悲報、シャディク・ゼネリの婚約者になる 作:新時代の強炭酸
私はシャディク・ゼネリにキレていた。
マジで馬鹿なんじゃないだろうか。飄々とした笑顔でやること鬼畜すぎませんか。
引きこもりの女の子を無理矢理引っ張ってきて、操縦したこともないロボットに乗せて決闘ですよ?ヤバすぎません?
なんか相手の人が死ぬほど弱かったからどうにかなったけども、怪我でもしたらどうするつもりだったんだ。ムカついたので、パイロットスーツから着替えたら決闘委員会?ってところのラウンジに来るように言われたけど、ガン無視してご飯を食べに行くことにした。なんだか怒りでお腹が空いてきたし。
そういえば学園に来て速攻決闘させられたから、引っ越しの片付けもしてないし、寮にすら行ってない。最悪の転校初日だと考えながら、生徒手帳として渡された端末を操作すると、学内に食堂があるらしいことが分かった。何をやるにも食べないと力が出ない。慣れない校内をキョロキョロしながらなんとか食堂に辿り着くもどうやって買ったらいいのか分からなかった。くっ、これが引きこもりの弊害か。
「あの、もしかして困ってます?」
他の生徒達が挙動不審の私を遠巻きに観察している中、二人の生徒が声をかけてきた。
「ニカ姉、こいつ、さっき決闘してたグラスレーの――」
「でも困ってるしさ。助けてあげよ?」
どうやら周りの皆が私を遠巻きに見てたのは、私が挙動不審だったからではなく、先程決闘をしていたために目立っていたからのようだ。そんな中、周りに流されることなく声をかけてきてくれるとか優し過ぎない?
「どう?出来そう?」
「はい、ありがとうございました」
懇切丁寧に食堂の使い方を教えてもらって、なんとか食事を購入することができた。優し過ぎ。好き。
引きこもりゲーマー故に、いつも対戦相手やチームメイトの罵倒と怨嗟の声の中で戦っているので、こんなに優しくされたらすぐ好きになっちゃう。況してや、未来の旦那様(笑)に酷い仕打ちを受けた後なので優しさが染み渡る。
「折角だし一緒に食べる?」
ぼっちの私を誘ってくれたので一も二もなく頷く。時間帯の問題なのか、寮で食べている人が多いのか、食堂はそんなに混雑しておらず、すぐに席を確保することが出来たので、席について早速、私達は自己紹介をした。
まず、この優しき天使お姉さんはメカニック科の2年生で、ニカ・ナナウラ先輩。黒髪ショートに水色のインナーカラーがクールで素敵だ。好き。
「スペーシアンと飯なんか食えるかよ」
「まあまあ、いきなりそんな喧嘩腰なんてチュチュの悪い癖だよ?」
ニカ先輩にくっついて悪態をついている女子生徒はチュアチュリー・パンランチさん。チュチュっていうのが愛称なんだとか。1年生でパイロット科と、私と同級生なので是非仲良くしてほしい。
狂犬みたいに目付きは悪いけど、桜色のでっかいお団子ヘアーと小さい体躯の見た目的に、頑張って強く見せようとしてるみたいで逆に可愛いかもしれない。こう、懐いてほしくて餌あげちゃう、みたいな感情が湧いてくるのだ。
「なんかこいつあーしのことバカにしてないか?」
「かわいいなぁって思ってただけ」
「やっぱバカにしてんだろ!」
食ってかかろうとしているチュチュさんをニカ先輩が諌めてくれて、やっと食事にありつける。
味は普通。値段考えたら頑張ってるクオリティではあるけど、これなら自炊した方がいいかな。引きこもり過ぎて親がご飯作ってくれなくなったので自炊していた私の腕前を炸裂させる時がきたな。自分にしか作ったことないけど。
「すごかったね、さっきの決闘」
「ああ、いえいえ。あれは相手の人が弱かったんで勝てただけですよ」
どうやらニカ先輩とチュチュさんも私の決闘を見物していたらしい。生徒手帳の端末で誰でも自由に見物できて、賭けまで行われているという。まさか、あの辿々しい口上も見られてたりしないよね?
