『猫吸い』という言葉があるらしい。
それは、猫の体に鼻をうずめて吸引するという一見正気を疑うような行為だ。
そこで俺は思った。
『ウマ娘を吸ったらどうなるんだろう』ってな。
思い立ったが吉日、早速行ってみようと思う。
〜〜〜〜〜
───マンハッタンカフェ────
まず、俺は彼女の元へ向かった。
理由なんてない。本能が告げているのだ、『絶対いい匂いするぞ』ってな。
「珍しいですね、トレーナーさん。ちょうど良かったです、コーヒーをお出ししますね」
「ああ、ありがとう」
キッチンにある棚の上からコーヒー豆を取ろうとしているカフェ。俺は彼女の後ろへこっそり近寄り、華奢な体に優しく手を回した。
「トレーナー、さん…?」
不思議そうにしているカフェ。お互いの心臓の鼓動が重なり合っているようで、少しだけ心地よかった。
しかし、俺の目的は『吸う』こと。バックハグ状態から徐々に彼女の耳の付け根へと自分の鼻を近づけていく。
そして───────
「スゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」
「ひゃぁぁぁっ!?!?」
勢いよく空気を取り込む。
瞬間、俺の鼻腔を支配するカフェの匂い。微かな柑橘系の香りに、ふわりと香るコーヒーの香り。
心地よい空気が俺の肺を一杯にした。
落ち着いた雰囲気の喫茶店、扉を開けると香る珈琲豆の微かな香り、そしてエプロン姿で豆を挽くカフェ。一瞬にして俺の頭に情景が浮かび上がった。
「何やってるんですか…?」
カフェの声に怒気が含まれている。
ここはどうにか誤魔化さなければ命は無い。
「カフェ、俺と結婚───────」
ここで目の前は真っ黒になった。淹れたてのブラックコーヒーのように。なんてね。
〜〜〜〜〜
────ウイニングチケット────
次はこいつだ。チケゾーならスポーツやってそうだしいい匂いするだろ。(適当)
鼻にコーヒー豆詰められてたせいで今はコーヒーの匂いしかしないけど。おのれカフェ…ちゅき。
「あっ、トレーナーさぁん!」
「よっ、チケゾー」
こちらに来た彼女を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。なんだか実家の犬みたいだ。尚更吸いたくなってきた。
「えへへ、くすぐったいよぉ〜」
撫でられることに夢中になっているな。彼女の体を抱き寄せ、困惑しているうちに吸引ッッッ!!!!
「スゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」
「ほぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
こ、これは…ッ!?!?
トレーニング後なのか、微かに残る汗の匂い、しかしその中にもスッキリと花に通るようなミントのような香り。
そして脳内に鮮明に巻き起こる…スポ根全開、青春満開、滴る汗は努力の証!みたいな感じの青春ストーリ──────
「ン〜…すごくいい…部屋に欲しいくらいだ。というわけでチケゾー、結婚しよ──────」
「いきなり女の子の匂いを嗅ぐなんて、トレーナーさんのエッチ!」
「ずべしゃっ」
俺の意識は沼の底へ沈んだ。
強烈だね、ウマ娘のビンタ。地面に埋まるほど強いなんて思わなかった。『ウマ』だけにね!!!
すみませんでした。
〜〜〜〜〜
─────エアグルーヴ─────
じゃんじゃん行くぜ。お次はこの娘、エアグルーヴだ。決して、普段から怒られていることへの仕返しでは無い。純粋な好奇心だ。
「ったく、貴様と言うやつは…」
ただいま、風呂上がりのエアグルーヴが部屋に来ている。正しく鴨が葱を背負って来るとはこのことだな。俺に吸われるということも知らずに呑気に掃除なんぞに耽っておるわ!
「この間掃除したのにこんなに汚しおって!」
「ああ、ごめん」
口では謝りつつ、俺は彼女に忍び寄る。しかし彼女はこちらに背を向けているため気づかないようだ。距離が詰まり、彼女から香る匂いも濃くなっていく。
もう我慢できないッ!!!失礼─────ッ!!!
「スゥゥゥゥゥゥッ!!!クンカクンカ…」
「ひゃんっ!?」
これは─────視えた!視えたぞッ!!!
湯上りのエアグルーヴ…彼女が通る所は、上品な椿の香りが残る…
まだ少しだけ水気を吸っている髪、しっとりとした肌。そしてアイラインがなくなっても、そのきりりとした切れ長の目はとても美しい。
堪らず俺は彼女を押し倒し、そのまま朝までお互いを求め合う──────
ぐへへ。
「貴様…このような狼藉を働くとは…どういうことか説明してもらおうか」
「エアグルーヴ、俺と結──────」
俺はものすごい音を立てて地面に突き刺さった。
てなわけで、『ウマ吸い』とは、このように想像力と妄想力、滋養強壮など、あらゆる効果が期待できるから、お前もやってみろ。
以上。
俺はこれからも『ウマ吸い』を続ける。
〜〜お☆ま☆け〜〜
─────たづなさん─────
ついに俺は、『
秋川理事長の秘書にして、謎多き女性。
『緑の悪魔』『地獄の扉を開く慈悲なき怪物』『メインヒロイン(笑)』などなど、数々の異名を総ナメにするハイパーお姉さんである。帽子の下で熟成された芳醇な香りをこの俺の鼻に取り込みたいッ!!!
