムには効果無いようだ、舌打ちされてしまった。
「盗品蔵、ね」
「分かるか?」
「知らないわ、ラムも頻繁に王都へ来ている訳じゃないもの」
日が少し傾き始めた。早いとこ辿り着かなければ、間に合わなくなる。
「まず貧民街がどこなんだ」
ドーナツ屋の看板の前を通り過ぎる。脳が糖分を欲しているのか、いやに頭に残った。そこまで甘いものは好きじゃ無いのだが。
「よそ見なんていい度胸してるわね」
「違っ……」
首を横に振りながら否定しようとした瞬間、お腹が鳴った。フードの中から小さい笑い声。おのれオティヌス、静かだから寝てると思ったのに。
「欲求に素直なのね、尊敬するわ」
皮肉だ、紛うことなき皮肉だ。だって目が全然笑ってない。
「な、何も食べてないんですよ上条さんは、笑ってとは言わないから流してくれよ」
「ハッ、尊敬するわ」
「それは嘲笑じゃない!?」
項垂れつつ数歩先を歩く上条。ラムは数秒迷ったあと、その肩を叩いた。
「な__えっ」
振り返った上条の胸元に、小さい紙袋を押し付ける。
「焼き菓子よ、ありがたく受け取りなさい」
「いいの?」
「駄目なら渡さないわ」
それもそうか、と頷く。紙袋を開けると、ほんのりバターっぽい香りが広がる。
取り出した焼き菓子はマドレーヌみたいな感じの見た目をしていた。空腹だったからか、中々美味しい。
「……人間」
「あ、食べるか?」
「頂こう」
ちぎってオティヌスに渡した。ラムがなにやら怪訝な面持ちでこちらを見ているが、気づかないフリをする。
「少し腹を満たすだけでもなんか元気出てくる、つか美味いな……味ってやっぱ大事なんだな……」
普段の食生活を思い返す。一応中世的なこの世界より発達した化学都市に住んでいるのに、どうしてなのだろうか。
「なに遠い目をしているの」
「すみません……」
唐突に謝罪する上条に首を傾げるラム。と、そんなラムの数メートル後ろを歩く男を見て上条は、あ、と声を上げた。
燃えるような赤い髪、深く輝く青い双眸。
剣聖ラインハルト・ヴァン・アストレア。
「どうかしたの?」
「剣聖……確かアイツって王国の騎士じゃなかったか? 貧民街の場所も把握してるかもしれねぇ、ちょっと聞いてくる!」
「そう、任せたわ」
腕を組みながら顎で使われ、上条は颯爽とラインハルトの方へ走り寄る。近づくと、ラインハルトはかなり背が高いことに気づいた。青髪よりデカそうだ。
「あ、あの〜、ラインハルトさん?」
長身イケメン、怖い。恐る恐る話しかけると思ったより小声になってしまった。
くるり、とラインハルトがこちらを向いた。見下ろされると圧があるからやめて欲しいが、身長差ばかりは仕方ない。
すみません、ともう一度声をかけると、ラインハルトはニコリと人当たりの良い笑みを浮かべた。
「やぁ、何か用かな?」
「あ、あぁ……この辺で黒髪黒目、ついでにめちゃくちゃ目付きが悪い男を見なかったか?」
「よく似た人物にさっき会った所だよ、今から行けばまだ会えるかもしれない」
ラインハルトは来た道を指さして、それから上条を見た。彼が、あの少年の探し人なのだろうか、銀髪でもローブでも無いが、と考えていると。
「いや、そっちは会ったって聞ければ充分なんだ。 俺が行きたいのは貧民街なんだけど、分かるか?」
「貧民街……それなら__」
ラインハルトの説明を頼りに、二人は貧民街の入り口に立っていた。
もう日が暮れ始めている。
上条は、少し迷っていた。ラインハルトの発言からして、そういうことなのだろう。
もしかしたら行かない方がいいかもしれないとまで思う。
「行くわよ」
「あっ、うん」
ラムに促され、貧民街へと踏み込む。
空気が、変わった。学園都市の治安も中々悪いがこれはそれとは違う、けど同じくらい嫌な空気だ。ここの住人達の諦めと無気力感が目で見えるように漂っている。
不意に、ラムが口を開いた。
「ところで、盗品蔵の場所は聞いたの?」
「あ」
間抜けな顔で声を上げたら、思い切り頭を叩かれた。