アクアちゃん曇らせ   作:ヤンデレ好き

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感想・評価ありがとうございます。
今回はちょっとした説明回みたいなものです。

今更ですが、アクアちゃんの言う事は一部信用出来ないものがあります。
発狂している人間の言うこと、やることが信用出来ますでしょうか?

次回は地獄の宮崎旅行編です。
アクアちゃん視点はなしで、ルビーちゃんとあかねちゃん視点の2本立てになる予定です。



アクアちゃん曇らせ:その11

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからね!?役者も一人の作家であるべきなのよ!その場その場をミスしないように演じるんじゃなくて、作劇的な盛り上げに加担しなきゃいけないわけ!」

「でもそれは演出家の仕事だろ」

「そうだけど!」

 

 

盛り上がっている有馬とララライの面々の会話を聞きながら、俺は手招きしている姫川に気づいて席を移動した。

 

 

舞台『東京ブレイド』の公演も残す所あとわずか。

この公演期間で鏑木組とララライの団員は各々良い関係を築くことが出来たが、毎度毎度飲み会を開くのはどうなんだ・・・舞台人が飲み会好きなのは聞いたことがあるが、まさか公演のたびに飲み会を開かれるとはな。

 

そう思いながらも、金田一と飲んでいた姫川の隣に腰を下ろしつつ声をかける。

 

「隣、失礼します」

「おう、星野。今ちょうど金田一さんにお前の話をしていた所だ」

「私の?」

「前に言っただろ、ララライに入らないかって」

 

あの件か。まだ入るとも入らないとも言ってなかったはずだが。

他の皆がいるからだろう、金田一をオッサン呼びせず敬語を使う姫川は少し珍しく思えた。

 

「で、どうですか?他の連中も賛成してくれてますよ」

「・・・星野か」

 

姫川に言われて、金田一はチラリと俺に視線を寄越した。

複雑そうな顔をしている・・・?特に金田一と関係が悪くなるようなことはなかったはずだが。

 

「悪いが、お前をうちに入れるつもりはない」

「そう、ですか」

 

・・・まぁいい、あかねの協力がある以上は無理に入る必要はない。

金田一はビールを一口飲むと、弁解するように語りだした。

 

「別にお前に問題があるわけじゃない。ただ、うちは今のところ外部から新人を入れることはないってだけだ。一番の新参である黒川だって、あいつが所属していた児童劇団を経営していたのがうちのOBだったからだしな」

「なんで外部からはダメなんですか?」

 

姫川からの質問を聞いて、金田一は悩むように眉間に皺を寄せる。

確かに、なぜ外部から人を引き入れるのがダメなのか、俺もその理由は気になった。

 

「そうだな・・・ま、少しくらいならいいか」

 

そうして金田一が語りだしたのは、劇団ララライ創設に関する話だった。

 

「ララライは元々、演劇専門学校で芝居やってた奴等が自分達でサークル演劇を立ち上げた所から始まっている。俺も立ち上げメンバーの一人だ───」

 

金田一の話している内容は俺も知っている。大学の頃にララライに所属していたという鏑木から聞いた話と同じだ。

 

「───最初は人を集めるのも大変でな。ワークショップで集めた人材使って何回か公演回して・・・まぁ、そこでちょいと問題というか、失敗があってな」

「失敗、ですか?」

「あぁ・・・その件以来、ララライは外部から人を取り入れることはなくなった。今までずっと身内や何らかの関りのある連中しか入団させないようになったわけだ」

 

鏑木がアイに紹介した、ララライのワークショップ。

外部から人を入れることに抵抗があるということは、当時まさに外部からの人間だったアイが入ったことが、金田一が言うところの『失敗』に繋がっている可能性がある。

それに、鏑木はそのワークショップでアイが恋をしたとも言っていた。何らかの異性関係のトラブルがあったということだろうか。

 

そこで俺たちの父親と、アイが出会った・・・

 

「その失敗って、具体的にどういうことがあったんですか?」

「若い頃の失敗だ。詮索するな」

「教えてください」

「駄目だ。子供にするような話じゃない」

 

これは無理そうだな。俺たちの父親に繋がりそうな情報が聞けると思ったんだが。

どうにかして聞き出せないものか・・・

 

「任せろ」

「!」

「俺もオッサンの失敗は気になる」

 

俺にだけ聞こえるように耳元で話すと、姫川はそのまま金田一に絡みに行く。

 

