色々と独自解釈や他媒体要素も突っ込む都合ベースとなるアニメ時空との矛盾や齟齬は少なからず起きますが、これはわしの頭の中の以下略じゃ。ということでご容赦を。
とりあえず導入には二水ちゃんにリリィオタク特有の早口させとけって話
世界を変える力なんてない。ただこの手の中にあるのは──
「一年生が逃げ出したヒュージを倒した?」
4月。新学期前から数日外出することになった用事も終わり、そのことの報告も済ませた放課後。私の通うガーデンである鎌倉の〈私立百合ヶ丘女学院〉の廊下を歩いていると目に入った掲示板に張り出されていた、週刊リリィ新聞とやら。
見覚えのない誌名のそれは同じく見覚えのない名前の子が書いたらしく、新入生のだろうかと読み進めると私が不在だった日の出来事が書いていたのだが、その中に見覚えのある名前がちらほらとあるのを見付けた。
「……って、これ逃げ出したの百由のじゃん。相変わらずいい加減だなぁ」
ともかく逃げ出したのは彼女が研究用に確保していたヒュージで、それを二年生一人と一年生二人が撃破したとのことだ。
「その一年の片方は楓・J・ヌーベルさん、他所からのとはいえ、バリバリの実戦経験者じゃん。そりゃ彼女と二年が一緒なら、ヒュージの一体くらいは倒せるよねぇ」
彼女については噂でしか知らないが、大手CHARMメーカーグランギニョル社の総帥令嬢、つまりマジモンのお嬢様なのだが、その実力のみで仲間たちと評価を勝ち取ってきた、指揮官としても一人のリリィとしても凄腕だと、中等部時代から有名だ。
それとは別に何やら女好きだとかな噂もあるが、それはそれで見てる分には嫌いじゃない。
「それで、もう一人は……誰だろ。可愛い子だけど確か中等部にはいなかったはずだし、この子も外部入学?」
ここで初めて知らない名前。いや筆者である二川二水という子も含めれば二人目だけど。
そのサイドテールの子の名前は一柳梨璃……なんというかリリィになるべく生まれたような名前だなぁ、って言ったら多分負けな気がする。
「……で、二年が『あの子』か。この様子からして、無理矢理一年を手綱にでもされたか」
そして最後の一人、書いてある通りの引率の二年生というよりは、ほっといたら一人で突っ走りかねないからと重石をくくりつけられたような立場だろうな彼女が、
二年前までちょっとは交流のあった相手だが、知り合いの知り合いなイメージが強く、その知り合いがいなくなってからは話すきっかけのなかった子……いや、そもそもは色々感情の整理が付いてないしと、私の側から彼女に関わるのを意図的に避けだしたんだけども。
「いい加減、逃げるなってことなのかね」
この新聞からは新学期早々何かが動き出した、そんな予感がする。
これは私、
そしてそれはこの儚くも美しい絶望の世界であっても、気高く咲くリリィ達の
◆◆◆
さて、しかし何をしたものだろうか……いや、夢結の件に関してはさっさと観念して寮の部屋でも訪ねれば済む話なんだけども。
まあ、そんな決心が付いていたなら二年……厳密には一昨年の暮れからだから一年半近くもズルズルと引っ張っちゃあいない訳で、これでもこちとら多感な時期の女子高生なんですよっと。
結局、あてもなくただ自主トレのため訓練所へと私の足は進んでいた。
訓練所、と一口に言ってもいくつか種類があるが今回私が選んだのはその中の射撃訓練用の施設で、入ってみるとどうやら誰かが既に使っているのか、銃声が響く。
「ん? しばらくぶりじゃのう雪華様。ここは今わししか使っとらんから、今なら撃ち放題じゃぞ」
「おやミリアムちゃん、熱心なことで」
なんて振り向いてくるのは彼女の自作である名前のわりにハンマーというより斧のようなCHARM『ニョルニール』だっけかを両手で持ち的を狙っていたのは、古風な雰囲気混じりな喋り方でやたらなっがいツインテールを引っ提げたドイツ出身の一年生、ミリアム・ヒルデガルド・
