落ちた花弁を拾い集めて〜SAOで聖杯戦争パロ〜 作:mi-na
「おはようユージオ」
「おはよう和人。………ふわ、ぁ…」
「はは…流石に眠そうだな」
「うん…ちょっと色々考えちゃって寝不足なのかも。
怠いしうとうとするよ…」
「あんまり無理しないほうがいいぞ」
「それを和人に言われるとはなあ…」
翌朝、いつもの待ち合わせ場所で顔を合わせたユージオはくしくしと珍しく眠たげな目をこすっていた。
──まあ、あんな事に巻き込んだあとだし当然だよな…。
「おはよう和人、ユージオ。
……随分眠そうね。直葉は?」
「スグなら今日は先に出ていったよ。
中等部は今日でテストが終わるから、明日珪子とロニエと出かける場所を朝から相談するんだとさ」
「随分打ち解けたね、ロニエ。
人見知りしそうなタイプだと思ったけど意外とあっさり仲良くなれてよかったよ」
「そうだな。姉御肌な里香のおかげかな」
「……その里香は高等部だから明日もテストの筈だけれどね」
「そして残念ながら俺達もな…」
中等部である珪子はよく直葉と遊んでいたらしいが、ロニエは比較的最近に加わった面子だった。
俺とユージオが通っていた道場の後輩で、俺の3つ下の女の子。
因みに俺はじいさんの道場には通いたくなかったのでスグとは違う流派の道場に入った。
師弟システムで上級生が新入りの子の面倒を見ることになっていた道場で、俺の二人目の弟子(一人目はユージオだが、天賦の才と並々ならぬ努力家な彼には恐らくもう抜かされていると思う)となった素直でおとなしい子がロニエだ。
昨年北中央学院の中等部に転入してきた後にいつの間にかスグや珪子と仲良くなっていたのかは不明だが気づいたらスグたちとも友達になっていた、という表現が正しいかもしれない。
「そういえば昨日の事だけど…何だったんだろうね、アレ」
思い出したように呟くユージオに、自身も言葉を詰まらせる。
忘れてくれるのが一番良いが、忘れられるような出来事ではなかったのも事実だ。
アリスに助けを求めると、肩をすくめられた。
お手上げということだろうか。
「ああ……何だったんだろうな」
「私にも良く分からなかったわ。
あれが一体何だったのか…出来の悪いホラー映画であって欲しかったけれど」
「あはは…ホラー映画ならこれから一晩ずつ大変なことが起こるやつじゃないのかい?」
等とけらけら笑っているが、本当にそうなりそうなのでやめてほしい。
それに何より聖杯戦争は秘匿しなくてはならないのではなかったか…?
宝具とやらも気になるしアリスに聞きたいことが沢山あるが、如何せんユージオがいる前では聞けないのだ。
とはいえ巻き込んでしまったユージオを放置するのも…と葛藤していると、そのユージオがあっけらかんと呟いた。
「それにしても意外だったなあ、和人とアリスが二人とも聖杯戦争に参加してるなんて」
「えっ……!?」
思わず声を上げてからアリスの顔を見る。
ぎょっとしているところを見るに教えたわけではないようだ。
「な……なんで…聖杯戦争とかそんなことになるんだよ?」
「え、だって昨日聖杯戦争がどうのとか言ってただろう?
