今更ですが独自設定タグをつけました。
原作キャラを原作の設定のまま扱うのがとても難しいです。というか無理。
上手に書ける人が羨ましい・・・
「ケンゴさんってギターなんですよね。素人知識ですが、ギターって競争率高いから大変だって聞きますけど」
「まぁそうだね。けどだからこそ、実力を評価されるポジションでもあるから、やりがいはあるよ・・・大変なのは本当だけどね。アクアちゃんは最近はどんな作品に出たの?」
「そうですね・・・最近は───」
高校生とはいえ、3年生で業界人ともなると大人びていて話しやすいなぁ。
俺は森本ケンゴと互いの仕事について他愛のない話をしながら、どうしてこんな状況になったかを思い返していた。
「もしも君が出演してくれるなら、今回の借りはチャラにしてあげよう」
『今日あま』の打ち上げパーティーの日。鏑木Pは俺に『今ガチ』への出演を要請して来た。
恩を返す必要がある以上ここは受ける必要があるが、俺は少し粘ることにした。
「受けることに否はありませんが・・・少しフェアじゃないと思いませんか?」
「ふむ・・・なぜそう思ったのかな?」
「確かに私は鏑木さんに借りを作ることになりましたが、ドラマの盛り上げに私が貢献したのも事実・・・そうですよね?」
この業界は貸し借りの世界だ。
俺が盛り上げた・・・というのは言い過ぎかもしれないが、出来れば『今日あま』に出演させてもらった件とはこれで貸し借りなしにしておきたい。
恋愛リアリティショーに出演することで逆にこちらが恩を売れるならそれでよし。
「なるほど。上げた功績を考慮しないといけないね・・・確かにそうだ。じゃあこうしよう」
鏑木Pは楽し気に口の端を上げた。
「『今ガチ』に出演した上で番組の盛り上げに貢献してくれるなら、君の妹さんの今後の活動に手を貸してあげよう。それならどうかな?」
「・・・」
・・・俺はまだルビーのことなんて一言も話していないぞ。
何とか動揺を表に出すまいと努力している俺に対し、鏑木Pは平然と話を続けた。
「かなちゃんからの推薦だからって、即断即決で君を採用したわけじゃないんだよ。僕も昔の付き合いがあるからね、苺プロの動向はある程度把握してるんだ。君の妹さんがアイドルとして苺プロに所属したことも、メンバー探しで苦戦してることも・・・ね」
なるほどな・・・この男は最初から俺のことを知っていたのか。今回の無茶なゴリ押しが通用した理由がわかった。
最初から思ってはいなかったが、やはり業界で長く生き残って来た者を相手に交渉事で優位に立つのは難しいな。あるいは、今回は相手が悪かったとみるべきか。
「・・・ありがとうございます。それなら出演することに問題はありません。しかし、盛り上げに貢献とは具体的にどういう・・・」
「これはついでみたいなものさ。恋愛リアリティショーの歴史は長い。ノウハウがある以上、滅多なことでは失敗はないし、担当のディレクターも番組スタッフも優秀だ。君が何もしなくても一定以上の成果は保証されてる」
だったらますます俺を出す意味がわからない。
実質、出演するだけでいいなら俺にしか得がないように思えるが・・・
「でも、出演するのは若い子ばかりだし、結果はまだ予想出来ないからね。『今ガチ』では是非、番組側と協力して盛り上げてほしい・・・もちろん、君自身が目立ってもいいし、あるいはフォローに徹してもいい。そこはおまかせするよ」
「ある意味今回と同じ・・・盛り上がるなら何でもいいってことですか。良い意味だろうと悪い意味だろうと」
「その通り・・・これ、僕の名刺ね。こっちから連絡するから、細かい話はその時にしよう」
そんなことがあって、俺は『今ガチ』に出演することになったわけだ。
これもルビーのため・・・って言うとルビーが負い目を感じてしまいかねないので、あくまで俺が出演したいからという理由でミヤコとルビーには伝えてある。
あの後も鏑木Pとは何度か連絡を取り合ったが、こっちに有利な条件ばかり提示してくるのが怪しいところだ。