まあ、なんか件の百由のとこでちょこちょこ話題に上がるし、なんなら新学期前からもたまに鉢合わせるしでこんなやけに長い名前でも案外覚えてたみたい。逆にインパクトで覚えてたのかもしれないけど。
「うむ。ところでいつぞや百由様が『大した任務なくてもあの人はしょっちゅう何かしら壊すのはやめてくれないかしら』とかぼやいておったが、いつもそうなのかのう?」
「いや、私ってば加減するの苦手だからさぁ。さっき預けてきた新型さっさと仕上げてくれれば、少しはマシになるとは思いたい」
「ああ、それの受領にしばらく空けておったのか。とはいえ今は他に色々と抱えて立て込んでおる時期じゃから、いくら百由様でもそうすぐに新しいCHARMには取り掛かれんじゃろ」
「渡した時にも『そんなワケなんであんまり期待はしないようにー』って言われたんだけど、一応こっちも正式な依頼として頼まれてるから、ちょっと融通利いたりは……しないかー」
新型、というのはとある企業で持て余していた試作CHARMで、その系列機─というには分類される世代が違うけど、開発ツリー的にはそうなるらしい─を私が専用機として愛用していることから、似たような方向性の機体を開発中らしい百由に渡りを付けて、ついでにそのままテスターもやってくれ……と頼まれてその機体を受け取りに行っていたのが、今日までの数日間学院を開けていた理由だ。
しかしいくら私が百由にCHARMの整備を頼むことが多かろうと、彼女が元々作ってた物が優先されるのが世の道理なんだし、企業側で開発が難航してるからって体のいい厄介払いな気がしないでもないけど。
「まあ百由様なら納得する出来になったらその内何かしら動くじゃろ。で、さっきからちょくちょく狙いが逸れるんじゃが、まとめて薙ぎ払ってもよいかのう?」
「ダメです。『フェイズトランセンデンス』持ちはすーぐなんでもパワーで解決しようとするんだからさぁ」
私たちリリィの扱う対ヒュージ決戦兵器、カウンターヒュージアームズだかの頭文字から取って〈
……まあ、一部の高級機は搭載火器がビーム兵器だったりするみたいだけど、その基準はよく分からん。私はほぼ実戦専門だし、そっち側は戦闘中の軽いメンテを自力でやれる程度な知識しかない。
で、どちらにせよ訓練用のごく普通の的では結構な口径の光学兵器なんぞ持ち出されては当然跡形も残らないので、そんなものがなんの訓練になるものか。
という訳で私もやりますかと背負った特注の大型ケースを左右に開いてふたつのCHARMを取り出すと、ミリアムちゃんの横の射座に陣取り早速撃ちまくる。
「苦手なら練習あるのみ、でしょうが!」
「的を蜂の巣にしながら言われるのも、なんか釈然とせんのじゃがなぁ」
じゃかぁしい当たればいいのよ当たれば。というか二挺持ちで狙い撃ちは流石に辛いしで勘弁してもらいたい、どうせ私の得意距離は外しようのない近距離だし。
とはいえ、下級生の前で八つ当たりでもしたかのような的というのも締まらないか。
「まったくしょうがないなぁ、ならいっちょ手本を」
なんて的が切り替わる間に片方のCHARMを脇に置き、残る一機をクルッと回したあと両手で構えようとしたらガヤガヤと入ってくる見知らぬ、というかさっき見たような顔二名と他一名。新聞の一面を飾ってた二人と……残りは件の新聞を書いた子だろうか? 世間って狭いや。
「まったくあのお方にも困ったものですわね。梨璃さんは初心者なのですから、もっとこう手取り足取り腰……あら、先客がいらっしゃったようですわね」
「なんじゃまたおぬしらか。相変わらず仲が良いのう」
ふむ、同じ一年生同士、制服からして学科は違えどミリアムちゃんは既に彼女らとは知り合いのようだ。やっぱり世間は狭い。
「ごきげんよう、
「ごきげんよう。わたくしはともかく梨璃さんたちのことは……ああ、例の新聞ですわね?」
「ご、ごきげんよう! えっと、その」
「…………!!」
うーむ、なるべくフレンドリーさを出したつもりだったけど楓さんはともかく梨璃ちゃんの反応は固いし、推定二水ちゃんは俯いてプルプル震えてるしで、なんかまずった?
