アクアちゃん曇らせ   作:ヤンデレ好き

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感想・評価ありがとうございます。
今回でアクアちゃん視点の恋愛リアリティショー編は終わりです。

~前回のあらすじ~

アクアちゃんの連続攻撃!
あかねちゃんに合計で100のダメージ!

あかねちゃんの反撃!
アクアちゃんに9999のダメージ!

アクアちゃんの食いしばりが発動した!
アクアちゃんは体力が1になった!
アクアちゃんは正気度が下がった!

大体こんな感じです。


アクアちゃん曇らせ:その6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『せんせ・・・』

 

君は・・・・・・

 

『ママが死んじゃったの・・・』

 

その名の通り、綺麗な紅玉のような瞳から真っ赤な血の涙を流しながら、少女は俺に問いかけて来る。

 

『せんせ・・・どうしてママを助けてくれなかったの?』

 

姿はルビーだったが、その声はさりなちゃんのものだった。二人の姿が、声が重なる・・・頭がおかしくなりそうだ。

 

『わかっているのか?この状況を作り出したのは誰か・・・誰のせいでこんなことになってしまったのか』

 

背後から聞こえるのは、前世の自分の声だった。

怒りと憎悪を滲ませたその声は、聞いているだけで恐怖の感情を煽られる凄味がある。

 

『アイが死んだのはお前のせいなんだよ・・・お前が油断しなければ・・・お前が身代わりになってさえいれば、こんなことにはならなかったんだ・・・!』

 

わかってる・・・全部俺のせいなんだ。わかってるんだよ・・・だからお願いだ・・・もうこれ以上は・・・

 

『アクア』

 

聞こえるはずのないその声に顔をあげれば、そこには最愛の女性がいた。

 

『アクア』

 

特徴的な輝きを宿した瞳・・・しかしその体は、その身から流れたであろう血で真っ赤に染まっていた。

 

『愛してる・・・』

 

あ、あぁ・・・・・・

 

最期の言葉を残し、力なく崩れ落ちる。

瞳からは輝きが失われ、真っ暗で虚ろな瞳を俺に向けていた。

 

ごめん・・・ごめんなさい・・・

 

生気を失い、冷たくなったその人の体に縋り付きながら、俺はただひたすらに同じ言葉を繰り返した。

 

 

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい───』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───っあ・・・はぁ、はぁ、うぐ・・・!」

 

 

胃の中のものをありったけ吐き出す。

もともと空っぽに近い状態だったせいか、ほとんど胃液しか出てこない。

 

俺は一人で収録現場を抜け出し、少し遠いところにある駐車場の公衆トイレに来ていた。

来た際に周囲に人がいないことは確認済みだし、現場から俺以外のメンバーやスタッフは来ていなかった。

 

 

想定外だった。まさかあかねの演技があれほどのものだったとは・・・

 

先ほどのあかねからは、俺の記憶にある『星野アイ』そのものの存在を感じた。

姿も声も違うのに、立ち居振る舞いや雰囲気がアイとまったく同じだったのだ。思わずアイが生き返ったかのように感じるほどの完璧な模倣、再現。

 

 

ここ数年は安定していたのに・・・

映像や写真に残るアイを見ても、ここまで酷くなることはなかった。

 

 

だが、あれはダメだ。

 

 

あかねからアイの存在を感じ取り・・・どうしようもなく昔を思い出してしまう。

もちろん良い思い出はたくさんある。けれど、俺の中にある罪の意識が、それらを全て黒い感情で塗りつぶしてしまう。

 

堪えられない吐き気、強烈な頭痛で朦朧とする意識、心臓は今にも破裂しそうなくらいの痛みを訴えていた。

 

 

どうにか症状が治まりつつあるため、個室を出て洗面台に向かい、自販機で買ったミネラルウォーターで口をゆすぐ。

 

 

俺は先ほど、アイを演じるあかねを前にしてこのままではまずいと直感的に判断した。最後の力を振り絞り、憧れの人を前にして照れたふりをして現場から走り去ったのだ。

 

追ってこないところを見るに、あかね達は何とか騙せたと思う。ディレクターは俺の行動に基本的に口出ししないし、今回も演出の一つと判断するだろう。

 

とはいえ、あまり長々と席を外すことは出来ない。

休憩まではまだまだ時間がある・・・なにせ収録は始まったばかりだ。

 

 

素直に体調不良を伝えて今日は休む・・・というのは出来ない。

このタイミングだと、あかねの演技がきっかけであることを察せられてしまうかもしれない。せっかくやる気を出して来たあかねのモチベーションを下げてしまう可能性がある。

 

そもそも今の状態で家には帰れない。帰るまでに治ればいいが、そうでなければルビーに知られてしまう。それだけは避けたかった。

 

