学校の中庭、その真中に立っている樹木の木陰のベンチに座っている委員長。何やら本を開いているようだが、何か別の事を考えているかのように顔色がコロコロ変わる。
「委員長!」
僕が声をかけたのは、委員長の顔が何やらニヤニヤしていた時だ。
「佐藤君! いつからそこに?!」
「難しい顔をしたりにやにやしたりどうしたの?」
「それはその...この本 この本を読んでたら面白くて」
「そう、僕はてっきり鈴木くんのことでも考えているのかと思った。」
図星...委員長の表情はそう言っているようだった。
「それより委員長に相談があるんだ...僕、部活動に入ろうと思っていて。」
「部活ですか?」
「手芸部に興味があるんだ。」
「え? 手芸部ですか...?」
意外そうな顔をしながらも、委員長は僕を手芸部の部室へと案内した。
「手芸部へようこそ」「意外でした、佐藤君が手芸部に興味があるなんて...」
「委員長のキーホルダーを見たら、いいなって思って。」
「ありがとう、プラバンなら得意だよ」「確かここに初心者用のセットが...」
棚の上にあるダンボールを取ろうと背伸びをする委員長。ちょっと危なっかしい感じがしたので、委員長の背後からダンボールを支えようと手を伸ばした時に委員長の背中に僕の手が触れてしまった。
「あうっ!」
不意の出来事にとっさに手を引っ込めて固まってしまう委員長、そのまま倒れかける委員長を僕が支え、支えを失ったダンボールはガタンと床に落ちた。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう...ございます。」
そう言って、慌てて身を起こし、委員長は僕を工作部屋に案内した。
「...と、こんな感じで作ります。」「まずはプラバンを渡しますので好きな形に切って、絵を描いてみてください...」
プラバンでの工作方法を一通り説明し終えると、委員長は僕の側に立って、僕の作業する様子を見ていた。僕は、そんな委員長の視線を感じながら、プラバンをカエルの形に切ってマジックでカエルの絵を描いた。
「委員長は...鈴木くんにキーホルダーをプレゼントしたりとかしないの?」
「え? ど、どうして?」
「委員長は鈴木くんのこと好きでしょう?」「見てればわかるよ。」
え? という表情をしながら視線をそらす委員長。本当に彼女はわかりやすい。
「でも、まあ」「鈴木くんの方はその気がないみたいだったけど...」
「そ...そうなんですか?...。」
「本人から直接聞いたわけじゃないけどね。」
「....」
「他人の僕から見ても委員長が鈴木くんに気があるのがハッキリわかったのに、鈴木くんは全く気づいてないみたいだったし...」
「....」
「それってつまり、鈴木くんは委員長のこと全く見てないってことじゃないかな?」
話の後半は僕の勝手な妄想だったが、委員長には何か思い当たることがあったかのような、そんな表情にみえた。
「委員長はとても魅力的だよ。」「きっといい人が見つかるよ。」
ま、その「いい人」が僕ならいいんだけどなぁ、そんなことを思いながら委員長をじっと見つめる。
「....」
少し何か考え事をしたかのように見えた委員長の顔だったが、ふと正気に戻ったかのように
「わっ、私のことはともかく。手がお留守ですよ、佐藤くん。」
僕も委員長と話をすることに夢中で、カエルの絵がすっかり止まっていた。
「あ、そうだった...あははは。」
「もう、佐藤くん。おしゃべりばっかりしていていると上手くできませんよ。」
委員長とのそんなやり取りが楽しい。
「部長!」
そう言って工作部屋に入ってきたのは1年生の田中さんだ。
「あれ? 佐藤先輩?! 工作部屋で二人っきりで何してるんですかぁ?」
「あっ、あのっ、そのっ、そんなんじゃなくて...」
慌てて言葉が出ない委員長
「あ、今度僕、手芸部に入ろうと思っていて、それで委員長に工作を教えてもらっていたんだよ。」
「あー...」
あからさまに嫌そうな顔をする田中さん。僕は人畜無害アピールのためにニコっと笑ってみせた。
「あ、そんなことより部長。」「部室に鈴木先輩がいらしてますよ。」
「えっ?! 鈴木くん?」