まあ、流石に見知らぬ上級生にいきなり一方的に名前を知られてるっていうのは、楓さんのような有名人でもなければ理由が分かっていても困惑するものなんだろう。
「ほれ落ち着かんか。確かにこの御仁は百合ヶ丘一CHARM使いが荒いと一部のアーセナルからは恐れられておるが、普通に付き合う分には愉快なだけじゃからの」
「その説明も結構酷くないかなぁ? それに今年は中等部時代から破損率の相当ヤバい子が上がって来たはずだから、もうその座も危ういし……んなことで競うのはいいや。そんなわけで私が今ご紹介に預かりました「黒紅雪華様!!」うわっ!?」
なんて改まって名乗ろうとすると、恐らく二水ちゃんだろう茶色の髪を頭の後ろでおさげにしている子のアホ毛がピョコンと跳ね、その顔が勢い良く上げられながら私の名前を叫ぶのに遮られる。
「今年三年生になられたリリィで、去年まで所属していたレギオン内では唯一の最年少ながら二年間常にシュッツエンゲルの方共々最前線に立ち続けたエースアタッカー! 所持するレアスキルは覚醒こそ高等部進学後の二年生の半ばと遅めでしたが、デュエル世代以前で唯一の保有者とされる花形の『
お、おん……やけに溜めてたと思えば、鼻血をダバーっと流しながらも構わず早口で捲し立ててくるこれは、いわゆる〈リリィオタク〉という人種特有のアレか。
というのも彼女の御同類はうちに限らずどこのガーデンにも一定数いるようで、百合ヶ丘の有名さも相まって出先でその手の子に遭遇するとよく私や先輩たちに反応してこんな感じに……にしても、いくらリリィが好きだからって自分自身もリリィになるのが普通になってるって、中々凄い行動力の界隈だ。置いてきぼりにされた梨璃ちゃんも首を傾げてるし。
「え、えーっと?」
「今すぐ覚えておくべきは、お名前と最上級生ということくらいでよろしいかと」
「ああうん、そういう訳で改めて三年の黒紅雪華です。よろしく?」
何かもう言うことも無くしてきたけど、とりあえず自分からも名乗っておくのが最低限の礼儀かもしれない。
「また、去年度先輩がたが卒業されてレギオンが自然消滅してからはソロでの活動メインに転向し、そちらでも変わらず戦果を上げていることもあってか、企業から直々に新型CHARMのテスト運用を依頼されるほどだとか!」
「まだ話してたんだ。まあぶっちゃけこの件は半分以上コネなところは……ん、ちょっと待って、それどこで聞いたの? 向こうの都合もあって遅れたから、学院に帰って報告したのも今日なんだけど。しかも未完成のやつだから、まだ外部に公開もしてないはずだし」
「そこはまあ、日頃の取材の賜物です!」
そうむんと慎ましい胸を張る二水ちゃん……でいいんだよね? 誰も否定はしてないし。
合っててもそうでなくても、その垂れ流しな鼻血は拭いた方がいいと思うけど。あーもう制服の上着に垂れちゃってるし、どうすんのよこれ。
「なあ二水よ、おぬしいっつもそんなだと身がもたんのではないか?」
「いえいえ、このくらいまだ余ゆ゛う゛っ゛」
「言わんこっちゃない……ほれ、ティッシュでも詰めとけ」
「ず、ずびばぜん」
とりあえず仰け反る二水ちゃんにポケットティッシュを渡したミリアムちゃんが、計らずも答え合わせをしてくれたようだ。そんな様子を横目に、私は残る二人の方に話しかける。
「……二水ちゃんって、ずっとこうなの?」
「あはは……入学式前から、大体いつもこんなです」
「いい加減慣れてもいい頃だとは思うのですけれど、あの調子では先輩がたや有名どころの一年生全員にやるまで終わりそうにありませんわね」
あー、ありそう。ガーデンに所属しているリリィは雑誌などの取材を受けることもままあるので、高等部どころか中等部の頃からアイドルのような扱いをされることはそう珍しくもないし。
というかそのものずばり〈アイドルリリィ〉と自分から名乗り、歌って踊っている絶唱してそうな人たちもリリィ界隈にはわりといるらしいのだから、もう何がなんなんだか。リリィとは儚くも美しく戦う少女たちではないのか?