 

・・・こんな事態になったのは俺のせいだ。

俺があかねを追い詰め、アイのことを伝えてしまったのが全ての原因。あかねにも他の皆にも非は一切ない。

アイを思い出して体調を崩してしまうのは、俺の心が弱いから・・・何もかも俺の・・・

 

 

だったら、ここは逃げてはいけない。

これはきっと、アイを救うことが出来ず、復讐からも逃げ、ルビーに嘘をつき続けている俺への罰なんだ。そうに違いない。

 

そう考えれば、あかねに会えたのは幸運だったのだろう。

罪深い俺を罰してくれる・・・もしかしたら、死んだアイが俺たちが出会うように導いてくれたのかもしれないな。

 

 

息を整えつつ顔をあげると、鏡に映った自分の顔が見えた。

顔色は青白く、目は虚ろで、今にも死んでしまいそうな病人のような、酷い顔だった。

 

 

違う・・・こんなのは俺じゃ・・・『星野アクア()』じゃない。

 

星野アクア()』はこんなに弱い人間じゃないんだ。辛い過去だって乗り越えて、いつだって妹の手本になるような人間でなければならない。

 

 

隠さなければ・・・こんな姿を他人に見せてはいけない。

 

母さんを失った悲しみも、黒幕への憎悪も・・・・・・何より、不甲斐ない自分自身への怒りも。

 

 

全てを隠し、全てを騙す。

 

あかね達、視聴者、収録スタッフ・・・

 

母親代わりであるミヤコも、自分の命よりも大切なルビーも・・・

 

 

 

自分自身さえ・・・・・・

 

 

 

 

 

ギシギシ・・・と。

心の奥底から響く、軋むような音に聞こえないふりをして・・・

 

()は、演技に意識を集中させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

夜の街を一人でふらふらと、自宅へ向けて足を動かしていた。

頭の中が霞がかったようにぼんやりとする・・・最近は収録を終えるといつもこうなる。

 

 

あれからも、収録は何とかうまくいっている。

 

あかねのキャラ付けに対しての視聴者の反応は、概ね悪くないものだった。

番組側の演出のおかげもあるし、俺があかねに合わせて受けに回ったのも良かったのだろう。

 

年下の後輩に攻められていた状態から、今度は立場が逆転して年上の先輩が攻める方になったわけだ。

受けに回った俺が満更でもない態度をとるし、あかねの方は今までとは違ってテレビ映えするような明るさを見せるようになった。

 

・・・テコ入れとか、やらせとか言う声は少なからずあったが、そういった反応はある程度は覚悟していたことだ。甘んじて受け入れるしかあるまい。

幸い、鏑木Pやディレクターは今の状況でも問題ないという判断を下したし、このまま最後まで突っ走るしかないだろう。

 

 

人ごみを縫うように歩きながら、いまいち働きが鈍い頭で考える。

収録はもうすぐ終わるからいいとして・・・最近の新たな問題はルビーだろうか。

 

俺が『今ガチ』であかねと絡むようになってから、ルビーは俺に対して素っ気ない態度をとるようになった。あからさまに嫌われてるとかじゃなけど、そういう態度は正直寂しい、というか悲しい。

 

演技であることは伝えたはずだが・・・やはり同性と恋愛関係を構築している姉に対して思うところがあるのだろうか。

 

もしも、番組が終わった後もルビーとの関係がこのままだったら・・・そう考えるだけで気分が落ち込む。

 

 

 

何とかいい方法はないかと考えながら歩いていると───

 

 

 

ドン、と。

 

衝撃を感じると同時に、俺の視界は斜めに傾いていた。

 

 

体感時間が引き延ばされ、目に映る景色が全てスローに流れていく。

 

衝撃は・・・左からだった。

恐らく誰かにぶつかったか、しかし、それにしては勢いが強すぎる。これではまるで・・・

 

いや、今はそれよりも倒れた後のことを考えなければ。

受け身は・・・何とか間に合うか?しかし・・・

 

俺は今しがた、前方からやって来た人の群れを避けるために、歩道の中で車道寄りの場所を歩いていた。

その状態で、横方向に強い勢いで倒れかかっているのだ。

 

つまり、俺はこれから車道に飛び出してしまうわけだ。

 

もし、もしも俺が倒れ込んだタイミングで、車が来てしまったら・・・

 

 

 

「危ない!」

「っ!」

 

俺が最悪の事態に身を強張らせた瞬間、後ろから誰かに抱えられるようにして体を引き戻された。

 

「大丈夫ですか!?」

 

助かった・・・のか。

 

