特殊タグっていっぱいあるんですね・・・何をどこに使えばいいのかわかりませんが、とりあえず試してみました。
私の名前は星野ルビー。
私には、友達にも言えない秘密が二つある。
一つは、母親が熱狂的なファンに殺された伝説的アイドル『アイ』であること。
もう一つは、私には前世の記憶があることだ。
私がママの・・・前世の最推しであったアイドル『アイ』の娘に生まれたと知った時は、それはもう嬉しかった。
正直に言えば混乱する気持ちも多大にあったんだけど、それ以上に嬉しさが勝っていて、私はママに娘として甘えまくる夢のような生活を送っていた。
ママと私と姉の親子三人一緒(あと社長夫妻)の生活・・・あの頃の数年間は私にとっての宝物だ。
・・・そう、私には双子の姉がいる。
姉の名前は星野アクア。フルネームはアクアマリンだけど、長いから近しい人はみんな『アクア』って呼んでる。
姉も私と同じ、前世の記憶を持って生まれた転生者だ。
姉が自分と同じ境遇だと知って私が抱いた感情は・・・『安心』だった。
だって転生なんて冷静に考えたら意味不明な状況だし、もしも今の生活が死ぬ直前に見てる夢だったら、なんて怖いことを想像することもあって、私は心のうちに大きな不安を抱えている状況だった。
だから、私と同じ境遇の人がいて嬉しかったし、話していると優しい人なのもわかったし、同じ秘密を抱えた人が近くにいたことで私は安心を得ることが出来たのだ。
最初の数年間はお互いの前世のことは話してはいなかったけど、それでも私たちは本当の姉妹のように仲良くなった。
『あ~毎日が休日ってさいこう~』
ただ、姉の雰囲気だけはちょっと苦手だった。赤ん坊なのにすごく疲れ切ったような、草臥れた雰囲気が全然見た目と合わないんだから。
中身の年齢が結構な年上だということは何となくわかったけど。
『・・・あれ、仕事がないと逆に不安になるわ・・・』
仕事がないことを喜んだと思いきや、今度は仕事がないことに憂鬱になってる。
これが世間で言われている社畜ってやつなんだな・・・と、私は一つ賢くなった。
その後も私たちは姉妹として共にママにオギャりながらすくすくと成長した。
いや、姉はオギャってなかったけどね。ママが年下なのでいまいち母親だと思えなかったらしい。
仲良く過ごしていた私たちだけど、互いの認識を大きく変える出来事があった。
お遊戯会でダンスをやることになって、紆余曲折あって姉とママのおかげで私がダンスを踊れるようになってからのこと。
私と姉が互いの前世を打ち明けて、以前よりもずっと姉妹としての絆が深まった、そんな頃だった。
私がいつものようにママによしよしされていると、顔を赤くした姉がやってきて、おずおずとママに頭を向けた。
『お、お母さん・・・その、私も・・・』
『フフ・・・よしよし。アクアも可愛いね~』
『・・・』
隣でおとなしくママに頭を撫でられている姉を横目で見ながら、私は内心信じられない気持ちでいた。
姉はいつもママのことを名前で呼んでたし、ママが頭を撫でようとしても避けたり逃げたりしていたのに・・・自分から撫でられに行って、しかもお母さん呼びしている。
『お姉ちゃん・・・最近どうしちゃったの?』
気になった私は、仕事でママ達がいない日に思い切って聞いてみることにした。
『別に・・・私もいい加減、ア・・・母さんの娘という立場を受け入れようと思っただけ』
微かに頬を赤く染めて語る姉の顔は、今までよりも何だか幼くなったような・・・いや、年相応になったというべきだろうか。
『前世のことを忘れたとか、捨てたとかじゃない・・・でも、今の私たちは前世で確かに死んで、そして生まれ変わった。もう別人なんだよ。だからさ、母さんの娘としての新しい人生を歩むべきだと思ったのよ』
その言葉を聞いて、私は少し羨ましくなった。
姉は前世を忘れないまま、ママの娘になろうとしている。変わろうとしている。
私は・・・そうじゃない。
前世でも、今世でも、私は周りの人に捨てられないよう本当の醜い感情を隠してる。
前世では健気で可愛そうな少女を演じ、今世はママの娘を演じて生きている。
私もいつか姉のように、ママの本当の娘になれるだろうか・・・なれたらいいな。
私はそう願いながら、再び幸せな生活を送り続けた。
私は忘れていたんだ。
今の幸せな生活はいつ破綻してもおかしくない、薄氷の上を歩くような、そういう生活だったことを。
言い訳じゃないけど、前世の私はゴローせんせと一緒の時と、ママのライブを見ている時以外はずっと苦しくて・・・こんなに長い幸せに浸るのは初めてで・・・
──幸せを奪われるって、こういうことなんだ
『傷つけられる側が自分を納得させる為に使う言葉を、人を傷つける免罪符に使うな・・・!!』