いや、アイドルやるんだからそりゃあ着飾って綺麗ではあるだろうけど。
いっそヒュージに制圧された廃村や無人島でも解放して、そのまま開拓すればアイドルリリィなのかなぁ?」
「まーた妄想が溢れ出しとるぞ、雪華様」
「失敬な、考えを口にした方が纏めやすいタチってだけだってば」
あとそれ系のことをミリアムちゃんに言われるのは無性に腹が立つ。理由はわかんないけど、なんとなくどっかから受信した。
「というわけでミリアムちゃん、ちょっとぶっていい?」
「まてまてまてまて、その振りかぶったカービンはなんじゃ!?」
「かーびん?」
「正しくは『グングニル・カービン』ですね。わたしや梨璃さんも使っているCHARM『グングニル』の簡易モデルで主に東京方面に配備されていますが、そちらのガーデンからの依頼を受け開発したのは以前お会いしたここ百合ヶ丘女学院工廠科が誇る天才、真島百由様なんです!」
で、CHARMにも詳しいらしい二水ちゃんの説明にあった通りの縁で、何機かこっちにも置いててよって頼んだのが事のあらましである。
しかしティッシュで鼻栓しながらもそのトークの早さが変わらんのは、二水ちゃん色々と強いなって。
「そうじゃろうそうじゃろう、百由様は凄いのじゃ。という訳じゃからCHARMを向けずに話をしようではないか」
「どういう訳かはわからんけど、新入生たちの手前ちょっと悪ふざけが過ぎたかな」
そう手斧型なグングニル・カービンのポールを縮めて片手持ちに戻しながら、指を引っ掛けてクルクルクルクルと。なんて言うんだっけかこういうの……
ともかくこのくらいは単なるじゃれ合いだと思うんだけど、レギオン時代は実際に斬った撃ったになるのもたまにあったし。今思うと血の気多かったなぁウチの先輩ズ。
「えっと、雪華、様? ところでなんでふたつもCHARM持ってるんですか?」
「ああこれ? こういうことだけど」
置いていた大剣型のCHARMに気付いた梨璃ちゃんの疑問に答えるよう再び二機を構え、今度は少しは狙って──んー、三発に一発くらい狙いから外れる。やっぱりこいつは刺して撃つのが一番か、と再びクルンと回して両手のCHARMを降ろす。
「おぉー……あれ、でも確かCHARMって一度にひとつずつしか使えないんじゃ?」
「それ故のレアスキル、『サークリットブレス』ということですわ」
「サ、サーク、リット……? さっき二水ちゃんは円環の~って」
「円環の御手は日本語読みになりますねー、結構どちらでも呼ばれてはいますが。このスキルは通常一人一機までなCHARMの二機同時起動が可能となり、双方攻撃に回す派手な立ち回りから片方を受けに使う堅実な動きまで幅広いCHARM運用を叶え『覚醒者に弱者なし』とまで言われる、非常に強力なレアスキルなんです!」
まあ正直レアスキルの呼び方って法則性がバラバラだし、訳さずカタカナでいいやろどころか日本でもアルファベット表記しかされてないのまであって統一されていない。
それどころか保有者も全容を把握しておらず正確な分類が不可能なスキルもいくつかあったりと、どうにも現代に突然現れた〈マギ〉という魔法の力は半世紀経った今なお人にとって過ぎた力だとでも言いたいのか、未知の部分が多すぎるらしい。
──そう、半世紀。〈ヒュージ〉と呼称されるマギにより生物が変異した巨大生命体、今世紀初頭に突如現れたその存在との戦いの歴史は、それ程までに続いてしまっている。
