アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:迷い猫と懺悔とオペ子さんと。
という訳で戦闘開始!実のところヒュージへの憎しみとかそういうのは特にないうちの子。熊とか台風とかそういう認識、しかし悪意をもって動くヒトに対してはその限りでは…?
詳しくはその内、語るべき時に…



戦場に舞う花

「10時、2時、続けて11時!」

 

 渦中の第三演習場では、避難する他の一年生たちの方へヒュージを向かわせないよう訓練用のCHARMで奮戦しているリリィが三人──その中心で左右の二人に『鷹の目』でヒュージの進行箇所を把握しながら方角を端的に示すのは二水。

 それに応え神琳と共に的確にヒュージを撃ち抜く雨嘉だが、途切れる様子が見えず続々と押し寄せるヒュージには流石に冷や汗を垂らしている。

 

「……キリが、ない」

 

「この規模、近くにケイブが発生していると見て間違いないかと。二水さん、見えますか?」

 

「いえ、森の中に隠れているのか、上からだと……」

 

 縦がダメなら横からならと雨嘉が『天の秤目』で探ろうにもヒュージの群れや演習場周りの木々が邪魔をして、あまり結果は変わらない。

 

「救援信号は?」

 

「だ、出してます。そう遠くない内にガーデンから「今来たゾ!」梅様!」

 

 そんな時、三人の頭上を飛び越え現れるのは梅。『縮地』の速度で依奈からのオーダー通りの先駆けとして他の三人を置いていく形にはなったが真っ先に到着した彼女は、二水たちを庇うようにヒュージの群れへ立ちはだかる。

 

「三人ともいいガッツだゾ、けど後は先輩たちに任せとけ!」

 

「助かります梅様。そろそろ残弾も心許なかったところですし、雨嘉さん」

 

「うん。二水、こっち」

 

「はい!」

 

 顔だけで振り向く梅の言葉に誰も異論はなく、そのまま神琳たちが演習場の端へ少し遅れて到着した天葉たちの方へ駆け出したのを見届けると、梅はタンキエムのグリップを両手で構え直してヒュージと向き合う。

 

「さてと、少しでも数は減らしとかないとナ!」

 

「依奈!」

 

「分かってるわよ」

 

 チラリと左右に広がった天葉と依奈が後方から援護射撃を送ってくるのを確認すると、梅はヒュージの群れへ飛び込む。

 それを更に後ろで二水たちとすれ違いながら眺める雪華は、順調そうに見える様子に謎の不安が拭えずにいた。

 

(この感じ、多分気のせいじゃない……これって、『あの時』と同じ)

 

 雪華の抱く既視感、それは四年前のあの日、演習場を離れ初めてこのダインスレイフを手にした時と似た状況に対して。しかしヒュージの勢いは比較にならない、となると──

 

「二水ちゃん、鷹の目!」

 

「え? は、はい!」

 

 そろそろ演習場を抜けるかどうかというところの二水へ向けて、雪華が叫ぶ。それに足を止めマギに瞳を赤く染める彼女が見たのは、あまりよろしくない現実。

 

「こ、これって……ラージ級……いや、もっと大きい!」

 

「やっぱり、ガーデン側に出てきた……前と同じ、にしては難易度上がり過ぎだけど……!」

 

 群れの習性、あるいはパターンというべきだろうか本命を退路に置くやり口。しかし四年経った今立ちはだかるのは、あの時雪華の遭遇したミドル級の次元ではなかった。

 

 通常ラージ級とは一桁後半メートル台のサイズになる、しかしケイブから現れ木々を薙ぎ倒しながらその姿をさらす赤い山のようなヒュージの巨体は、見た目こそよく見るラージ級の姿形でありながらそのサイズは目算で十数メートルはあるように見えると、雪華たちの反応にまたアールヴヘイムの二人も思わず振り向く。

 

「ウソ、何あれ!?」

 

成長途中の(グレーター)ラージ級……? 撃ってくる!」

 

 サイズが違えど行動パターンに変わりはないのか、これまで確認された同型のヒュージのように頭部へエネルギーをチャージしている様子に気付いた天葉が警告を飛ばすと、二水たちとラージ級との間に人影が飛び込む。

 

「雪華様!?」

 

「《聖域転換》最大パワー、このサイズはまともに受けてらんない……!」

 

 雪華が普段よりかなり広範囲に展開する光の盾を斜めに構え少しでも逸らして凌ごうとしていると、まるでいつぞやの繰り返しのように横から突き飛ばされたと感覚が伝えてくる。

 

「きゃっ!?」

 

「──は?」

 