まったく、恩を売るつもりが恩を売られっぱなしだ。
感謝はしているが、少し気味が悪い。過去にアイと関わっていたことも含めて鏑木Pには今後も要警戒だな。
俺はケンゴとの話を終え、待機していたゆきの元へ向かう。
収録も始まったばかりだからか、今は全員が平等に話すようにして少しずつ交流を深める段階だ。
「アクアどうだった?森本さんといい雰囲気だったんじゃない?」
「いや、互いの仕事の話をしただけだよ。まだ始まったばかりなんだから、そんなすぐに盛り上がるようなことはないって」
「なんだ仕事の話かぁ。台本ないと何話していいかわかんないし、私トーク苦手だし・・・正直不安しかないよぉ」
恋愛リアリティショーには台本はないが、演出はある。
ディレクターからの話をアドバイスと受け取るか、指示として受け取るかで各々の行動が変わって来るし、それが後の番組内でのポジションに影響する。
始まったばかりなのでまだ正確なことはいえないが・・・
今話しかけて来た鷲見ゆき。
彼女は弱気な言動に反して貪欲さを感じさせる。
ディレクターの話も取り入れつつ、自分で考えて行動している。メンバー内では一番やる気があるといえる。
俺が先ほどまで話していた森本ケンゴ。
彼は完全に仕事と割り切っているようだ。
仮に彼が誰かとカップル成立したとしても、仕事上の付き合いで終わるだろう。俺が話していて一番楽なのは彼だ。
熊野ノブユキは・・・あいつは天然というか、アホというか。
元々キャラ作りとかしないタイプなんだろう。ディレクターの話も聞いてはいるが、今のところ一番自由奔放に動いている。
空気は読めるし、決してただの馬鹿というわけではないようだが。
MEMちょは早々にバランサーとしてのポジションを確立している。
周囲を和ませるおバカな言動、誰にでもちょっかいをかけて、全員に活躍の場を与えようとする計算された行動。
本人は目立ち過ぎず、視聴者に邪魔と思われない程度にカメラに映ろうとしている。
それと・・・
「あの・・・ディレクター。こんな感じでいいんでしょうか?」
「ん?あー、最初はこんなでいいと思うよ」
黒川あかね。
一流の役者しかいないと言われる『劇団ララライ』の若きエース。
知る人からは天才と称される、俺たちの世代において女優の中ではトップに君臨する存在。
の、はずなのだが・・・
「まぁ次回、もう少し距離詰めた感じで話して貰えると、こっちとしては助かるけどね。視聴者もドキドキしたいわけだし」
「な、なるほど・・・」
・・・今のところはただの真面目ちゃんにしか見えないな。
何をしたいのか、どのポジションを目指しているのかもわからないし、かといって女優らしく何らかのキャラを演じるのかと言えばそうでもない。
「黒川さんは真面目だよねぇ。収録の合間はいっつも何かしらメモ取ってるし」
「そうだね・・・天才役者って言われてるけど、ああいう所を見ると努力家って感じがする」
「だよねー。でも、天才だからって高飛車な態度取られるよりはずっといいよ。私は好きなタイプかなぁ」
ある意味一番予想がつかない存在でもある。
彼女の動向には注意を払う必要があるだろう。
俺はどのポジションにも入れるよう、メンバー全員とそれなりに接するようにしている。
今はまだ、こういう中途半端な立ち位置の方が、何かあったときにフォローに入りやすいからな。
「ゆきは、なんでこの仕事受けたの?」
「・・・うちの事務所の看板の人が仕事断らない主義でね。事務所に来た仕事全部持っていくから・・・私年中ヒマでさぁ。なんか足掻きたくて・・・そんな時に鏑木さんが・・・」
「なるほど」
どうだか・・・
鏑木Pが目を付けたってことは、将来性があると見込まれたってことだ。モデルの仕事も順調そうだし、言うほど年中ヒマしてるって感じには見えない。
悪い子じゃなさそうだが、いまいち信用ならないな。
「アクアは恋愛に興味ないの?」
適当に相槌を打ちながら話を聞いている内に、妙な質問をされてしまった。