自分の学籍番号すら知らなかったのでそれを調べてもらって名乗り(私がパイロット科だとこの時初めて知った)、決闘直前に宣言する口上も立会人の方に教えてもらった。
立会人は、ペイル寮寮長のエラン・ケレス先輩って方だったのだけど、何も知らない私に怒ることなく冷静に色々教えてくれて本当に助かった。ゲームの音声みたいに平坦な口調は私としてはとても落ち着けたし。今度会ったらお礼を言わないと。
「そんなことないよ。パイロット科3年生だし、機体だって相当カスタムされた特別機なんだから」
「いや、でも私本物のモビルスーツ操縦したの初めてだったんで、いくらなんでも相手が弱かったとしか」
そういえば、素人に負けるパイロット科3年って、この学園大丈夫なんだろうか。最初は操縦に慣れるために避け続けてただけだけど、その時点で何回も倒せそうなタイミングあったよ。誘いかと思ったけどそのまま簡単にブレードアンテナぶち折れたし。ゲームだったら速攻叩いて煽りまくってたと思う。
「……お前、マジで言ってんの?」
何故かニカ先輩もチュチュさんも固まっており、チュチュさんが絞り出すように疑問を投げかけてきた。空気が完全に凍っている。えっ、何このドン引きの雰囲気。もしかして私、引きこもり過ぎてコミュニケーション能力失った?どちらかというと社交的な方だと思っていたんだけど、ただのイキりゲーマーだった?
「えっと、はい。ずっとゲームでしか操縦したことなかったので緊張しました。やってみたらそんなに変わらなかったですけど」
何が起きているのかマジで分からなかったので、とりあえず正直に答える。ゲームでなら死ぬほど操縦してるからね。うちの会社で作っているシミュレーターでゲームすると迫力が凄いし、かなりハマって長年プレイしている。
この前なんか両親に頼まれて、知らない大人達と遊んであげたりもしたんだよね。お小遣いくれるっていうからやったけど、相手の人達強すぎて負けるかと思った。そもそも戦艦+モビルスーツ8機を私一人で相手するっていう滅茶苦茶なハンデ戦だったから仕方ないんだけども。
「ちょっと良いかな、婚約者殿」
「げっ……」
思わず、乙女にあるまじき声が出てしまった。
振り返ると、笑顔のシャディク・ゼネリが私の両肩に手を置いて立っていたからだ。後ろには厳格そうな、如何にも秘書然とした紫髪の女子生徒もいる。
「伝言聞いてなかった?」
「聞きましたけどお腹空いちゃって」
テヘペロっとばかりに返事をすると、無言でシャディク・ゼネリの笑顔が強まった気がする。ちょっとした冗談ですやん……。
「はぁ、ラウンジに食事を用意させる。決闘の処理があるから来てもらうよ」
「はーい」
流石に残すのは心が痛すぎるので、まだ口を付けてないものはチュチュさんのお皿へ追加した。シャディク・ゼネリという大物がいるからか、「お、おい」と小声で反論してくるも食を裏切るわけにはいかないので涙を呑んで無視する。チュチュさん、大きくなるんだぞ。
口を付けてしまったものは仕方ないので急いで食べた。ゲームをやる時間を少しでも確保するために身に着けた早食いがこんなところで役に立つとは。勿論、普段は味わって食べるけども、ゲーマーとしては緊急事態に備えて修得するべきスキルなのだ。
まあ、弱点としては仮にも婚約者の前でするような食べ方ではないってこと。汚らしく見えないように食べてるけど、マナーとかぶん投げてますからね。
「準備OKです」
「……それ、ちゃんと噛んでる?」
「良い子は真似しないほうが良いですね」
完食と同時にニカ先輩が心配そうに訊ねてきたので、濁して返した。チュチュさんはしっかり噛んで食べてください。私は特殊な訓練を受けているだけなので。
「悪いね、君達」
「……いいえ、私達は別に」
私が立ち上がるのと同時に、シャディク・ゼネリが二人に軽く謝った。まず、私に謝って欲しいところだけど。
シャディク・ゼネリの謝罪に二人は困惑しており、特にニカ先輩なんて若干怯えてるような気さえする。ニカ先輩真面目そうだし大天使だし、チャラ男が苦手なのかもしれない。可愛い。
「うちの姫様はお転婆なようでね。また見かけたら
ニカ先輩が引き気味なのに、シャディク・ゼネリは構わずニカ先輩の肩に手を置いて、そんな冗談を飛ばした。ニカ先輩はさらに表情が強張る。その表情も可愛かったけど、可哀想なのでさっさと行くことにする。
ニカ先輩ともチュチュさんとも自己紹介の時に連絡先を交換してあるので後で私からも謝っておこう。それにしても、口では私に悪態つきながら連絡先は交換してくれるチュチュさんもツンデレ可愛いな。この懐かない感じがたまらない。
「ではお二人共、また仲良くしてくださいね」
ラウンジに用意してくれる食事ってなんだろう。デザートあるのかな。そんなことを考えながら、私はシャディク・ゼネリと共に歩き出した。
ところで秘書さん(仮)、なんで私のことそんな残念なものを見る目で見てくるんですかね?
「…………尊敬すべきパイロットだと思っていたのだがなぁ」
ため息混じりに何か小声で呟いた秘書さん(仮)の声は、幸いなことに私の耳に届くことはなかった。絶対褒め言葉じゃなかったよ……。
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