「金田一さん、ヤサ変えて飲みましょう・・・良い店があるんです」

 

 

 

 

 

「このままあの人潰して」

「おっけ♪」

 

姫川に連れられて来たこのバーは、どうやら女性タレントが事務所に内緒で働く場所らしい。

 

働いている女性たちの顔をよく見れば、何人かはテレビやインスタで見かけたような気がする顔がチラホラいる。全員見た目のレベルも高いが、それでも本業だけでは食っていけないのだろう。世知辛い。

 

「あれ?君もしかしてB小町の娘じゃない?」

「それは妹の方で、自分は双子の姉ですよ」

「う~ん・・・あ、本当だ。よく見たらちょっと違うね。君は何飲む?」

「オレンジジュースください」

「おっけ~」

 

新生B小町はまだデビューして半年くらいなのに、意外と知られているものだな。

いや、ここにいる人は二十代から高くて三十代程度。年代的にMEMちょのように初代B小町のファンがいてもおかしくないし、そこから知った人もいるか。

 

「この恩知らずがぁ。ここまで育ててやった義理も忘れてぇ、飲めぇ」

「はいはい飲みますって」

 

金田一が酔っているせいもあるだろうが、仕事が絡まないと結構親しい感じになるようだ。

二人の関係は知っているが、話のとっかかりとしては悪くないか。

 

「二人は親子関係、ってことでいいんですか?」

「書類上はな。俺は養護施設出身だから、施設出た後オッサンに何かと面倒見てもらったんだよ」

 

ミヤコさんに面倒見てもらってる俺たちと同じようなものだろう。

俺が一人納得していると、顔を赤くした金田一が語り始めた。完全に酔っぱらっているな・・・ちょっと飲ませすぎじゃないか?

 

「欠けてる奴は良い。欠けてる部分を求めるように技術を吸収していく・・・姫川がまさにそうだった」

「人聞きの悪い」

「だってそうだろうが・・・お前のは欠けてる人間の演技だ。マトモな人間じゃ無い奴が真人間のフリをしている。人とは違うから周りを観察して、世の中に順応しようとしてきた奴の芝居」

 

欠けている、か。

姫川はどこか浮世離れ雰囲気があると思ったが、それが欠けているということなのだろうか。

 

「たしかに・・・そのケはあるかもね」

「星野・・・お前も姫川と同じだと思ったんだがなぁ」

 

金田一は今にも眠ってしまいだが、呂律の回らない口調でその言葉を言い放った。

 

「どう生きてりゃこうなるんだ?」

「・・・」

「鏑木は手堅い人材を送って来ると思ったが、お前みたいな奴が来るのは予想外だった」

 

今にも閉じそうな瞼からは、鋭い目がこちらを射抜くように見つめていた。

 

「お前は姫川とは違う。欠けてるんじゃなくて・・・もっと・・・」

 

言葉を言い終える前に、金田一はそのまま寝入ってしまった。

 

「しまった、飲ませ過ぎたか・・・すまんな、オッサンが失礼なこと言って」

「いえ、別にいいですよ。酔っ払いの言う事ですから」

 

さて、そろそろいい時間だ。あまり遅いとルビーが心配するし、この辺で帰らせてもらおう。

 

その後、姫川とは連絡先を交換して別れた。

もしも金田一から話を聞けたら俺にも教えてくれるらしい。次は二人で飲もうと誘われたが・・・さすがに人気俳優と二人きりで会うのは難しいし、その機会は当分ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都内某所。

俺はある場所を目指して人気の少ない道を歩いていた。

 

今日は平日だ。都心から離れた場所であることも相まってすれ違う人はそう多くない。

まだ『東京ブレイド』の公演期間中だから土日は自由な時間がない。よって、今日は学校をさぼっての単独行動になる。

 

一般科はこういう時に融通が利かないから面倒だが、それだけ今回の用事は大切なものだったのだ。

鏑木から情報提供を受けて今までとある人物の目撃情報のある場所を周っていたのだが、とうとうその人がいる可能性が高い場所を突き止めたのだ。

 

会えたとしても説得出来るかどうかはかなり厳しいが。

彼が俺たちの前から消えた理由も、何を目的として一人で行動しているのかも、今の俺には大体想像出来る。それでも、ルビーの今後を考えるなら彼の協力は必要不可欠と判断した。