背後から聞こえる声は男性のものだ。俺を引き戻した状態のままだから、今はその男性に半ば後ろから抱きしめられているような状態になっている。

 

「あ、す、すいませんっ」

「・・・」

 

傍から見た場合の態勢がマズいことに気づいたのか、男性が慌てて俺の体を離した。

声に何となく聞き覚えがあった俺は、振り向いて男性の顔を確認する。

 

「どうも・・・」

「えぇと・・・どうも、お久しぶりです・・・」

 

そこにいたのは、いつぞや公園で声をかけて来た男性・・・俺のファンだと名乗る人だった。

 

 

 

 

 

「なるほど、妹さんが・・・」

「えぇ・・・原因が私にあるのはわかっているんですけど。あの年頃の女の子は中々扱いが難しくて」

「いやいや、アクアさん双子なんですから同い年でしょうに・・・」

 

まさかの再会を果たした俺たちは、談笑しながら並んで歩道を歩いていた。

 

 

最初に会話を始めた時は、俺の最近の活躍について以前のようにマシンガントークをかましてきた。が、ある程度満足したのか、今は比較的落ち着いた感じで俺の話を聞いてくれている。

 

仕事のこともプライベートのことも、部外者に話すのはあまりよくないんだが・・・まぁ仕事の情報は話せる範囲だけだし、プライベートのことは、むしろ何も知らない赤の他人の方が話しやすいこともあった。

 

それに・・・以前会った時もそうだったが、何だかこの人には親近感がわくんだよな。

理由はよくわからないが、肩肘張らずに話せるからストレスを感じないのが原因かもしれない。

前世の頃に出会っていたら、推しについて互いに熱く語り合える関係になれたかもな。

 

まぁ、この人の推しは転生した俺自身なんだが。

自分が推される立場になるとは、何とも言えない気分である。

 

 

妹の様子が最近おかしいこと、それに対する対応について悩んでいることを俺が伝えると、少し考え込んだ後に彼は口を開いた。

 

「う~ん・・・ボクは一人っ子だから想像するのは難しいんですが・・・やっぱり、嫉妬じゃないですかね」

「嫉妬・・・ですか?」

「えぇ。妹さんにとっては、大好きなお姉さんが他人に取られそうで嫉妬している・・・というよりは、危機感を抱いている、といったところじゃないでしょうか」

 

危機感、ね。

俺も前世では一人っ子だったからな。親しい兄弟姉妹が他人と仲良くしていることに危機感を抱く、というのはいまいち想像が出来ない。

 

首を捻る俺を見て理解が出来ていないと思ったのか、彼はさらに説明を続けた。

 

「そうですね・・・ほら、想像してみてください。妹さんがある日突然、好きな人が出来たと言ってくるんです。この際、性別はどちらでも構いません。そして、家族で一緒に過ごす時間がどんどん減っていきます・・・しかも、その時間に妹さんは相手の方と一緒に過ごして───」

「わかりました。わかりましたからその例え話はもうやめてください」

「あ、はい」

 

彼の例え話を聞きながら、実際にその状況になった場面を想像してみると・・・駄目だ、とても耐えられそうにない。

 

相手が同性なら許せ・・・いや許せねぇわ。

ルビーは俺の妹だぞ!男だろうが女だろうが、そう易々とくれてやるわけにはいかない・・・!!

 

 

ルビーを任せるなら、俺が提示する条件をクリアしてもらわないとな。

 

まずはルビーをサポート出来る能力を持ってるのが前提条件だ。

料理上手で栄養管理もばっちり。家事炊事も完璧にこなし、アイドルとして忙しくなるであろうルビーのスケジュールを把握し、日常生活から仕事までお世話出来る能力。

ルビーに勉強を教えられるくらい頭が良くて、何よりも前世の事情を受け入れてくれる器の広さと理解力がないと。

 

最低でもこれくらいは必要だろう。

これはあくまで最低限の条件だからな。外見とか、財力とか、他にも要求するものを挙げたらきりがない。

 

 

「あの~アクアさん?聞いてますか?」

「っ!すいません・・・何でしたっけ?」

「妹さんへの対応ですよ。やっぱり寂しい思いをしてるでしょうし、ここはきちんと言葉で伝えた方がいいでしょう。たとえ恋人が出来たとしても、自分はどこにも行かない、離れることはないと、はっきりと伝えるべきだと思いますよ。」

 

あぁ、そういえばこの人には『今ガチ』のアレが演技だと伝えてないから、本気で俺とあかねが恋愛してると思ってるのか。

 

「言葉にする・・・」

「そうです。どれほど親しい関係になろうと、相手を大切に想っていようと、言葉にしなければ伝わりませんから・・・当たり前のことですが、だからこそ意識して実践しないと忘れがちになってしまう」