そんな中で人類が唯一それに対抗できる手段が〈CHARM〉と呼ばれる科学と魔法の交差した兵器で、それに共鳴し扱うことのできる少女たちを人は〈リリィ〉と呼び、そのリリィたちが通う学び舎こそが〈ガーデン〉なのだ。
……世界観説明が今更だって? タイミングを逃してた。
「ちなみに雪華様はサブスキルやCHARMの防御機構で守りを固めつつな攻めの二機持ちを基本として果敢に舞い──あれ、そういえば今日は専用機を使われていないんですか? もう一機も『ダインスレイフ・カービン』でしたし」
「あー、そっちの方はちょっと今メンテに出しててね、知っての通り私ってば荒っぽいからさ」
「『ダインスレイフ』……?」
ダインスレイフ・カービン。グングニル・カービンと同じ経緯で作られた、ベース機の差異もあってそちらより大分大型なこの機体──というよりはそのベースとなった方に見覚えがあるやつだろうか、梨璃ちゃんの反応は。
「こっちのベース機はパワー重視のシンプルな作りではあるけど、新型機も増えてきた今はもう高等部じゃそんなに数見ない機種だと思うけど?」
「あ、はい! 確かにわたしも見たのは二年前でした。その、夢結様に助けてもらった時に」
ああ、そういう繋がりかぁ。となると新聞の一件は憧れの人に会えた弾みとか、かな?
「なるほど、あの子戦闘中はすっごくカッコいいしねぇ。惚れちゃった?」
「そ、そうなのかな……? でも、シュッツエンゲルの契りを結んで下さいってわたしの方から言っちゃったし、周りから見たらそうなのかも?」
「へぇ?」
〈シュッツエンゲルの契り〉ここ百合ヶ丘女学院がかつてお嬢様学校だった頃からの伝統というか名残というかな、いわゆる擬似姉妹制度である。先程のごきげんようという挨拶も、大体同上の理由。
上級生を守護天使──シュッツエンゲルと呼び、下級生がそれに守り導かれる存在、シルトとなる。呼び方はともかく、この手のガーデンではよくあるやつだとは。
「夢結様は大人気ですからねぇ。かく言うわたくしも梨璃さんと運命の出会いを果たしていなければ、今頃夢結様に猛アタックしていたでしょうから」
ま、容姿端麗文武両道、とだけ聞けばぜひとも我がお姉様にって思う子もそりゃあ多いだろうけど『前にいたレギオン』のこともあって超が付く有名人だし彼女。
問題はそういった外面以外の……ってのはそれを知りながら「可愛いだろう?」と放置していたあの『姉』にして、だろうし言わないでおいた方がいいんだろう、多分。
「……まあ、実際は噂以上に気難しい、とんだスパルタさんでしたけれど」
「今の二年生も半分デュエル世代みたいなもんじゃからな、夢結様に限らずそういうタイプは結構おるじゃろ。にしても、高等部からの入学でもうシュッツエンゲルの契りを交わすとはのう。そういうのは普通、上級生から言うものなんじゃが」
デュエル世代、あるいは年代──今の高等部三年生以前のリリィを指した呼び方で、しばらく前まではヒュージとの一対一の戦い、デュエルが戦法の基本であったことからそう呼ばれている。
しかしそのやり方ではヒュージの大型・強大化に伴い次第に被害が増え、今の二年が中等部三年になった頃にその辺りの見直しが行われ、より多数での戦術を意識したそれにリリィの戦い方の主流も移り変わって行った。
にも関わらず、夢結はそんな下級生の中でも大分こっち側寄りの戦闘スタイルや思考では……ん、てかもう契ってるの? いくらなんでも早くない?