 

 

しばらく歩いていると、とうとうその場所にたどり着いた。

 

都心から少し離れた釣り堀。

休日は子供から年寄りまで幅広い年齢の人々がいるであろうそこは、平日であるせいか閑散としている。

 

 

そこに彼はいた。

 

 

くすんだ金髪に厚手の黒いベストを着たその男。

折り畳みの釣り椅子に腰かけたその姿は、後姿だけでは当人であるかは判断が出来ない。

 

だが、今まで集まった情報に間違いがなければ、恐らくは彼なのだろう。

 

 

俺がその男の数メートル手前まで来ると、足音に気づいたのか怪訝そうな顔で振り向いた。

 

「・・・は?」

 

俺を見たその男・・・斉藤壱護が驚愕の表情に変わった。サングラスの奥にある目も、きっと見開かれているだろう。

 

壱護の反応に構わず、近づいた俺は笑顔で声をかけた。

 

「佐藤社長!こんなところで何してるの?」

「い、いや、何って・・・お前は」

「なになに?間抜けな顔しちゃって。てか何その髪型!全然似合ってな~い☆」

 

釣竿が手のひらから落ちたことも気にせず、壱護は立ち上がってふらふらと近づいて来る。

 

「ありえねぇ・・・こんなはず」

「フフッ、変な顔・・・まるで死人でも見たって顔だね?」

「そ、そうだ。お前は、お前は、だって・・・」

 

おじさんが手を伸ばしてふらふらと十代の少女に近づくこの状況。傍から見れば通報待ったなしの光景だろう。

この壱護の様子を見る限り、俺の変装はうまいこと騙せているようだ。ちょっとした実験のつもりだったけど、この人を騙せるなら十分実用に足りると見ていいだろう。

 

・・・それはそれとして。

 

「・・・フンッ」

「おげっ!?」

「ハァッ!」

「ごはぁっ!?」

 

俺は隙だらけの壱護に渾身の腹パンを決め、屈んだ背中に全力の肘を打ち下ろした。

情けなく這いつくばる壱護の背中を足で踏みつけて動けないようにする。ふぅ・・・少しすっきりした。

 

「母さんだと思いましたか?良い夢見れてよかったですね」

「ぐっ、か、母さんだと・・・お前アクアか!?」

 

本当はもっとボコボコにしてやりたいが、外でこれ以上するのはマズいだろう。それにどうせ、苺プロに戻ったらミヤコとルビーからも折檻があるだろうしな。

 

俺は足元で無様にもがく壱護を眺めながら、ここまでの経緯を思い出す。

 

 

 

 

 

「人探し?」

「えぇ。今までも探してはいたんですけど、学生の身としては行動範囲も狭くて・・・中々思うようにいかないんです。鏑木さんの人脈があれば情報が集まるのではと思いまして」

「ふむ、構わないけど、いったい誰だい?探している人っていうのは」

 

あれは『今ガチ』の依頼達成に伴う報酬の件で、追加の依頼であるメルトの演技指導について話を聞いた時。

俺は報酬として提示されたトレーナーの派遣を断り、その代わりに人探しについての協力を鏑木に要請した。

 

 

その探し人が『斉藤壱護』だ。

アイにはアイドルとしての天性の才能があったが、それだけで成功できるほど芸能界は甘くはない。アイが成功した要因には壱護のサポートが非常に大きく関わっていたはずなのだ。

当時より風通しは良くなっているはずの現代で、それでもなお厳しい芸能界を体験した今だからこそよくわかる。

 

ルビーのアイドルとしての成功、そしてミヤコの負担を減らすには、壱護に戻ってきてもらうのが最善。

ミヤコも人員を増やそうとしているが、かつての事件のせいでミヤコは人選に関してはかなり厳しい条件を課している。すぐには人手は増えないだろう。

 

 

そういった理由で今までも情報は集めていたのだが、この日本から人間一人を探し出すのは正直学生の身分では厳しい。東京都内に絞ってもそれは同じ。

だからこそ、芸能界内外問わず幅広い人脈を持っている鏑木に協力してもらうのが良いと判断した。

 

理由に関しては偽る必要はないと思い、上記の理由を正直に鏑木に伝える。

話を聞いた鏑木は、昔を懐かしむように目を細めた。

 

