落ちた花弁を拾い集めて〜SAOで聖杯戦争パロ〜 作:mi-na
「4騎目が居たのかもしれないわ。この家の近くに潜伏して…」
「よ、4騎目!?そんなにマスターの位置が固まるものなのか、聖杯戦争って…?」
「わからない。けれどそう考えたら辻褄が合うわ」
アリスは仕舞っていた手帳を再び取り出して書き込んでいく。
➀アリス&セルカ、アーチャー(仮)と戦う。
↓
②和人、その場に遭遇する。
↓
③和人逃走後すぐにアーチャー(仮)の気配が遠ざかる(俺の家の方角)へ。
↓
④和人、サーヴァントに襲われる。
↓
⑤アリス&セルカ、桐ヶ谷家に移動を始める。
↓
⑥明日奈、召喚され和人を救出。
「私はこうだと思ってた。でももしかしたら3番目と4番目は反対だったのかも…」
「反対と言うと…俺が襲われてからアーチャーが移動したっていうのか?」
「そう。正確には襲われる前…そのサーヴァントが貴方の後ろをつけ始めたあたりだと思うけど。
この近辺を拠点にしていたか、この辺りにマスターが居たのか…。
兎に角、それを守るために私達を放って慌てて移動した」
「或いはわざと追える程度の気配を残して移動して、アリスとセルカさんをアイツにぶつける気だったのかも」
「そうね…。結果的に明日奈が4騎目を退けて、それを私はアーチャーだと勘違いさせられたわけだし。
……実を言うと、昼間もここに気配を一つ感じていたの。
キャスターのマスターである私を狙っていたのかと思ったけど…もしかしたら狙われたのは和人の方だったのかもしれないわね」
「マスターも狙われる…のか」
「勿論、そのほうが簡単だもの。
サーヴァントは人間離れした身体能力を持っているけど、マスターはごく普通の人間が殆どだから…サーヴァントよりマスターの首を一瞬で掻っ攫った方が楽だし確率が高いでしょう?
明日奈が居なかったら、今頃きっと……」
サラッとアリスもセイバー呼びしてないじゃん。と言いたくなった気持ちをぐっと抑えて肯く。
昼間既に感じたらしい気配…アーチャーにしろもう一騎にしろ恐ろしいことだ。
そういえば、よくよく考えるとあの男も気になることを言っていた。
3対1は分が悪い…あれはアリスとセルカと明日奈の3人ではなく、アーチャーとセルカと明日奈の3騎の事だったのかもしれない。
だとすると、アーチャーはこちらに悟らせないよう気配を遮断した上であの男を狙えたと言う事だ。
そして男はそれに気づいていたと言う事でもある。
「……いや待ってくれ、それってかなりヤバイんじゃないか?
あの男は勿論、アーチャーにまで俺達の居場所と姿はバレてるって…事に……」
段々尻窄みになっていった俺の言葉に、アリスと明日奈が顔を見合わせて肩をすくめる。
「そういうことね」
「もうそれ自体はしょうがないよね」
「ここまで集まって目立ってしまったものね」
「ねー?」
君たち仲いいじゃん…という俺のつぶやきは再び胸の中に仕舞いこまれていった。
ーーーーーー
「さて、和人。昨日の勉強会の成果は出せたのかい?
