君のために異世界でプロローグを始めよう   作:砂漠の右ストレート

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第1話 君と見る朝日

 

 「ねえ、ファルシャ」

 

 俺の名前を呼ぶ、聞き馴染んだ女性の声。

 

 「ありがとう、私を鎖から開放してくれて」

 

 今さら感謝なんていいよ、そう言おうとするが口が上手く動かない。それどころか、足の先から頭のてっぺんまで一切動かすことができない。

 

 かろうじて目蓋を開くことと呼吸だけはできる。しかし、視界に映るのは暗闇だけであり、幽霊になってしまったかのように肉体の感覚が無かった。

 

 この非現実的な状況を鑑みて、俺は夢を見ているんだな、と気づいた。

 

 女性の声は続く。

 

 「ファルシャ、私を自由にしてくれてありがとう」

 

 「生きる意味をくれて、ありがとう」

 

 いつのまにか俺の眼前には女が立っていた。髪を隠すようにスカーフで頭を覆った、細身の女。

 

 隙間からわずかに覗く亜麻色の髪は、凍らせたかのように霜を纏っていた。

 

 「ファルシャ」

 

 その灰色の瞳はまっすぐに俺を捉えている。慈しむような、悲しむような、複雑な感情を携えた瞳。

 

 「ごめんなさい……」

 

 その瞳の持ち主を、俺は知っている。

 

 「どうか私を許して」

 

 彼女はそう一言呟くと、俺に背を向けて歩き始めた。彼女の背中が一歩一歩遠ざかっていく。

 

 俺は彼女を追いかけようとした。しかし、いくら念じても俺の手足はピクリとも動かない。

 

 そうしているうちにも彼女の姿は小さくなっていく。心臓の鼓動が早くなり、焦燥感で呼吸が荒くなる。

 

 手足が動かなくてもいい。せめて声だけでも、声だけでも出せれば、きっと彼女を止められる。

 

 「…………レ……ス……」

 

 彼女の名前を呼ぼうと、必死に喉に力を込める。

 

 「ヴェ…………ス………!!」

 

 どうか俺を置いていかないでくれ。一人にしないでくれ。

 

 「ヴェレス!!!!」

 

 

 

 突然、後頭部に鈍痛が走る。

 

 「いってえ!?」

 

 響くような痛みで目が醒める。

 

 頭を手でおさえながら振り向くと、オークの大樹が俺の背中を支えていた。

 

 飛び起きた拍子に、樹の幹に頭をぶつけたのか。しかし、なぜ俺は樹にもたれかかって寝ていたのだろうか?

 

 寝ぼけた頭脳で昨日の記憶を辿ってみる。早朝に村の宿を出発、昼下り急に降った大雨、樹の下で雨宿り………そうか、昨晩はこの樹の下で野営していたんだったな。

 

 「ファルシャ、大丈夫?」

 

 聞き馴染んだ声が俺を呼んだ。

 

 「大丈夫だよヴェレス。ちょっと悪い夢にうなされてただけさ」

 

 「悪い夢?」

 

 「ああ。なんだか怖い夢を見てたよ……でも、頭をぶつけたせいで内容は全部忘れた」

 

 なによそれ、と言って彼女はくすくすと笑う。朝日に照らされた彼女の微笑みは、相変わらず綺麗に見えた。

 

 小風が吹き、彼女の長い髪がたなびく。その美しい黒髪は隠されることもなく、さらさらと宙に舞い、太陽の光を反射する。

 

 彼女に見惚れていると、ふいに目があった。しばらく見つめ合うと、彼女は恥ずかしそうに笑った。俺もつられて笑いが出る。

 

 「おはよう、ヴェレス」

 

 「おはよう、ファルシャ」

 

 彼女の緑色の瞳は宝石のように輝いていた。

 






 おそらく長編にはなりませんが、現在リアルの生活が忙しいので更新は遅くなるかも…?

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