悲報、シャディク・ゼネリの婚約者になる   作:新時代の強炭酸

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第一話 魔女と婚約者

 私、フレイ・レーヴァテインはゲームばかりしている引きこもり女子だ。

 学校にも行かず、仕事もせず、ただ毎日、親の脛をかじりながらゲームをしている。それが最高に楽しかったし、いけるところまでこの生活を続けようと思っていた。なのに……。

 

「ようこそ、アスティカシア高等専門学園へ――婚約者殿」

 

 シャディク・ゼネリ。

褐色肌に良く映える無造作に伸びた長い金髪、大きく開いた胸元が嫌味にならない色男。

 今日、初めて会うこの男の事を私は一方的に知っていた。

 

「グラスレー社期待の御曹司がどうして……」

 

「そこまで過度な期待はされていないさ。俺は養子だからね」

 

 人類が宇宙に進出し、企業も学校も宇宙に存在するのが当たり前になった時代。モビルスーツと呼ばれる人型巨大ロボットの製造産業最大手の巨大複合企業、ベネリットグループ。

その中でも御三家と呼ばれ、多大な影響力を持つ企業の一つグラスレー・ディフェンス・システムズ、通称『グラスレー社』のCEOサリウス・ゼネリの養子というのがこのシャディク・ゼネリなのだ。

 我が両親はそんなグラスレー社の傘下企業の一つを経営しているため、私もこのシャディク・ゼネリを一方的に知っていたのだ。会うことはないであろう雲の上の存在として。

 

「送られてきた荷物は全部、寮の部屋に運んであるけど、何か足りないものがあれば言ってくれ。俺に言いづらければ後で紹介する女子生徒のサビーナでもいいよ」

 

 男には頼みづらいものもあるだろう、という気遣いが窺えて飄々とした態度とは裏腹に周りを良く見ているタイプの様だ。家柄良し、顔良し、性格良し、と間違いなく女子にモテモテ、選び放題であろう彼がどうして私なんかと婚約を?

 シャディク・ゼネリに付いて歩きながら、どうしてこうなったのか考える。始まりは昨日のことだ。

 

「フレイ、荷造りをしてこれを着るんだ」

 

 いつものようにゲームでもやりますかと、親の金で買った乗り込み型の大型ゲーム機に座っていると、父が大量の荷運び用コンテナと共に見慣れない服を持ってきた。

 

「それって、今から始まるこの対戦より大事?」

 

「明日からお前はアスティカシア高等専門学園の生徒となる」

 

「お嫌ですわ、お父様」

 

 私の質問を無視して、淡々と話を進める父。

アスティカシア高等専門学園はグループ傘下の企業推薦によってのみ入学が許される、ベネリットグループが運営する学校だ。学校とは言うものの、将来ベネリットグループで社畜になる子供達を教育するための私塾みたいなものである。生涯現役ニートを志す私には縁のないところのはずなのだ。

 

「これは決定事項だ。グラスレー社の推薦を受けた以上、断るなど言語道断だからなっ」

 

「は?グラスレー社の推薦?なんで?」

 

「お前とグラスレー社CEOサリウス・ゼネリ氏の義息、シャディク・ゼネリ氏との婚約が決まったからだ」

 

「………………はい?」

 

 以上、回想終わり。

この後私は追い出されるように家を出て、アスティカシア高等専門学園にて、婚約者殿に迎え入れられた。うん、何の謎も解けなかった。なんで天下のグラスレー社期待の義息が私なんかと婚約するの?

 漫画とかで良くあるのが政略結婚ってやつだけど、我が両親が営む企業『レーヴァテイン・システムズ』はベネリットグループ全体でCランク。これは一般庶民からすれば十分エリート企業だけども、結局のところ、グラスレー社に睨まれれば、簡単に吹き飛ぶくらいの会社なのだ。グラスレー社に話を持ちかけられればなんだって頷くしかないし、それこそ企業の何らかの技術が欲しければ差し出すしかないくらいには傘下として力関係が出来上がっている。態々こんな遠回しな縁作りをする必要はない。

 そうなると私個人に理由があるってことなんだけど、それこそ政略結婚よりもあり得ない。そもそもにして、私はもう何年もパーティーなんかには出たことないし、両親も引きこもりゲーマー娘の存在は極力隠してたので、私の存在を知ることが困難なのだ。どうやったって私とグラスレー社、況してやシャディク・ゼネリとの関わりなんてあるはずもない。