ちなみにだが、俺とゆきは互いに名前で呼び合うようになっている。最初に仲良くなるならメンバー内で唯一の同学年から、と互いに判断したわけだ。
「ないよ。今までもこれからも、私が恋愛に興味を持つことはない」
「そ、そうなんだ・・・はっきり言うね・・・」
興味なんてあるわけがない。俺にはそんな資格はない。
こんな・・・男なのか女なのかはっきりしないような、中途半端な奴に好かれたって嬉しい人間なんていないだろう。
相手を不幸にするだけだ。
「(アクアはあんまりやる気ないのかな・・・ま、正直ありがたいけどね。その見た目で積極的に行かれたら私の出番なくなっちゃいそうだし。せっかくのチャンス・・・私は遠慮なくやらせてもらおっと)」
「疲れたよぉ~」
ところで、『今ガチ』の収録は土日に行われている。
まだデビューは未定とはいえ、貴重な休みの日にルビーと有馬を遊ばせておくわけにはいかない。
いや、本当に遊んでもらって交友を深めるのは別に悪くはないのだが。
今日はミヤコの指示のもと、覆面筋トレ系ユーチューバーのぴえヨンに依頼して、彼の動画に二人を出演させてもらっていたわけだ。
「お疲れ様・・・頑張ったね」
「うぅ~明日は絶対筋肉痛だよぉ・・・楽しかったけど」
動画内容は、覆面をしたまま1時間のぴえヨンブートダンスについてこれたら、顔出しして自己紹介OKという正気の沙汰ではないものだ。
役者として普段から体力作りをしている俺や有馬ならついていくことは出来るが、ルビーは本格的な体力作りはしてないからな。運動神経があっても体力がないと本当にキツイ内容だったはず。
それでもルビーはやりきったし、そこはかとなく有馬との仲も良くなった・・・気がする。
今は自室のベッドの上で、ルビーに膝枕をしながら頭を撫でてやっている。
風呂上がりだからか、シャンプーのいい香りがする。髪も大したケアはしてないのに指の通りが良い。
俺と違ってくせっ毛だからか、ぴょんぴょん跳ねた所があるのが可愛い。似合ってる。このまま永遠に撫でていたい。
しばらく二人でまったりとした時間を過ごしていたが、突然ルビーがぽつりと呟いた。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?」
「お姉ちゃんはさ・・・私と有馬かながうまくやっていけると思う?」
この感じは・・・あれか。
ルビーは俺と二人きりの時、いつもと違う性格になる時がある。別に二重人格とかそういうものではない。
「昔もそうだったけどさ・・・私ってあの人のこと好きじゃないんだよね。口も悪いし、ママの悪口言ったこと忘れてないんだから」
「・・・」
いつもの明るい雰囲気とは反対に、どこか暗い感情を湛えた瞳。
12年間一緒に暮らしていくうちに、俺はルビーが日常的に演技をしていることに気づいた。
いつからだったか・・・今のように二人きりの時に、ルビーが少しずつ本音を口に出すようになったのだ。
最初は俺の反応を見ながら恐る恐ると言った風だったが、俺が受け入れる姿勢を見せるとドンドンと本音を零すようになった。
内容は日常の他愛のないものから過去の事件に関するものや前世のことまで様々だ。
名前を弄って来るクラスメイトがうざい。
容姿に嫉妬した女子が陰口を言っててムカつく。
ミヤコのことをお母さんと呼べない自分が嫌い。
アイの死を弄んだ世間の連中が今も許せない。
前世の母親はどうして会いに来てくれなかったんだろう。
ゴローせんせに会いたい。
・・・前世の頃から、この娘はずっとこうして本心を隠して生きていた、ということだ。
俺は結局、さりなちゃんを本当の意味で理解してあげることが出来なかったのだろうか。
それなのに、未だに雨宮吾郎のことを好いてくれている・・・前世の俺が少しでも彼女の心の支えになっていたならいいが・・・
・・・さて、学校での問題なら何とでもなるが、精神的に深く踏み込んだことに関しては俺が出来ることは多くない。