驚いたような、それでも嬉しそうな委員長。そのまま工作部屋を出て、鈴木くんを出迎えに行ってしまった。やっぱり僕が何を言おうと彼女は鈴木くんなんだな。我ながら、妙に簡単に納得してしまうものだ。
「鈴木くん、どうしたの?」「来てくれるなら言っといてくれれば良かったのに...」
「あ、うん、ちょっと手芸部に遊びに行こうかなって...」
にしても相変わらず鈴木くんは煮えきらないなぁ、もし僕が鈴木くんくらいモテたならもうとっくに委員長貰っちゃってるよ。ま、そういうところがいいんだろうけどね。
「鈴木くん...」
「佐藤...」
「折角だから僕と一緒にプラバンやってかない?」「僕、手芸部に入ろうと思ってるんだ。」
「佐藤くんね、私のキーホルダー見て手芸部に興味持ってくれたんだって。」
「そっか、じゃあ僕も少しやっていこうかな?」
「うん、是非そうして。」
嬉しそうな、とびきりの笑顔を見せる委員長。僕のハーレム計画はまたしても予定よりも遅れてしまったが、今日はこの笑顔が見られただけでも満足だ。それから、鈴木くんとも少し話ができた。それに、これからは手芸部で委員長と話をする機会も増えるだろう...
一方、佐藤の手芸部入部と、鈴木の来訪ですっかり幸せな放課後を過ごした委員長こと川上やよいは、佐藤が手芸部から帰宅した後で、後輩の二人から言われたことを思い出していた。
「部長、佐藤先輩の入部はちょっと...、です。佐藤先輩は明らかに部長目当ての入部で、後々問題になると思います。」
「佐藤くんは、私のキーホルダーを見て興味を持ったって言ってたし、折角の新入部員なんだからみんなで歓迎しましょう。」
「もう、部長はお人好しなんだから。」
私目当て...って言われてもねぇ。鈴木くんも手芸部入ってくれればいいのに...今度何か作ってプレゼントしようかな?
そう考えた時、佐藤の言葉が心をよぎった。鈴木くんは私を見ていない...いや、佐藤くんの思い過ごしだわ。明日も学校あるし、余計なこと考えないで寝なきゃ。
そう思って布団に潜り込んだ。
その夜、妙な夢を見た。
部室で見知らぬイケメンに口説かれ、工作部屋でそのイケメンと何やら怪しげなこと...お互いの体を触って、触れられて、舐めて、舐められて、絶頂を迎えてしまった。幸い工作部屋には鍵をかけていたので誰にも見られることはなかったが、部屋の外が騒がしくなったのに気づいて気分が高揚したままの状態でそのイケメンと一緒に工作部屋から出たところを、あろうことか鈴木くんに見られてしまい...
体調不良を理由にそのまま部室を出たところで、そのイケメンに
「...僕の部屋で続きをしない?」
そう言われ、そのまま彼の家で初めてを捧げてしまった...
「っ.....! ...夢...」
何とも生々しい夢。そういえば、夢の中のイケメン君、似てはいないと思うけどなんとなく佐藤くんを思わせる顔立ちだったように思えた。
「変な夢...」
ありきたりな感想を呟きながら窓の方を見るとまだ外は暗いようだ。
「今度はいい夢が見られますように...」
そんなことを考えながら眠りについた。
二度目の夢にも先のイケメンが登場した。今度はそのイケメンの家、高級そうなマンションの一室で、彼と私のほかに手芸部の後輩二人がテーブルを囲んでソファに座っている。私の隣には例のイケメン、対面に後輩二人、テーブルの上にはスイカが並んでいる。時期的にスイカはまだ早いのだが、どういうわけかスイカだ。
隣りに座っているイケメンが、後輩たちの目の前で私の体を撫で回し始めた。夢の中の私は恥ずかしがりながらも彼にされるがままだ。後輩たちはそんな私達に驚きながらも興味津々といった感じだ。
そのうち、彼は私の服を脱がし、後輩たちに恥ずかしいところを見せつけながら愛撫を重ね、ついに私を全裸にした彼も裸になって後輩の目の前で行為を見せつけることに。夢の中の私は後輩二人を目の前に恥ずかしさでいっぱいになりながらも彼を受け入れていた。そして、ついに我慢できなくなった後輩二人が参戦、彼と後輩二人に体中をいじられながら私は絶頂を迎え、その後、放心状態の私の目の前で、後輩二人が一人ずつ彼に初めてを捧げていた...