 それこそ二水や神琳、雨嘉もまとめて突き飛ばしながら突っ込んで来たのは、テンタクル種はスモール級のヒュージ……にしては少々と言わず全体的にメカっぽいし、胴体のハートマークのペイントは識別用なのかなんなのか。そして何より、その背からCHARMを手に飛び降りてくる人物が余計に思考を混乱させるのだから。

 

「…………仕方ないか。皆伏せて!」

 

「「百由!?」」

「「百由様!?」」

 

 この場にいる彼女以外のリリィが驚くのを他所に二水の頭を抑えて庇うようにしながら百由が降り立った直後、ヒュージ“もどき”は本物のヒュージの熱線にその射線上にいた数体のヒュージごと飲まれ、ボディの大半を喪失していた。

 

「いや、どういうことよ百由!?」

 

「試作機。もうデータは十分取ったから、せめて安らかに眠りなさい……」

 

 雪華からの全力のツッコミには簡潔が過ぎる説明の後「なーむー」とその冥福を祈る百由は、普段のフード付きな工廠科の制服でなく黒地な衣装の上に短い紺色のジャケット──アーセナル用の戦闘服だと上級生組の記憶にあるそれを身に纏っている。

 

『おい百由様ぁ! 生きとるかー!?』

 

「あー、生きとる生きとる。それに前にも言ったでしょ、これでも結構戦えるのよって?」

 

 ここまでの様子をモニタリングしていたのだろうミリアムからの通信に何事もなかったかのように返している百由は、腰に付けたポーチからある物を取り出すとそれを天葉へ投げ渡す。

 

「これ、ノインヴェルト戦術用の……」

 

「こんなこともあろうかと、ってやつよ。それと二水さん、あなたたちはわたしの突っ込んできた方へ、試作メカルンペルシュティルツヒェンくんに乗りながら蹴散らしてきたから、あっちはヒュージの数も少ないわよ?」

 

 〈ルンペルシュティルツヒェン〉それは入学式の日に逃げ出したサンプルとして捕らえられていたヒュージの識別名であり、リリィ新聞にも取り上げられていた。すなわちこのスクラップ状態の機体はそのデータから作り出された模擬ヒュージ……百由曰くの〈メカヒュージ〉の試作品ということになるようだ。

 そんな百由は手元の携帯端末を操作すると、二水たちの携帯へあるデータを送る。

 

「座標……? 分かりました!」

 

「神琳、行こう!」

 

「ええ、先輩がたもお気をつけて」

 

 一年生三人が安全圏に抜けるまで、百由も持ち込んだアステリオンによる牽制射をヒュージの群れに送りつつ雪華と共にラージ級の動向に気を配っていたが、ひとまず後輩たちが安心できるところまで離脱したのを確認すると、背中合わせの雪華からは呆れたような声が。

 

「まったく、前線に出るのは主義じゃないんじゃなかったっけ?」

 

「そうも言ってられない状況でしょ。汐里ちゃんたちはまだ出られそうになかったし、メカルンペルくんごとかっ飛んできた方が早かったってことで」

 

 先程雪華も訓練を共にした六角汐里、その所属レギオンとなると彼女が副将を勤める〈レギンレイヴ〉通称〈水夕会(すいゆうかい)〉になるが、今日の出撃担当が彼女たちだったのはともかく百由の方はいつの間にあんな物を仕込んでいたのか。と内心ツッコミが収まらない雪華だが、反対側のヒュージをある程度片付けた天葉たちが駆け寄って来たので漫才やっている場合ではないと気持ちを切り替え、CHARMを構え直す間に演習場に号令が走る。

 

「なんとか五人揃った……これより変種ラージ級へノインヴェルト戦術を仕掛ける!」

 

「了解! 天葉が仕切るっていうのも新鮮だナ!」

 

 楽しそうに応える梅も初代アールヴヘイムのメンバーが一人、その時の同僚がこうして今立派にリーダーをやっているというのは中々感慨深い物があるのだろうが、天葉が自身の専用CHARM『フラガラッハ』へノインヴェルト戦術用の特殊弾を装填しシューティングモードに切り替えて彼女に向けてくるのだから、想い出に浸っている暇はないなと仕事モードに入る。

 

 〈ノインヴェルト戦術〉──九つの世界を意味し五人で行う今回の場合フンフヴェルトとも呼ばれるこの戦術は参加する各リリィがCHARMを通して特殊弾へとマギを込め、次々とパスを回すことで強大な魔法球──マギスフィアを作り上げていかなるヒュージをも駆逐することを目指す、いわゆる“必殺技”という物だ。

