マリナ・イスマイールが東方不敗の弟子になりました   作:ソロモンは燃えている

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マリナ皇女の力を見せつけられた、各陣営の話です。


影響を受けた人々

 

 

 

 スメラギ・李・ノリエガの場合

 

 

 プトレマイオスのブリッジは、ガンダムから送られてくるアザディスタンの映像が流れ始めてから静寂が続いている。

 映像を見つめる戦術予報士のスメラギの顔には表情というものがなかった。

 周りのブリッジクルーも、普段とは違う彼女の様子から異様な緊張感を漂わせていた。

 

 

 さっきからずっと真剣な表情で映像を見続けている。

 さすがスメラギさんだ。

 あんなデタラメな戦場なのに、きっと戦術プランを作るための分析を続けているんだな。

 

 ヴェーダの戦況予測はすでに終わっている。

 死者が出ないまま3大国の連合軍は敗北するだろう。

 

 そんな中、ようやくスメラギが動く。

 彼女は、一つ深いため息を漏らした。

 

「少し、休むわ。

 お酒、控えなきゃいけないわね」

 

 そう言い残し、ブリッジを後にする。

 

 その後姿を見送りながら、ブリッジクルー達は戦慄していた。

 あのスメラギさんが本気になった。

 いつも酒の匂いを漂わせているような人が酒を控えると言うなんて。

 確かにあんな圧倒的な力の持ち主がいれば、これまでの戦術なんて役に立たない。

 どんな策を講じても、その力で食い破られてしまうだろう。

 だけど、俺たちにはスメラギさんがいる。

 マリナ皇女の唯一の失敗は、スメラギさんを本気にさせたことだな。

 本気になったスメラギさんの戦術プランは、いったいどれ程の冴えを見せるのだろうか?

 今後、彼女が出すであろう戦術プランへの期待に胸を高鳴らせていた。

 

 

 自室に戻ったスメラギは、ベッドに飛び込んだ。

 

「お酒の力って怖いのね。

 まさか、あんな幻覚まで見るなんて。

 私って、けっこうお酒に強いと思っていたんだけどなぁ」

 

 マリナ皇女が小さい自分の分身をたくさん生み出し、それぞれが各地でモビルスーツ部隊を蹂躙するなんて。

 しかも、死者はなし?

 あり得ないでしょ!

 こんな荒唐無稽な幻覚を見るなんて、完全に飲み過ぎだわ。

 

 そう、スメラギはマリナ皇女の戦力分析なんてしていなかった。

 あまりのデタラメ具合に呆然として、酒の飲み過ぎによる幻覚だと判断していただけだった。

 彼女は、ブリッジクルー達の戦術プランに対するハードルが爆上がりしている事をまだ知らない。

 飲酒量が減り、肝臓に少しだけ優しくなったのと引き換えに胃にダメージが入る生活へと変わるのだった。

 

 

 

 グラハム・エーカーの場合

 

 

 グラハムは、アザディスタンから帰還後オーバーフラッグス隊の本部にいた。

 オーバーフラッグス隊とは、ガンダムに対抗するために作られたユニオンのエース部隊である。

 その名の通り、ユニオン制式機フラッグを超えるカスタム機を乗機とするエースを集めた対ガンダム部隊だ。

 グラハムは、その部隊の隊長を務めている。

 

 そして、本部には彼以外にも親友にして信頼する技術者であるビリー・カタギリとフラッグの開発者レイフ・エイフマン教授がいた。

 彼らが手掛けた新しい機体のデータを見せてもらっていたのだ。

 

「オーバーフラッグ、確かにいい機体だ。

 だが、これでは足りない」

 

「無茶を言うな、グラハム。

 現状でこれ以上の強化は不可能なのは分かっているだろう?」

 

「分かっている。

 足りないのは、俺自身の力だ」

 

「どういうことだ?」

 

「パイロットの安全を無視すれば、更なる強化が可能だろう?

 なら、俺がそれに耐えられる強さを手にするしかない!」

 

「なっ、それこそ無茶だ!