「壱護さんか・・・彼の行方については僕も気にはなっていたんだ。アイ君は才能はあったけど、性格については中々癖の強い娘でもあったからね。壱護さんがいなければ、アイ君の活躍はなかったかもしれない・・・そう考えれば、彼を探す理由には納得できるよ。ただ・・・」

 

一旦言葉を止めると、眉を寄せて難しそうな表情になった。

 

「彼も業界に結構なコネを持っていたからねぇ。本気で身を隠されたら、たとえ東京都内にいたとしても簡単には見つからないと思うよ?」

「いいんです。少しでも目撃情報を貰えれば・・・あとは私が自分の足で探します」

「そうかい・・・うん、いいよ。壱護さんには感づかれないよう、出来るだけ信頼出来る人間に声をかけるよ。逃げられたら困るだろう?」

 

 

 

 

 

鏑木の協力を得てから半年近く。

やはり集まる情報の量も質も俺一人の時とは雲泥の差だった。空振りは何度かあったが、それでもこの短期間で見つけることが出来たのは予想以上の成果といえる。胡散臭い男だが、鏑木には素直に感謝しなければならないだろう。

 

「今まで何してたんですか?」

「・・・お前には関係ねぇ」

 

釣り椅子に座りなおした壱護は、落とした釣竿を拾って再び釣りを始めた。

我ながらインパクトのある再会だったと思うが、壱護は短時間で平静を取り戻している。腐っても芸能事務所の元社長。こういう駆け引きには強いか。

 

とはいえ、こっちには手札も手段もそれなりにある。

こいつには何が何でも苺プロに戻ってきてもらう。

 

「当ててあげましょうか?母さんを殺した犯人・・・あのストーカーを唆した人間。つまり、あの事件には真の黒幕がいる」

「・・・」

「そいつを見つけてぶっ殺して母さんの仇を取る、ってところでしょう。馬鹿馬鹿しいことやってますね」

「てめぇ・・・!」

 

俺の馬鹿にしたような口調が癪に障ったのか、壱護はサングラスの奥から鋭い眼光を飛ばして来た。

・・・いや、これはポーズだな。さすがにこれくらいでは動揺はないか。

 

「そもそもの話、壱護さんにとっては母さんは所属事務所のタレントの一人にすぎないでしょう。どうして復讐なんて・・・」

「・・・お前にとってアイは母親だったかもしれねぇけどな。俺にとっては娘みたいなもんだったんだよ」

 

当時もタレントと社長の関係にしては随分と気安いやり取りをしていたが、壱護は本当の意味で家族のようなものとしてアイを扱っていたのだろう。

 

「そうですか。で、黒幕は見つかったんですか?」

「んなもん、見つかってるならとっくにぶち殺しに行ってる・・・!」

 

そうだろうな・・・今の壱護の発言は間違いなく本気。殺気を感じられるほどの威圧感があった。

 

「で、どうやって見つけるつもりですか。10年以上も探して見つからない相手を」

「それは・・・」

「見つかるわけないじゃないですか。警察だって捜査を止めたんですよ?大体、候補となる存在が多すぎます・・・当時の事務所の社員、ネット掲示板、ファン同士の横の繋がり、私たちの本当の父親・・・候補なんていくらでもいてキリがない」

 

そう、新居の情報を漏らした存在なんていくらでも考えられるのだ。当時の社員に関しては警察も聞き込みをしているだろうが、ネットの掲示板やファン同士の繋がりなど、不特定多数の人間に関してはどうしようもない。

 

俺は黒幕が父親だと奴から聞いて知っているが、壱護にとっては俺たちの父親に関して手掛かりは一切ない。新居祝いの時、壱護本人が父親に連絡を取らないようアイに忠告していたし、父親が黒幕である可能性については一番低いと思っているかもしれない。

 

「もう諦めましょう?あの事件からは何も問題は起きてないし、案外、黒幕なんて元からいないのかもしれませんよ?」

「・・・」

「そうだっ、ルビーがB小町を復活させたんです。母さんが立てなかったドームを目指して毎日頑張ってますよ。壱護さんが手伝ってくれれば、ルビーならいつか必ずドームに立てる・・・今ならまだ、ルビーもミヤコさんも許して・・・」

「俺は戻る気はない。お前もここにはもう来るな」

 

取り付く島もない、とはこのことか。

冷たい声の壱護からは強い意志を感じる。覚悟はしていたが、これはかなり手ごわい。

 