 

きっちり言葉で伝える・・・か。素っ気ない態度をとられていると言っても、一緒に暮らしている以上、会話するタイミングはいくらでもある。俺が弱腰になっていただけで・・・

 

 

・・・よし。

このまま気まずい状態が続くのはルビーにとって良くない影響を与えるかもしれないし、ここは覚悟を決めていくしかないだろう。俺もいい加減、悲しみが限界を突破しそうだし。

 

 

決意を固めていると、スマホの着信音が響いた。

俺のものではないから、恐らく彼のものだろうか。というか、まだ名前すら知らないんだよな。

素性も何も聞いてないし・・・無害な人物だとわかっていたとしても、少し不用心すぎるかもしれない。

 

誰かからメッセージでも来ていたのか、スマホの画面を確認した彼は途端に焦りだした。

 

「うわっ、忘れてた!今日知り合いと飲みに行く約束だったんですよ・・・絶対怒ってるよこれ・・・」

 

予定があったのか。

俺のせいで時間を奪ってしまったようなものだし、さすがに申し訳ないな。

 

「私はもう家も近いし、この辺で大丈夫ですよ。送ってくれてありがとうございました。というか、逆に色々とすみません・・・ご迷惑を」

「あぁいやいや!送ると言い出したのはボクの方ですから・・・それじゃ、またお会いしましょう。アクアさんの活躍、これからも応援してます!では!」

「あ」

 

いや早いって・・・!

最後に名前だけでも聞いておこうとしたのだが、別れの挨拶と共にあっという間に身を翻して駆けて行ってしまった。

切り替えが早いし、ついでに足も速い。それなりに鍛えてはいるが、あれは俺じゃ追いつけないな。

 

・・・仕方ない。

二度あることは三度あるという。次に出会えることに期待して、その時こそは連絡先とか色々と聞くことにしよう。

あとお礼もしないとな。何がいいか考えておかないと。

 

 

 

さてと、あとはルビーだな・・・一応考えはあるが、うまくいくかな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

 

先ほどまで一緒にいたルビーの様子を思い出し、俺はとりあえず危機を脱したことを実感していた。

 

 

素っ気ないルビーへの対応・・・といっても、別に変なことをしたわけじゃない。

 

いわゆる裸の付き合いというやつだ。比喩ではなくその言葉のまま、一緒に風呂に入ったのである。

前世はともかく、今は女同士だし、小学生の時はほとんど毎日一緒に入っていたものだ。けど、中学生になってからは各々の時間が増えたからか頻度は減り、高校生になってからは一度も入ってなかった。

 

・・・今更裸を見たって何とも思わない。

そもそも前世の頃から、さりなちゃんのことは妹のように思っていたし、転生してからは実の妹なのだ。何か思う方がおかしい。

 

 

しかし、やはりこういう時間は必要だな。

最初は少しぎこちなかったものの、しばらくすればいつものルビーに戻ってくれたので、今回の俺の作戦は大成功と言えるだろう。

 

俺自身、ルビーと触れ合っている時間は心が安らぐから、自身のメンタルのためにも今後もこういう時間を設けた方がいいかもしれない。ルビーだって、俺の勘違いじゃなければ嬉しそうにしていたし。

 

 

入浴後はルビーとお互いの髪を乾かしあったり、一緒に入っていたことをミヤコに揶揄われたりしながらも、俺たちはそれぞれの時間を過ごすべく自室へと戻ってきた、というわけだ。

 

 

俺は今、机に向かって参考書とノートを広げている。

これからするのはもちろん高校の勉強だ。前世の分の貯金があるとはいえ、体も頭も使わなければ衰えてしまうもの。毎日の勉強はおろそかには出来ない。

 

アイドルとして忙しくなれば、ルビーは勉強する時間を取れなくなるかもしれない。

 

暇な今の内に勉強させておかないと、あとで苦労することになるだろう。これから定期的に勉強会を開くのもいいか。

 

 

その時には有馬にも手伝ってもらおうか・・・あいつ、学校ではバカっぽく振る舞ってるくせに成績いいみたいだしな。勉強会を通じてルビーと少しでも仲を含めてくれればなお良い。

 

 

 

しばらくすると就寝の時間が迫って来たので、机の上を片付けた後、ベッドの上で横になった。

明かりを消して瞼を閉じる。寝る前に気になっていることを整理しよう。

 

 

 

 

 

一つ目は黒川あかねのこと。

 

彼女の才能については知っていたが、やはり解せない点があった。

一般に知りえる情報だけで、あれほどのアイの再現が出来るとはやはり思えなかったのだ。どうしても気になったので彼女に聞いたのだが・・・あれはアイについてプロファイリングをした結果だという。