なんだか僕にはずっと上の空に見えたけど」
今日最後の解答用紙を渡しながら気遣わしげにユージオが眉を下げて言った。
自分の解答用紙を重ねて前に回してから、眠たい目を擦って頷く。
「うん…まあ…勉強しすぎて裏目に出たというか。ちょっと寝不足でさ…」
寝不足になるまで勉強なんて珍しい、等と囃されるかと思ったがそうでもないらしい。
帰り支度をしながらひとつ、ふーん…と返されただけだった。
穏やかな親友らしからぬ返しに思わず2度見して、これまた珍しいジト目をいただいてしまい困惑する。
これはなにか咎めたいときの顔だ。
「な……なんだよ…?」
「別にぃ?僕を除け者にしてアリスと秘密のお泊り勉強会をしていた事、どうやって誤魔化すのかなあって思ってさ」
「っな…んで知ってるんだよ…!?」
あの後、ひとまず霊体化と言って形を保たず見えない霊体になれるらしい明日奈とセルカはそのまま霊体化し休んでもらい、アリスには客間に布団を敷いて寝てもらった。
朝起きてからスグには、アリスとは散歩中に会ってそのままお泊り勉強会をしたと言っておいたのだが、目をまんまるにしたり顔を青くしたりと百面相でわなわなしていたので何か追求される前にと家を出た。
いつもはユージオとアリスと俺とスグの4人で登校しているものの、幸い俺の後ろに座るユージオは今日の日直で俺達よりも先に学校へ向かっていた為、同じ家から出てきたとは知らないハズ…だったのだが。
「ロニエから聞いたんだよ。ロニエは珪子に聞いて、珪子は直葉に聞いたみたいだけどね」
「スグ……!」
あろう事か、アイツは自身の友人に言いふらして回ったらしい。
変な噂が立つと嫌だから内密にしろと言ったのに…!そこまで根に持たなくても…。
この調子だともう里香も知っているだろうし、いつもつるんでいる面子どころでは無い広がり方をしたのかもしれない。
涙目であっかんべーをする直葉を想像してから、ため息をついた。
「…いや、アリスとはたまたま夜会っただけで約束していたとかじゃないんだ!断じて」
「へえ?その割には今日も和人の家に集まるんだろう?」
「え!?い、いやまあ、その予定ではあるけどさ…」
何でそのことまで…といいたくなったが、いつの間にか教室の外に居たアリスと目があった。
なるほど迎えに来てくれたらしいアリスを見てユージオは察したのだろう。
怪訝な顔で俺達を見ているアリスにどう確認するべきか悩んで、けれどここでユージオを誘わないのは余計に怪しまれるだろうと結論付ける。
早くしなさい、と言いたげな視線も刺さることだし。
「えっと……ユージオも来るよな?」
「ふふ、その言葉を待っていたよ」
うん、誘ってよかった。
仲間外れ(にしたつもりはないけど)が余程残念だったらしい。
そそくさと帰り支度を済ませて早く早くと急かされてしまった。
「今いくよ、待っててくれ!」
ーーーーーー
「………で、どうしてユージオを連れてきたの?これじゃあ聖杯戦争についての話ができないでしょう!
それに万が一急襲に合ったりしたら…!」
着いて早々小声で怒られた。
「い、いや、だってあそこで断ったらおかしいだろ…!変な勘違いされても嫌だろうし…」
「変な?」
「ユージオを避けてるんじゃないかとか、付き合ってるんじゃないか、みたいなのとか……」
「誤魔化す為にもいっそ付き合っていると言ってしまえばいいで………いえ。まあ、いいでしょう」
がるる…と威嚇が聞こえてきそうな程だった剣幕が引いていき、勉強モードに入ったらしい。
スグは珪子たちと最近出来た話題のカフェに行くとの事で家にいないので、3人分のジュースを盆に載せる。
手伝うと行って出てきたアリスが手持ち無沙汰では怪しいと思い、そちらにも皿に乗せたクッキーを手渡しておく。
意図を読んだらしいアリスが肯いて、そのまま一つ摘んだ。
「…しかし、あまり油断も出来ないわね。真っ昼間から相手が何か仕掛けてくるとは思い辛いけど、警戒だけはしておきましょう」
「…もし万が一ユージオが巻き込まれたらどうするんだ?」
「可能なら退避させたいけど……貴方と同じですんなり逃げてくれるとも思わないわね」
「だよなあ…」
『それならあたしが姉さまと一緒に守るよ』
突然聞こえてきた声に思わず声を上げそうになったところをアリスに抑えられる。
静かに!のポーズをされて慌てて頷いた。
「…セルカだよな?」
『そうよ。念話で失礼するね』
小声で問いかけた言葉からまたもや脳内に返事が帰ってくる。器用だ…。
アリスが同意を示したので万が一には守ってもらうとして、なるべく巻き込みたくはない。
今日は早めに解散を申し出ることにしようと決意して部屋に戻る。