別方向からアプローチしてみるか・・・

俺は明るい声から一転し、悲し気な声で壱護の後姿に話しかける。

 

「そんなに復讐が大事ですか?私たちのことなんて、もうどうでもいいんですか?」

「・・・別に、そういうわけじゃねぇ」

「だったら──」

「──今日はもう帰れ。お前今日学校サボって来たんだろ?遅くなるとマズいんじゃねぇのか」

 

確かに、突然サボった時点でミヤコとルビーからは心配するメッセージが来ている。

帰りが遅くなったら迷惑をかけるし、怪しまれてしまうかもしれない。壱護の言う通り、今日はこの辺で退散した方がよさそうだ。

 

「また来ます」

「来るなって言ってんだろ・・・別に、逃げやしねぇよ」

 

 

 

 

 

駐車場のコインロッカーから荷物を取り出し、そのまま近くの公衆トイレへ向かう。

アイの変装は、ウィッグ以外は特に外付けの道具は使っていない。多少の化粧で寄せて、表情と声をそれっぽく似せただけ。それだけで壱護を騙せてしまうくらい、俺の顔がアイに似ているということだ。

 

 

アイの演技そのものは、あかねのやり方を真似たもの。

俺はあかねのように様々な役を高い完成度で作り上げることは出来ないが、アイに限定すればあかねと同等以上に再現することが出来るようになった。

 

皮肉な話だ。昔はアイが何を考えているか、何を思って生きているのかさっぱりわからなかったが、成長するごとにアイという人間についての理解が深まっていく。これが意味するところはつまり・・・いや、どうでもいいか。

 

 

10分も経たない内に元の姿に戻り、バッグに荷物を詰めてトイレを出た。

今回は失敗したが、壱護の説得はこれからも続けて行く予定だ。といっても、あまり時間は多くない。俺が生きている内に戻って来てもらえたらいいが、無理なら別の方法を取るしかないだろう。壱護には悪いが、今後はルビーの為に身を粉にして働いてもらわないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんねあかね。せっかくの休みなのに」

「ううん、気にしないで。それにほら、おうちデートって感じがして楽しくない?」

 

 

今日は2回目の黒川家への訪問だ。

ルビーたちは今頃、有馬の家でルームツアー動画の作成中。本当は手伝ってあげたいが、こっちの用事も外すことは出来ない。

 

「アクアとルビーちゃんのお父さんか・・・もう少し手がかりがあればいいんだけど」

 

パソコンに映ったララライの稽古確認用の共有フォルダの中を眺めながら、あかねは難しい顔で呟いた。

 

 

俺があかねに協力を頼んだ壱護とは違う人探し。その対象は俺たちの父親だ。

鏑木から聞いた話や、金田一が言うワークショップでの失敗。これらが恐らく父親に繋がる情報だと思うが、『東京ブレイド』で一時的に関わっただけの俺ではララライの情報を得ることは難しい。

 

本当は俺がララライに入団できればよかったが、断られた以上、最初のプランであるあかねを使った情報収集に切り替えたというわけだ。

 

 

あかねは稽古確認用の動画を地道に調べ、俺はララライの歴代メンバーが映ったアルバムなどの資料を眺めている。

 

しかし、父親の外見に関しては手がかりが全く存在しない状態だ。

遺伝的に恐らく金髪の可能性が高いが、それも絶対ではない上に金髪のメンバーはそれなりにいる。しかも他の色に染めている可能性だってあるのだ。俺もルビーも母親譲りの容姿だし、見た目で探すのも厳しい。

 

一応、鏑木や金田一などの身近でアイに関りがあったと予想され、尚且つ年齢が22歳以上の男についてはDNA検査をしている。それ以下の年齢だと当時のアイがとんでもないショタコンになってしまうからな・・・さすがにそれはないと信じたい。

 

「やっぱり聞き込みした方が手っ取り早いと思うよ?金田一さん以外にも当時を知ってる関係者はいると思うし」

「・・・それはダメ。万が一、私たちの母親がB小町のアイってことが部外者にバレたらマズいし、今後のことを考えるならリスクは冒せない」

「そう・・・なら、やっぱり地道に探すしかないね」

 