 

彼女のプロファイリング能力は相当なものだ。

アイについての空白の部分を、自身の深い考察力で穴埋めし、時に設定を付け足すことによって補完する。

驚愕すべきは、彼女が付け足した設定とやらが真実に到達していたことだ。

しかも、アイが何を考え、何を感じて生きていたのかすらもわかってしまうという。

 

もしかしたら、あかねの能力を使えば俺たちの父親にたどり着けるかもしれない。

 

・・・・・・いや、それはダメだ。

今まで散々利用しておいて、そのうえでプライベートな事情でさらに利用しようなんて・・・しかも、父親の件に関してはあかねには全く関係ないし、突き止めても彼女に利は一切ないのだ。

 

降りかかる身の危険、リスクも想像できないし、何より俺は黒幕であろう父親については出来るだけ刺激しない方向で今までやってきた。

ルビーだけでも守り切れる保証はないのに、あかねまで巻き込んでしまったら、俺のキャパシティを超えてしまう。

 

 

どうせ、あかねとの関係はこの番組が最後だ。

これ以降はあかねとは関わらない。それに、アイを演じる彼女とこれ以上一緒にいたら、俺は・・・・・・

 

 

 

 

 

二つ目はルビーのこと。

 

最近のルビーを見ていると昔と比べて精神的に安定していることがわかるので、俺としては安心出来てほっとしている。

・・・ルビー自身は覚えていないようだが、アイを亡くしてからのルビーは本当に危うい状態だったのだ。

 

本人は夜に起きて泣いてたことがある、くらいしか覚えてないようだが。

 

実際は、夜泣きどころか幼児退行を起こしたり、ルビーとしての記憶を一時的になくして完全にさりなちゃんに戻ったりしていたのだ。短時間で元に戻るし、結果的に今はそういうことは起こらなくなったとはいえ、ミヤコにバレないようにするのは大変だった。

 

 

小学校に入ってからは、前世の母親に会いに行きたいからついてきて、とか言い出して来るし・・・

あの時、ルビーを止めた当時の自分の判断は本当に英断だったと思ってる。

 

さりなちゃんに戻っていた時に住所だけは聞いていたから、あとでこっそり俺一人で様子を見に行ったけど・・・今の天童寺家の様子をルビーに見せることは出来ないと、今でも思う。

 

今後、ルビーがもっと成長して、心身ともに強くなったら・・・その時になっても会いたいというなら会わせてあげてもいいかもしれない。その時はもちろん俺も同行する。

 

 

 

 

 

それにしても、ルビーは本当によく育ってくれたと思う。

 

小さい頃に比べると、前世の諸々に対する執着心が薄れているようだ。まったく気にしていないわけではないけど、アイの娘としての自分を受け入れることが出来ているように俺には思える。

 

大きな問題はやはり・・・アレだな。

 

雨宮吾郎・・・前世の俺に対する想いを捨てさせることは、どうしても出来なかった。

それだけ、ルビーの心の中の奥底に力強く根付いている感情があるのだろう。俺個人としては嬉しいとも感じるけど、前世の俺の存在がルビーを縛り付ける要因になっているのなら申し訳ないとも思う。

 

 

とはいえ、仕方がない面もある。

 

アイのようなアイドルになるという夢と、雨宮吾郎に見つけてもらいたいという願い。

この二つは今のルビーにとっての生きる原動力、あるいは生きる希望と言ってもいい。

強引に捨てさせるのもあまりよくないだろう。

 

 

しかし、アイドルになる夢はともかく、雨宮吾郎に会わせてやることはどうやっても不可能なのだ。

 

 

・・・考えはあるが、それを実行するにはとある物を見つける必要がある・・・しかし今はまだいいだろう。正直俺にとってもかなりリスクが大きいというか、結構な覚悟が必要なことだ。慎重にことを進めなければならない。

 

 

こんなところか。

明日も収録がある。ただでさえ今は体力も精神も消耗している。少しでも休まなければいけない。

 

 

 

 

 

・・・今日、帰る途中で起きた出来事。

俺の気のせいでなければ、あれは明らかに誰かの手によって突き飛ばされたように思う。

意図的に俺を害そうと・・・あるいは殺害しようとしたとしたら・・・そんなことをしようとする奴は・・・?

