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「ねえ、そろそろ時間だけど…いつものしてくれないの?」
「わかってるよ。おいで。ドーベル。」
とあるレース直前の控室。担当のメジロドーベルにいつものおまじないを急かされる。
「ドーベルが1番速い…強いウマ娘だ。何も心配ないよ。」
ドーベルをハグしながら耳元で囁く。だが
「違うでしょ?それは前のヤツ。」
違ったようだ。最近変えた部分と言えば、
「俺のドーベルが1番速い。俺が観ているドーベルが1番強い。ずっと観てるから何も心配ないよ。」
そう言いながら頭を撫でる。これが最近のおまじないに追加された。
ドーベルは俺の胸に顔を埋めながら何か呟いているようだが聞き取ることはできない。無理に聞くことはしない方がいいだろう。
(「アタシはトレーナーのモノなんだ!ずっと観ていてくれる!1番って言ってくれる!側にいてくれる!トレーナーが側にいてくれないとダメなの、だってアタシはトレーナーのモノなんだから!!嬉しい嬉しいずっと離さないで離さないで離さないで……」)
少しして落ち着いたのかドーベルは離れた。少し顔が赤い。力が強すぎたか?
「ドーベルもう大丈夫か?」
「うん、これで大丈夫。あとはスタート前もお願いね。」
これは出会った頃からのルーティンだ。スタート前には目を合わせる。他の観客の視線を意識しないためのいつもの流れ。最近はレースにも慣れてきたようだがやめる理由もないし続けている。
「もちろん。ちゃんと観てるから心配するなって。」
「ありがと。それじゃ時間だから行くね。」
そう言ってドーベルは控室から出て行った。俺も早めに席を確保しなければな。
(「今日もトレーナーいい匂いだった。いつもより長かったけど匂い嗅いでるのバレてないよね?それに今日も観ててくれる。ずっとずっと…好き…好き好き好き好き好き好き……」)
レース後の控室にて
「クビ差2着か…動きは問題無かったから後は運のレベルだな…」
「そうね…それじゃあ…おまじないをもっと長くする…とか…?」
「まあ確かに後は気持ちの問題とも言えるが…その…ドーベルは嫌じゃないのか?」
「別になんともない、だってこれは練習だよ?それにこれをした時の方が成績がいいんだし。」
ドーベルの言う練習とは人付き合い、特に男が苦手なドーベルのために始めたものだ。レース出始めの頃上位になったことがある。俺が感極まってドーベルの手を掴んで喜んだことがあった。ドーベルはまだまだ男相手にはおっかなびっくりだった頃だ。トレーナーである俺にも遠慮してた頃である。正直やらかしてしまったと思ったが意外にもあっさり許してくれた。それどころか
「次のレースの前にまたやってほしい」と言ってきた。レースで力みすぎないように違う事を考えたいから、とのことだった。それならばと試してみるとなんと1位になったのである。確かにドーベルは実力はある。自然に走れさえすればなんの問題も無い。強いて言えば自信不足なところはあるが。そこで自信がつくようにと考えて声もかけるようにしてみた。すると途端にグングン成長したのである。一時期は練習前にも手を握ってあげたものだ。
「アタシから言い出したんだよ?もっと自信が欲しいから暗示もかねてこの言葉にしてって。それに…ハグも…」
そう、ドーベルの方から手を握るよりハグにしてほしいと言ってきたのである。ある時メジロ家について紹介の取材があった。当然現役のドーベルにも取材はあったのだが… 古参の方々に比べれば明らかに雑な扱い。あげく放送には出番なしというあまりの酷さにドーベルも完全に自信喪失してしまった。そのときに…
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「やっぱりアタシは… いくら走っても… 皆に追いつけないんだ…ダメなんだ…」
「そんなわけない。最初から言ってるとおりドーベルは頑張っている。大丈夫だ」
「怖いよトレーナー…皆に置いていかれるのが…震えが止まらないの…ぎゅってしてよ…」
「わかった。大丈夫だよドーベル。俺はずっと君を見ているから…」
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「こう言ったじゃない。だから私に自信をつけさせてよ。そういう練習なんだからね?」
「確かにそういう流れだったなぁ…でもドーベルもかなり他人に慣れてきたんじゃないか?この前のインタビューなかなかカッコよかったぞ?」
「あれは女性記者だったからよ。男性じゃやっぱりまだ…」
「まあそうかもなあ…」
この前街でファンの男性に声を掛けられて固まってしまっていたドーベルを思い出す。
「だからもっと練習が必要なの。お願いね?」
「あら?ドーベルのトレーナーさん。こんにちは。」
「やあ、アルダンじゃないか。トレーニングかい?」
ある日ドーベルとトレーニングの待ち合わせをしているとメジロアルダンと会った。彼女も含めてメジロ家とは何度か顔を合わせている。特にアルダンはドーベルを妹のように可愛がってくれているので結構話す頻度も多い。
「いえ、今日は屋敷で用事がありますので、私のトレーナーさんをお待ちしているところです。」
なるほど確かにトレーニング道具や着替えを持ってはいない。このまま二人で屋敷に行くのだろう。お互い待ち人が来るまでと軽く話をしていると
「それでドーベルの調子はいかがですか?」
「ああ、頑張っているよ。この前も2着とはいえいい動きだったし」
「ええそうでしたね…ですがお聞きしたいのは他のことでして…」
ああ、そっちか…確かにアルダンも気にしてくれているな。
「男が苦手な方は、まだまだ時間がかかりそうだね。この前も街でちょっとそういう場面があったし…」
「あら…そうでしたか…」
アルダンは少し考えた後
「ですがトレーナーさん。あなたには大分素直になっているようですね。」
ニコリとこう言ったのである。
「それはまあずっと一緒にいるしなあ、さすがに慣れたんじゃないかな?」
「そうですねえ 他の方にも素直になれればいいのですが。」
そうして少し話しているとアルダンのトレーナーがやってきた。
「ああ、ちょうどいい時間ですね。それではここで失礼します。それから…」
それから…どうしたのだろうか?