ただ話を聞いて、慰めることだけ・・・ルビー自身が解決して、乗り越えなければいけないことだ。そうじゃないとルビーは俺に依存してしまう。
とはいえ、有馬の勧誘は俺が提案したこと。これは何とかしなければならないだろう。
「どうしてルビーが先輩のことが嫌いなのか・・・何となくわかるよ」
「・・・」
「羨ましいんでしょ?先輩のことが」
「っ」
わかるよ・・・その気持ちはよくわかる。
有馬は良くも悪くも素直な奴だ。
自分を偽らず正直に振る舞っている。俺たちのような常に演じている人間からすると、有馬の姿はとても眩しく映る。
時に憎たらしく思うほどに。
「ルビーも、いつかはきっと──」
「私が『本当』を見せるのはお姉ちゃんだけだよ。これからもずっと・・・」
・・・それじゃダメなんだよ。
俺がいる間はそれでいいかもしれない。けど、もしも俺の身に何かあったら、ルビーの本当の気持ちを受け止めてくれる人がいなくなってしまう。
だから、俺がいる内にルビーには素直な自分を見せられるようになってほしい。
そうしないといつか、溜め込んだ感情にルビー自身が潰されてしまう。
「(出来ないよ・・・お姉ちゃん以外に本当の私を見せるなんて・・・本当の私を受け入れてくれるのはお姉ちゃんだけしかいない。そうに決まってるんだから・・・)」
「私・・・・・・もう『今ガチ』辞めたい」
『今ガチ』の放送も中盤に差し掛かった頃。
夕日の差し込む教室で、涙を流すゆきによる唐突な降板匂わせ発言によって、現場も視聴者も騒然となった。
「見て見て!記事になってる!私ちょっとは視聴者獲得に貢献できたかな?」
まぁ降板は嘘なんだが。
ゆきは俺の想定よりもずっと強かだったな。やる気があるとは思っていたが、行動力が尋常じゃないし、記事に取り上げられているように結果も出している。
鏑木Pが目を付けたのも納得だ。
「で・・・・・・番組辞めるの?」
「えー?辞めれないでしょ。契約残ってるのに」
「えっ、じゃあ演技ってこと?」
「いやいや・・・黒川さんとかアクアみたく女優じゃないし、私に演技なんて出来ないよ。ちょっと自分の気持ちを膨らませて話してるだけ」
自分の抱いた気持ちを演技に込めて、見ている者を信じ込ませる。それは十分に女優としての才能と言えると思うけどな。
黒川なんてすっかり騙されてるし。
「あがったら皆で飯行こうぜ!」
「今日はアクアも行くでしょ?」
皆から期待の目で見られる。
俺が行ったって別に盛り上がることはないと思うんだけど・・・
それに正直な所、俺は家族との時間を大切にしたいのでこういう付き合いはあまり好きじゃない。
『いいじゃん!食べてきなよ・・・お姉ちゃん前から友達と外食とか全然しないしさ。たまには家のこと気にしないでゆっくりしてきてよ』
『そうそう。今回はルビーの言うことに全面的に同意するわよ。あ、でも朝帰りはまだ駄目だからね』
ミヤコとルビーにまさか勧められるとは思わなかったな・・・あと朝帰りなんてありえないから安心してほしい。
というわけで毎週ってわけじゃないが、行ける時は行くようにしている。まぁこういう付き合いも人間関係を円滑に進めるには大切なのも事実だから仕方ない。
「今日ならまぁ・・・行けますけど」
「よし!今日は焼肉だぜ!・・・メッさんの奢りで!」
「えぇ!?言ってないよぉ!?」
他メンバーから弄られているMEMちょを見て思う。
この人はあれだな。ちゃっかりした小悪魔系の人だと思っていたんだが、普通に面倒見良いし結構な苦労人気質というか・・・前世も合わせて俺が出会って来た人間の中でも上位に入る善人だな。
「おらぁ!特上盛り合わせ追加じゃーい!!思う存分食えやガキ共!!」
「わぁい!!」
「メッさん最高!」
「メムに感謝して・・・いただきます!」
てなわけで、MEMちょの奢りで『今ガチ』キャスト全員で焼肉に来たわけだ。
しかしガキ共って・・・薄々察してはいたが、この人高校生って歳じゃないな。訳ありか?
