逆行カネキケンと半人間 作:イートイン
後半ちょっと口調が柔らかくなってるのは信じ始めているからです。
「状況は、飲み込めたか?」
紆余曲折あり金木を落ち着かせることに成功した、とは言うもののこれに関しては本当に苦労したのだと述べておこう。
『有馬貴将』『あんていく』などなど彼のうわ言は彼自身が何者かを示すものだった、とは言っても確信したのは彼が赫子を出した時だが。
そこまではいい、問題は彼が目覚めてから。
「……信じられない、としか言いようがないですよ」
彼の異常にも思えるほどの警戒を解き混乱を収めることは簡単であった、などとは口が裂けても言えない。
初めはまともにみえた彼は、瞬く間に暴走し始めた。
赫子による攻撃を受け流し、徒手空拳で彼の蹴りを対処し、挙げ句の果てには噛みつきを防御しなければならなかった。
その後、正気に戻った彼にとある言葉を告げた。真実を見せた。
クインケを手放し、赫子の前まで歩み寄り、更にはカップをシャッフルして先にコーヒーを飲むまでした。
それでもまだコーヒーは飲んでくれないし、警戒されているのには変わりない。
だが少なくとも会話できる状態まで持っていけただけで十分だ、とりあえずはそう思っておこう。
「まあ、無理もない。自分がタイムスリップしたなんて事実、そう簡単に受け止められる方がどうかしている」
そう、俺が伝えたことはただ一つ。
今が2012年であること、ただそれだけだ。
ただし、あらゆる手を使っての話だが。
「だけど、あそこまで証拠を見せられたら信じるしかない」
噛み締めるように彼は言う。
パソコンによる検索を、TVの報道を、ケータイの日時を、全てを彼に見せた。
そこでようやく、彼は赫子を引っ込めてくれたし会話する気になってくれたのだ。
「君が死にかけた梟討伐作戦も、君の喰種化も、リゼの鉄骨事件も、何一つ起きていないんだ。あんていくは今も通常営業、急ぐ必要なんて何処にもありはしない。ゆるりと話していこうか。なんならバラエティを見ながらでもいい」
張彼一人の影響で張り詰めた空気を緩和するため、俺は少しばかりふざけた。
「質問が幾つかあります」
無視された、失敗だ。
「なんだい」
「僕がタイムスリップをした、これはもう疑いようがありません。でも、だとしたら何故あなたは未来の出来事を?」
何故知っているのかと問う疑惑の目、それは確かにこちらにプレッシャーを与えるものではあるが、先程の殺意と暴威のこもった目に比べればなんてことのないものだ。
あんていくという喫茶店の住人が無事だということがわかり、彼も落ち着いたのだろう。
タイムスリップ前のあんていくとこの時代のあんていくが同一なのか別物なのか、なんてところまではまだ思い至っていないようだ。
もしくは目を逸らしているか、心を読めるわけでもない俺にはわからない。
「もっともな疑問だ。そうだな……なんて答えればよいか」
ここで『俺は東京喰種という漫画を読んだ転生者です』と答えるのはどうだろうか。
考えるまでもなくそれは悪手である、考え得る限り最悪の手だ。
これまでの彼の努力を前世では娯楽として楽しんでいた、なんてことを言えるわけが無いだろう。
この世界に生まれてすぐなら言えたかもしれないが、喰種の苦しみを知ってしまった今では口が裂けてもそんな馬鹿げたことは言えない。
ならばどうするか。
「前世という荒唐無稽な戯言を言うのもなんだが、私は二度目の人生を歩んでいる。読書好きな君なら読んだことはあるんじゃ無いか?主人公が転生する小説とかさ、だいたいあんな感じだよ」
「どうしてそんなところまで……」
「それも説明しよう。私の前世というのはこれよりだいぶ先の未来なのだ。とはいっても数百年後のSFチックな世界ってわけじゃない、
「喰種と人が……⁉︎」
「そして、死んだ。そしたら過去の世界に生まれてたってわけだよ。答えはこれでいいかな?」
喰種と人、捕食者と被捕食者、狩るものと狩られるもの、決して混じり合うことのない種族。
それは手を取り合うなんてありえない、それがこの世界の人間の共通認識だ。
喰種だってそれは同じ、人間と共存できるなんて雨粒程も考えてはいないだろう。
「……色々と信じられないことが増えましたけど、だとしたらおかしいじゃないですか」
「何がだい?」
「僕はさっきまで有馬貴将に殺されかけていた、そしてこの部屋へとタイムスリップワープした、頭が破裂しそうですがここまでは飲み込めました。じゃあ、どうして時間を遡る前の僕が梟討伐作戦の際にいたと?」
なんでお前がそれを知っているんだと言わんばかりの疑問、当然の疑惑。
前世が未来人などは滑稽は嘘だが、これに関する答えは用意してある。
「簡単なことさ、私は君のファンなんだ」
「ファンができるようなことをした覚えは無いのですが……」