「おまたせ、オレンジジュースで良かったか……って、ユージオ?」
「ん?ああ、おかえり」
「何やってるんだ…?」
部屋を開けた俺の視界に飛び込んできたのは、窓から身を乗り出すユージオの姿だった。
戻ってきた俺達を見て身体を部屋の中へ入れたユージオの手には紙が握られている。
「なんだその紙…?」
「さあ?いま窓のところに小石が当てられてね。
で、のぞき込んでみたってわけ…そしたらこれが挟まっててさ。
桐ヶ谷和人様…って書いてあるし、これ和人宛だよね?」
「え…俺?」
「……和人、あまり不用心にそんなものを開けるのは止したほうが…」
「内容はよく分からなかったけど、開いてたから僕先に見ちゃったよ。ごめんね…」
「…そう。なら、平気なのかしら…」
受け取って見ると、確かに俺の名前だ。
4つ折りのそれを開いて見ると、デカデカと果たし状と書いてある。
「は……果たし状…??」
「和人、またなんかゲーム関係の因縁でもつけられたんじゃないの?果たし状なんてイマドキ聞かないよ」
「い……いや、にしてもリアル割れするようなことはしてないし、そもそも変なことは…ラストアタックを5連続で掻っ攫ったことか…?」
「それで、なんと?」
「あ、ああ…えっと……
『果たし状
桐ヶ谷和人様とそのお連れ様。
今日の夜10時半、西中央川の畔でお待ちしています。
出来る事なら一対一の真剣勝負を望みます。
よろしくお願い致します。』
……って、書いてある」
果たし状にしてはやたら丁寧だよね〜、などとユージオが笑っているが、これはもしかして聖杯戦争の事について…なのだろうか。
気になるのはお連れ様と書いてあること。
これはアリスとセルカのことなのか、それとも明日奈のことを指しているのか…?
ちらりと盗み見ればアリスも難しい顔をしているし、やはりそうなのだろう。
だとすると断ったら如何なるかわからない。
相手は俺がマスターだとわかっていてこれを送ってきたのだ。
奇襲しなかっただけでも素晴らしいスポーツマンシップ(スポーツにしていいのかは甚だ疑問だが)を見せてもらったのにコチラが無視などしたら、問答無用で俺の首が落ちているかもしれない。
西中央川は大きな河川敷があるが主要道路からは離れていて人通りが殆ど無い川だ。
決闘には丁度いい場所なのだろう。
「…で、勿論行かないだろう?」
「え!?…あ、ああ勿論!こんな怪しい誘いに乗る訳ないだろ、あはは…」
「………おい和人、まさか行く気満々じゃないだろうな…?」
「そんなわけ無いだろ。そもそもテスト期間に訳のわからない果たし状に付き合ってる場合じゃないし…学生の本分は勉強だからな」
アリスがこちらを見て"どの口がそれを??"と言いたげな顔をしているのは見なかったことにする。
ユージオも一先ず安心してくれたのか、問題集を開いた。
『で、勿論行くんだよね?和人くん。』
「うお…っ!?」
「和人?」
「い、いや勿論。なんでもない」
「……なら、いいけど…」
いきなり入ってきた新しい声に思わず声を漏らしてから首を縦に振る。
明日奈はそれを肯定と取ってくれたようで、返事が帰ってきた。
『ごめんね、混乱しちゃうし和人くんは喋らなくていいよ。
…それにしても果たし状だなんて随分親切ね』
『そうよねえ、しかもご丁寧にお連れ様とか書いてあるし…これってもしかしなくてもあたしと姉さまの事よね。
それともアスナ様のこと?』
『うーん…どう、なんだろうね。
一対一で…って書いてあるから協力者がいるのはわかってるみたいだけど…』
『単純に従えてるサーヴァントのクラスがわからなかったからお連れ様、って書き方にしたのかしら』
「…………」
静かな勉強空間ではあるものの、脳内には二人のおしゃべりが入ってきてなかなかに集中できなかった。
ーーーーーー
9時半。少し遠い西中央川までは時間がかかるので早めに家を出ることにした。
今日も気分転換と告げて抜け出すと、あの短い白ドレスを着た明日奈が横に並んで歩き出す。
「あー……明日奈、今日は護衛ありがとう。学校にも来てくれていたんだろう」
「和人くんを守るのは当然のことだもん。気にしないで」
「でも、無理しなくていいからな。偶には家でゆっくりしたりとか…いや他人の家で気は抜けないかもだけど」
「大丈夫!…気を遣ってくれてありがとう。
でもわたし、君のそばを離れるつもりはないよ。
もう絶対に…二度と傷つけさせないから」
白魚のような指先が俺の手に触れる。
薄手のドレスから伸びる素肌と真剣な眼差しに目を奪われそうになって視線を彷徨わせてから、立ち止まって自分の上着を脱いだ。
「和人くん?どうか…」
「明日奈、その……少し肌が目立つし…それじゃあ流石に寒いだろ?