 しかしヒュージの攻撃によるパス回しの妨害、込められるマギが増えるごとに制御の難しくなる魔法球、それらを克服するための連携と他にも様々な要因から誰とでも即席のメンバーでやれるような物ではない。

 

 だが初代アールヴヘイムは元よりノインヴェルト戦術の基礎を生み出したレギオンだったのだから、そのメンバーであった天葉たち三人に今更そんな心配など不要、百由も正規のメンバーではなかったにせよ深く関わっていたアーセナルとして幾度も彼女らのそれを見てきており、雪華とてかつてのレギオン時代、そういったリリィ全体の戦術が移り変わる中前線での危険なパス回しには慣れている。故に下限ギリギリの人数であろうとこのメンバーなら問題ないと決行するのに迷いはなく、天葉はCHARMを梅に向けながらも視線だけを依奈の方へ。

 

「依奈! フィニッシュは任せる、それまでは皆のフォローを!」

 

「そもそも、そういうのやれるの今あたししかいないでしょ!」

 

 ノインヴェルト戦術に関して『レジスタ』系のスキルが必須とされる理由は色々とあるが、まず基本効果である周辺のマギ純度の上昇による単純な威力の増強やCHARMのコアへのマギエナジー供給によるスペック向上面でのサポート以外にも、マギスフィアの保護効果やパスコースをテレパスにより伝達するなどの特性があり、その成功率を爆発的に上げるとは伊達や酔狂で言われていない。

 そしてサブスキルの『軍神の加護』であろうと依奈の練度であればレアスキルから数割はその効力が落ちているのも気にならない程で、鷹の目のサブ相当な俯瞰視野も合わせ全体の動きを見据えながらフィニッシュショットを任されるのに異論はない。

 

「そういうこと。だから梅、しっかり繋いでよ!」

 

「ハハ、まだ去年のことなのに懐かしいナ、この感じ!」

 

 引き金は引かれマギスフィアは天葉のフラガラッハから梅のタンキエムへ、その間もラージ級はゆっくりと接近してきているが出会い頭の一撃以外何かを撃ってくるということはない。成長途中というのならマギの無駄遣いは向こうも避けたいのだろうが、代わりにその足元からはヒュージの群れが押し寄せる。

 

「増援! やっぱり向こうにケイブが……」

 

「だとしても、あいつを仕留めないことにはその先もない。まずは邪魔になる雑魚から片付けますよ──そのレアスキル、飾りじゃないんでしょう?」

 

 警戒を強める雪華に躊躇うのなど許さないと、二機のCHARMを手に並ぶ依奈。それに雪華もCHARMのグリップを強く握りしめることで応え、揃って引き抜く。

 

「「《円環の御手(サークリットブレス)》!!」」

 

 同時にレアスキルを発動し、二機目のCHARMを起動させながら二刀流で切り込む二人。奇しくもそのスタイルは共に両手へアタック用のCHARMを携えてな攻めに比重を置いたそれ、近寄る側から小型ヒュージは二人の作り出す嵐のような剣戟(けんげき)に飲まれていった。

 

「通すなって言われてんでね!」

 

 それでも勢いの止まないヒュージの群れへ射撃を加えながら後方へ宙返りする雪華は実弾を撃ち切ると右手にアステリオン、左手にダインスレイフと放り投げるように持ち替えながら射撃モードを変更、着地と同時斜め前方へレーザーを撃ちっぱなしにして内側へ向け閉じるようにヒュージを薙ぎ払う中、意図的に閉じ切らず開けられたその隙間へ飛び込んだプランセスが駆ける。

 

「そぉ、れっ!!」

 

 左右から挟まれるように砲撃に焼かれる前方のミドル級を依奈が左の小剣『ミミング』を逆手に持ち斬り上げ、右の細剣『グンフィエズル』の刃を束ねて大剣へと切り替え叩き付けるようにミドル級を両断すると、そのままCHARMを後続のヒュージへ向ける。

 

「行きなさい!」

 

 依奈の専用機のひとつであるグンフィエズルは可変機構こそ有しているが主に近接形態同士の切り替えで、射撃に関してはノインヴェルト戦術の都合もあって通常のCHARMのようなそれも一応可能ではあるが、基本的には非常に独特な形で行うことになる。銃口の前に魔法陣が一瞬だけ浮かんだ直後、依奈の周囲に現れるマギにより形作られた無数の小剣〈アクティブビットソード〉それらは主の命に従って一直線に飛翔し、ヒュージを次々と貫く。

 ティルフィングのような分離・合体機構がメジャーにはなるが、それ以外にもこうした特異な機構を備えたCHARMもまた〈第3世代CHARM〉と呼ばれ、様々な方向性で研究が行われているが今雪華の関心が向くのは、そちらよりそれを操る依奈の方。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