 

 

あの人が助けてくれなければ、俺の命は今日で終わっていたのかもしれない。

 

 

・・・別に、自分が死ぬのは怖くない。ただ、もしも今日突き飛ばされたのが俺じゃなくルビーだったら・・・そう考えると・・・

 

自分の腕を見る。

細い腕だ。鍛えていようと、所詮は同年代の中では多少運動能力が高い程度のもの。たとえ体格が同じであろうと、男性が相手では筋量の差で相手にはならないだろう。大人の男だったら猶更。

 

俺に・・・今のこんな俺に、ルビーを守ることが出来るのだろうか・・・

 

 

恐怖で震える体を抱きしめながら、俺は瞼を閉じて眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(やっとか・・・)」

 

 

『今ガチ』の収録最終日。

俺たちは夜のお台場海浜公園に集まり、最後の収録に臨んでいた。

 

 

はっきり言うが・・・俺はもう限界だった。

視線の先では、ノブが手に赤い薔薇の花束を持ち、ゆきに告白している様子が見える。

 

 

 

『ファンのこと蔑ろにして、裏ではずっとバカにしてたんだろ!この噓吐きが!!』

 

 

 

「っ!」

「お?マリちゃんどうしたの?」

 

脳裏にかつての記憶がよぎって、俺は思わず頭を抑える。

不思議に思ったのか、隣にいたMEMちょが話しかけて来た。

 

「ちょっと風で髪型が・・・」

「ん、見してみー?・・・うーん、大丈夫じゃないかな。心配だったらスタッフさん呼んでこよっか?」

「いえ、たぶん大丈夫です」

 

あのストーカー野郎は、確か、白い花束を持っていたんだったか・・・花束を見ただけでフラッシュバックが起きるなんて・・・

 

今は風で髪型が気になって抑えた、ように誤魔化せたが、明らかに過敏になっている。

何とか騙し騙しここまで来れたが、もう限界が近づいているのがわかってしまう。

 

・・・今日が最後で本当に良かった。

俺は安堵で緩みそうになる気を引き締めながら、次に告白を始めたケンゴとMEMちょを眺める。

 

 

残念ながら、今回の『今ガチ』ではどの組もカップル不成立で終わるだろう。

ゆきとノブは互いに本気で恋愛しているようだったが、どうやら番組上では付き合わない方針で行くらしい。視聴者的には結構衝撃かもしれない。

・・・もしかしたら裏で付き合うのかもしれないな。

 

MEMちょとケンゴは完全に仕事だ。

今もケンゴがギターで弾き語りしながら告白しているが、完全に形式上のもの。視聴者もこの二人が結ばれることはないと予想している人が大半だったしな。

 

俺とあかねは・・・っと、そろそろ行かないと。

スタッフが指し示す場所へ向かい、後から来るあかねを待ちながら俺は深呼吸して気を落ち着かせる。

 

 

俺とあかねも、当初の予定通りカップルになることはない。

告白がどちらからとか、返事はどうするとか、そういう打ち合わせをしているわけではないが・・・順当に考えれば、先にアプローチを始めた俺の方からになるだろう。そしてあかねが告白を受け入れることはない。

 

あかねとは仲良くなれたが、やはり俺たちの関係は友人止まり。あかねにその気がない以上、俺からの一方的な好意だけでは今以上の関係に発展することはありえない。

あとは、あかねがどう振るかだが・・・今なら特に心配はないだろう。少し前のような焦りからくる暴走は鳴りを潜め、今のあかねは天才女優らしく余裕のある振る舞いをしている。アイの演技をしているせいもあるのだろうが。

 

 

・・・考え事をしながら夜景を眺めていると、一人分の足音が近づいて来て・・・俺のすぐ傍で止まった。

俺は事前に考えていた告白のセリフをもう一度頭の中で復唱したあと、隣にいる人物へゆっくりと体を向ける。

 

そこには、俺と同じように柵に手をつき、夜景を眺める少女の姿があった。

 

黒川あかね・・・最初に会った頃はこんなことになるとは思っていなかった。

彼女には本当に苦労させられたが、そもそもの原因は俺が仕掛けたことだからな。俺には彼女を責める権利なんてないし、なんならあかねの方が俺を責める権利を持っている。

 

今日の収録が終わったら、好き勝手したことを改めて謝罪した方がいいかもな。

 

俺はあかねの顔を見つめ、さっそく告白を始めようとする。

 

「あかねさん」

「・・・」

 

あかねは今、アイの演技をしていないようだ。これなら俺も普段通り・・・・・・!?

 

言葉を続けようとしたのに、突然の痛みに胸を抑えてしまう。

な、なんで・・・あかねはアイの演技をしていないのに・・・!

 

「わ、私は・・・!私・・・!」

 

くそっ、体が言う事をきかない・・・!声が出ない・・・!!