槍使いの女性も途中で消えちゃったし……どうみても普通の人間じゃないよ」
同じようなやり取りをつい昨日したような気がしたが今度ばかりは空いた口が塞がらない。
ここまで言われてしまうと否定もできずに困り果ててしまった。
はあ、というアリスの溜息で逃げ場が無いことを悟った俺はすべてを白状した。
「……そうか、和人が参加したのは偶然だったんだね。
アリスはしっかり準備して挑んだけど、召喚したのがセルカだったから戦わせたくなくて明日奈さん達と手を組んだ、と…」
「まあ…そういうわけなのよ。
ユージオ、貴方ならわかると思うけれど…くれぐれも内密に。
私達だけの秘密にしておいて頂戴ね」
「勿論、言いふらしたりしないから安心してよ」
口は硬い方だと信頼はしているが、少し抜けているところもある。
ちょっぴり心配が出てしまったがきっと大丈夫だろうと結論付けて、バレてしまったことだし堂々と説明を求めることにした。
「しかし、昨日のアレ本当に何だったんだろうな。
ランサーは消えちまったし、男も塵になっちゃったし…」
「基本的に、ランサークラスは俊敏さや運動神経が優れた者が成りやすいらしいの。
近くにマスターは見当たらなかったからあのスペックを発揮出来る程度には近い場所に拠点があったか、単独行動のスキルをもっていたか…」
「単独行動スキル…?」
「そう。サーヴァントは基本的にマスターの近くにいればいるほど魔力供給が素早くたっぷり行われる。
離れていても活動はできるけど、長い時間経つと力は落ちてしまうわ。
けれどアーチャーやアサシンの様に単独行動スキルがあれば長い時間マスターの側を離れてもスペックを落とさずに行動できるのよ」
つまり、あのときは相手の拠点が近かったか単独行動スキルを持っていたかの二択だったということだろう。
場所を指定してきた事を考えると、拠点が近いと考えるのが妥当か…。
「でも途中で消えちゃったよね。マスターに何かあったみたいだったけど…」
「おそらくだけど…あれは令呪による強制送還だと思うわ。
多分彼女のマスターが襲われて、急いで手元に呼び戻したのでしょうね」
「襲われたって、誰に?」
「それはわからないけど…あの口ぶりからして、サラリーマンの男性をあんなふうに汚染してしまったサーヴァントって線が濃厚ね。
並大抵の精神汚染ではなかったし、最期のあれは……。
…兎に角、宝具だろうから今後も気をつけて行動すること。
多分相手は魔術耐性を持たない人なら幾らでも操ってしまうだろうから」
なるほど、と頷きかけてそのまま首を傾げる。
さっきから気になる言葉がぽいぽいと出てきているのでついでに聞いてしまおうか。
「昨日も言っていたけど宝具ってのは?」
「ああ、言ってなかったかしら。
サーヴァントの切り札のことで…そのサーヴァント毎の逸話に由来するのだけれど、とんでもない威力や御業を為すモノだったり技だったり…それはサーヴァントに拠るけれど。
攻撃的なものばかりとは限らないから、なんにしろ注意が必要よ」
「ならセルカと明日奈にもあるのか?」
「有るわよ、勿論。…でもまだ教えないわ。
和人との同盟関係は、マスターが私達二人になるときまでなんだから」
「じゃあ明日奈の宝具は…」
「私が知るわけ無いでしょう?帰ったら本人に教えてもらいなさい」
「ああ…それもそうだな」
脳内メモリに"明日奈…宝具聞く"と書き込んでからじゃあ次、と2本指を立てる。
まだあるの?と言う顔をしたユージオには申し訳ないが少々付き合ってもらうことにした。
「魔力って神聖力と違うのか?」
「神聖術は、空気中に漂う空間神聖力を消費して術を行使するでしょう?
魔力は、どちらかというと自分の中あるエネルギーのことよ。
空間神聖力から補うものじゃなくて、自分の身から神聖力を作り出して使う…って言えばいいかしら」
「自分の身から出して使う…」
「そう。サーヴァントはマスターの魔力と聖杯から供給される魔力で動いているから、食事や睡眠をしなくても魔力パスを通じて動いたり、強化や宝具の使用ができるのよ。
でも宝具を使ったり令呪で強化したりして大量に魔力を消費すれば、マスターから補う分マスター本人も疲労感を感じるはずよ。
……そこの、あくびを噛み殺しているユージオみたいにね」
指摘されて慌てて"えへへ"と取り繕ったユージオに苦笑しつつ頷く。
矢張り昨夜はしっかり眠れなかったのだろうが、それも無理はない。
俺自身初日は疲れきってぐっすり行ってしまったが、昨日は考えすぎてあまり寝付けなかったのだ。
いきなり巻き込まれたユージオも考えすぎてしまったりしたのだろう。
「ユージオ、今日は無理せずテストが終わったら寝たほうがいいぞ」
「あはは、そうさせてもらうよ。
流石に色々疲れたし…二人はどうするの?」
「えっと……どうする、アリス?」
「そうね……」
おとがいに手を宛てて考え込むアリスの言葉を待つ。
ふと顔をあげたアリスに続いて足を止めれば学校はもうすぐ目の前だった。
「いけない、私今日は幸と里香とランチして、その後デザートビュッフェに行くんだったわ!