「ドーベルをよろしくお願いしますね。」
そう言ってアルダンはトレーナーと、仲睦まじく手をつないで歩いていったのである。
「相変わらずアルトレは動きがスマートだよなあ、もともとから社交界にでもいたのかな?それにあの二人はいつでも仲が良さそうだ。」
「そうね…アタシ達とは大違いでね…」
聞き覚えがバッチリする。それなのに初めて聞いた程の低く冷たい声が後ろから聞こえてきた。
「ドーベル…?」
「アルダンさんと随分楽しそうにしてたよね。何話してたの?」
ドーベルの様子が変だ。怒ってる?
「なに、たいした事じゃないさ。ちょっとした世間話とかレースのこととか…いつも話してるようなことさ」
「へえーいつもアタシがいないところで話してるんだ?アタシもしかしてお邪魔?」
そういう意味ではないんだが…しかし様子がだいぶおかしいな…
「なあドーベル、どうしたんだ?何かその…怒ってる?」
「別に…ただアンタがずいぶん楽しそうにアタシのこと話してたからさ」
「なんだ聞こえてたのか?ドーベルはいつも頑張ってるって話してたんだぞ?どうしたんだ?」
「アタシのこと面倒くさいって思ってたんでしょ?人付き合いもできない。レースも勝ちきれない…そのうえこうやって勝手に怒り出す…扱いにくいって」
「そんなこと思った事も無いぞ?ドーベルはいつも努力してる。レースも人付き合いも諦めたくないって頑張ってるのを見てきた。」
「アルダンさんが良かったんでしょ?」
「え?」
「アルダンさんみたいになんでも完璧で…お淑やかで優しくて…ちゃんとしたお嬢様が良かったんでしょ?そのうえトレーナーとの息もピッタリ…同じメジロなのに…アタシとは大違いで!アタシはいつまで経っても弱いままで」
「違う!!」
これはさすがに我慢できない。思わず大声になってしまう。だが言わねばなるまい。
「違うぞドーベル!君は弱くない!」
「でも何もできないままじゃない!アタシはやっぱり弱いから…」
とうとうドーベルは泣き出してしまう。その身体は震えていた。
「そんなはずない!"俺のメジロドーベル"はいつだって強い!!誰にも弱いなんて言わせない!!例え君にだって絶対に言わせない!!」
ドーベルを抱きしめながら言う。いつかのように。
「!!」
「ドーベル、君を不安にさせてしまったみたいだ。すまない。でも今言ったことは本気だ。俺がずっと見てきたドーベルはいつだって自分を変えたい、変わりたいって努力してきた。そんなドーベルが弱いはずがない。」
「でもまだ…」
「だったら俺は君が強くなるまで…違うなもう強いんだから…いつでもいつまでも見続けるから。だから泣かないでくれ…」
なぜだろう…?今一瞬時間が止まったような気がした。
「…今…いつでも…いつまでもって言ったよね…本当…?」
「本当だ。」
「アタシ面倒な女だよ。」
「知ってる」
「きっとまた不安になる。重い女だよ?」
「何度でも言うさ。君は俺のメジロドーベルなんだって」
「そうよね…アタシはトレーナーのモノなんだよね…トレーナーの…トレーナーだけの…」
「ドーベル?どうかした?」
さきほどまでの泣いていた震えとは違うような。まだ顔を胸に埋めているからよくわからないが…
「アタシはトレーナーだけのモノ…トレーナーはいつでもいつまでも見ていてくれる…」
「ああいつでも見てるぞ」
「ねえトレーナー?」
顔を埋めたままドーベルが聞いてくる」
「どうした?」
「いつでもってことは…一緒になるってことだよね…一緒に暮らすってことだよね…?」
「それは!そうなるのか…?」
「そうなの!」
先程までと違って覇気のある声だ。
「それって新婚みたいじゃない?知ってる?メジロ家では同棲するってそのまま結婚までするのが慣例だって」
「そ、そうなのか…」
話の流れが変わってきたな…
「ねえ、アタシが男の人が苦手なの知ってるよね。それなのにこうして抱きついたりレース前とかことあるごとにハグしてほしいってどういうことかわかるよね?」
「あれは練習って…」
そう、あれは男に慣れるための練習で俺はそれだけのつもりだったんだが
「そう"練習"だよ?こうして"本番"で使うための」
本番…本番!?