身体は冷やさないほうがいいし、俺はなんか、暑いからさ。
嫌じゃなければこれ着ててくれよ」
「和人くん……!…ありがとう。それじゃあ借りるね」
ほんのりと上気した頬が緩むのを見て、嫌がられてはいないと安堵する。
ミルクティー色の長い髪が俺の黒い上着で隠れて、そして引き出されて再び姿を表す。
ふと、はらりと舞ったそれに触ってみたいと思った。
手を伸ばせば届く距離にあるそれに、そっと手を伸ばしかけて…
「ん゙ん゙…!……私達も居る事をお忘れなく」
「わ、わかってるよ!」
「どうだか…」
特級のジト目でアリスに咎められた。
セルカもなんとも言えない顔をしている。
「和人ってここでもそうなのね」
そうとはなんだろうか。
あまり深く突っ込むのはやめておいた。
「ところで、本当に一対一に応えるの?せめて強化術をかけておいたほうがいいんじゃない?」
心配そうに尋ねるセルカに緩く首を振ってから、明日奈と顔を見合わせる。
向こうが一対一を破るつもりなら勿論バフをもらうが、そうでないなら一対一で戦うのが俺達の決めた方針だった。
「相手にもよるけど…多分大丈夫だと思うよ。
いい人そうだし」
「いい人を装っただけの可能性もあるけど…」
「まあ、会ってみれば判るよ」
河川敷が見えてきた。
住宅街ではなく裏山へ続く道を川沿いにのぼっていくと、直ぐに静かな葉擦れの音だけが聞こえる。
灯りも疎らになって来た頃には数少ない街灯に寄りかかる人影が珍しくうつるくらいには辺りから人が居なくなっている。
丁度寄りかかっている人を超えると、もう先には街灯はなく山道だけがつづくようだ。
──……寄りかかる人影?
「待って和人…あれ…!」
アリスの慌てた声に注視すると、人影はスマホを弄る手を止めてこちらを向いた。
柔らかな髪と深緑の瞳が優しく揺れて、俺に笑いかける。
「……ユージオ…なんで…」
「やっぱり来た。
和人は言っても聞かないからね…あんな手紙見たら絶対行くと思ったんだ。
…まさかお連れ様が女の子3人のことだとは思わなかったけど。
それに…アリスの後ろの子は…」
うっ、と言葉に詰まる。
俺を心配して待っていてくれたらしい親友にかける言葉が見当たらない。
危ないから帰ってくれ、心配してくれてありがとう、女の子を連れ歩きたくてそうしてるわけじゃない、俺は大丈夫、セルカは……。
次々言いたいことが浮かんで纏まらない俺の代わりにアリスが前に出た。
「…一応確認しておくけれど、貴方が差出人ってわけじゃないのよね」
「当たり前だろう?僕もアリスと同じだよ。心配だったから…それにほら、3人でお揃いだね」
そう言って左腰を軽く叩いたユージオの手元を見れば、いつぞやの修学旅行で買った木刀(俺の部屋にもつい買ってしまった木刀が眠って居る)がベルトに吊るされていた。
俺とアリスも護身用だと言って木刀…ではなく竹刀を背負っているし、アリスの剣道の腕はスグに並んでなかなか立つ。
どうやらユージオはアリスも自分と同じように俺を心配して着いてきたと思いこんでいるらしい。
騙してしまうのは心苦しくあるが、背に腹は替えられない。
「…それなら良かった。私もずっと気がかりでつい…一緒についてきちゃったのよ」
