独りだな
今日はクリスマスだ。
心做しか学園の中も浮き足立っている気がする。
気の緩みは時に自分自身に牙を剥く凶器となる。こんな時こそ自分を律し、規則正しく、そして楽しい年末年始を迎えるのだ。
そんな柄にもないことを思いつつ、俺は机の傍らに置いたちょっと高めの酒に視線を向ける。
断じて言おう。俺の気は緩んでいると。
一年頑張ったご褒美と称し、普段買わないようなちょっといいヤツに手を出してしまった。
別にいいだろ!どうせ独り寂しいクリスマスを過ごすんだから!
これくらい許せよ!ぶち殺すぞ!
「はぁ…」
行き場のない怒りにため息が出る。
ちょっと一服しようかな。
俺はそう思い立ち、おもむろに口を開いた。
「いるのはわかっている。姿を見せろ、サトノダイヤモンド」
妄言かと思ったか?
残念、妄言なんだなーこれがwww
「呼びましたか?トレーナーさん!」
「…」
前言撤回。
サトノダイヤモンドはいた。天井裏に。
そして今、華麗に地へと降り立った。
「…参考までに、一体いつから潜んでた…?」
「一昨日からです」
「そうか…」
この話にはもう触れないでおこう。
あ、そうだ。
「ちょうど良かった。アレを頼めるか。」
俺はそう言ってソファーに腰掛けた。
すると間髪入れずにダイヤは俺の膝へと腰掛けた。
さすがサトノダイヤモンド。レベルの高い要求にオールウェイズ応えてくれる。
「さぁ、どうぞ!」
そう言って彼女は頭を差し出した。
グッド。
まずは全体的に.....
「スゥゥゥゥゥンッ!!!」
良く手入れされた髪は光をキラキラと反射しており、優しく鼻を撫でるような甘いハチミツのような香り。まるで朝日を浴びながら飲むハニーミルクのような優しい甘さだ。
「分かりますか?変えたんです、シャンプー♡」
「ああ、もちろんだ。身をもって堪能してるよ」
頭皮に近づくにつれて強くなっていく匂いは、どんな香水よりも官能的で、どんな酒よりも酔わせてくる。
俺はもう限界だった。
ウマ吸いにおいて、ただ匂いを嗅ぐだけでは素人も同然。
部位によって違う匂いを堪能し、真価を見出すことこそ玄人。
さて、早いがメインディッシュと行こう。
忙しなくぴょこぴょこ動くウマミミ、その裏側の付け根は毛が薄くなっている。そして蒸れやすい(当社調べ)
いざ、天国へ。
俺はサトノダイヤモンドのウマミミの付け根に鼻を埋め、思い切り吸引した。
「キュウウウウウウウウウウッ!!!!」
瞬間、俺の脳内に広がる上品なハニーの匂いに、奥底から顔を覗かせる爽やかで芳醇な柑橘系の香り。それはきっと、前に使っていたシャンプーの香りだろう。お互いが奇跡的なマリアージュを果たし、脳に沁みるような濃厚な甘さの中に潜むスッキリとしたフルーツの香りが、一吸い、また一吸いとのめり込んでいく。
例えるならそう、暖かい太陽の下吹き抜ける爽やかな風。
風に撫でられて揺れる緑の草原。
ああ、天国よ。求めるものはいつも、近くに転がっているものだった。
「ありがとう、ダイヤ。もう満足だ」
「もういいんですか....?遠慮しなくてもいいんですよ?」
これは天使の甘い誘惑ではなく、悪魔の囁きだ。
これ以上吸引してしまえば、俺はきっと戻れなくなってしまう。
「ありがとう、気持ちだけ受け取っておくよ」
「じゃあもう少しだけ、お膝の上に失礼しますね!」
そう言って、ダイヤはしばらく俺の膝を占領していた。
時折鼻をくすぐる香りに意識が飛びそうになりながらも、俺は彼女の要求を完遂した。
ーーーーー
俺は少し緊張していた。
なんてったって、ドリームジャーニーが俺の横にいるから。
小柄な体格に似つかわない、時々見せる威圧感に圧倒されるからだ。
しかし、そんなことを言っていては一人のウマ吸イストの名が廃る。
隙を見て、一吸い。いわゆるワンチャンにかけていた。
「どうしましたか?先程からソワソワされて」
「あぁいや、大したことじゃないんだ」
はっきり「嗅がせてくれ」なんて言ったら即ぶっ殺案件だ。
しかし、俺の鼓動は高鳴っていく。
そこで俺は、ついに賭けに出た。
「ジャーニー、トレーナーのここ空いてますよ」
俺は自分の膝をポンポンと叩いて示す。
さあ乗ってくるか?この賭けに.....ッ!!!
「そうですか。でしたら。」
彼女は俺の膝に乗った。
勝ったッ!!!
俺は賭けに買ったのだ!!
ああ嬉しい!
もう吸うッッッッ!!!
「ヒュオオオオオオオオッ!!!」
「ッ!!!」
俺はジャーニーを抱きしめ、無遠慮に彼女を吸引した。
抵抗する彼女をがっちりと抑え、少し乱暴に吸引し続ける。
脳に染み渡る爽快なシトラスの香り。
少し以外だったが、それもまた彼女の魅力を惹き立てるギャップとでも言える。
ほのかに香る、おそらく高級であろう柔軟剤の香りも旨さを倍増させるスパイスになる。
「ッッッ!!!!!!」
瞬間、俺は脳内に何かが突き刺さるような感覚を覚えた。
なんだ.....!柔らかさの中に、爪を立てられるかのような凶暴さが隠れている!先程までの爽やかな香りとは裏腹に、脳を支配されるような激しい依存性を含むような危険な香りがジワジワと精神を蝕んで行く。
「トレーナーさん、お痛が過ぎますよ。」
気づけば俺は、彼女に押し倒されていた。
迂闊だった。彼女の内に秘められた狂気に気づいてない訳ではなかった。
しかし俺は、そのリスクを負ってでも堪能したかったのだ。
きっと俺は拷問され、ドラム缶にセメントと共にぶち込まれ、鳴門海峡辺りに沈められるだろう。
なればこそ、惨めたらしく命乞いでもしておこうか。
「お仕置きはお手柔らかに頼むよ、ジャーニー」
「.....ふふっ、ではお覚悟を。」
不敵な笑みを浮かべた彼女に服を剥がされながら、俺は静かに目を閉じた。
反省はしてる。後悔はしてない。
そうだな、最後に.....
すみませんでした.....
ーーーーー
次の日、上半身裸の状態でトレーナー室の天井から吊るされたトレーナーが発見されたのは語るまでもない。
なお、その体には無数の歯型が確認されたそうな。
めでたしめでたし。
泣く