「ふぁぁっ.....夢か...」
続けざまに妙な夢を見てしまった。現実にありえない事だが、妙に生々しい、あるいは本当にあったかもと思えるくらいの質感のある夢だった。
「変な夢...」
夢のせいか疲れが取り切れていない感じはあるが、もう起きる時刻だ。いつも通り朝食を済ませ、家を出た。
「おはよう、委員長。」
「あ、お、おはよう。鈴木くん。」
今朝の夢のことがまだ尾を引いていて、鈴木くんを正視できない...。
「委員長、どうしたの? 何か様子が変だけど...」
「ううん、何でもないの。」
昨日佐藤くんはあんなこと言っていたけど、鈴木くんが私を全く見ていない、ってことはないんじゃないのかな? それに...やっぱり鈴木くんって優しい。
「委員長。おはよう。」
「あ、佐藤くん。おはようございます。手芸部の入部ありがとう。」
「こちらこそ、昨日は楽しかったよ。」「委員長は今日も部室に行くの?」
「そのつもり...なんですけど。」
今日の放課後は、鈴木くんにあげるキーホルダーを作ろう。折角だからお揃いになるように。それで鈴木くんに引かれたら、その時はその時だ。昨日、佐藤くんが言っていたことが本当だとしても、それはとても残念で悲しいことだけど、それならそれでハッキリさせればいいじゃない。
昨日佐藤くんの言葉を聞いて、なんだか変な夢を見て、いい意味で気分が切り替わったような気がする...
とはいえ、折角気分を切り替えたのに、また佐藤くんにネガティヴなことを言われるのもちょっと...なので今日は一人で作業したいというのが本音だ。
放課後、工作部屋で作業をしていると佐藤くんが現れた。
「委員長、今日は早いね。」
「あ、うん。今日はちょっとやりたいことがあったので...」
「鈴木くんへのプレゼントかな?」「昨日は変なこと言ってゴメン。僕は委員長を応援してるから...その、うまくいくといいね。」
「あ、ありがとう。」
佐藤くんに図星を突かれたのは驚いたけど、昨日すでに私の気持ちは佐藤くんにバレているからしょうがないか、とすぐに気持ちを落ち着かせることができた。そして、折角男子がここにいるのだから、色々とアドバイスを貰ってみよう、と思えるくらいの気持ちの余裕が生まれていた。
「あの、さ、佐藤くん? 男子って、女子から手作りのプレゼントをもらうのってどうなんでしょ?」「その、重い、とか抵抗あったりするのかな?的な意味で...」
「そうだね、僕は嬉しいけどな、手作り。」「人によって違うんだろうけど、多分鈴木くんは悦んでくれると思うよ。」
「そ、そっか、ありがと。」「でも、いきなり2つ同じものを作ってお揃いとかは引きますよ...ね。」
「僕は嬉しいけど...鈴木くんだと最初はお揃いはやめたほうが無難かなぁ?」
「そ、そうですよ...ね。」
その後、佐藤くんに色々とアドバイスをもらい、鈴木くんにはレジンを使ったアサガオ柄のキーホルダーにすることにした。プラバンでも良かったけど、やはり手間をかけてでも仕上がりの良いものを作りたいという思いがあったからだ。
「あ、ありがとう、佐藤くん。おかげでいいプレゼントができそう。」
「どういたしまして、委員長。」「さっきも言ったけど、僕は委員長を応援してるから。頑張って。」
「うん、がんばります。」
このとき、佐藤はいつかみきが言っていたことを思い出した。彼女が鈴木に告白したこと、「まずは友達から」ということで鈴木が受け入れたこと。つまり、委員長の恋は実らないこと。だが、佐藤はそのことを言い出せなかった。佐藤は委員長のことが気になっていたが、それとは別に委員長を応援したいという気持ちもまた本当だったからだ。