聖杯戦争ですっかり忘れてた……今から断るのも失礼だしお互い今日は休みってことにしましょう。
動くなら夜だろうし…何かあれば連絡して頂戴。それじゃ」
……高等部なのでテストがあるとかなんとか言っていたのはどこの誰だったか。
しかもランチ行ったあとデザートビュッフェってどんだけ食べるんだよ…というツッコミを飲み込んで頷く。
「あ、ああ、わかった。じゃあまた何かあればな」
早足にぱたぱたと駆け込んでいく後ろ姿を見送って、ユージオと二人で教室に入る。
「…お前の食欲もなかなかのものだけど、女の子ってすごいよね」
「前半のくだりはいらないと思うけど同感だな。
甘いものは別腹ってやつだろ」
「違いないね」
そうして、昨日の出来事など無かったかのようにテストに迎えられたのだった。
ーーーーーー
「ただいま…と、スグのやつまだ居ないんだな」
玄関には自分の靴が一足だけ。
おそらく中等部組は明日の予定を立てる為に残っているのだろう。
制服を脱いで部屋着になれば、久し振りに静かな自室へ篭もる。
ゲームでもするかな……と起動させようとしてから、今日は一人では無いことを思い出した。
「明日奈、居るか?」
俺の呼びかけに霊体化を解いた明日奈が顕れる。
白いドレスに、あのロングブーツなしの姿は少々目に悪いし寒そうだ。
「今日は、アリスたちは一緒じゃないんだね。
スイーツビュッフェかぁ、いいな〜」
行きの話を聞いていたらしい。
里香と幸なら、おそらくアリスよりかは素直に明日奈と仲良くしてくれることだろう。
事が事でなければすぐにでも紹介したのだが、流石にそうも行かない。
「あはは…明日奈もそういうの、好きなんだな」
「ふふっ、そうだねえ。ショートケーキとかブルーベリータルトとか…食べ物と一緒の思い出がいっぱいあるから。
和人くんも食べるのは大好きだもんね?」
「う、うん。まあ…。
……俺、そんな話したっけ?」
「してないけど……和人くんのことならわかるよ」
当然だと言わんばかりに微笑まれてしまえば、そうなんだなという気にされてしまう。
この居心地の良さは何なのだろうか…?
「それで…何か用があったんじゃないの?」
これまた当然のように隣に腰掛けてのぞき込まれると、なんとなくドキリとしてしまう。
脳内ストレージを慌てて参照してから、アリスに言われたことを思い出した。
「ええと…聞きたかったのは宝具についてなんだ」
「あ、そうだね。その話をしてなかったかも…」
「明日奈の宝具はどんなものなんだ?」
「わたし…ステイシアの宝具は、平たく言えば地形操作かな。
この剣…ラディアントライトも宝具といえば宝具なんだけど、特殊な力はそんなにないから。
その気になれば隕石を降らせたりとかもできるけど……多大な負荷がかかるし、あんまり使えない。
魔力を貰えても3回が限界ってところかな?」
「地形操作……また大きなモノが出てきたな…」
スケールのデカさに苦笑いしか浮かばない。
もしかしなくても、俺はとんでもない神様を召喚してしまったのではないだろうか……。
などと考えていたら、妙に腹が減ってきた。
ぐぅ…と鳴き声があがったので照れくささに立ち上がると、隣からもくぅ…と可愛らしい虫が鳴いたのが聞こえる。
くすりと小さく笑った明日奈も立ち上がって、もう一度隣に並ぶ。
「もうお昼だし、お腹空いたね。お昼ご飯にしよっか?」
「はは…そうだな。
って……明日奈も食べるのか?」
「今日は君と2人だし、たまにはわたしも食べたいな〜って思って。
勿論サーヴァントだから食べなくても存在できるんだけど…一緒に食べたほうが楽しいでしょう?」