ママが死んじゃってから、好き勝手言う世間の声に対して私は感情を爆発させていた。
この時の私は演技何て出来なかった。ママの娘としての私と、ママのファンとしての私、どちらの私も同じ感情を抱いていて、ただひたすらにその感情を吐き散らした。
怒り、憎悪、後悔、悲しみ
あらゆる負の感情が私の心の中で暴れまわっていて、それを抑えることなんて出来なかった。
『ルビー・・・』
・・・情緒不安定になっていた私の支えになってくれたのが姉だった。
優しく抱きしめてくれて、そっと背中を撫でてくれる。
私の中の負の感情が無くなることはなかったけど、姉がそうしてくれている間だけ、私の心は安らいだ。
その後、しばらくして私たちは正式にミヤコさんの子供になることが決まった。
赤ん坊の頃は散々利用したのに、ミヤコさんは心の底から私たちを大事に思ってくれていて、申し訳ない気持ちがあった。
それでも、私たち姉妹が離れ離れにならずに生きていくためには、ミヤコさんの庇護が必要だった。
私は事件の現場から連れ出される際、ママの遺体を見ないように気を遣われていた。けど、姉は違う。直接ママが死ぬ瞬間までを間近で見ていたはずだ。その目で、肌で、ママの死を感じていた。
それなのに、被害者向けのカウンセリングが一番最初に終わったのは姉だった。
・・・看護婦さんだったから、患者さんの死を看取ったこともあるはずだ。だから私よりも耐性があった、ということなのだろうか。
疑問はあったけど、きっと姉は心が強い人なんだろうと当時は納得した。
『ルビー・・・あなたは心のままに生きなさい』
ママのようなアイドルになるという私の夢を肯定し、心のままに生きろと、言ってくれた。
アイドルとして有名になれば、ゴローせんせが見つけてくれるかもしれない。
ママが果たせなかった、ドーム公演という夢を叶えてあげたい。
演技じゃない。私の心からの夢。本心からの願い。
不安はいっぱいあるけど、お姉ちゃんと一緒ならきっと大丈夫。
当時の私にはそう思えたんだ。
『もうすぐ高校生だよ!そしたら私もアイドルデビュー!いや~楽しみだなー!』
あれから12年が過ぎて、私が卒業を間近に控えた中学三年生の頃の話だ。
苺プロはアイドル事業を辞めてしまったし、ミヤコさんの負担にもなるから私は他の事務所でアイドルになろうと思ってた。
でも、お姉ちゃんが一緒にミヤコさんの説得をしてくれて、私は高校入学後に苺プロでアイドルデビューをすることに決まった。説得はものすごく大変だったけど、正直苺プロでデビュー出来るのはすごく嬉しい。
『とうとうルビーがアイドルになるのかぁ・・・じゃあさ、私がルビーのファン1号になっていい?』
放課後の教室で駄弁っていた時、友達が私のファンになってくれると言って来た。
嬉しいけど、ファン1号はもう決まってるんだよね。
『ごめんね・・・ファン1号はお姉ちゃんって昔から決まってるからっ』
『あぁ・・・アクアさんか。なら仕方ないね』
『仲いいよねぇ二人とも』
私とお姉ちゃんが仲良しなのは当然だ。
互いに誰にも明かせない秘密を共有し合うことが出来る唯一無二の存在。
私とお姉ちゃんの間には嘘が存在しない。
どんなことも遠慮なく言いあうことが出来る。
私は相変わらず演じている。
母の死を乗り越え、真っすぐにアイドルという夢を目指す天真爛漫な少女を。
・・・でも、今は何もかも演じているわけじゃない。
お姉ちゃんと二人きりの時は、ただの『私』の本心をさらけ出すことが出来るようになった。
私がどんなに醜い感情を見せても、汚い言葉を使っても、お姉ちゃんは全てを受け入れてくれる。
世間一般のどんな兄弟姉妹よりも、私たち姉妹の間にはずっとずっと深い絆があると、私は信じている。
お姉ちゃんのことは大好き・・・でも一つだけ、どうしても不満があった。
お姉ちゃんは私がママのようなアイドルになれるように支えると言ってくれた。
それは嬉しいけど、だからといってお姉ちゃんがやりたいことを捨ててほしくなかった。
監督さんに聞いたことがある。
お姉ちゃんには演技の才能があって、役者をやっている時のお姉ちゃんはとても楽しそうだったって。
なのに、私のために役者を辞めてしまった。
お姉ちゃんは私のためという理由で、自分のことを蔑ろにしてしまう。
自分のことを簡単に切り捨ててしまう。
それが私には不満だった。
だからこそ、お姉ちゃんが『今日あま』のドラマに出演するって聞いた時は嬉しかった。
体を売るとかしょうもない勘違いはしちゃったけど、私はお姉ちゃんが役者に復帰するんだと思って喜んだ。
ただ・・・役者を続けてくれることは嬉しい。嬉しいんだけど、まさかお姉ちゃんがあんな番組に出演することになるとは思わなかったんだよなぁ。
「・・・ハッ!?」
「あ、起きた」