「和人は一人で突っ走る事があるからね。もっと僕達を頼っていいのに」
嬉しい言葉だが今はできれば放っておいてほしかった。
これから決闘の場に行くというのに無関係の親友は巻込みたくないのだが…こいつもこれでなかなか聞かないところがある。
説得は正直無理だろうと確信していた。
「ユージオ、気持ちはありがたいけどあれは俺に来た果たし状だ。
危ない事かもしれないから、できればアリスと帰ってくれ」
「それを聞いて帰ると思う?」
「思わないから頼んでるんだろ」
「ふふ、だよね。じゃあ断られることもわかってるんだろ?」
「……だよな」
にこ、と屈託のない笑顔で答えられてしまった。
更にユージオがちらちらと明日奈とセルカを見ているので、なんと説明したものか。
聖杯戦争の話はしてしまうとおそらく終わるまで付き添ってくれてしまうので、巻き込まないためにもしたくないのだが…。
「で、和人。そろそろその2人を紹介してくれないかい?」
「ええと……説明が難しくて…」
「あはは、なんでだよ?僕相手に恥ずかしがらなくてもいいだろ。
恋人くらい素直に紹介してほしいな」
「「恋人ッ!?」」
「…違うの?というかなんでアリスまで…?」
きょとりと首を傾げたユージオの言葉に、思わず顔に熱が昇るのを感じて視線を右往左往させる。
アリスまで素っ頓狂な声を上げていたのはわからないが、まさかセルカのことを誑かしたとでも思われたのだろうか。
事実無根なのでその末恐ろしい眼差しと震える拳を収めてほしい。
「い、いや、その、なんでそんな、恋人とかになるんだよ…!」
「だって態々僕達を連れて行かないような用事に、しかもこんな夜中につれて歩いてるってことはよっぽど親密な仲なんだろう?
それに彼女、和人の上着を着ているし…」
そう言われるとたしかにそう見えて来なくもない。
明日奈は頬を染めて照れ臭そうな顔をしているし、思いっきりそう捉えられたのだろう。
──照れ臭そうな…ってことは…いいのか、それで…?
ガルガル威嚇しているアリスを宥める為にも、日中アリスに言われた"付き合ってるとでも言ってしまえば作戦"で行くべきなのだろうか…?
しかし明日奈の確認無しにそんな事を言ってしまうわけにもいかない。
サーヴァントといえども女の子なのだし、そう言うことには敏感なのではないだろうか。
「これはもう誤魔化せないんじゃないかなあ、和人くん。
言っちゃったほうがいいんじゃない?」
「え……で、でもユージオは」
「親友なんでしょ?きっとこれからも顔を突き合わせるし」
「うーん………まあ、そうかもしれないな…」
明日奈に言われてしまうと素直に白状するのが一番な気もしてきた。
万が一何かあったとしても俺達が守りきって見せればいいのだ。
仕方なく肯いて、包み隠さず紹介することにした。
「……ということで和人くんとお付き合いさせていただいてる、結城明日奈と申します」
──…ああ、言っちゃうって……そっちのことね…。
俺の一大決心を知らずにぺこりとお辞儀した明日奈と、やっぱり!と同じくぺこぺこ挨拶するユージオ。
そして疑いが晴れたはずなのに殺気が増したアリスとやれやれ顔のセルカに挟まれて如何したらいいのかわからない。
「な…なんかまずい事言ったか…?