「それもそうだな…冷蔵庫は空っぽだったし、何か買いにいくか。
ついでにその…服とか買っておかないか?いつもそれだと流石に……」
「そうだね。ステイシアの格好だとちょっとコスプレっぽくて恥ずかしいけど……普通のお洋服が有れば和人くんとデートできるし」
さらりと言われた"デート"の言葉にドキリとしてしまったが、本人は当たり前のようにニコニコしている。
普通なら『出会って3日でこの距離の詰め方おかしくない??怖…』と避けてしまうところなのだが、明日奈に対しては何故か全くそういう考えは浮かばない。
寧ろ、俺自身もそれが自然であるかのような感覚に襲われてしまうのだ。
何百、何千と明日奈の名を呼んで、同じ数だけ手を繋ぎ心を通わせた様な、そんな錯覚に……。
兎角、もう一度着替えて、明日奈には俺の上着を羽織らせてからショッピングモールに繰り出した。
流石に女物の服を俺一人で買いにいくのは(色々と)宜しくないだろうということで実体を保って貰っている。
「ねえ和人くん、これとこれどっちがいいと思う?」
……と、ちょくちょく意見を求められるが正直わからない。
なにせどれを着ても似合うので返答に困るのだ。
赤いスカートも似合うし花柄のワンピースも似合うし白い上着も似合う。
「どれも良いと思う…ぞ?」
「またそればっかり…。
ふふ、でも和人くんのそれは本心で言ってくれてるんだもんね。ありがとう」
「いや…その…どういたしまして。
俺にはお洒落的なものはさっぱりわからないから、明日奈が好きなのを選んでくれよ」
少し前にした短期バイトのおかげで財布の心配はないし、楽しそうな横顔を見ているだけで満足だ。
ようやく選びきったらしい明日奈が服を買って着替えるうちに、ベンチでスマホを弄りながら昼食を摂れそうな場所を探す。
ホームページを眺めつつ待っていると、すぐに明日奈が戻ってきた。
「ごめんね、お待たせ」
「いや、全然待ってないよ。
えっと……良く、お似合いで」
「えへへ…ありがとう。
お腹空いちゃったよね?お昼どこで食べる?」
「ああ、今ホームページを見ていたんだけど…結構いろんな種類があるらしくて。ほら」
明日奈にスマホを差し出すと、さして使い方がわからない…ということもなく白魚のような指が動く。
フロアマップをじっくりと審査しているようだ。
「…あ、ここにもスイーツビュッフェがあるんだね。
アリスたち楽しんでるのかなあ?」
「ああ、そういえばそんな話してたな。
今頃皿いっぱいに詰め込んで、全種類制覇してやる!とか言ってるんじゃないか?」
「ふふ、里香ならやりそうだよね」
「そうそう。アリスもノッて……って明日奈、里香のこと…」
知っているのか、と続けようとしたとき。
俺の前に立つ明日奈の後ろに立ち止まった人が見えた。
しかも1人ではなく、3人分だ。
──3人……ってことは…。
「…?和人くん、どうかした?」
「いや…後ろに……」
そう言って指差した俺の指先を辿って視線を動かした明日奈が振り向いて、あれ?と声を出す。
恐る恐る明日奈の横から顔を出せば、やはり。
「あっ、やっぱり和人よ!まーた新しい女の子をひっかけて…」
「ええ全く。言語道断よね」
「よ…よう、里香にアリス……と、幸も」
内心『うへえ』と思ったが、スイーツビュッフェに行くと言われていたのに場所を調べなかった俺が悪い。
取り敢えず立ち上がって挨拶したものの、三者三様に微妙な顔である。
「ねえ和人、その人って…」
幸が苦笑いを浮かべて尋ねる。
明日奈はきょとりとした様子だったが、俺の友達だと察したらしい。
向き直ってぺこりと頭を下げた。
「こんにちは。結城明日奈と申します」
