マリナ・イスマイールが東方不敗の弟子になりました 作:ソロモンは燃えている
刹那は、エクシアに乗り戦場へと向かっている。
世界の歪みを駆逐するために。
だが、その心は焦燥に駆られていた。
世界に悪意をばら撒く者達の力は、日に日に高まっている。
にも関わらず、自らの力は伸び悩み、苦戦することが多くなってきた。
流派東方不敗を修め、怒りのスーパーモードすらも会得したと言うのに何故マリナのように戦えないのか?
マリナは長年、修行を積んできた。
追いつくのは容易ではないと理解はしている。
しかし、問題の本質はそこではないと心の何処かで悟っていた。
俺では、サーシェスに勝てないのか?
怒りのスーパーモードに目覚めた時、この力を極めれば次は仕留められると確信していた。
そんなものは錯覚に過ぎなかったのに。
あれから、サーシェスの悪意はさらに巨大で禍々しくなっていった。
怒りのスーパーモードにすら対応され、奴に対して決定打を与えられなくなってしまった。
他のガンダムマイスター達は力を求めてプトレマイオスを離れている。
彼らが戻って来ることを期待してしまっている。
これが自分の限界なのだと考えてしまう。
こんな弱気な考えではいけないと分かっている。
それでも、そんな考えを振り払えないでいた。
迷いを抱えた刹那に向けて上空からビームが放たれた。
殺気すら隠していない攻撃に当たるような刹那ではない。
瞬時にエクシアを動かし、バレルロールさせることで回避する。
そして、攻撃を回避したエクシアの前を塞ぐように正面に降りてきた機体と向き合う。
「何者だ?」
それは見慣れぬ機体だった。
その見た目からフラッグ系列の機体であることは分かる。
だが、データにあるどの機体とも一致しない。
既存の機体を改造したものではなく、完全な新型。
性能が未知数であるが故に刹那も警戒する。
「久しぶりだな、少年。
私はガンダムに心奪われた男。
今は、ブシドー仮面と名乗っている。
ガンダムへの愛故に憎しみに囚われ、生き恥を晒した。
だが、愛故に再び立ち上がり、君の前に立ったのだ!」
「何を訳の分からないことを」
刹那も普段、俺がガンダムだ!などと訳の分からないことを言っているのだが、それを棚に上げて呆れていた。
「俺は先を急いでいる。
邪魔をするな!」
そう言って先を急ごうとするが、攻撃して、前に立ち塞がるような者が黙って見送るはずもなく。
「連れないな、ガンダム!
悪いがここは通さない。
私の想い、遂げさせてもらうぞ」
ビームサーベルで斬りかかってくる。
やはり、そのスピードは新型らしく侮れないものだった。
簡単にあしらえるものではない。
擬似GNドライブの技術が流出してしまったことで世界のモビルスーツもガンダムに近い性能を持つようになっていた。
目の前の機体は、おそらくエース用に造られた特別機。
例えガンダムでも簡単に勝てる相手ではない。
「ここで時間を無駄にする訳にはいかない。
一瞬で決める。
うおおおおぉぉぉぉ!!
怒りのスゥゥパァァァモォォォォォォド!!!!」
赤く染まったエクシアが凄まじいスピードで距離を詰め、ビームサーベルで切り裂く。
この圧倒的な速度差では、いかに新型であろうと対処できない。
僅かな時間だけなら怒りのスーパーモードを使っても後の戦闘にさほどの影響はないと判断した刹那の必殺の間合いだった。
「何!」
必殺の一撃は空を斬っていた。
こちらが逆に相手の姿を見失ってしまったのだ。
「この機体『マスラオ』を侮ってもらっては困る。
我が友が用意してくれたのだ。
ガンダムに勝つために!」
「ばっ、馬鹿な!
その姿は、怒りのスーパーモード!?」
刹那は、目の前の光景に動揺してしまう。
いつの間にか背後に回っていたマスラオがエクシアと同様に輝いていたのだ。
いや、同じではない。
マスラオは、赤ではなく黄金に輝いていた。
「怒りか、確かに怒りは大きな力を発揮する原動力となる。
私もガンダムへの愛と自らの不甲斐無さから怒りに囚われていた時期もあった。
だが、怒りをトリガーとしているが故に細かいコントロールが効かずに隙が出来てしまう。
少年よ、それでは私には勝てぬぞ!」
「俺は負けない!」
刹那が必死に動揺を鎮め、マスラオに向う。
次々と流派東方不敗の技を繰り出していくが流れるような動きで躱されていく。
その動きは、まさに低きに流れる流水の様に自然で無駄のない最小限の動作であった。
どれほど荒々しく、激しく攻めても、簡単に受け流されてしまう。
「くっ、何故だ!?