ロリ先輩・・・もとい、有馬かなをアイドルとして勧誘することに成功した日。
明日が収録なのもあってか、お姉ちゃんは一足早く部屋で休むらしく、事務所には私とミヤコさんと有馬かなの3人だけが残っていた。
正気に戻った先輩に事務所との契約が済んだことを伝えた所、必死に自分を納得させようとしていたのが面白かった。
「し、仕方ないわ・・・同じ事務所である以上、アクアから盗める技術もあるだろうし・・・ていうか、あいつは次の仕事入ってんの?」
「あぁ・・・うん。入ってるし、高校入学してから収録も始まってるよ」
「なんでそんな微妙そうな顔なのよ・・・いいことじゃない。どんな仕事?」
私はお姉ちゃんが出演している番組を見せるべく、ノートパソコンを持ってくる。
・・・いや、役者を続けてくれるのは本当に嬉しいんだけどね。でもこういう系の企画にお姉ちゃんが参加するのはちょっと複雑というか・・・
「なになに・・・『今からガチ恋始めます』・・・なにこれ?」
「・・・」
私は無言で番組映像を見せ続ける。
画面の中では、出演者たちの簡単なプロフィールが紹介されている。
『今からガチ恋始めます』・・・略して『今ガチ』。
いわゆる恋愛リアリティショーと呼ばれる番組の一つだ。
複数の男女がメンバーとして選ばれて、様々な舞台、シチュエーションでリアルな恋愛模様を繰り広げる。
参加する男女の比率、年齢、舞台になる場所なんかは作品ごとに違くて、『今ガチ』では芸能界に関わる高校生たちが週末の放課後に集まって、イベントとかを通して交流を深めていく・・・とかそんな感じ。
・・・私は正直好きじゃない。だって嘘くさいんだもん。
「鏑木Pの番組だけあって、皆顔は良いわねー」
先輩の言う通り、紹介されたメンバーはそれぞれイケメンと美少女しかいない。
ファッションモデルの鷲見ゆき。
ダンサーの熊野ノブユキ。
女優の黒川あかね。
ユーチューバーのMEMちょ。
バンドマンの森本ケンゴ。
そして、画面内で5人のメンバーが自己紹介をしている時、少し遅れて最後の一人が登場した。
『アクアです・・・よろしくお願いします』
静かな挨拶と共にペコリと頭を下げたのはお姉ちゃんである。
お姉ちゃんが恋愛リアリティショー・・・失礼かもしれないけど全然イメージと合わない。
というか、男2人に女4人て比率おかしくない?せめて男3人か男女同数ならわかるけどさ。
「ていうか、アクアって恋愛に興味あったのね・・・これは完全に予想外だわ」
・・・それはその通りだ。
年下や同年代には興味なさそうだったし、監督さんとも何もなさそうだったから年上にも興味はないと思ったのに。
「『もう少しだけ役者を続けてみたくなった』なんて言ってたけど・・・たまにあの子が何考えてるのか、私にもわからなくなるわ」
「社長でもそうなんですね・・・観た感じだとあいつ、演技じゃなくて素でやってるみたいだし、観ても得るものはなさそうね」
「・・・」
お姉ちゃんは何を考えてこの仕事を受けたんだろう。
気にはなるけど、『今日あま』の時のようにコネ作りのためってことではなさそうだし、一応は応援した方がいいんだろうな・・・
私は胸の奥にモヤモヤとしたものを抱えながら、お姉ちゃんの活躍を応援することにしたのだった。
私は今でも、ママが死んじゃった日のことを夢に見ることがある。
幼いころは夜に起きて泣いちゃうこともあって、お姉ちゃんとミヤコさんには随分と迷惑をかけてしまった。
今はある程度耐性がついたけど、それでもあの日を夢に見た翌日の朝は少し憂鬱な気分になってしまう。
最期の言葉を告げて静かになったママ。
私は扉越しだったけど、それでもママが死んじゃったことは気配でわかった。
私自身死んだことがあるから、何となくわかったのかもしれない。
・・・最近になって、あることに気が付いた。
当時の私は泣きじゃくるだけで周囲の状況なんか気にする余裕はなかったんだけど、今改めてこの夢を見ていると不思議な違和感があるんだ。
何だか、私以外の誰かの声がするような・・・
もしかしたら遠くから聞こえるサイレンの音か、他のマンションの住民の声かもしれないけど。
その声が気になるせいで、私はこの夢をもっと見たいと思うようになっていた。
その声が誰のものなのか、私は知らなくちゃいけないような、そんな気がして───
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい───』
・星野瑠美衣
同性で優しくて何でも受け入れてくれる人がいるので、原作よりも精神的に余裕がある。
ネタバレになるけど原作のような闇堕ちルビーちゃんにはならない予定です。だって汚い部分は全部アクアちゃんが引き受けるからね。
やったねルビーちゃん!綺麗なままでいられるよ!