「これからするんだよ。まぁ、詳しくは後の説明に回すが、君はこれから東京を救う英雄となる筈だった。そして英雄に興味を持った私はカネキケンの足跡を辿り様々なことを知ったというわけだよ」
君のうわ言からタイムスリップ前の状況を察したんだ、と付け加えて話し終える。
即興で考えた理屈としてはなかなか筋が通っているのではないかと、自画自賛しながら自分の分のコーヒーを飲み干す。
「……頭が追いつかない」
ない眼球を包帯越しに触りつつ、彼は頭を抱えた。
無理もないl俺だってこんな話聞かされたらドッキリか何かだと思うだろう。
しかしこれは現実であり紛れもない事実であり疑いようにない証拠まで揃っているのだ、そんな情報を処理するために彼の頭は今ぐるぐるフル回転で回っていることだろう。
「落ち着いたなら外行くぞ、現実をしっかり認識するにはあそこは最適解だろう……なんだ結局コーヒーには口つけてないのか」
「行くって、何処に?」
不思議そうに彼は立ち上がった俺に問う。
「喫茶店あんていくだよ」
ニヤリと笑って、俺は答える。
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現実味がない、実感が湧かない、夢でも見ているかのようだ。
僕の今の心情を表すとするならば、この三つが妥当だろう。
タイムスリップしたというのはもう認めなきゃいけない、あれだけの証拠があるんだから。
でも、そうとわかった瞬間一気に腰が抜けてしまった。
あんていくのみんなを助けに行ったあの戦い、そこで張り詰めていた気が一気に緩んでしまったんだ。
みんなは無事だって、わかったから。
「……足立さん」
「なんだ」
「僕は時間を遡る小説は色々と読んできたけど、世界の同一性に関しては設定がわかれるんです」
「成る程、つまりは『タイムスリップしたっていうけどそれ実際似てるだけのパラレルワールドなんじゃね?』ってことかな」
「まあ、平たく言えば」
足立さん、何もかもが謎な人。
どうして僕を助けてくれるのかもわからない、彼女は喰種捜査官なのに。
包帯を巻いてくれたのも、ベッドに寝かせてくれたのも、
起きた時口の中で甘い血の味がした、そして彼女の腕にはさっき貼ったばかりであろう大きな絆創膏が貼られている。
恐らくこの血は彼女のものだろう。
僕のファンだとは言うが、それを信用するのはあまりに情報が足らなすぎる。
けれどもだからといって、ここまでしてくれた人を敵視することは、相手が喰種捜査官とはいえ僕にはできなかった。
「兎にも角にも会ってみればいい、あんていくの従業員にな。パラレルワールドか否かは、知っている人間に出会ってからじゃないとわからない。些細な差異に気づくのもSF小説のお約束だしな」
考えたって仕方がないと言わんばかりに彼女は言う。
確かにそうだ、元の時代に戻れるわけでもないのに考えたって意味はない。
これが小説なら『時間逆行の時間制限』だとか『所定の位置に行けば帰れる』などなどなどがあるがここは現実。
そんなものがあるかもわからない、だから今はこの時代で生きることを考える、それが最適解。
「……そんな簡単に割り切れませんよ」
「ん?なんか言ったか?」
「いえ、何も」
口で言うには簡単だ、頭で考えるのは容易い、でも心からそう思うのは楽じゃない。
あの戦いで死んでしまった古間さん入見さん、生死もわからない店長。
僕の心は今も彼らのことを考えている。
「ほら、ついたぞ」
足立さんが運転する車に乗って、僕はここに来た。
包帯が目立たないようにフードを深く被って車を降りる。
「……ありがとうございます、ここまで送ってもらって」
「感謝はいらんよ、むしろ礼をいうのはこちらの方だ。君の姿が見れたのだからな」
優しく微笑む足立さんを見て、久しぶりの人間からの感謝を受け取って、僕は歩き出す。
一歩、一歩、あんていくへと近づいていく。
心臓が大きく鳴る、周囲にも響き渡っているのではないかと思うくらいの鳴り用だ。
ドアに手をかける。
開く。
その時、中から出てくる人とぶつかってしまった。
すいませんと言おうとして其方を向いた瞬間、僕はその場に崩れ落ちた。
「ヒ……デ……」
「あ、すいませんぶつかっちゃって……金木?」
そこにいたのは、その場所にいたのは、紛れもなく先程自分が食べてしまった親友の姿。
うっすらとしか覚えていないが、もうほとんど曖昧な記憶だが、彼にかぶりつこうとしたことだけは覚えている。
「いや、そんなはずないよなって泣いてる⁉︎」
どうしようもないほど気持ちが溢れ出てきて、僕は涙を流した。
僕にはわかる、僕にしかわからない。
彼は、ヒデだ。
パラレルワールドなんかじゃない、目の前のにいるのは正真正銘ヒデだって、はっきりとわかったのだから。
補足ですがオリ主は思考と会話で一人称を使い分けています。
ただし仲がいい相手と二人の時は……?
金木は落ち着いているように見えますけど現実逃避しているだけです