 

まるで自分の体ではないかのように、俺は自分の体のコントロールを失ってしまった。

 

「(こ、このままじゃ・・・もしもここで倒れるようなことがあったら・・・)」

 

俺が体調不良で倒れたとなれば、確実にミヤコに連絡がいくだろう。

そのままルビーに知られるようなことになったら・・・きっと不安にさせてしまう。

 

気を落ち着けようとするが、必死の努力も空しく体調は悪化するばかりだった。

涙まで流れてしまう・・・何とか顔を下に向けるが、地面に落ちる涙の跡は誤魔化せない。

 

 

何も話さなくなった俺を不審に思ったのか、収録スタッフがざわついている様子が感じられる。

 

 

いよいよ意識が薄れてきて、これは万事休すかと思った。その時───

 

 

俯いていた俺の顎に指が添えられ、そのまま顔が上に向けられた。

 

「アクア」

「・・・あ、かね・・・」

 

指の主はあかねだった。

片手で俺の顔を固定し、もう片方の手はいつの間にか俺の腰に回され、互いの体が密着している状態になっている。

 

涙でぼやける視界の中、辛うじてあかねの顔が近づいて来るのが理解できる。

 

・・・そんなはずはない。

まさか、俺の調子が悪いことを察して、フォローするつもりなのか?だが、今あかねがやろうとしていることは・・・それは・・・それだけは・・・・・・

 

動揺しつつも、体が動かない俺に成すすべはなく・・・

 

 

唇に感じる柔らかな感触と共に、俺の意識は闇に沈んでいった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『今ガチ』、評判良いよ。やっぱり、君を使った俺の目は間違ってなかったかな?」

 

 

収録を終えてから数日後、俺は『今ガチ』の打ち上げに参加していた。

今は鏑木Pと共に抜け出して、今回の依頼内容の達成度について話を聞いていた。

 

「どうですかね・・・結局、同性愛というセンシティブな話題を扱った点について評価している声が多いし、番組そのものの評価は、良くて80点と言ったところですけど」

 

はっきりと言ってしまうが、今回の『今ガチ』の評価は歴代の恋愛リアリティショーの中でも突出したものではない。低いわけはないが、そこそこの域を出ることはなかった。

 

話題性ならトップクラスだが、逆に言えばそれ以外は割と普通。新たな層からの人気を得たが、同性愛を嫌う人、望んだ展開じゃなかったという理由で低評価にする人も少なくなかったのだ。

 

 

俺のぶっちゃけた言葉に対し、鏑木Pは機嫌を損ねることなく、むしろ少し上機嫌な様子で言葉を返した。

 

「いいよいいよ。前にも言っただろう?俺が求めているのは話題性なのさ。俺が選んだ若手の顔が広まるならそれでよし。もっとも、今回は『今日あま』の時より評価も重要だったけど・・・そこは及第点ってところかな」

「では、依頼については・・・」

「そうだね・・・達成だよ。君は俺の依頼を遂行してくれた・・・もちろん、報酬も支払わせてもらうよ」

 

よかった・・・正直、今回はイレギュラーなことが多い内容だったから、結果はともかくやり方や過程に文句を言われないかと不安だったのだ。

しかし依頼達成と判断された。とりあえずは一安心といったところか。

 

「報酬については、今度時間がある時に話そう。君からの要望はもちろん聞くつもりだけど、俺からも提案したいことがあってね。期待して待っていてくれ」

「わかりました。しばらくは仕事もありませんし、予定は空けておきます」

 

 

 

 

 

鏑木Pとの話を終えると、俺はゆきたちに呼び出されて会場に戻ることになった・・・のだが。

 

「・・・」

「・・・」

 

皆が気を遣ったのか、俺はあかねと二人きりの状況にさせられていた。

二人とも黙ったまま数分が経過しており、場には何とも言えない空気が流れている。

 

 

収録最後の日。

あの日のことはよく覚えていない。どのように収録を終えたのかも、どうやって自宅に帰ったのかも、俺の記憶は朧気で・・・・・・いや、違う。正確には覚えてはいるのだ。

 

ただ、自分がその時どうしてそういう行動をとったのか、何を考えて動いていたのかが思い出せなかった。俺の記憶にあるのは、自分がどう動いて、その結果何が起きたのか、ただそれだけだった。

 

・・・自分が自分でなくなるような、何とも気味の悪い体験だった。

しかし、そこに俺の意識がなかったとはいえ、『星野アクア()』が行動した結果ならば俺が自分で責任をとらなければならない。自分であることに変わりはないのだから。

 

 

収録は問題なく終わったのだ。

俺は体調不良で倒れるようなこともなかったし・・・ただ、俺とあかねのカップルが成立したという想定外を除けば、問題はなかったといえるだろう。

 

あかねには真意を聞かなければならない。

俺の調子が崩れたことを見抜き、フォローしようとした結果なのか。それとも本当に・・・

 

 

俺が口を開こうとするより一瞬早く、あかねの方が話を始めた。

 

「アクアは・・・本当は私のことどう思ってるの?やっぱり全部演技で・・・番組のために、ただのお仕事としてやっていたの?」

 

・・・もう収録は終わったんだし、隠す必要はないだろう。

俺は演技でやっていたこと、同時に騙していたことを謝罪しようとする・・・だが。

 

「・・・それ、は・・・」

「うん」

 

まただ・・・体が思うように動いてくれない。

何かがおかしい・・・やはり、あかねがアイの演技を始めた、あの日が発端か・・・?

