君のために異世界でプロローグを始めよう 作:砂漠の右ストレート
「そろそろ次の村に到着するはずだ」
ファルシャは横を歩くヴェレスにそう伝える。
「そうね。ライ麦の匂いがしてきたもの、農地が近いはずよ」
ためしに鼻で大きく息を吸うが、腐った
ファルシャには感じ取れなかった
ヴェレスは鼻で空気を吸うたび、ライ麦の香りに反応するように耳をぴくぴくと動かした。
ヴェレスは獣人だ。
獣人は
人間のような耳は無く、かわりに頭のてっぺんから狼の耳が生え、腰の付け根にはしっぽが付いている。
今までの旅でヴェレスの察知能力に助けられた場面は数知れない。
「ほら!森の出口についたわ」
ようやくだ、やっと休憩できる。
ファルシャはいさみ足で森の出口へと向かって行った。
森を抜けると、金色に実ったライ麦畑がどこまでも続いていた。
吹き抜ける風が
なんと
「……ファルシャ」
「……ああ」
だが、何かがおかしい。
ファルシャは目を細めて訝しむ。
この美しいライ麦畑にもっとも必要なものが、なぜか
いや……正確に言うべきか。
“なぜか
「農民はどこだ」
ライ麦を刈り取る農民の姿が、どこにもない。
「ッ……!!ファルシャ、血の臭いがする…!!」
ヴェレスの表情が
「ヴェレス、どの方向から臭う?」
「あっち……農村がある方向…!」
彼女が指差す遠く向こうに、農民たちの
居なくなった農民、
「最大限の警戒で行くぞ」
ファルシャは両手に
「……血の臭いだ。ここまで近づくと俺でも分かる」
村の入口まで不愉快な
村の中を見渡す。
民家や小屋に破壊の
「ファルシャ」
ヴェレスが小声で耳打ちする。
「納屋の裏に3人、家畜小屋に4人」
ヴェレスは確認を取るように指を差す。
その先には
「……家畜小屋は俺がやる。ヴェレスは納屋の3人を制圧してくれ」
「分かった」
そう返答すると、ヴェレスはゆっくりと納屋に向かって歩みを進めながら装着していた
納屋の裏では、3人の男が
いずれも
その無造作に伸びたヒゲと髪の毛は、彼らが
山賊のリーダーであろうか。男のひとりは、壁にある
仮に彼をハンスと呼ぶ。
ハンスは緊張状態にあった。
村の金品や食料を
とっさに指示を出し、手下どもを隠れさせた。
もし警備隊の巡回であったら面倒なことになる。こちらは馬も持ってないし、逃げるに役立つ魔法も知らない。
見つかれば殺される他無いだろう。
しかし、村にやってきたのは旅人のような
しかも女のほうは、無警戒にも俺たちの居る方へ近づいて来るではないか。
ハンスは思った。
ここで殺っちまおう。うん、それがいい。
弱そうな奴はとりあえず殺すに限る。
彼は
“女が1人近づいてくる。こっちに回り込んできた瞬間、襲いかかれ”
手下たちは
準備万端、いつでも殺れる。ハンスはもう一度壁の隙間を覗き見る。
──眼前に女の衣服の揺れ動くのが見えた。
彼は直感的に叫ぶ。
「逃げろッッ!!!」
その瞬間、壁を突き破って二本の大きな手が掴み掛かる。
ハンスは間一髪で
両手をついて地面に倒れ込む。思考が混乱していたが、すぐに気を取り戻し、ハンスは短剣を握り直して振り返る。
毛皮に覆われる筋張った両手が、手下たちの首を締め上げ、体を宙に吊りあげている。
あの女の手か?いや、あんな手の獣人など見たことも聞いたこともない!
「……あ!野郎ども出てこい!」
家畜小屋の中にまだ4人隠れていたことをすっかり忘れていた。
ハンスの声に反応して、
彼らは家畜小屋の外に女を見つけるや否や、武器を構えて一直線に走り出した。
瞬間、頭蓋骨が砕け散って血液の
手下たちは動揺する。先頭を走っていた一人が突然現れたメイスに側頭部を強打されたからだ。赤く
出口のすぐ横に
ファルシャは血塗れのメイスを手から提げ、ゆらゆらと揺らしながら盗賊の手下たちに近づいていく。
「な…なんだテメェ!?ブッ殺す!!」
そう言い放つと武器を構え直し、
手下が短刀で斬り掛かってくる。男は
手下は膝から崩れ落ちてそのまま動かなくなった。“残り2人”。
男の股間部を目がけて槍の
手下は体勢を崩して前に倒れ込む。すかさずメイスで殴りつけて、後頭部を叩き潰す。“残り1人”。
「う、あ、あ………アアァァァァ!!!」
悲鳴にも似た声を上げながら
この動きは…攻撃魔法を使うつもりだな。男は直感的に察知する。
案の定、突き出した掌から光輝く矢が高速で射出されたが、男の上着に触れた瞬間コナゴナに砕けて宙に
無駄な足掻きを。
練度の低い粗末な魔法など、服にちょっと
「あっ、あ……」
絶望するような、恐怖に打ちひしがれるような声を絞り出し、男の顔を
男は思う。この顔の傷が気になるのか?
「お、お前……その顔の傷……」
男には、顔を左右に分断するような大きな傷があり、左半分の顔は火傷したように肌が赤かった。
「顔の傷……ッ!お前……この…!!」
男には、手下が次に言う言葉が分かっていた。
「このっ………魔法の使えない劣等人種がああァァァ!!!」
「それしか言えんのか、低俗な野盗め」
震えた手で斧を構えて突進してくる。こうなるともはや逆転の余地など無い。
間合いに入った瞬間、メイスが振り下ろされて頭頂にめりこむ。
陥没した傷口から血が流れ、髪の毛の先端から
「……ヴェレスの方も済んだかな」
ファルシャは素早く家畜小屋の外へ向き直すと、小走りでヴェレスのもとへ駆けていった。
ルビとか色々と付けてみました。よければ感想等よろしくお願いします!