 

「これって寮に向かってるんですか?」

 

「いいや、ちょっと寄り道」

 

 謎は謎のまま、ただ歩く。

ずっと無言は気まずいので聞いてみたのだけど寮に向かってたわけではないらしい。学園に来たばかりだし、どこか案内してくれるのかな。家から殆ど出なかった私としてはこうして歩いているだけでも結構物珍しくてちょっと楽しくなってきていた。状況は良く分かってないけど、もう来てしまったものは仕方ないので楽しもう、というメンタルになっている様だ。流石は私のお気楽メンタルである。

 

「中に着替え用意してあるから、それ着てね。ロッカーは好きなとこ使っていいよ」

 

 案内されたのはモビルスーツが沢山並んでいる整備場みたいなところで、メカニック科の生徒達が慌ただしく整備とかをしていた。ここに入るためにパイロットスーツを着る必要があるんだとか。パイロットスーツってちょっとカッコいいし、私は喜々として従い、ロッカールームで着替えた。ブカッとしているようでフワフワの着心地は独特で、これ着てゲームやったらいつもより臨場感が味わえそうだった。今度やってみよう。

 ロッカー前で再びシャディク・ゼネリと合流し、今度は何やらモビルスーツの前へ。『ベギルベウ』という機体の改良型らしく、開発中の後継機のためにデータ取りの最中なんだとか。グラスレー社の機体らしい騎士みたいなデザインで、白と紫のシンプルな色味が良く合っていて強そうだ。

 

「早速で悪いんだけど決闘してきてくれない?」

 

 決闘。

アスティカシア学園において、生徒同士の揉め事を解決すべく定められた制度。金銭とか栄誉とか、それぞれが望むものを賭けて戦い、敗者は勝者の要求に必ず従う義務を課せられるという中世時代方式の脳筋スタイルである。それはここにくるまでの間に歩きながら説明されたんだけど、それを誰がやるって?私?

 

「グラスレー寮の女子生徒に恋慕を抱いている男子生徒が俺に決闘をふっかけてきてね。まあ、いつものことなんだが何分、俺も忙しい。いちいち構ってるわけにはいかないんだ――そこで君に任せた」

 

 話しながらも、操縦席に座らされ、次々と取り付けられていく機器。起動するモビルスーツ。着々と準備進めないでくれませんか!?それ、決闘の原因痴情のもつれってやつですよね!?さっきからメカニック科の女子生徒に笑顔振り撒いて黄色い声をもらってますけど、そういうのが原因ですよね!?

 

「よし、いけそうだね」

 

 いけませんよ!?メカニック科の人、いつでもいけます!じゃないんですよ!?パイロットの準備が0なんですよ!だって、私――

 

「――あの、私モビルスーツなんて操縦したことない(・・・・・・・・)んですけどぉ!?」

 

「うん知ってる。じゃ、頑張ってくれ〜」

 

 私の涙ながらの訴えを一言で受け流し、笑顔で手を振るシャディク・ゼネリ。その姿を掻き消すように、コックピットが無常にも閉まった。そして、私が乗り込んでいるモビルスーツ『ベギルベウ』がコンテナに入ったまま、動き出す。第4戦術試験区域ってとこまでこのまま運ばれるようだ。

 

 えっこれ、ガチで決闘させられる流れ?昨日、この学園に入学するよう言われて、何故かシャディク・ゼネリなんていう大物の婚約者になってて、そしてそのシャディク・ゼネリの痴情のもつれの尻拭いでド素人がコックピットに乗せられて決闘?わけわかんない。わけわかんないけど、怒りだけは腹の底から湧いてきた。こんな理不尽、文句を叫ばなければやってられん!私は、コンテナが開くと同時に叫ぶ。

 

「この、こんがりロン毛ぇ!」

 

『あ、通信ONになってるけど、何か言ったかい?』

 

「……………」

 

 咳払いを一つ。呼吸を一拍。瞬きを一回。精一杯、まるで姫プするように、媚び媚びに可愛い声を意識して。

 

「なんでもないです、婚約者様♡」

 

とりあえず、出撃することにした。ヤケクソである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はは、期待しているよ、俺の魔女」

 

 これが、シャディク・ゼネリの婚約者になったゲーマー少女の波乱に満ちた学園生活の始まりであった。

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