(これなら、思ったより心配はなさそうかな)

 

 実のところ雪華は依奈のことを梨璃と契る前の夢結程ではないが、大分危うい状態だと思っていた。初代アールヴヘイムの解散後、一時期引退まで考えていたとされる天葉はシルトである樟美の存在もあり今は落ち着いているが、同じくそう言われていた彼女のルームメイトである依奈はシュッツエンゲルはともかくシルトを持ったなんて話もなく未だ不調の中にあるとの噂もあって、いつぞや亜羅椰に割り込まれる前雪華が彼女に話し掛けていたのはその辺りの確認もあった。

 とはいえこうして戦場を共にしてみれば、二刀で果敢に舞いながら思考制御故に担い手のメンタルに大きく左右される第3世代特有の機構も使いこなしているのもあり、案外大丈夫そうに見える。

 

「雪華様、取れなかったら弾代(数千万)自腹ですからね!」

 

「おっと、そりゃ勘弁!」

 

 『円環の御手』の二人が前線を張っている間に後ろでのパス回しは終わったようで、百由のアステリオンから雪華のダインスレイフへマギスフィアが渡り、それをCHARMごと体の前へ構えアステリオンで上からマギスフィアを挟むことで両手のCHARMより素早くマギを込める間にも、ラージ級の向こうより現れたヒュージの最後の一体が依奈の振るうグンフィエズルの錆と倒れていた。

 

「これで、ラスト!」

 

「後ろ! どうなってる!?」

 

 配下のヒュージがやられようと構わずラージ級は接近してきており、既に演習場の中へ侵入している。距離が近付く度に通常の個体の倍近くはあるその巨大さを否応なしに理解させられると少しの焦りと共に雪華が振り向けば、最初に襲来していた分の群れも残る三人で押し込める程度には、その勢いを弱めていた。

 

「問題なーし。ちゃっちゃと決めちゃってください!」

 

「オッケー……依奈、トドメを!」

 

 梅と天葉が切り込むのをアステリオンで支援する百由と視線を交わすと、雪華は二機のCHARMで弾くように上空へマギスフィアを飛ばし、左右のCHARMで地面に円を描いた依奈もそれを追うように跳ぶ。

 

(……ん?)

 

 そこで何か、言葉にできない違和感を雪華は抱いた。これでも彼女は百合ヶ丘のリリィとして相当な数の戦いを経験していたし、その中で初代アールヴヘイム時代の彼女らと同じ戦場を駆けたことだって何度かある。だからこそ、先の一瞬依奈の動きにわずかな『ズレ』があったように見えた。

 今の行為自体は初心者から上級者まで幅広く行われる跳躍強化のための動き、素早く陣を描く感覚でマギを操るそれだ。基礎的な物だからこそ、ダイレクトにリリィの腕前が反映されるそれに違和感があるというのは──

 

「……っ!」

 

「依奈!?」

 

 一息、あと一息高度が足りずCHARMとしては小型な部類になるミミングの剣先はマギスフィアの僅か下を掠め、慌てて依奈は反対の手に持つグンフィエズルでマギスフィアを捕まえていた。らしくないミスに地上から見上げる天葉にも動揺が走るが、構わず依奈はCHARMをラージ級へ向ける。

 

「──消し飛べっ!!」

 

 それでもマギスフィアを取り零さず、暴れるそれを抱え自由落下しながらも仕上げのマギを注ぎ込み片腕で狙いを付けてフィニッシュショットを放てるのだから、番匠谷依奈は間違いなく一流のリリィである。

 

 ──だからこそ、建て直しのための一瞬が致命的だったというのも、彼女自身が一番よく分かっていた。僅かな間に危機を察知したラージ級が回避に動き、必滅を期した一撃はラージ級の頭部、その右半分は消し飛ばすが致命傷には至らない結末になる。

 

「くっ、外した!?」

 

『いかん! 離脱するんじゃ依奈様!』

 

「だぁぁぁぁっ!!」

 

 ラージ級を仕損じたことに依奈が己を責める暇もなく、その横を彼女のルームメイトが投げ放った魔剣(フラガラッハ)が駆け抜け、呆ける依奈へ腕を無造作に振るい反撃を行おうとしたラージ級の喉元に突き刺さることで怯ませ、遅れて放たれるビームは依奈の目の前まで跳び上がりながら天葉の展開する、S級にまで到達し圧倒的な強度を誇る『ヘリオスフィア』による球状のバリアによって無事防がれた。

 

「ソラ……」

 

「梅、あとお願い!」

 

「おう、依奈の方は任せたゾ!」

 