ちゃんとセルカじゃなくて明日奈だって言ったし…いっそ付き合っていると言えってアリスが言ってたからその通りにしただろ…?」
小声で窺うと周りの温度が下がったような気がした。
「………私のときは言わなかったくせに…」
「え……?」
もごもごと呟かれた言葉は良く聞き取れなかったが、深く追求するのは良くない気がしてやめておいた。
セルカがジト目をくれたのも相まって疑問符が浮かぶばかりだが、なんだか和気あいあいとしているユージオと明日奈が気になったのでそちらに向くと、ふたりもこっちを向いてくれた。
明日奈の紹介が終われば次は勿論…
「で……そっちはまさか、セルカなのかい…?」
…と、なるわけで。
俺とユージオとアリスは幼馴染で、アリスは15年前、ユージオは13年前にこの街に引っ越してきた。
アリスは元の家にいた頃に両親がなくなったらしく、引っ越してきたときには中央公理教会の最高司祭であるアドミニストレータという女性が保護者だった。
他にも公理教会には孤児が一緒に暮らしていたらしく、今は独り暮らしをしているが彼らとは仲が良いらしい。
最近は遊んでいないが昔はよく遊んでくれたお兄さんたち、大学生のエントキアさんやエルドリエもそこの出身なのだ。
ユージオは家がかなり近くて、2人いた兄が彼の相手をしなかった代わりに俺達と遊ぶようになったのがきっかけだった。
そのときからセルカと直葉をいれた5人でずっとつるんでいたのだが、ある日アリスの妹のセルカが事故で亡くなったという話を聞いた。
事故の詳細は知らされていなかったが、そのときのアリスの落ち込みようは生半可な事ではなく、聞き出せないまま何年もかけてアリスも復活したと思っていたのだが…。
──もしかしたら、アリスが聖杯に願いたいのはセルカのことだったりするのかな…。
当のセルカは、俺達が知っているあの幼かったセルカではないらしいのだが俺のこともユージオのことも(ついでに明日奈のことも)知っているらしい。
前世とかそういうアレなんだろうか…?
おずおずと前に出たセルカが、ローブのフードを外して見せた。
「……久しぶりね、ユージオ。元気そうで良かった…」
「セルカこそ……まさか生きていたなんて」
「……表向きにはセルカは事故で死んだことになっているの。
でも最高司祭さま…アドミニストレータさまは何かを隠してる気がする…。
偶然セルカに会えて、そう感じるようになった…」
「姉さま……」
アリスが告げた言葉が誤魔化すための出鱈目なのかは瞬時に判断できなかった。
セルカも瞳を潤ませて、その手をアリスがそっと握りしめたとき。
一際強い風が吹いて人影が増えた。
恐らく反射的に剣を抜いた明日奈が俺の前に立つと、人影は気負うことなく近づいてくる。
長い青紫色のスカートとそれより薄い色合いの軽鎧が揺れて、ロングポニーテールを結んだリボンがたなびいた。
「お連れ様、とは書かせたが…まさか3人も。
こんなにゾロゾロ連れてるとは思わなかったぞ、キリト」
人影は妙齢の女性だった。
低めの落ち着いた声で俺のゲームのアバターネームを呼ぶと、肩をすくめる。
やっぱりゲーム関連の恨みを買ってしまったのだろうか…と思ったがそうでもないらしい。
明日奈を見て微かに頬を緩ませたような気がする。
「しかし、君のサーヴァントはやっぱりアスナ様だったんだな。
ユージオ君でないならそうだろうな、とは思っていたが…これは全力で挑ませてもらわねばなるまい」
「…リーナさんまで呼ばれていたのね。妙に知り合いばっかりでやりづらいけど……何かそういう縁を聖杯が選んでいるのかしら」
見たところマスターは近くには居ないようだった。
少なくとも見える範囲でないことは確かだろう。
またもや明日奈の知り合いらしいが、この反応を見るに信頼していい人(?)らしい。
アリスがきょとん顔のユージオを連れて数歩下がる。
セルカも心配そうな顔をしているが、さっきも言ったとおり手を借りるつもりはない。
明日奈に目配せをして肯くと、邪魔にならないように俺も木陰に下がった。
「おや、一対一とは言ったがお前はマスターだろう。
それを持っているということはアスナ様と共に来るのかと思ったが…」
「俺もそのつもりだったんですけど……」
何故か彼女には敬語を使わなければならない気がして丁寧な言葉になる。
明日奈はちらりと俺を見てから苦笑した。
「生憎ですけど、和人くんには見守っててもらうことにしたんです。
本来聖杯戦争ってそういう…基本サーヴァント同士のものですし?」
「うん、それはそうですね。
……さあ、はじめましょうか」
そう言って構えた相手の手に現れたのは透き通った青紫色の槍だ。
──片手槍…ランサーだな。
俺は何故か相手の姿が見えた瞬間に明日奈に手を出すなと念押しされてしまっていたのでユージオの前で大人しくしておく。
明日奈も細剣の鋒を向けて構えた。
じゃり、と砂を踏む音が聞こえたと同時に明日奈の高速の突きが放たれる。
ランサーはそれを難なく躱して長い槍をくるりと回し距離を取ると、こちらも突き返す。
素早い攻防に目が追いつかなくなるが、明日奈が押している…のだろうか?