 そんな事をすれば死んでしまう。

 どうして、そこまで」

 

「ビリー、お前も見たはずだ。

 アザディスタンでマリナ皇女が見せた力を」

 

「ああ、とても現実とは思えなかったけどね」

 

「ガンダムのパイロットが彼女の師に弟子入りした。

 つまり、直ぐにとは言わないがあの力をガンダムが手にすると言うことだ。

 対等に戦うには、俺自身も強くならなければいけない」

 

 ビリー・カタギリは、グラハムの真剣な表情を見て悟った。

 これは、説得は無理だと。

 むしろ、一人で突っ走らせる方が危険だ。

 

「分かったよ、強くなるための伝手を紹介しよう」

 

「本当か!?」

 

「僕の叔父、ジョー・カタギリに会うといい。

 事情は話しておくよ」

 

「むっ、ホーマー・カタギリではないのか?」

 

「うん、ジョー叔父さんはユニオン忍法の道場を経営している一族の出身なんだ」

 

「ユニオン忍法か、聞いたことはあるがあれは健康のためのスポーツのようなものではないのか?」

 

「表向きはね。

 でも、本当の顔は忍術を会得し駆使する諜報技術者集団『忍者』を育成する組織だ」

 

 この世界の日本は、経済特区としてユニオンの傘下にある。

 そのため、ユニオンとの繋がりは強く、忍者の技術指導や文化交流の形でユニオンに取り入れられ、その後独自の発展を遂げたとしても何ら不思議ではない。

 件のジョー・カタギリも日本から渡ってきた忍術を会得した者の流れを汲む家系の出身だった。

 彼は、ニンジャ・マスターの称号を持つ、ユニオン忍法の達人の顔も持っていた。

 

「そんな話など聞いたこともないが?」

 

「裏の組織だからね。

 修行も命懸けだ。

 だから、出来れば教えたくなかったんだ」

 

 本来ならば教えることなどなかっただろう。

 しかし、流派東方不敗の力を知ってしまった。

 あの力に立ち向かおうとする親友を、ビリーは放ってはおくことが出来なかった。

 

「そうか、ガンダムに勝つためなら命懸けの修行も厭わない。

 感謝するぞ」

 

 こうして、グラハムはユニオン流忍術を会得するために修行し、後にブシドー仮面と呼ばれるようになる。

 

「ふむ、ユニオン忍法を本当に会得できたならば、それに相応しい機体を用意しなければならないな」

 

 二人の会話を黙って聞いていたエイフマン教授がここで口を出した。

 

「エイフマン教授?」

 

「ビリー君、君もユニオン忍法の真の力は知っているのだろう?」

 

「まさか、教授も?」

 

「偶然、目にする機会があってね。

 かの忍法の使い手が乗るなら、確かに今のオーバーフラッグでは足りない。

 グラハム君、君が修行に耐えられたなら、必ず相応しい機体を作っておくと約束しよう」

 

「エイフマン教授、感謝します!」

 

 ユニオンの対ガンダム部隊は、新たな道へと進み始めた。

 

 

 

 パトリック・コーラサワーの場合

 

 

 アザディスタンの映像を見ながら、AEUの戦術予報士カティ・マネキン大佐は荒ぶっていた。

 

「何だ、あれは!

 実体のある分身?

 エネルギー弾を打ち出したり、身に纏ったりしてモビルスーツを圧倒する?

 何処のスーパーヒーローだ!

 いや、皇女だからスーパーヒロインか?

 まてまて、そんな問題じゃない。

 こんなのが現実の戦場で猛威を振るうなら、既存の戦術など何の意味も持たなくなるではないか!」

 

 カティは、今まで積み上げてきた知識と経験が崩れ去っていく感覚に絶望すら感じていた。

 頭の中で幾つもの戦術プランを組み立てていくが、どれも成功するイメージが湧かない。

 あんな非常識な存在に通常の戦力で立ち向かえと言う方が無茶なのだ。

 それでも、やらないわけにはいかない。

 マリナ皇女だけならアザディスタンに手を出さなければいい。

 彼女の性格なら、こちらから手を出さなければ世界に打って出るような事もないだろうから。

 しかし、ガンダムのパイロットが彼女の師と言う初老の男性に弟子入りしてしまった。

 いずれ、あの力を手にしたガンダムが武力介入してくる事になる。

 なのに、どうしても対抗策を見出すことの出来ない自分にイラついているのだ。

 

 そんなカティにあの男が声を掛ける。

 AEUのエースにして不死身の男、パトリック・コーラサワーだ。

 

「マネキン大佐、付き合っていた彼女達と別れてきました!

