君のために異世界でプロローグを始めよう   作:砂漠の右ストレート

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第3話 レギオンの飛翔

 

「大丈夫かヴェレス!」

 

 ファルシャは納屋のそばに立つヴェレスに駆け寄る。彼女の足元には山賊の2人が失神して倒れていた。

 

「一人取り逃がした!今から追う!」

 

 そう言うとヴェレスはブーツを脱ぎ捨て四つ脚で走り出した。

 彼女の手と同じく、狼のように大きく硬く、獣毛で覆わた脚。

 

 地面を蹴るように力強く、放たれた矢のような速さで道を駆け抜けていく。数回と瞬きしないうちに、麦粒のように小さくなっていたハンスの背中にあっという間に追いついた。

 

「賊!!止まれッッ!!」

 

 ヴェレスが背中目掛けて飛びかかると、ハンスは何の抵抗も出来ずに組み倒された。

 ハンスは背中の上で馬乗りになっているヴェレスをどかそうと脚をばたつかせて抵抗を試みるも、怪物じみた腕力で押さえつけられて逃げようもない。

 

 ヴェレスはじっと狙いを定めると、首の両側部を掴んで強く締めつける。

 ハンスは喚き声をあげて体をよじらせるが、脳への血流を阻害されたために数秒と経たず失神した。

 

 手を離して立ち上がり、ぐったりと動かなくなった山賊を見下ろす。

 

 このあと自分が為すことを考えて、ヴェレスは表情を暗くする。

 目をつぶって何度か深く息を吐き、山賊の体を両腕で担ぎ上げるとファルシャの元へと走り戻っていった。

 

 

 

「ヴェレス、辛いなら無理をしなくていい。いつもみたいに俺がやれば……」

 

「…ありがとう。でも大丈夫、私にもできるから」

 

 ヴェレスの視線の先には、気絶して力無く横たわる3人の山賊がいる。

 彼女の震える右手には鋭く研がれたダガーが握られていた。

 

「私は人を殺める責任から逃げたくない」

 

 彼女はこれから山賊たちを殺す。

 

 罪を犯した者は大抵の場合、警備隊に捕えられてしかるべき罰を与えられる。

 暴行を犯した者であれば罰金を課されるかムチで打たれ、盗みなら指や手を切り落とされる。

 

 そして強盗殺人を犯した者は火刑に処される。

 

 地面に立てられた丸太にくくり付けられ、罪人は数時間にもわたって火に焼かれる。

 燃料の薪や藁は少しづつ投入され、決して大きな炎にはならない。

 弱々しい炎は罪人をつま先からゆっくり焦がしていき、激しい苦痛によって叫び声を上げながら身をよじらせ続けるのだ。

 この世で最も恐ろしい処刑方法があるとすれば、これがそのうちの一つであることは間違いないだろう。

 

「…この人たちも」

 

 ヴェレスが呟く。

 

「この人たちも、山賊になんてなりたくなかったでしょうね。……でも、貧困や差別が蔓延した今の世の中じゃ、私達に選べる道は限られてる」

 

 右手にあるダガーを強く握り直し、ヴェレスは山賊の一人に近づく。

 

「どんなに罪を犯した人間だろうと、残酷な最後を迎えてほしくは無いの」

 

 ダガーの鋭い刃先を山賊の胸にあてがう。

 震えるその手には、確かな覚悟のようなものが宿っていた。

 

「……だからと言って、罪のない人々が傷つけられるのを黙って見過ごすつもりも無いの」

 

 一瞬の静寂ののち、山賊の胸にダガーが深く突き刺さされた。

 

 傷口から血が流れ出て、山賊の服を赤く染めていく。

 ダガーを引き抜く。山賊の顔はみるみると青白くなっていき、そして心臓の鼓動は動きを止めた。

 

「頑張ったな」

 

 ファルシャは震えるヴェレスの右手にそっと手を重ねる。

 

 ヴェレスは何も言わず、左手を重ね返した。

 

 

 

 馴れたような動きで心臓を突き刺し、ひねりをくわえてトドメをさす。

 