あかねに言ったことは嘘ではないが、理由の全てではない。

あまり大っぴらに調査をしてしまうと、俺が黒幕──父親を探っていることを当の本人に感づかれる可能性が高い。俺たちが突き止めるより先に動かれては手の打ちようがなくなる。想定している戦力差を考えれば、先に手を打たれた時点でこちらは十中八九詰んでしまうのだから。

 

相手が油断している内に正体を暴き、不意打ちを仕掛けるしか道はないと、俺は考えている。

 

「・・・ねぇ、アクア」

「ん?」

「探して、可能なら会って話をしてみるってだけなんだよね」

 

こちらを見つめるあかねの視線からは、俺の本心を探るような意思を感じる。

 

・・・公演初日が終わった頃から、あかねから時折こういった視線を感じるようになった。

理由は恐らく、俺が以前と比べて態度や振る舞い、性格が変わってきていることが原因なのだろう。父親を探す理由については説明したはずだが、この様子だと納得出来ていないらしい。

 

「そうだよ。母さんは妊娠したことをお父さんには伝えてなかったみたいだから、今まで向こうから音沙汰ないのもそれが理由・・・もし私たちを娘として受け入れてくれるなら、一緒に暮らすことも視野には入れてる。ま、向こうの状況次第だし、ミヤコさんとルビーとも話し合わないといけないけどね」

「そっか・・・そうだよね。ごめん、変なこと聞いて」

 

あかねは納得したように頷くと、再び動画を観る作業に戻った。

 

どうしたものか・・・あかねには全てを話すつもりはないが、彼女なら自力で真実に辿り着いてしまいそうな気がする。今のところ伝えている情報は偽りのものも含んでいるので、俺の本当の目的に気が付くのは難しいと思うが・・・

 

 

「(そうだよね・・・まさかアクアの目的が実の父親を・・・なんて、さすがに考えすぎかな。でも、出会った頃に比べて性格が変わり過ぎているし、今のアクアの言う事はちょっと信用できない。監督さんと話し合ってみて、比較的近くにいる人・・・かなちゃんなら客観的な意見を聞けるかな)」

 

 

 

 

 

 

 

「(このタイミングで宮崎旅行とは・・・都合が良すぎる)」

 

 

東京湾を一望できる小さな公園。

端の方で柵に手を置きながら、いつもと変わらぬ東京湾を眺めつつ頭を悩ませていた。

 

 

舞台『東京ブレイド』は千秋楽を迎えた。

しばらくの間、役者としてのスケジュールは空白になったが、俺にはやらねばならない事がたくさんあった。

あかねからララライの情報を得つつ父親捜し、壱護の説得、B小町のサポート。それに、有馬とMEMちょには俺の代わりにルビーのメンタルケアをしてもらえるよう、気づかれないように少しずつ引継ぎをしなければいけない。

 

 

俺がいつ消えても問題ないように。

 

 

「っ」

 

チクリとした胸の痛みを気づかないふりをして、現在の状況を思い出す。

 

 

 

B小町はMEMちょの提案で楽曲PVとMVの撮影をすることになった。

そこで、舞台の慰安も兼ねて宮崎に行こう、という話があったのがつい先日。

 

 

宮崎には俺も用があったし、近いうちに何とか行こうとは思っていたから都合の良い話ではある。

・・・いや、都合が良すぎるのだ。何者かの意思が関与していることを考えてしまう。それぐらい、今の俺がやろうとしていることにとってベストなタイミングだった。

 

俺は思考を止めないまま、背後にいる存在に向けて声を発した。

 

「・・・これもお前の差し金か?」

「フフッ、違うよー。私たちは何もしていない。敢えて言うなら運命って奴じゃないかな?」

 

俺の問いに返って来たのは、幼い女の子の声・・・白々しい。奴の声を聞くだけで苛立ちが募る。

 

「・・・」

 

意を決して振り向くと、そこには小学校低学年くらいであろう、綺麗な金髪を切りそろえた小さな女の子がいた。

特に変わったところのない普通の女の子だ・・・その周囲に異常な数のカラスたちがいることを除けば。

 

チラリと公園内を見渡せば、不自然なほどに俺たち二人以外の人間が見受けられない。

遠目に歩いている人々はいるが、こちらに視線を向ける人は誰もいない。これほど大量のカラスが集まっているというのに、まるで視界にすら入っていないようだ。

 

「何度でも言うぞ・・・さりなちゃんには手を出すな」

「出さないよ。君の妹には余計なことは言わない、手も出さない・・・約束したからね」

「信用してもらえると思っているのか?」

 