「その、ヒュージと戦っていた夢結様がすごく格好よくて……あ、勿論一緒にいた他のリリィの人も格好よかったんだけど、夢結様の流れるような黒髪、風に舞うマントが美しくて、まるで天使みたいに見えたから」
「それでわたしの守護天使、シュッツエンゲルになって下さいと。メモメモ……」
おうおう、二水ちゃん既に次の記事のネタにする気満々だねぇ? いや別に横から眺める分には面白いからいいけどさ。
「ところでその一緒にいた子って、緑髪ですばしっこいちんまいの?」
「うーん、髪の色はすぐ跳んでっちゃったからよくわからないですけど……身長は結構あるように見えたから上級生の方、だったのかな?」
手で大体の高さを示しながら聞くけど、首を傾げられた以上は違うか。となると当時も今も夢結に戦場で合わせられるリリィは結構限られるし、二年前で彼女と共に前線にいられるレベルな上級生ともなると、その交友関係からほぼほぼ断定出来るか。
「ふーん? そうなると、梨璃ちゃんって甲州の子かぁ」
「はい! ……って、今のでそこまで分かるんですか?」
「んー……まあこの程度は言っていいか? 梨璃ちゃんの見たって夢結と一緒に戦ってたリリィって多分私の同期だけど、そいつ二年前にその甲州撤退戦で戦死しちゃってるからさ。それより前に遠くまであの子と出た任務ってのも記憶の限りだとなかったはずだし、その後も当然あり得ないってことからの逆算になるけども」
「せ、戦死……?」
新入生には少しショッキングな内容かも知れないが、半世紀経っても一向に終わりの見えない戦いなのだから、当然日夜犠牲は出続けている。
それが巻き込まれた民間人だろうと、実際に戦う人間だろうと、その後ろでふんぞり返っているだけのお偉方だろうと、ある日突然等しく理不尽に死は訪れるのだから。
「つまりあの人が、夢結様の……」
「慣れたとは言いたくないけど、ここ百合ヶ丘は世界有数のガーデンである以上、必然的に対ヒュージの最前線の一つでもあるからね。死ってのは結構身近なのよ」
朝同じ部屋で起きたルームメイトが、挨拶を交わしたクラスメイトが、ランチを共にした友人が、夜には物言わぬ骸になっているかもしれないし、それすら残らないことも多い。
そういうことが起きてしまうのがリリィという生き方で、失った相手によっては立ち直れずそのまま後を追うかガーデンを去るか、なんてことがありふれる程に刻まれた悲しみの記憶。だからこそ、私はもう──
「おい雪華様」
ミリアムちゃんに咎めるように言われて、流石に怖がらせるような言い方過ぎたかと裏の思考も込みで打ち切る。
「……ごめん、ここまでは新入生にする話じゃなかったか。けどまあちょっとは覚悟しておいて欲しいかな、相手を思う気持ちが強いほど、折れた時は案外脆いものだからさ」
「……それは、夢結様もですか?」
あ゛っ゛。
やらかしたなぁ!? 昔の夢結と今の夢結の違いに敏感そうな─あるいは彼女の変化の理由を、遠回しにでも誰かから聞いたことがあったか─どちらにせよ、下手にこんな話を続け様にしたら、そりゃあ大抵の人は察するに決まっているだろうに。
「夢結を追って百合ヶ丘にまで来た子に、これは迂闊だったか……あー、今のナシで。なーんて都合のいい話は無理よねぇ」
「まったく雪華様はそそっかしいからのう。いくら知り合い絡みとて、他人のプライベートな話題はもう少し扱いを考えて欲しいものじゃ」
「……それってほぼ肯定なんじゃ」
「お喋りな方は嫌われますわよ? ちびっこ1号」