「相変わらずアスナ様の剣は素早くてかないませんな。
同時に何ヶ所も突かれているみたいだ…!」
「リーナさんこそ、研ぎ澄まされた技の冴え…それにまさか槍まで使えたなんて…!」
「ふふっ…本分は片手剣ですが、学生時代には歩く戦術総覧の名をいただきましたので一通りは……ねッ!」
お喋りをしながら…なんて言ってしまうと随分和やかに聞こえるかもしれないが、剣戟が絶え間なく火花を散らし衝撃波で足が竦む。
ランサーと明日奈が離れた隙に明日奈が剣を輝かせた。
途端、流星の如くランサーへ突進して迫る。
躱しきれずに肩の鎧が破壊されてたたらを踏んだランサーに、再び後ろから突きが繰り出されて弾けとんだ。
「ふっ……!」
飛ばれたランサーは槍を地面に突き刺し軸にすると、そのまま肉薄した明日奈を蹴り飛ばす。
零れた短い悲鳴につい飛び出しそうになったところをアリスに腕を引かれて留まり視線を戻すと、明日奈が再び剣を光らせて迎え撃つところだった。
相手の槍も輝いて、2人が一気に加速する。
けれど突きと突きがぶつかる瞬間、明日奈の背後に影が見えて思わず叫ぶ。
「明日奈ッ!!」
「くっ…!?」
ギュイン!と唸る音がして2人の軌道が変わる。
明日奈はそのままランサーの横を50mほど通過して止まり、ランサーの槍は明日奈の後ろに現れた影が居た場所を貫いたものの、影は離れた場所に移っている。
「…貴様、高潔なる戦士の戦いに手を出すとは何事だ?
悪いが後にしてもらえると助かるんだがな」
ランサーの言葉に影は蠢くと人の形を造る。
大きな剣を手にしている以外はなんてことない普通のサラリーマンだ。
しかし見るからに正気を失って錯乱しているらしく何事か呟いている。
「な、なんなの…?」
「姉さま、あれ…」
「精神汚染?禁術の類か、或いはサーヴァントの宝具かも…。
…………セルカ、一応…」
「わかってる。………ここに居る4人分だけ張るよ」
アリスが囁いた宝具というものが気になるが、今はそれよりも目が離せない。
ランサーが嫌悪感を顕にしながら刃物男に近づく。
明日奈も俺達が防衛術式に守られていることを確認してから男の方に構えた。
項垂れてぶつぶつとつぶやき続ける男にランサーがもう一度声をかけようと口を開いた瞬間、項垂れていた男を影が包んで呑み込んだ。
途端男は物凄いスピードでランサーに肉薄し腕をつかむと何事か囁く。
「こんな所で油を売ってていいのか?英霊さんよぉ……」
「何を……?…ッマスター!?」
ハッと天を仰いだランサーが言い切る前に掻き消えて男と俺達だけが残される。
ゆっくりと俺達を見た男はニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべて近付いてきた。
「一体何がどうなっているんだ…?」
困惑を隠せないユージオの声で意識を引き戻される。
どうにかしてアイツを退け、そしてユージオを守らなければ。
ここまで超常的な物を見せてしまえばもう言い逃れもできないだろうと諦めて命を守ることを第一にする。
俺の前に戻って来た明日奈に頷いて俺も竹刀を抜いた。
「セルカ、バフを頼む!」
「任せて!システム・コール!」
長めの詠唱をすらすら唱えて貰うと力が漲るのを感じる。
セルカには防御と援護に徹してもらいアリスも竹刀を取り出したのを確認して指示を出す。
「明日奈と俺でアイツをなんとかする。アリスはユージオを…」
「僕は大丈夫。一緒に戦うよ」
「何言って…」
振り向けばいつの間にか腰の木刀を抜いていたユージオが俺の隣で構える。
力強い笑みでバシッと背中を叩かれてしまうと嫌でも背筋が伸びた。
「こういうときのために着いて来たんだから僕だけ逃げるわけ無いだろ?
