悲報、シャディク・ゼネリの婚約者になる 作:新時代の強炭酸
決闘委員会のラウンジにてフレイが手続きをしている間、シャディクとサビーナはラウンジの外にいた。決闘委員会のメンバーが集まる中、態々外へ出たのはそのメンバーに聞かれたくない話をするために他ならない。
「彼女を次のホルダーにする気か?」
「そのつもりだよ。時が来たらグエルから
確信を持って放たれたサビーナの疑問に、シャディクは迷いなく答えた。
ホルダー。学園最強のパイロットの証であり――ミオリネ・レンブランの暫定的な婚約者であることを示す。
ホルダーという称号を皆が欲しがるのは、そこに最強という実績だけでなく実利があるからだ。
ミオリネ・レンブランは、アスティカシア高等専門学園・経営戦略科2年の生徒であり、巨大複合企業体ベネリットグループ総裁にして学園の理事長でもあるデリング・レンブランの一人娘。
その、ミオリネが17歳になった時、ホルダーだったものは彼女との婚約が確定する。
それはつまり、デリング・レンブランの後継者となれる可能性が最も高い椅子に座れるということだ。
ミオリネの17歳の誕生日が迫る今、ベネリットグループ内の有力企業、特に御三家ではこのホルダー獲得(もしくは防衛)を目指していた。
「デリング総裁がホルダーにミオリネを与えるのは、それがミオリネのためだと考えているのさ。ホルダーはただパイロットの技術だけで得られる程、単純じゃない」
勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず、操縦者の技のみで決まらず、ただ、結果のみが真実。
決闘時にそう口上を述べるように、モビルスーツの性能や、パイロットの腕前だけでなく、試合前の交渉によって自身が有利な対戦形式や勝利条件を定めることも決闘の一つ。
「高性能のモビルスーツを用意できる技術力、高い操縦技術を持つパイロットやメカニックなどを保有する人材力、交渉や根回しによって決闘を有利にできる影響力――決闘は企業の力を測る『ものさし』、ホルダーの所属している企業こそが最も優れた企業……デリング総裁はそういう意図で決闘を仕組んだはずだ」
「最も優れた企業に娘を預ける、か」
「ミオリネは反発しているが、彼女が最も安全に生きていくためには必要なことだよ。だから俺はグエルになら任せられると思っていた」
デリング・レンブランの敵は多い。ベネリットグループの総裁という立場はそれだけで敵を生み出し、何よりデリングは独裁的且つ強硬手段をも辞さないやり方で今の地位にいる。その娘を何らかの形で利用しようという連中は現れることだろう。デリングが求めているのは、娘を守れるだけの力を持つ企業と個人。そのための
「だが、グエル以上のパイロットが現れた。それもグラスレーの傘下にね」
「お前の考えがやっと分かったよ」
ホルダーをグラスレー社で獲得することが目的ならば、フレイを婚約者として迎える必要はない。サビーナ達と同様に、グラスレーの推薦で入学させ、手元におけばいいのだから。
しかしシャディクは、ただグラスレーの推薦で入学させるだけでなく、シャディクの婚約者としてフレイを招いた。サビーナはそこに疑問を抱いていたが、シャディクの考えを知ったことで、何を目的にしていたのかを察する。
「フレイがホルダーとなり、ミオリネと婚約となれば、俺との婚約破棄が発生する。それを理由にデリング総裁を交渉のテーブルに着かせられれば、それなりの条件を引き出せるだろう……この交渉で俺は総裁の後ろ盾を得て見せる」
これまでの実績とベネリットグループの総裁であるデリング・レンブランの後ろ盾があれば、シャディクがグラスレー社の次のCEOに収まることさえ難しくない。
しかし、そのために必要なのはデリングがシャディクとの交渉に応じること。交渉に必要なのはチップであり、重要なのはその価値だ。
「そのために決闘でフレイの価値を上げようというのか」
「彼女の価値が高ければ高い程、交渉がしやすくなる」
グエル・ジェタークが最強のパイロットとしてホルダーの地位を得ているのは、彼が決闘において無敗だからだ。それは確かな価値として評価される。
「今日の決闘を見て確信したよ。彼女に
シャディクが率いるグラスレー寮は集団戦において無敗。それはシャディクが集めた優秀なパイロットを最大限活かせる形で決闘を組むことによって成している。それが可能なのはひとえにシャディクのコネクションと交渉力によるものだ。
「フレイと俺なら決闘に負けはない。無敗神話を築き上げ、精々高値で買ってもらうさ」
最強のパイロットとなったフレイをミオリネと婚約させ、自身はその功績を持って、デリングの後ろ盾を得る。
「そうすれば見えてくる……ベネリットグループ総裁の座が」
フレイがミオリネと婚約するということはグラスレー社から次の総裁を選出することが決まったようなものだ。フレイはパイロットであり、経営も政治も素人となれば、総裁の座は必然的に、グラスレー社CEOに回ってくる。
「……シャディクはそれでいいのか」
サビーナは、シャディクがミオリネに対して抱いているであろう感情を知っていた。ミオリネが父によって決闘の景品にされたことで、それを狙う御三家を嫌っている今、シャディクはミオリネに積極的に関わろうとはしていないが、その想いは褪せることなくまだそこにあることも。
「優先順位は間違えない。ミオリネと俺達にとっての最善はこれだよ」
シャディクには実現したい夢がある。それを叶えるためにはベネリットグループ総裁の椅子がいる。そこに自分が座るために利用できるものは全てする。しかし、それと同時に守りたいものもあった。
「俺達の夢にミオリネを巻き込む必要はない……だろ?」
シャディクとサビーナ共通の夢。それはデリング以上に敵を作り、危険な道程になることは間違いなかった。その時ミオリネには安全なところで、好きなように生きてほしい。例えその隣に自分がいなくとも。シャディクの覚悟は既に決まっていた。
「まあ、このプランはあくまで、フレイにミオリネを任せられると判断した場合のものだよ」
重くなってしまった空気を払拭するように、シャディクが戯けて言う。
「パイロットとしての力は申し分ないだろうが、果たしてそれ以外はどうかな」
グエルにならミオリネを任せられると考えたのは、その立場や実力だけではない。人間性や人望、様々な視点で評価した上での判断だ。ならばフレイには、それと同等以上の能力を持っていてもらわなくては困るというもの。
「彼女がミオリネに相応しくないと判断した場合どうする気だ?」
先程まで沈痛な面持ちでシャディクの話を聞いていたサビーナだったが、なんだかんだで、まだまだミオリネへの執着は捨て切れているわけではなさそうだ、と呆れながら質問する。
シャディクはサビーナのそんな内心を分かっているのか、気づいていないのか、窓ガラスの向こうに広がる
「地球の良い就職先でも紹介するさ。ちょっとコネがあるからね」
フレイ・レーヴァテインが、15機のモビルスーツを相手に決闘を受けた。
そんな報告がシャディクの元へ届いたのは翌日のことであった。
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