俺が睨みつけながら言うと、少女は肩をすくめながら相変わらずの胡散臭い笑みで答えた。

 

「酷いなぁ。君たち人間は簡単に嘘をついたり騙したりするけど、私たちにとってはたかが口約束でも大きな意味を持つんだよ?破れば私だってただじゃすまないからね」

 

 

 

 

 

俺がこいつと出会ったのは、JIFが終わってしばらくした頃。

鏑木から提供された目撃情報を元に東京都内を周って壱護を探していた時、いつの間にか背後にいたこいつが声をかけて来たのが始まりだった。

 

『お姉さん、誰を探してるの?』

 

急いでいたために、適当にあしらって立ち去ろうとした俺の足を止めたのは、少女の言ったことがあり得ないことだったからだ。

 

『いなくなった社長さん?お母さんを殺した本当の父親?それとも───』

 

幼い子供の戯言と判断するには、あまりに的確に俺の気を惹くワードを出す少女。俺は警戒しつつも、徹底的に少女を問い詰めることにした。

 

 

───そうして俺が聞いたのは、あまりにもふざけた話。

 

曰く、俺とさりなちゃんを転生させたのは、とある男にぶつけるため。

曰く、これは神様とやらが観戦しているゲームのようなもの。

 

 

『勘違いしないでね。私はただの使いっ走り・・・あまりにも戦力差が酷いから、君たちのサポートして来いって言われて来ただけ。つまりは君の味方だね』

 

・・・ふざけるなと思った。人の魂も、人生も、好き勝手に弄ぶ神様とやらに怒りも憎しみも沸いた。だが、それ以上に俺の心を揺さぶったのは、今の俺たちの現状が薄氷の上を歩くようなものだという事実を知ったから。

 

俺の味方だと言うその少女は、全ては言えない、と前置きしたうえで語った。

 

『星野アイの死を招いた元凶・・・それは間違いなく君たちの実の父親だよ。向こうはとっくに君たち姉妹を見つけているし、手を下そうと思えばいつでも出来る状況にある。今、君たちが無事なのは向こうの余裕ってやつだね。どっちから食べようかなとか、どうしてやろうか、って色々と吟味しているんだよ』

 

・・・俺がその言葉に受けた衝撃は尋常ではなかった。

 

俺はかつて、アイを殺した黒幕は実の父親の可能性が高いと判断した。

しかし、後々になって考えてみればこの推理は穴が多すぎるとも思ったのだ。確かに可能性が高いのは父親だが、事務所の社員、B小町のメンバー、業界関係者、新居の引っ越しに関わった業者・・・いくらでも情報を漏らした存在は想像できるのだから。

あるいは、ストーカーの男がネット上に溢れた雑多な情報の中から真実を探り当てたのかもしれない。どれだけ低くとも可能性はある。

 

しかし、今までは何もなかったし、今ガチの収録期間に俺が死にかけた時だって思い返せばただの事故や偶然と言われれば否定はできない。

 

 

 

俺が過剰に警戒しているだけで、本当は黒幕はもういない・・・あるいは元から存在しないのではないか?

もう怯えたりせずに、自由に幸せに生きてよいのではないか?

 

 

 

そんな考えが強くなっていた時期だった。

JIFでルビーのアイドルデビューを見届けることが出来たこと、壱護の情報が集まりつつあること、ミキさんとも知り合えて推しであるルビーの話が弾んだこと。

 

 

嬉しいことが多すぎて、気が緩んでいたと言えばそれまでだが。

 

『怖いなら逃げてもいいんだよ?・・・逃げられるものなら、だけどね』

 

こいつはわかっていて言ってるのだろう。

戦力差がありすぎると言っていたが、これは単純に身体能力等のことではあるまい。現代で考えるなら金、権力、使える人員、立場・・・そういったもので差が大きいと考えるのが妥当だろう。

 

すでに目をつけられている現状では、逃げることは限りなく不可能に近いと思うべきだ

俺がそういった行動を起こそうとした時点で、何らかの干渉をしてくる可能性がある。邪魔する程度ならともかく、命を奪いに来るようなことがあれば・・・今の俺ではルビーを守れない。

 

 

諦めると言う選択肢がない以上、俺がやることは一つしかなかった。

 

 

 

 