「あ、これはご丁寧に。あたしは篠崎里香で、こっちが…」
「アリス・シンセシス・サーティ…って知ってるわよね。
明日奈は私と和人の"友人"よ。ね?明日奈」
友人、を強調した物言いに何故かぴくりと明日奈が反応する。
幸は名乗るタイミングを逃してこちらを見たが、この火花が飛び散る空間には俺にできることはない…。
とはいえこのままにしてもおけないので恐恐ストップをかけてみることにした。
「ええ、そうよ。
アリスの"友達"で和人くんのか」
「アリス、明日奈もそれくらいに…!」
むす、と眉間にシワの寄った2人がこちらをちらりと見て、そして笑顔になった。
なんなんだ…怖い…。
「それで、貴女がサチさん?よろしくお願いしますね」
「明日奈さん、ですよね。よろしくお願いします」ください
「で、その明日奈さんと和人は如何してここに?デート?」
「でっ、デートなわけ無いでしょう和人!」
──だから何故アリスは俺に振るんだ…!?
なんと言えば正解なのか、さっぱりわからない。
咄嗟に遠方から来てもらった設定で泊まるために服を買いに来たと説明して置くことして事なきを得た。
一番知っているはずのアリスが一番微妙な顔をしていたが、それもビュッフェに辿り着くまでだった。
俺達もスイーツビュッフェに誘ってもらえたので有難く着いていくと、いつの間にか呼び捨てで腕を組む仲になっていた里香と明日奈が一目散に取りに行っていた。
後ろから幸がそそくさとケーキをよそい、アリスはきらきらした瞳を向けて皿を持っている。
「ビュッフェ…普通の食べ放題は行ったことあったけれど、スイーツだけっていうのは初めてなのよ。
思っていた以上に心が踊るわね、これは」
「良かった!最近アリス、なんだか張り詰めてるみたいだったからさ。
少しは息抜きになればいいなーって思ったんだ」
「……里香…。…そうかも。ちょっと忙しくて余裕がなかったのかもしれないわ。
ありがとう、里香」
「そんなこと言って、里香がお腹いっぱいスイーツを食べたかったただけじゃないの?」
「へへ、まあそれもあるけど。
幸だって啓太たちとは来れないからって楽しみにしてたでしょ?」
「そりゃまあ…えへへ」
「ふふ…皆仲いいんだね。なんだか安心しちゃった」
「何いってんの、明日奈だってもう友達でしょ?しばらくこっちにいるんならまた会えるだろうし、今度は皆で遊びに行きましょ。
珪子たちも誘ってさ!」
「里香……!…ありがとう。是非いきたいな」
…そうして俺は女の子たちに紛れて一人隅っこで黙々とカレーを食べていたのであった。完。
ーーーーーー
「あ~楽しかった!和人が明日奈を連れてるのを見たときはどうしようかと思ったけど、今日は久々に満喫したわ」
なんだかんだ意気投合したらしい女子4人は、次々に店を回ってウインドウショッピングをしていった。
早々に荷物持ちにされるのではないかとちょっぴり焦ったのだが、明日奈が楽しそうにしていたので良しとする。
険悪だったアリスとも、色違いのパジャマを買ったと自慢されたくらいには仲良くなってくれたので一先ず安心して良さそうだ。
日が傾くまで遊び倒して漸くぼちぼちと帰路につくと、夕焼け空に黒が混じり始める。
瞬間、不自然なまでにまっすぐ横に伸びた紫色が帯のように空を庇った。
明日奈とアリスが空に視線を向けて首を傾げる。
「……もうこんな時間ね。見て、紫の帯が」
「本当ね。あんなに綺麗に帯が出来て消えるなんて……」
「え、帯?何処?」
2人の言葉に幸が覗き込むが、見えなかったらしい。
一瞬にして帯は空に溶けてマーブル模様を描いている。
──もしかして、何か先手を打たれたのか?