 あと一人。そこに転がっている山賊のリーダーと思わしき男を殺せばこの仕事は終わりだ。

 

 ファルシャはヴェレスのほうを見る。

 地面に座って膝を抱えている彼女は、明らかに元気を失っている様子だった。

 

 優しさは彼女の美点だ。だが、優しすぎるのも考え物かもしれないな。

 

 そんな事を考えながら、最後の一人に手を掛けようとした時だった。

 

 意気消沈していたヴェレスが急に立ち上がり、声を出した。

 

「誰か来るッ…!!隠れて!!!」

 

 

 

 

 

 馬の背に揺られてチェーンメイルで武装した兵士たちが村に入る。

 王国の治安を守り、犯罪者を取り締まる警備隊たちだ。

 その数8名。充分な訓練と上質な装備を身に着けた彼らなら、山賊と対峙するには問題ない人数だろう。

 

「こりゃあ臭えな。こんなに血の臭いがするなんて、いったい何人殺されたんだ?」

 

「さあな。木こりの話じゃ、この村に山賊が入っていったそうだが……住民は皆殺しにされたかもな」

 

「とりあえず死体を見つけなきゃ話が進まねえ。お前ら、探すぞ」

 

 警備隊たちは馬を降りて死体を探し始める。

 家をひとつひとつ周り、藁の山をかきわけ、納屋の荷車をひっくり返す。

 しかし死体は見つからない。

 

「…ったく、山賊連中め。どこに隠しやがったんだよ」

 

 隊員の一人がため息をつく。

 

「あーあ、俺たちが大変だってのに…どっかの誰かさんは見てるだけかよ!」

 

 彼は眉間に皺を寄せ、非難の視線で一人の女を見つめる。

 

 その女は、馬にまたがったまま警備隊たちを見下ろしていた。

 

 その整った顔立ちは、女性的な美を含みながらも男性のような凛々しさを兼ね備えていた。

 血で染めたように鮮やかな赤い髪はセミロングに切り揃えられており、彼女の青い目とコントラストを成している。

 

 その身長は一般的な兵士と比べても高く、分厚い胸甲と手足の防具を身に着けてなお、体格の良さを隠しきれない。

 

 一見して、彼女の姿は完璧のように思える。

 

 しかしながら、ただ一つ気になる点があった。

 それは彼女の顔にある大きな傷である。

 

 一文字の形をしたその傷は、あたかも目から下の部分と上の部分で2つに断ち切ってしまったかのようだ。

 

「オイ!聞こえてるだろ!」

 

 何の反応も返さない彼女に対して、他の隊員も怒りの声をあげる。

 

「テメェ!隣国からの使者だか何だか知らねーけどよ、魔法も使えないやつが偉そうにすんな!」

 

「そうだ!そもそも何の目的でこの国に来たんだ!言ってみろ外人野郎!」

 

 彼女はピクリとも表情を変えず、冷たい声で返答する。

 

「……我々の目的は死体探しでも、山賊を捕えることでも無い。警備隊に同行しているのは円滑な国内移動のためにすぎぬし、お前たちを手伝う必要性も存在しないだろう?」

 

 当然かのように言い放つ女の姿を見て、隊員たちは怒りを通り越して呆れかえってしまった。

 

 隊員たちはぶつぶつと文句を言いながら探索に戻る。

 

「魔法が使えないと思いやりも使えないみたいだな」

 

 彼女は警備隊の背中を見送る。

 

 その表情は侮蔑の感情をはらんでいた。

 

 ふと農場を抜けるそよ風が吹き、彼女の髪をそっとなでる。

 

 彼女はヴェント王国の国王直属部隊の兵士。

 

 名を『ローザ』と言う。

 

 

 

「見つけたぞ!農民の死体だ!」

 

 隊員たちは畑の一角に集まる。

 

「こりゃ酷えな。傷を見るに、剣か槍で滅多刺しにされたんだろう」

 

 生い茂る麦の中に数人分の死体が隠されており、おそらく夫婦とその子どもたちだろうと推察できた。

 

「……それで他の農民はどこなんだよ」

 