こいつにはルビーへは不干渉とすることを約束させ、今までは偶に情報を貰いながらも時々話をする関係となった。

とはいえ、こいつの言う事すべてを信用しているわけではない。情報にも言えるものと言えないものがあるらしく、それらはこいつを送って来た神様とやらが決めているそうだが・・・与える情報を絞って俺の行動を誘導するのが目的かもしれない。

話を全て鵜呑みにするのではなく、使えると思った情報は十分に裏取りしてから活用するようにしている。

 

・・・それに、ルビーへの不干渉と言う約束も本当に守るかは怪しいものだ。ならば、こいつが余計なことをする前に早急に父親を探しだして始末しなければいけない。

 

「一人でよく頑張るねぇ。彼女さんにも本当の目的は言ってないみたいだし、あの社長さんも捨て駒にしちゃえばいいのに」

「・・・俺には俺のやり方がある。それに、他人を使って足を引っ張られる方が困るからな」

 

信用出来ないことに加えて、こいつの態度も妙に鼻につく。

俺とこいつが会って話す時は、終始ニヤニヤと笑みを浮かべて楽しそうにしているが、俺は対照的にいつもイライラとして睨みつけるのが常だった。

 

「君は何を考えているのかな?」

「いきなりなんだ」

「ちょっと気になっただけだよ。この前君に聞かれたことと、今回の宮崎旅行・・・今度は何をするのかなと思ってね」

「なんだっていいだろう。神様だって言うなら人の心くらい読めるんじゃないか?」

「神様だって全知全能ってわけじゃないんだよ?特に、人の心はとても曖昧なものだからね。簡単には読めない」

 

情報提供はありがたいが、時折こうしてくだらない話をしに来ることもある。苛立ちはあれど、それを直接ぶつけることは出来ない。機嫌を損ねたら何をしてくるかわからないからだ。

 

 

とりあえずは・・・あかねを宮崎旅行に誘おう。この旅行であかねをどこまで利用するのかを決めなくてはならない。もしもあかねが期待に応えてくれるなら、ルビーにも()()を渡すことが出来る。

 

そうなれば、ルビーは今よりきっとアイドルとして高みへ上ることが出来る。

アイの真似ではなく、ルビーがルビーらしく、幸せに生きていくため。

 

 

そのためなら、俺はなんだってやる。

家族も、友人も、恋人も・・・前世の自分も、全てを利用する覚悟がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に人の心は読みづらい。特に、壊れてしまった人の心は」

 

「・・・今の君は、誰になってしまったんだろうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・星野愛久愛海
 星野アイへ変身する特殊なスキルを身に付けました。
諸事情によって『15年の嘘』とかやってる余裕がありません。なりふり構わず見つけ出して始末するしかない状況です。
というか、あれは復讐の方法を考え続けていた原作アクアとこどおじ監督が協力したことで成立したものなので、復讐なんてポイしてたアクアちゃんでは『15年の嘘』は作られません。

なお、この作品のカミキヒカルを倒すには特殊な条件を揃える必要があります。
条件をクリアすること自体は難しくないけど、これは前提条件に過ぎないので失敗したらアクアちゃんは酷い目にあいます。

一対一で挑んだ場合、良くて相討ち、悪くてウルトラ胸糞バッドエンドへ向かいます。
あかねちゃんを応援してください。



・不思議子供
 通称疫病神ちゃん。
今のところアクアちゃんの利になる情報をたくさん教えてくれてるんだけど、その情報によってアクアちゃんのストレス値が爆上がりして毛嫌いされてしまいました。可哀そう。
味方ではあるけど、積極的に助けてくれるわけではない。
聞いたら答えてくれるけど、言える情報に制限があるのでいまいち信用しづらい。

うまく使えば便利だけど、使うたびにアクアちゃんはストレスを感じます。



疫病神ちゃんの上司である神様たちにとっては遊びのようなもの。
カミキヒカルは才能を持った女性の魂を送ってくれるので、それを喜ぶ神様と、それが許せない神様の対立となっています。
どっちが勝ってもいいけど、現状はアクアちゃんが不利すぎるので疫病神ちゃんを送ってくれました。

というのが今作の設定です。


疫病神ちゃん個人としてはどちらかと言うとアクアちゃんが勝ってくれたら嬉しいかなって思っています。
でもアクアちゃんが破滅一直線な行動しかとらないので、駄目っぽいなこれ、とちょっと諦め気味です。

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