「あたしも見たかったな〜帯。
それに、明日のテストさえなければもっといい気分で別れるんだけど…」
「そういうわけにも行かないでしょう。
景気づけに、といったのは貴女よ里香」
「はは、そうでした…。
じゃあ幸とあたしはこっちだから、またね!」
「ああ、また明日な」
意図せず3人になったので、もう一度確認するように空を見る。
特に先程から変わったようには見えないが、険しい顔の明日奈が気になった。
「明日奈、大丈夫か?」
「あ、うん……何か変な感じがしたの。
こっちに干渉してくるような、なにか……」
買い物袋を片手に考え込む明日奈を見つつ、いつもの調子に戻ったらしいアリスも首を傾げる。
「私にはよくわからないけど…明日奈がそう言うのなら何か魔術的なものなのかもしれないわね。
帰ったらセルカに聞いてみるわ」
「あれ、今日は一緒じゃないのか?」
「ええ。何かあれば令呪で呼ぶからって言って休んでもらったの。
……おそらくあのセルカは私と同じくらいの歳だし、サーヴァントなのはわかっているけれど…あの娘に無理はさせたくなくて」
「そっか」
本当に大事にしているのだろうことは痛いほど分かる。
今日のアリスは年相応に楽しんでいたようだったが、明日奈の格好を見て自身も明日奈と2人で服を買っていた。
けれどおそらくあれは自分用では無くて、きっとセルカに買ったものだろう。
もしかするとパジャマもセルカの分があるのかもしれない。
そわそわしているアリスを微笑ましそうに見つめる明日奈も、きっとわかっているのだろう。
「じゃあ早く帰ってあげないとね。
アリス、何かあったらまた連絡して」
「ええ、ありがとう。それじゃあまた」
「また明日な。気をつけて帰れよ」
そうしてアリスとも別れて2人並びで家路に着く。
両親は忙しない人だから殆ど鉢合わせることもないが、スグはそろそろ帰って来る頃合いかもしれない。
玄関に入ってスグの靴がないことを確認してから家に上がって買ってきたものを仕舞う。
明日奈には念の為俺の部屋で霊体化してもらおうと声をかけていたのだが、部屋に戻るとまだ実体で座っていた。
「あれ、明日奈まだ…」
「か、和人くんどうしよう!わたし、霊体化出来なくなっちゃった…!」
「え……ええ…?!」
俺を見るなり駆け寄ってきた明日奈を慌てて抱き留めつつ、どうしようと言われてもどうにもできない。
そもそも俺は仕組みを知らないし…と考えてからこういうときこそアリスを頼るべきだと思い出した。
そのままポケットからスマホを引っ張り出すと不在着信が……17件。
全てアリスからだ。
「おわ…!?アリスから凄い着信が……」
「もしかしてセルカさんも霊体化出来ないんじゃ…」
「かもしれないな。っと…またかかってきた。
もしもし?どうか…」
『和人、セルカがっ!!!』
「ぅおわっ……!?…お…落ち着けアリス!」
通話ボタンを押した瞬間、物凄い声量でアリスの声が聞こえてくる。
切羽詰まった物言いからして、やはり霊体化ができなくなったのだろうか。
『セルカ…セルカが霊体化できなくなったの!