俺はいつも、"本能"で行動するのさ…!
・
・
というわけで俺は、たづなさんをトレーナー室にお招きした。
「こんばんは、トレーナーさん」
たづなさんはいつもと違って、私服でバッチリ決めている。何故こうも妙齢の女性は美しいのか。
答えは単純明快。『いい匂い』がするからだ。
相変わらずデザインは違えど、帽子は被っているようだが。
「上がって、どうぞ」
「はい、お邪魔します」
ソワソワしている彼女を中へ通す。
「…ッッッッッッ!!!!!!!!」
俺の隣をスっと通っていた彼女から、ふわりと香ばしい香りが。
さらに横目でちらりと彼女見ると、髪はしっとりしており、ナチュラルメイクもしているようだ。これは…『鴨がネギ背負って来た』と言うやつだろうか。
風呂上がりに加えて淡い香水の香り…
どちらにせよ俺にとって美味しい状況であることに変わりはないッ!!!
「…」
「…」
両者席に着いたはいいが、特に話すことも無く黙り込んでしまう。
『たづなさんを吸う』という"結果"だけを見ていたせいで、如何にして吸うかという"過程"を全く考えていなかった…くっ、盲点ッ!!!
どうにかして帽子を脱がせて
「実はですね、知人から良いお酒をいただいたんです。俺はあまり得意じゃないので、どうせならたづなさんとご一緒出来たらなと思いまして…」
そう言って、前々から用意しておいた銘酒『ウマごろし』をテーブルに置く。
これは…ほんとに財布に痛かった。お給料が半分位持ってかれたかな〜…
「こ、これは…ッ!?こんな高級な物、いただいていいんですか!?」
無類のお酒好きと言われた彼女でさえ、目を開いて驚いている。
確実に手応えあり。俺はそう確信した。
「たづなさん、どうぞ」
酒を注いだお
「…」ゴクリ
するとたづなさんは生唾を飲み、恐る恐るそれを受け取った。
興奮からか、手が小刻みに震えている。
「い、頂きます…ッ!」
お猪口に口を付けると、味わうようにゆっくりと傾け始める。
そして──────
「きゅ〜…」
たづなさんは倒れた。
「た、たづなさん!大丈夫ですか!?」
さすがに俺は彼女に駆け寄る。
ゆっくりと彼女を抱き抱えると、規則的な寝息が聞こえてきた。どうやらあの一瞬で酔いつぶれたようだ。
「な、なんて酒だ…ッ!?恐ろしい───────が、しかし!!!」
神は俺に味方したッ!!!
今まで生きてきた中で、神なんぞただの無能な偶像に過ぎないと思っていたが…どうやら少しは役に立つらしい。
「よいしょっと」
とりあえずたづなさんをベッドへ寝かせる。
はだけた服から見える血色の良い素肌は恐ろしく官能的で、酔いによって紅潮した頬がそれを助長させるようだった。
「どれほど待ち焦がれたことか…。たづなさん、ようやくあなたを『吸う』ことが出来る…ッ!」
俺は部屋の明かりを消す。特に理由はないが、強いて言えば『雰囲気作り』だろうか。
この背徳感がまた、俺のヴォルテージをぐんぐんとあげていく。
俺は、彼女を起こさぬよう慎重に彼女の帽子を取る。
「ここが
俺は彼女の顕になった頭部に鼻を埋め、二三度ほど深呼吸した。
まず1回目────香水の甘い香り。鼻に残るキツさはなく、スッと入ってくるような心地良さが脳いっぱいに広がる。
そして2回目────お風呂上がり特有のシャンプーの香り。香水の香りを邪魔しない優しいハーブ系だ。香水との相性が良く、お互いを高めあっているようだ。
トドメの3回目─────刺激された俺の脳は、彼女との存在しない記憶を創り出す─────はずだった。
「なっ、なんだ!?」
急に、脳内に砂嵐がかかる。まるで、俺の
その瞬間!たづなさんの目はカッと音を立てるように開いたッ!!!
(終わったッ!バレた!訴訟!敗訴!人生の墓場!お先真っ暗ッ!!!)
みるみるうちに俺の脳内は絶望のワードで埋め尽くされていく。
しかし、目を開いたままたづなさんはピクリとも動かない。
「あの、たづなさん…?」
俺は恐る恐る声をかける。
その直後だった。彼女の口角はニヤリとつり上がった。そして、酔いを感じさせない俊敏な動きで俺をホールドした。それはまるで、生者を襲う屍者のようだった。
「ふふッ。トレーナーさん、捕まえた」
そう言うと、彼女はおもむろに俺の首筋に自らの鼻を埋め、匂いを嗅ぎ始めた。
「ぐあああっ!!!」
当然吸われたことなんて無い俺は、そのえも言われぬ感覚に思わず声を上げた。
しかし、それはたづなさんを興奮させるエサにしかならなかった。
「も、もう…勘弁してくれ…
「このまま枯れるまで色んな所を吸ってあげますからね♡」
俺の記憶はそこで途切れた。
その後に何が起きたのか、何をされたのかさえ覚えていない。
後日、担当達は俺のことを親の仇でも見るような目で見てきた。
俺の首や体の至る所には、赤い虫刺されのようなものがあった。
〜〜〜〜〜
『ウマ吸い』をする時は、部屋を明るくして、適切な距離から行いましょう。