ほら和人、僕の背中は預けたぞ!」
「ユージオ……。
………ありがとう。任せとけ!」
「和人もユージオも、私がいることも忘れないでほしいのだけれど。
…私はセルカの隣でバックアップするから、前衛は任せたわ」
「ふふっ…3人とも頼もしいけど、基本はサーヴァントであるわたしが相手をするからね?
くれぐれも援護と撤退準備だけ宜しく!」
構えた瞬間、男も再び信じられないスピードになり刃物を向けて跳びかかってきた。
明日奈が宣言通り素早く斬り結んで弾き返す。
仰け反ったところに俺が竹刀で斬りかかると、呆気なく攻撃が当たる。
とはいえ竹刀に鋭い刃は無いので打撃がどこまで効いたかは怪しいところだ。
よろめいたところで明日奈の叫びが飛んでくる。
「和人くん、下がって!」
反射的に斜め後ろに避けると、あの光をまとった突進で砂埃が舞い上がる。
甲高い音と共に男の刃物に当たったらしく、半分に折れた刃が飛んでいくのが見えた。
その刃をアリスが竹刀で弾き飛ばし川に落とすと、すかさずユージオが凍素で凍らせ絡めとる。
砂埃の中折れた刃物で特攻してきた男に反応が遅れてしまったが、セルカのバリアが飛んできて俺を守ってくれ、それを認識した直後には怯んだ男の横っ腹に深々と突き刺さった明日奈の真珠色の細剣が見えた。
「っ……あ…明日奈、その人…」
「油断しないで和人くん、この人まだ動く!」
「─────────!!!!」
警告された瞬間、意味不明な叫び声をあげ た男が身体の向きを変えて細剣ごと明日奈を振り回した。
「きゃ……!?」
「明日奈ッ!!」
「大丈夫!」
すぐさま引き抜いた細剣の血を払って着地すると、迫ってきた男を連続突きで追い詰め返していく。
ぶすぶすと鈍い音がして突きが入るのに不思議なくらい動きが鈍らない。
「あの男…痛みを感じないのか…?」
「それどころか恐怖も感じないみたいだ。真っ向から剣を向けられて突き刺されていても顔色一つ変わっていなかったよ」
冷や汗を浮かべたユージオと思わず顔を見合わせて、構えたまま明日奈を見守る。
下手に突っ込むと足手まといになりかねないが、もどかしさで前のめりになってしまう。
「セルカ、どうにかしてあの男性から影を引き離せない?」
「ごめん姉さま、あたしじゃ無理!試してみたけど大して効かない…多分宝具レベルの精神汚染だと思う。
一瞬なら引きはがせるけど…」
「セルカさん、一瞬でもできるならお願い!
出来るだけ人を殺したくないの!」
「わかりました。やってみます!」
セルカが杖を翳して詠唱に入る。
けれどぎりぎりと押し合っていた男は折れた刃物を手放して明日奈に掴みかかっていくのを見て間に割って入る。
折れた刃物を取り戻した男が振りかぶるのを、弾かれて尻餅をついた明日奈の代わりに竹刀で応えると、その重さに思わず膝をつく。
「ぐ………っ!」
「和人くん!」
「和人!」
「っ……ぅ、おおおお!」
すぐ横に滑り込んでくれたユージオと二人で押し戻していけば、すぐに声がかかった。
「アスナ様、行きます!」
「やぁぁあああッ!!」
セルカの掛け声に併せて明日奈が細剣の刀身を輝かせる。
途端真上に凄まじい衝撃と光を感じて男がふっ飛ばされていった。
「ふっ!」
間髪入れず短い気迫と共に鳩尾にポンメルを叩き込まれて男がくたりと頽れる。
漸く動きの止まった男を拘束しようとセルカが近寄ると、あろう事か男はボロボロと崩れ始めた。
「なに、これ……」
1分ほどで全て塵になってしまうと風に吹かれて消えていく。
まるで最初から存在しなかったかのような退場に驚きを隠せずに立ち尽くしてしまった。
軈て放心状態から開放されたアリスの撤収しましょうという言葉で我にかえり、全てが謎に包まれたまま今日は家に帰ることになった。
つづく。
サーヴァント達の謎の記憶云々は、多分そのうち説明が入ります。たぶん…