「さあな、ドラゴンにでも食われたんじゃねえか?」

 

 隊員たちから小さな笑い声が湧き上がる。

 

「そりゃいいな。もう死体を探すのはやめにしてドラゴンでも探すか」

 

「警備隊!残りの死体を見つけたぞ!」

 

 遠くから発せられたローザの声が隊員たちを呼んだ。

 

「なんだよ!手伝わないんじゃなかったのか!?」

 

 隊員たちは渋々といった表情でローザの居る方へ向かう。

 

「見ろ、あそこだ」

 

 ローザの指差す方向には、四角柱の形をした土の塊が横たわっていた。

 

「あ?なんだありゃ?」

 

 隊員たちはその土くれまで近づく。

 

「……おいおい、なんだこのデカさは」

 

 近くで見て気づく。

 その土の塊は、人の丈の2倍はあろうかという高さと杉の木ほどの長さを備えていた。

 それぞれの面はナイフで切り取ったチーズのように平坦かつ綺麗であり、そのうち一つの面からは根の張ったライ麦がびっしりと伸びていた。

 

 これは土の塊ではない。

 

「切り取られた地面だ」

 

 ローザの発言に隊員たちは息を呑む。

 山賊が何人居たところで、このような所業できるはずも無い。

 それならば、この村に人間離れした“何か”が訪ねてきたのだろう。

 そう考えるのは自然だった。

 

 得体の知れぬ恐怖に目を見開く隊員たちをよそに、ローザは平然と話を進める。

 

「……農民の死体についてだが、そこの穴の奥に溜まっていたぞ」

 

 土くれのすぐ隣には四角い大穴が開いていた。

 地面を切り取った跡だろう。

 

「覗いて見ろ」

 

 隊員たちは恐る恐る進み寄る。

 穴のふちに立つと、お互いに何度か視線を合わせた後、意を決したように穴の奥を覗き込んだ。

 

 

 

 最初のうちは泥でも溜まっているのかと勘違いした。

 

 だが違う。それは肉の塊だった。

 元の形すら残らないほど徹底的に破壊され、半固形になるまで潰された数十の人間の死体。

 何処までが誰で、誰が何処までなのか。もはや知ることはできない。

 赤黒く変色した肉片に混ざる毛髪が、この光景の凄まじさをより際立たせていた。

 

 隊員の一人は思わず悲鳴をあげる。

 

「クソッ!!なんだよコレ!!どうやったらこうなるってんだ!!!」

 

「そんなの分かんねえよ!ったく、気分の悪い殺し方しやがって。一体全体誰の仕業なんだよ………」

 

 うろたえる隊員たちをせせら笑うようにローザが言う。

 

「誰の仕業か言わなきゃ分からんか?」

 

 隊員たちはローザの方に視線を向けるが、考えてみたところで犯人の目星なんて見当も付きそうにない。

 だからと言って「分かりません教えて下さい」と教えを乞うのも尺に触る。

 なので必死に頭をひねって考えるも、さっぱり思いつかない。

 

 数秒の沈黙が過ぎた後、答えを思いついた一人が口を開いた。

 

「こんなことをやるのは"レギオン"だけだ」

 

 "レギオン"という名前を聞いて、他の隊員たちはどよめき恐慌する。

 そんなまさか、この国にも遂に来たか、これは厄介なことになるぞ、それぞれが不安の言葉を述べていく。

 

 答えを言い当てた隊員は話を続ける。

 

「レギオンはこの村を襲撃し、村人の大半を殺した後死体をこの穴に隠した………。一組の家族は運良く生き延びたものの、その直後山賊に村を襲撃され、不運にも殺されてしまった。そうだろ?」

 

 ローザは皮肉めいて口角を上げる。

 

「良かったな。ドラゴンより立派なバケモノに会えるぞ」

 

 地平線の上を銀色の飛翔体が通り抜けていった。

 

 

 

 









 遅くなりましたが第3話更新です。日々疲れることの多い世の中ですが、ラノベや漫画、アニメ、二次創作を糧にして頑張っていこうと思います!




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