そんなことを考えながら、俺は焼いた肉を正面に座っている黒川の皿に移した。
「はい、黒川さん。カイノミです」
「あ、ありがとう・・・あの、やっぱり交代しない?私いつも焼く側だから落ち着かないんだけど・・・」
俺は食事が始まってからほとんど焼いてばかりで食べていない。
焼肉が嫌いというわけではないが、家で家族と食べるご飯の方がおいしい。ルビーの笑顔だけで俺は白米3杯は行けるからな・・・そんなに食えないからあくまで比喩だけど。
「さっきも言ったじゃないですか。憧れの黒川さんに世話をさせるなんて恐れ多いです。私のような木っ端の役者からしたら、黒川さんは雲の上の人なんですから。むしろこっちがお世話したいくらいです」
「わ、私が憧れなんてそんな・・・劇団の他の皆と比べたら未熟者というか、若造というか・・・まだまだだし・・・」
黒川は先ほどから照れっぱなしであまり食べていない。いや、せっかく焼いたんだから冷める前に食べてほしい。
俺が他のメンバーの皿にもちょいちょい肉を置いていると、黒川は手を差し出して来た。
「アクアちゃん全然食べてないし、やっぱり私がやるよ」
「いいんですって・・・正直言うとあんまり食欲ないんです。もう匂いだけでお腹いっぱいで・・・」
俺が肩を竦めつつ応えると、黒川は心配そうな顔で聞いてくる。
「え、そうなの・・・?体調悪いとかじゃない?」
「いえ、たまたまそういう日だっただけですよ。家に帰ったら、何か適当に摘まむかもしれませんけど」
「それならいいけど・・・」
俺の言うことを信じたのか、納得した顔で頷く黒川。
その後、MEMちょの語る炎上対策だの何だのを聞きながらメモしている黒川を見て思う。
黒川あかね・・・天才女優と聞いていたし、実際に彼女の出演した作品を観てそれは納得している。
しかし、演技に関しては天才的でも、相手の演技を見抜くのは得意ではないらしい。実際、感情が込められていたとはいえ、素人のゆきの演技に騙されていたからな。
今も俺の言うことをすっかり信じているし・・・真面目で良い子なのが良くわかる。
「(と、年下にお世話されるのって新鮮・・・私もそういう立場になったってことなのかな・・・い、いやいやいや!まだ先輩面するには早いぞ黒川あかね!これからも精進しなきゃ!)」
「いや~私たちっていいコンビだよねっ。どう?番組終わったら私のチャンネルでユーチューバーデビューしてみない?」
「やりません」
「もう、マリちゃんは素っ気ないなぁ・・・えいえいっ」
いつもの収録が終わって、今はロケバスの中でスタッフさんを待っている最中。
他のメンバーが眠りに落ちている車内で、俺は頬を突っついてくるMEMちょを適当にあしらいながら考え込んでいた。
あれからも収録を重ね、『今ガチ』は終盤に差し掛かろうとしている。
今は鷲見ゆきと熊野ノブユキのカップリングが番組の中心となり、そこに嫉妬心を見せるケンゴを加えて三角関係が成立。
ゆきがゲームメーカーとなり、その小悪魔っぷりで番組を盛り上げて中高生を中心に人気を獲得している状況だ。
俺はと言えば、MEMちょとコンビを組んで番組全体のサポートに徹している。
ゆきたちの三角関係にちょっかいをいれつつ、ボケ役をMEMちょ、ツッコミ役を俺で担当して漫才もどきのようなことをして盛り上げに貢献している。
互いにキャラを崩さないように動けるし、他メンバーのサポートもしやすい立場だ。
出来れば今のまま、賑やかし要員としてのポジションを最後までキープしたいところだが・・・
俺はカーテンを僅かにずらして窓の外をチラリと見る。
ロケバスから少し離れた所で、黒川がディレクターと何かを話している様子が見えた。
俺と同じように隣で見ていたMEMちょが小声で話しかけてくる。
「心配?・・・あかねちゃんのこと」
「・・・まぁ、そうですね」
心配じゃない、と言えば嘘になるだろうな。
すでにメンバー各々がはっきりとしたポジションを獲得している中、未だに黒川だけが何をしたいのか定まっていない状況だった。
「何とかしてあげたいけど、あんまり口出ししちゃうのもね・・・」