 これからは、大佐一筋です!」

 

 この男は、今の状況を分かっていないのか?

 ソレスタルビーイングがガンダムと流派東方不敗と言う力を持てば、決して止められない脅威になると言うのに。

 どれだけ、頭が恋愛脳なんだ。

 自分に対して分かりやす過ぎる程の好意を示してくるこの男を嫌いではない。

 数々の女と浮き名を流していたこの男が、自分のためにその女達との関係を清算したというのも女として悪い気はしない。

 その顔に張り付いた赤い平手の跡を見れば、女達と別れたと言うのも本当なのだろう。

 それは、久々に女としての優越感を感じさせてくれるものだ。

 こんな時でなければ。

 

 状況を理解させるためにも強く叱責しなければ。

 顔が赤くなっているのは怒りのせいだと自分に言い聞かせながら口を開こうとする彼女の勢いを削いだのは、パトリックの口から続けられた言葉だった。

 

「だけど、しばしの別れを許してください。

 必ず、貴女を守れる男になって帰ってきます!」

 

 パトリックは、彼なりに状況を理解していたようだ。

 ガンダムに対抗するために強くなる算段もあると言うことか?

 カティは、パトリックを見直していた。

 馬鹿なだけの男ではないのだな。

 

「これから、どうするつもりだ?」

 

「はい、俺に複数の女性と付き合うイロハを教えてくれた師匠に会いに行きます!」

 

 期待した私が馬鹿だった。

 だいたい、女たちと別れたんじゃなかったのか!

 

「複数の女性と同時に付き合う事で鍛えた並列思考《マルチタクス》を師匠の下で更に鍛えてきます!

 師匠は、極めれば世界最強にもなれるって言ってましたが、そんな苦労しなくても俺がトップエースだと思ってたんで、修行からは逃げてたんです。

 でも、流派東方不敗から大佐を守るために必要だと思ったから、俺、行きます!」

 

 強くなるために複数の女性と同時に付き合っていたと言う理論は女の敵でしかないが、私のために世界最強になってくると言う宣言は満更でもない。

 漢の顔をして去っていくパトリックに少し胸をときめかせながら見送っていた。

 

 

 数年後、極限まで鍛え上げたマルチタクスによってGNビットのフルマニュアル・コントロールを実現したパトリックは、人類最強の一角に数えられることになる。

 その能力は、まさに異能と言うに相応しく、宇宙世紀のニュータイプやSEED世界の空間認識能力のようなチートに匹敵していた。

 愛する女のために何処までも強くなれる男。

 愛の戦士、パトリック・コーラサワーが爆誕した!!

 

 

 

 セルゲイ・スミルノフの場合

 

 

 セルゲイは神妙な顔で息子のアンドレイと対面していた。

 思えば息子と親子として向き合うなどいつぶりだろうか?

 妻のホリーを失ってから、自分は家族と向き合う事から逃げてきたのだと自覚していた。

 

「今日は何のようだ、親父。

 父親として話したいことがあるなんて、あんたらしくないじゃないか」

 

 アンドレイは、かつての太陽光紛争で建設中の軌道エレベーターを守るために母を見殺しにした事で彼を憎んでいた。

 いや、アンドレイも軍人だ。

 自分の妻を助けるために任務を放棄する事も、部下に死んでくれと頼む事も難しい事は理解している。

 だが、セルゲイは息子に何の言い訳もせず、側にも居てくれなかった。

 自分が欲しい言葉もくれず、居て欲しい時に側に居てくれなかったから憎んでいるのだ。

 

 そんなアンドレイを前にセルゲイが口を開く。

 

「すまなかった、アンドレイ。

 ホリーを失った時、私はお前から逃げてしまった。

 弱かった私を許してくれ」

 

 寡黙な人格者として軍では尊敬されている父が自分に頭を下げていた。

 

「なんで、どうして今更なんだ!