「ここまで言わせたんだから…わかるよね…」
そういうことか…
「…ドーベル…顔をあげてくれ」
ドーベルはこちらを見る。もう泣いてはいない。だが少し不安そうだ。
ここまで言わせたのだ。答える義務がある。
俺も覚悟を決めよう。
「ドーベル、今は一緒には住めない。寮生活だし、レースもある。だけどな、卒業したら同棲しよう。それまでその練習として」
一区切り置く。
「恋人として付き合ってくれないか?俺のメジロドーベル」
ドーベルは一瞬固まった後顔を真っ赤にしながら
「はい…お願いします!」
そう言ってまた抱きついてきたのだった。
あれから数日後、メジロの邸宅でアタシはアルダンさんにお礼をしていた。
「アルダンさん。今回は本当にありがとうございました!何から何までお世話になりました。」
「いいのよドーベル。カワイイ妹分ですもの、これくらいはしてあげたくなるもの。」
そう言って紅茶を一口。
「でもあのドーベルからトレーナーさんとお付き合いしたいって相談された時は嬉しかったわ。」
「今思うと急でしたね。でもおかげで上手く事が運びました。」
そう…これはすべてアタシとアルダンさんで計画したこと。色々とアドバイスをもらった。
手を握るのを続けたのは接触を増やすと親近感が湧く効果を狙ったもの、あと普通に嬉しかったし。彼からしてこなかったらアタシからするつもりだったからこれは簡単。
男の人が苦手なのは前から比べれば全然問題無いレベルになった。よほど変なことにならなければ普通にできる。現にアルダンさんと街に出た時にファンの人から声をかけられた時は普通の対応ができた。彼と一緒の時はまだ苦手なフリをしたけど。そうすれば彼が守ってくれるしずっと見ていてくれることに繋がるから…嬉しい…。
取材とその時から始めたハグはアルダンさんのおかげ。取材陣にはわざと雑に扱うこと。それと本番で使わない事をアルダンさんにお願いしてもらった。後はこれを見た彼が慰めてくれるはずだから上手く抱きつけばいい。一回ハグすればその後何度もすることへの心理的ハードルは下がる。これが1番嬉しい…彼に包まれるなんて夢みたい…
最後にアルダンさん達がいちゃついてるところを彼に見せてイメージを無意識に刷り込む。そこでアタシが嫉妬したフリをする。フリのつもりだったけどちょっと本気で泣いたのは内緒。彼の意思確認もできるし勢いに任せて告白するように仕向けやすい。せっかくだから彼から告白してもらいたいと思うのは乙女の希望として当然でしょ?
「あとは絶対に離さないようにね、そう永遠を刻むように…」
アルダンさんも自分のトレーナーと愛しあってる。まるでガラスが溶けて混ざり合うかのように…
アタシ達はどんな未来を刻もうか、アタシに彼を刻み込んでもらうのもいいかもしれないと考えるのだった。
実はドーベルも好きなんです。ドーベルとベルトレのイチャイチャは健康に良い。性別変更で2倍お得だね!
ドーベルの作品でベルトレ書くなら絶対「君にだって言わせない!」は使いたかったので入れました。これカッコ良すぎると思うんですよね。ベルトレスパダリ説の99割はこれですよ。残り100割も強烈なの揃いですけどね。バレンタインの流れとか再現できねえっす。何食べたらあれが出てくるんですかね?ドーベル本人もかわいいしいいですよね正統派黒髪ロングつよい。ツンデレ枠ですけどこの作品ではヤンデレ枠?です。今回はあんまり病ませられなかったんで次回があったらいいなあ。ベルちゃんも依存系だからもっとベルトレに依存してどうぞ。メジロは愛が重い風潮はもっと流行るべきですよね?