俺たちだって何もしていないわけじゃない。
ゆきたち3人には俺たちのフォローはそれほど必要ない。ノブユキはともかく他の2人は周りをよく見てるからな。
その分、俺たち2人は黒川に絡むようにして最低限カメラに映るようにはフォローしている。
ただ・・・
「みんなそこそこ仲良くなったと思うけど、こういう時に所属事務所の壁を感じますね」
「そうだねぇ。この業界で生きる以上、仕方ないことなんだけどさ」
今の黒川の状況を事務所の方が良しとしているなら、何らかの思惑が絡んでいる可能性がある。
下手に口出しして事務所間の問題に発展したら、俺はともかくルビーとミヤコさん、ついでに有馬に迷惑がかかる。
MEMちょは事務所とは業務提携の形になっている個人事業主とはいえ、問題が起こったら困るのは同じこと。
「ま、今は悩んでも仕方ないよ。とりあえずは現状維持で・・・いざって時は私が何とかするから」
声を潜めるように俺の耳元に顔を寄せて来たかと思うと、そのまま頭の上に手を乗せられた。
「マリちゃんは心配しないでいいから・・・このMEMちょさんに任せておきなっ」
「・・・」
・・・MEMちょはあれだ、ミヤコに似てるな。根っこからにじみ出る良い人オーラが隠せていない。
今は事務所間の壁があるせいで思うように動けないが、機会があればすぐに黒川のために行動するだろう。
「(とは言ったものの、私もこういう番組に出演するのは初めてだしなぁ。今の役割こなすので結構いっぱいいっぱいというか・・・年長者の私が何とかしないといけないのはわかってるんだけど・・・)」
とうとう『今ガチ』は終盤に突入し、それと同時に黒川は積極的な動きを見せるようになった。
・・・黒川がやろうとしていることは何となくわかる。
最近はよくノブユキとの絡みを増やそうと積極的に動きつつある。恐らくはあの3人の三角関係にうまく介入して、自分の出番を増やそうとしているんだろう。
いわゆる悪女ムーブというやつだ・・・たぶん。
たぶん、と言ったのは黒川のやり方が中途半端なせいだ。
ゆきの前から強引にノブユキを連れ出したかと思えば、その後は消極的な会話しかしないから何にも盛り上がらない。
ノブユキに対して本気の好意を見せるゆきに対し、黒川のそれは完全に仕事でやっていることがわかってしまう態度なのもよろしくない。
やるならもっと本気でやらないと・・・中途半端なやり方だから視聴者からもただの邪魔者扱いされてしまっている。
先週と今週は黒川のせいで現場も微妙な空気になってしまい、他メンバーでフォローするのが大変だった。
黒川は焦っているんだろう。
休憩中はいつも思いつめた顔をしているし、この前も、どうにか目立って結果を残したいと言っていた。
黒川も事情はあるんだろうが、やり方があまりにも・・・
・・・いや、当然か。
黒川は前世の俺が17歳の頃よりずっとしっかりしているが、それでもまだ子供だ。
いかに天才とはいえ、判断を間違えることもあれば、焦って失敗してしまうこともある。周りの大人が気にかけてやらないと・・・それこそ有馬のようになってしまう。
しかし、番組側は黒川を守るどころか、盛り上げるために徹底的に利用するつもりのようだ。
そもそもの話、黒川がこういう行動に出た原因はディレクターだろう。
アドバイスをよく聞いてくれる黒川を利用し、番組側に都合のいいように操っている。
結局黒川の性格が合わないせいで悪女路線は失敗しているように見えるが、このままいけば追い詰められた黒川が何か問題を起こす可能性がある。
そうすれば、良くも悪くも番組は盛り上がる。
視聴者から番組側が叩かれる可能性があるが、放送内容をうまく編集してヘイトを黒川に向ければ、番組側のダメージは極力減らせる。
・・・それにしたってリスクが大きすぎるように思えるが。
これで黒川が潰れるようなことがあれば、演劇界隈からの番組関係者に対するイメージは最悪なものになるだろう。
『今ガチ』を担当しているディレクターは今年で35歳。
年齢的にそろそろプロデューサーに昇格してもおかしくないし、功績を上げるために焦っている・・・と言ったところか?