家に帰ったらセルカが出迎えてくれて、なんて出来た妹なのかしらと思ったら霊体化が出来ないって!』
「わ、わかったから落ち着いてくれ。実は明日奈もそうなんだ。
霊体化出来なくて、今俺の部屋で困ってる」
電話口から『姉さま落ち着いて!大丈夫だよ!』などと呼び掛けるセルカの声が聞こえた。
どうやら本人よりもアリスの方がテンパっているらしくため息をつかれている。
軈て、落ち着かないアリスの代わりにセルカの声がはっきりと聞こえてきた。
『和人、ごめんね。姉さまあたしにちょっと過保護だから…。
それで、アスナ様も霊体化出来なくなってるんだよね?』
「そうみたいなんだ。今日は昼から実体化して貰っていたから、はっきりといつからかはわからないんだけど…」
『アスナ様もなら、多分サーヴァント専用に組んだ術式なんだと思う。
おそらく霊体化を禁じて炙り出そうとしてるんだわ。
幸いあたしは姉さまの家にいたし、気配は元から誤魔化しの結界を使っていたからバレてないと思うけど……』
「明日奈も、外で急に出たり消えたりはしてないから大丈夫…だと思う」
『それなら良かった。なら変に拠点を変えるのも目立つし、集まるときは姉さまの家か和人の家のどちらかにしよう。
取り敢えず普通の人間のフリをしてごまかすの。
でも霊体より魔力を消費しちゃうから…今日は出方を伺って、何もなければ明日はこっちから探しに行きましょう』
セルカの言葉に思わず言い返しそうになるが、明日奈が頷くのを見てとどまる。
不安を感じているのは明日奈も同じだろうし、勿論明日奈だけを戦わせるつもりもない。
「……わかった。
でも探すって一体どうやって?」
『先ずはじめに、気配遮断が出来ないサーヴァントから探しましょう。
原因不明だけど、おそらくあたしたち以外にもこの影響を受けたサーヴァントが居るはずだわ』
なるほど、急に人が現れたりしていれば噂が流れる筈だ。
特にセルカや明日奈、それにあのランサーを見るに衣装はかなりコスプレ感のあるものが主流と思われる。
明日奈のようにたまたま実体化した上に普通の服を着ていなければ、目立つこと間違いなしだ。
──そういえばあのランサーとマスターは無事だったのか…?
思考が逸れはじめたところで、漸く落ち着いたらしいアリスの声が聞こえてきた。
『原因はおそらくあの空に浮かんだ紫の帯だと思うわ』
これに、俺にくっついたままの明日奈が更に電話口へ身を寄せて同意を示す。
「わたしもそう思っていたところ。
あのとき、何か干渉されてるって感じたのはこれだったんじゃないかな…。
きっとあの帯が見える一帯の範囲にいるサーヴァントの霊体化を強制的に解除したんだと思う。
わたしはたまたま実体化していたからわからなかったけど…おそらく」
『帯……姉さまだけじゃなくて2人も見たならきっとそれね。
兎も角あたしは今のうちに情報を集めておくから、和人は直葉さんへの言い訳とか考えておいたほうがいいよ』
そう言われて漸く近々の問題に思い至った。
そうだ、明日奈が霊体化できないという事は、一緒に行動する為には実体を持ったまま家に置くということで…となると勿論同居している妹に明日奈も一緒に住むということを説明しなくてはならない。
間違っても無断で女性を家に泊まらせたとなればアリスのときの二の舞、いや初対面の女性ということを踏まえれば更に大変なことになってしまう。
「あれ、お兄ちゃん今日出かけてたの?ていうか誰か来てる?もしかしてまたアリスさん?」
……そして惜しむらくは、あと二分程早く言ってほしかったというところか。
「ああ……遅かったみたいだ。悪いな、また後で連絡するよ」
「和人くん…?」
階下から聞こえてきた声は紛れもなく直葉のものだ。
電話を切ることを伝えている合間にも、バタバタと駆け上がってくる音が聞こえる。
既に逃走ルートが無いことを悟り、再び不名誉な女連れ込み事案が拡散されてしまう事を確信しながら、今しがた『返事してよー!』と勢い良く開いた扉を見つめた。
「……………え?」
「お…お帰り、直葉。
ええと、この人は結城明日奈。俺の…おい、スグ?どうした?」
扉を開いたまま、ついでに口もポカーンと開けっ放しに固まったスグを覗き込もうとして、俺はまだ明日奈を抱き留めたままだったことに気付く。
更に電話口によるために身を寄せていたので、抱き合っているように見えた…かも、しれない。
なにやら不味い勘違いをされてしまいそうな気がしたので慌てて弁明しようとしたが、一歩遅かった。
「おっ………お兄ちゃんが知らない女の人連れ込んでるーーっ!?」
つづく。