「1号!?」と楓さんからの良くわからない呼び方に突っ込む二水ちゃんを眺めて現実逃避。なんてのは許されない訳で……ええいままよ。
「これ以上のことは流石に言えないけど、あなたにとっての転機が二年前の甲州撤退戦とするのなら、夢結にとっての転機も同じくその日。梨璃ちゃんも見たんだろうけど、今のあの子はそれより前とは随分と変わってしまった……それでも?」
「それでも、です。例え夢結様に何があったんだとしても、あの日わたしを助けてくれた……あの方のようになりたいってわたしの憧れたリリィは、夢結様だけなんです! だからこうしてシュッツエンゲルにも……あ、わたしはシルトですけど」
決意表明のように告げた梨璃ちゃんは謎な部分を気にしてもじもじしているけど、なるほど、敵わないなぁこういう真っ直ぐな子には……『あたし』自身、そこまでひねくれてるつもりもないけどさ。
「ふぅ……ははっ、あははははははははっ!!」
「ふぇ!? わ、わたし何か変なこと言いましたか?」
私がいきなり笑いだしたのに面食らった様子の梨璃ちゃんだけど、そんな心配するような意味じゃないから安心してほしい。
「いいや、変などころか素晴らしいくらいだよ。こんなご時世でそこまで前向きな子なんて珍しくてさ、流石はリリィの梨璃ちゃんかな?」
「あはは、昔からよく言われます。入学式の日も、楓さんに名乗ったら『梨璃』じゃなくて『リリィ』って言ったと勘違いされましたし」
「そんなこともありましたわねー。ああ、今思えば初対面で梨璃さんの女の子の可愛らしさを全て集めたような魅力に気付かなかっただけでなく、あろうことかあんなにもぞんざいに扱ってしまっただなんて……このわたくし一生の不覚ですわーっ!」
なんて言いながらガバッと梨璃ちゃんに抱き付く楓さん。その遠慮の無さは流石フランスとのハーフ……にしたって、フンスフンスと荒すぎる鼻息と共に梨璃ちゃんの背中を伝って腰から下に向かおうとする手の動きは、少ぉーーーし怪しくないかなぁ?
「わわっ、楓さん近いってば。それに手が、手がお尻に!?」
「よいではありませんか~、わたくしと梨璃さんの仲なんですから~♪」
「うーん、なんかこう噂通りの人だなぁ楓さん」
「あれ、そういえば雪華様って、楓さんにだけ最初以外もさん付けなんですね?」
そのことを聞いてきた二水ちゃん自身や梨璃ちゃん、あとこの場だとミリアムちゃんもだけど他の一年にはちゃん付けなのに楓さんは別な理由かぁ。そんな大したもんでもないんだけど。
「そりゃあまあ、雑誌とかでちょくちょく見掛けるような人だし? なんか芸能人みたいな感覚というか」
「ああ、なんとなく分かります。そういう方に、補欠合格のわたしなんかが気安くしちゃっていいのかなーって……幸い楓さんはそういうの気にせず、むしろ向こうからグイグイ来てくれるんですが」
「なんていうか、自由な人なんだなぁ」
にしたって過剰なスキンシップは下手したら風紀委員会ですの案件だとは思いますはい。でもやられてる梨璃ちゃん自身がまんざらでもなさそうだから、別にいいのかなぁ?
「いや、どういい感じに言おうとしても普通にセクハラ案件じゃろこれ。止めんでいいのか雪華様?」
「んー、万が一脱がし始めたら流石に当て身して連行で。証拠写真は任せた二水ちゃん」
「は、はい! ……というかわたしたち、自主練しにきたはずなんですけどね」
なら折角だしと肩に担いだまま一射。うーん明後日の方向。