 一番いて欲しい時、あんたはいなかった!」

 

「アザディスタンでの事は知っているな?

 あの光景を見て、私は自分の弱さを知った。

 あの時、私にマリナ皇女程の力があれば、ホリーを助けることが出来たのではないか?

 そう考えてしまったら、自分の弱さを認めないわけにはいかなかった。

 私は、マリナ皇女ほど強くなるための努力を出来ていなかった」

 

「あの女が特別なんだ。

 人間があんな事が出来るほど強くなれるなんて誰が思う!」

 

「そうではない。

 あの時この力があれば、そう思った時に自分の弱さを突きつけられたんだ。

 軍人として任務を放棄出来なかった。

 部下に死んでくれとも頼めなかった。

 そんな言い訳をして、自分自身を納得させていたんだ。

 そのくせ、息子に言い訳するのはみっともないと思って向き合うことから逃げる始末だ」

 

 こんな自分が軍人として人格者などと評価されているとはな。

 そう自嘲する様子に、アンドレイの心は苛立っていた。

 父親として側に居てくれなかった事で憎んではいたが、軍人としては認めていたのだ。

 母も軍人だった以上、助けられない事もあると理解はしている。

 軍人としては尊敬していた父のこんな弱々しい姿は見たくなかった。

 だけど、そんな弱さを見せてまで自分と向き合おうとしてくれている。

 父親のその思いを感じられないほど鈍くはなかった。

 

「分かったよ、親父。

 俺も、あんたの軍人としての判断が間違っていたとは思ってない。

 母を失った時、俺から逃げたことが許せなかったんだ。

 正直、すぐには許せないと思う。

 でも、今までのように向き合いもしない関係は終わりにしよう」

 

「ありがとう、アンドレイ」

 

 14年前に止まってしまった親子の時間がようやく動き始めた。

 

「それとは別に相談があるんだ」

 

 そう切り出した父親に、アンドレイも関係を修復していこうと軍務以外の話題もしようとしているんだなと思った。

 

「実は、部下にソーマ・ピーリスと言う女性が居るんだが、彼女を家族(養女)として迎え入れたいと考えている」

 

「家族(嫁)としてだと!」

 

 そういうことか!

 つまり新しい女が出来て、過去《母》の事を乗り越えて前に進む覚悟が出来たって事だったのか。

 さっきまでの俺の感動を返せよ!

 

「ああ、出来ればお前も家族(妹)として気遣ってくれれば嬉しい」

 

「親父、あんたが誰を家族(嫁)にしようと勝手だが、俺は母さん以外を家族として受け入れるつもりはないからな!」

 

「そうか、すまない。

 無理を言ったな」

 

 やはり、いきなり妹が出来るなど、すぐに受け入れる事は難しかったか。

 時間をかけて関係を修復していくしかないな。

 

 セルゲイとアンドレイの断絶状態は解消された。

 しかし、別の問題(すれ違い)も発生したのだった。

 

 

 

 その頃のソーマ

 

「ご子息との対話は上手くいっているだろうか?」

 

 超兵として造られた私は道具に過ぎない。

 役に立たなければ価値などない。

 そう思っていたのに、中佐はこんな私を娘のように気遣ってくれる。

 その事にくすぐったくも思うが自分がただの人間のように感じて嬉しく思っている自分もいる。

 

「上手くいってるといいな。

 中佐には幸せになって欲しい」

 

 まさか、セルゲイが自分を養子にしたいと思ってくれているとは、この時点では知らなかった。

 それを息子に話した結果、とんでもない誤解を招いている事も彼女には知る由もなかった。






勘違いの沼に嵌ったスメラギ。
まったく忍んでない忍者になるだろうグラハム。
チョロイン属性のマネキン大佐。
意外と強くなりそうなパトリック。
スミルノフ親子のすれ違い。
Gガンのように個性豊かな面々によるコメディになる未来が見える。
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