俺の方が動きも速いはずなのに」
「ふっ、私はその境地をすでに通過している。
己の弱さへの怒りでスーパーモードに目覚めたのだ。
何度も絶望し、自己嫌悪にも陥った。
それでも、ガンダムへの愛だけは捨てられなかった。
そうして、一周まわって怒りが消え、愛だけが残った。
怒りによって激しく波打っていた心は鎮まり、まるで凪いだ湖のような境地。
それこそが明鏡止水。
我がユニオン忍法の極意だ!」
「め、明鏡止水」
「そうだ、一切の雑念のない心は鏡のように全てを映し出す。
怒りによって生まれる隙を見逃すことなどないと心得よ」
どんな小さな隙も見逃さずに突けるのなら、怒りのスーパーモードも通用しない。
刹那にはこの状況を打開する術がない。
今、確実にブシドー仮面は刹那を追い詰めていた。
「今の君では私には勝てない。
だから、これを手向としよう」
マスラオの輝きがさらに強くなる。
「見よ、これこそユニオン忍法奥義!
マスラオが4機に増えていた。
「これは、十二王方牌大車併と同じような技か!」
刹那がまだ習得できていない高等技術。
それと同系統の技をブシドー仮面が繰り出してきた。
相手が自分よりも高みにいると認めざるを得なかった。
赤く輝くエクシアを操り、必死に食い下がるがビームはマスラオを掠めて火花を散らすのみ。
完全に見切られて紙一重で回避されているのだ。
どの機体に対しても同じだった。
「どれを狙っても火花が散る。
質量を持つ分身か」
あっという間に距離を詰められ、クロスレンジに入り込まれてしまう。
ビームサーベルで斬り裂かれ、ボロボロにされていくエクシア。
分身でも武器を使えるのか。
数では十二王方牌大車併が勝るが自身と同等の大きさで武器も使えるなら劣っているとは言えない。
まさか、流派東方不敗に匹敵する流派が存在していたとは。
なす術なく蹂躙され、エクシアが撃墜されるのは時間の問題だ。
刹那は負けを認めた。
機体を翻し、怒りのスーパーモードの出力を全てこの場からの離脱に使った。
怒りで制御が甘くなる問題も逃走するだけなら関係ない。
これが刹那にとって初めての敗走だった。
背を向けて逃走するエクシアをマスラオは悠然と見送っていた。
そこにビリー・カタギリから通信が繋がる。
「このまま逃していいのかい?
ガンダムに勝つために努力してきたのに」
「あの少年は心に迷いを抱えていた。
それを乗り越えれば更に強くなるだろう。
私はガンダムに勝ちたい。
だが、それは最高の状態のガンダムでなければ意味がないのだ」
「変わらないね、君は」
「ああ、正々堂々。
それが私の忍道だからな」
「な、なるほど。
だからブシドー仮面なんだね」
そんな侍の信念のような忍道を掲げる忍者は、この親友くらいしかいないだろう。
そんなことを思いながら、ビリーは親友が愛すべき馬鹿野郎であり続けてくれたことを嬉しく思っていた。
同時にガンダムが更に強くなるなら、親友がそれに勝てるように支え続けようと決意を固めていた。
「それじゃあ、基地に帰還しようか。
エイフマン教授とマスラオの強化プランを相談したいし」
「了解だ。
頼りにしているぞ、ビリー」
ブシドー仮面も、その場を後にした。
その後の刹那
「明鏡止水か・・・
思えば、マリナが怒りで戦うわけがなかった。
マリナの心の強さを目標にしていたのに、いつの間にか道を間違えていたようだ」
「どうやら、目が覚めたようじゃな」
「し、師匠!
何故、ここに!?」
「ふっ、手のかかる弟子がようやく間違いに気付いたようだからな」
「では!」
「うむ、怒りに任せて戦うなど下の下。
刹那よ、明鏡止水の境地を会得するのだ。
それを持って免許皆伝とする」
「免許・・・皆伝・・」
免許皆伝
それは、東方不敗から一人前だと認められることを意味する。
「この修行を成し遂げたなら、お主もマリナと同じ領域に足を踏み入れることになる。
それだけの力を持つ意味、決して忘れてはならぬぞ」
「はい!
よろしくお願いします!師匠」
こうして、刹那は東方不敗と共にギアナ高地に向かった。
その地での厳しい修行の末、ついに明鏡止水の境地を掴むことに成功する。
明鏡止水、真のスーパーモードを得た刹那。
戦いは、さらに激しさを増していく。