 

「アクア・・・?」

 

返事が来ないことを不思議に思ったのか、あかねが覗き込むようにして俺の顔を見つめて来る。

俺は思い切り拳を握りしめ、食い込む爪の痛みで正気を保ちながら重い口を開いた。

 

「演技、ですよ。全部・・・」

「・・・そっか」

「すみませんでした、本当に。散々振り回してしまって」

 

怒るか、呆れるか。一発叩かれるくらいは覚悟しないといけないか。

しかし、俺の予想に反して、あかねは奇妙なくらい静かな雰囲気を纏ったままだった。俺の言う事を予想していたのだろうか。

 

「今は、それでいいや」

「え?」

「私はアクアのこと、好きだよ?って言っても、これが人としての純粋な好意なのか、それとも恋愛感情なのか・・・まだわかってないんだけどね」

「・・・」

「でも、アクアと一緒にいたい、もっと仲良くなりたいって思ってるのは本当・・・少なくともキス出来るくらいには好きだと思ってる・・・だからさ」

 

こちらを見つめるあかねの顔は、初めて会った時とは違う、どこか垢抜けた感じの・・・大人の女性の顔をしていた。

・・・こういう顔は前世でも何度か見たことがあるからわかる。これは多分・・・いやしかし、言ってることが本当ならまだ自覚はないのだろう。まさかこんなことが・・・

 

「あれが放送されるのは決まってるんだし、私たちはこれからお仕事で交際するわけでしょ?」

「え、えぇ・・・そうですね・・・」

 

俺があかねの反応に動揺している間も、どこか余裕を持った態度を崩さずに話を続けた。

 

「ふふ・・・じゃあ、これからもよろしくね。あ、お仕事以前に私たちは友達なんだから、一緒に遊びに行ったり、ご飯食べに行ったりしても全然不思議じゃないよね。そうだ!今度うちに来ない?お母さんも会ってみたいって言ってたんだよね・・・昔はもう一人娘が欲しいって言ってたから、アクアのことは歓迎してくれると思うの。どうかな?」

「あっはい」

 

そこに、かつての初々しい少女の姿はなかった。

怒涛の勢いで話しつつ体の距離を詰めて来るあかねに、俺は辛うじて相槌を打ち続けた。

 

・・・これは一時の気の迷いだ。そうに決まってる。

あかねは恋愛感情と友達に向ける好意を履き違えているだけなのだ。俺なんかにそんな感情を抱く人間がいるはずがない。

 

心のどこかで、あかねの好意を嬉しく感じている自分がいたことに、俺は気づかないふりをした。

 

 

「(アクア・・・私は演技だなんて思ってないからね。さっきの時も、告白の時だって、アクアはあんなに苦しそうに・・・いつか必ず、アクアから本当の気持ちを引き出して見せる。その時は私も・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・星野愛久愛海
 いっぱいごめんなさいした。しにそう。
因果応報、自業自得なので仕方ない。
自罰的な性格に加えて、常に自分の存在を否定し続けているから破滅願望も持ってます。なので自分から進んで地獄を作り出すし、その中で苦しみ続けます。
一応、苦しみから解放されたいという願いもあるにはある。多分叶うことはないけど。

あかねちゃんから致命的な一撃を貰ったので、精神が取り返しのつかない状態になりました。
永続&解除不可のデバフと毒ダメージ喰らってる感じです。


・黒川あかね
 なろう系チートみたいな能力持ってる人。私、また何かやっちゃいました?
アクアちゃんへは友達としての好意と恋愛的な好意、その他諸々が混ざった複雑なもの。初手のアクアちゃんのムーブが原因と思われる。

カウンターパンチでアクアちゃんを瀕死の状態に追い込んだけど、アクアちゃんの精神を治そうとするなら荒療治は必要なので、ある意味では最善の一手だった。

問題があるとするなら、治療の負荷と時間経過で先にアクアちゃんの心が完全に壊れてしまうということ。


・カミキヒカル
 アクアちゃんを助けてくれた超いい人にして黒幕。
タイミングが良すぎるって?まさかマッチポンプだなんてそんなはず・・・


・星野瑠美衣
 脳が壊れる。


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