俺が鏑木Pから受けた依頼を考慮すれば、ここは見過ごすという選択をしてもいいはず・・・
ルビーは黒川を見捨てた俺をどう思うだろうか・・・
ただでさえ、かつてSNSやネットからのアイに対する好き勝手な物言いを見て、嫌悪感を抱いているのに。
もしも、黒川を俺が見捨てた事実をルビーが知ったら・・・
「どうしたんだい?一対一で話したいなんて・・・何か問題でもあったかな?」
午前の収録が終わった後、俺は校舎裏に呼び出したディレクターと一対一で対峙していた。
本来なら俺の立場で呼び出しなんて何様だって感じだが、お互い鏑木Pの指示で動いている人間。一応は協力関係にある立場だ。向こうも無碍には出来ないと踏んだ。
いつもと変わらぬ様子のディレクターに対し、俺は直球で話題を切り出すことにした。
「提案したいことがあってお呼びしました」
「提案?」
黒川を助けるため・・・なんて綺麗な理由ではない。
これからする提案は、俺自身の身勝手な理由で黒川を利用するためのもの。
「今、Dがあかねさんを利用してやっていることよりも、ずっとずっと番組が盛り上がる・・・そんな提案ですよ」
ルビーに嫌われないように、鏑木Pの依頼を達成するために・・・
「番組側のリスクは極力低く、それでいて世間から大きな注目を集めることが出来る。きっと鏑木さんも喜ぶし、演出した番組側のスタッフは高い評価を受けるでしょうね」
俺の提案を聞いて、怪訝な表情を見せながらDが聞き返してくる。
「・・・そんなうまい話があるとは思えないけどね。あかねちゃんを利用してるってことはわかってるみたいだし、鏑木さんから聞いた通り、君が番組側の人間だってことはわかったけど・・・まぁいい、話だけは聞いておこう」
俺はディレクターが話に食いついたことを確信し、提案の詳細な内容を話し始めた。
一人の少女の心を弄び利用する、最低なその提案を───
───今週の収録が終わってから、俺は家に帰って自室でこれからのことを考えていた。
・・・提案は何とかディレクターに承諾を貰うことが出来た。
まぁ、そもそもこの提案は先に鏑木Pに通してあるものだ。番組プロデューサーが承諾している以上、ディレクターである彼が拒否することは難しい。
とはいえ、これを実行するには番組スタッフの協力が必要だ。特に出だしは。
きちんと話し合って、協力体制を整えておく必要があった。
これから番組は大きく荒れるだろう。
他の『今ガチ』メンバーの行動にも大きく影響を与えてしまうし、俺自身、私生活でも苦労することになるだろう。学校のクラスメイトからの反応が怖いし、ルビーとミヤコにもなんて言われるか・・・
有馬は別にいい。
あいつは感情に訴えかけておけば何とでもなる。
さて、今回で一番大変なのは黒川だ。
フォローは考えてあるとはいえ、彼女には多大な迷惑をかけてしまう。
その分、せめて今の俺に出来る全力で計画を遂行させてもらうことにしよう。
引き出しの鍵を開けてから例のノートを取り出す。
俺がやろうとしているのは、言ってみれば自己暗示のようなものだ。
このノートに書いたことが俺にすぐ反映されるわけではない。ただ、このノートに新たな設定を書き込むことは、俺にとっては一種の儀式のようなもの・・・トリガーなのだ。
設定を自分に信じ込ませる。
心と記憶に嘘を張り付ける。
そうすれば、自分の感情すら思いのままに操ることが出来る。
・・・もちろん、リスクもある。
一度作った設定は簡単には消せない。ノートからその1文を消したとしても、俺の中からその設定・・・新たな感情や思いはすぐには消えない。
長期間続ければ、嘘と真実の境があやふやになって、作り上げた設定を本当だと思い込むようになってしまう。
だが、番組視聴者にやらせだと思わせないため。そして黒川は当然のこと、周りの全ての人間に演技を見破られないようにするにはこれしかない。
なにせ、演技であって演技じゃないんだ。
この設定が活きている間は、俺にとってはこの嘘が真実になる。
俺自身が信じ込んでいる以上、他人が見破ることは出来ない。絶対に。
また、俺が俺じゃない誰かになっていく。
今の
雨宮吾郎か?星野アクアか?
男か?女か?
大人か?子供か?
自分の認識がどんどん曖昧になっていく。
・・・でも大丈夫。
この想いさえ残っていれば、
・星野愛久愛海
仮面は鋼、心は豆腐で出来ている。
妹のためなら他人をいくらでも利用するし、その覚悟はある。でも良心が痛んじゃって毎度毎度メンタルがやられている。
同性である分、収録外でもそれなりにあかねちゃんと親しくなったので、あかねちゃんがヤバそうな状態なのを察することが出来た。普通に見過ごせなくて何とかしようとしている。
助けるんじゃなくて利用するだけなんだからねっ、と内心でツンデレやってる面倒くさい人。
実際、あかねちゃんはこれからアクアちゃんに振り回されることになるので、ごめんなさいしなければならない。
もしかしたらこの作品で一番苦労するのはあかねちゃんかもしれません。
ぶっちゃけあかねちゃんがヒーローでアクアちゃんがヒロインのポジションの方が合ってるかも・・・