 そのまま身体の力が抜け落ちるだけだった依奈を抱き留める天葉と入れ替わりに、ラージ級の眼前へ躍り出た梅は縮地により得た速度を乗せた蹴りでフラガラッハを更に深くラージ級にめり込ませると、その付近へ向けたタンキエムによる砲撃の反動を利用し一撃離脱。

 

「天葉ッ!」

 

「こん、のおっ!」

 

 梅が離れるのに合わせ、天葉が依奈を左腕に抱えながら右手で(くう)を引くような動きをすると、それに応えるようにフラガラッハはラージ級の体から独りでに抜け、主の手に納まる。

 これが彼女の専用機が第3世代CHARMに分類される由縁、簡易的な遠隔操作機能により投擲しても手元に戻ってくるという特性だった。

 

「ダメージは入ってんだ、このまま一気に叩く!」

 

「おっと、ヒュージが来ますよ!」

 

 重力に引かれ落ちていく初代アールヴヘイム組三人とスイッチするように飛び出した雪華と百由の行く手を遮るのは、周囲から集まってくる飛行型混じりな小型ヒュージの群れ。それは、明らかにラージ級の傷が回復するまでの時間稼ぎに見えた。

 本来より人数の少ないフンフヴェルト故に大分消耗した状態で相手をするには面倒な数になるが、そこへ実弾光弾入り交じった横っ面からの弾幕が群れの勢いを削ぐ。

 

「ん、ようやく援軍?」

 

『いや、途中で避難していた面々を保護して部隊を分けたとのことで、まだ汐里たちが到着するには早いはずじゃが……』

 

「援護します。お二方は前進を!」

 

 通信先のミリアムにも分からなかったその正体は離脱したはずの神琳たち三人、しかしその手に持つCHARMは訓練機でなくそれぞれ普段の愛機に変わっており、誰の仕込みかと雪華がチラリと隣を見れば、百由の眼鏡がキラリと光ったのが答えなのだろう。

 

「ふっふっふっ。なんか嫌な予感したからって、あの子たちのCHARMの整備だけ急いでおいて良かったわー」

 

「やれやれ、やることはやってんだから……皆、こいつらは任せた!!」

 

 恐らく先程自分たちの身代わりとなったメカルンペル(なにがし)とやらと共に彼女たちのCHARMも運んでいたのだろう百由を置き去りに、雪華は上空の飛行型ヒュージの一体に袖口よりアンカーを打ち込んで飛び上がる。

 

「はいはい、道は開けますよっと!」

 

「雨嘉さん!」

 

「分かってるよ、神琳……!」

 

─この世の理─

─天の秤目─

 

 その様子に彼女の狙いを察した百由と雨嘉がそれぞれレアスキルを発動し、的確にヒュージを狙ってのアステリオンによる狙撃で雪華の飛び乗ったもの以外の空のヒュージは次々と撃墜されていく。

 

「進路クリア──雪華様!」

 

「ここだぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 鷹の目で戦場全体を見据える二水からの合図に従って足場にしたヒュージを蹴って雪華が跳び、アンカーを今度はラージ級へ両手から二本放つとそれらを引き戻す勢いで一気に接近する。

 

 当然自由に動けない空中を一直線に進むのなど相手から見れば狙ってくれと言わんばかりだろうが、半壊したラージ級の頭部から雪華に向けて放たれようとしたビームは、直前に叩き込まれた梅のタンキエムからの高出力砲により仰け反ったため天を焼くだけに留まる。

 

「色々詰めが甘いんじゃないか?」

 

「皆がいるから、任せてんのよ!」

 

 近くまで跳び上がっていた梅と軽口を叩き合いながら、マギのワイヤーを巻き取り突っ込む雪華はダインスレイフを逆手に先程フラガラッハの刺さっていた傷跡へ捩じ込み、強引に刀身を開かせてシューティングモードへ。加えてアステリオンも変形すらさせずに突き刺し、揃ってトリガーを引きっぱなしにする。

 

「でぃぃやぁぁぁぁっ!!」

 

 ゼロ距離どころではない超至近距離からのレーザー乱射にさしものラージ級も堪えきれずにバランスを崩すと同時、フンフヴェルトの反動も残っている中の無茶な稼働の代償か上下に展開していたダインスレイフの刀身の上側が、根本から弾け飛ぶ。

 

「っ……終われぇっ!!」

 

 そのままCHARMをラージ級から引き抜き、片刃になったダインスレイフとアステリオンを束ねるように構えると、一瞬だけ足元に出したマギの障壁を蹴り加速した雪華はラージ級の喉元の傷跡から首筋までを切り裂く。

 その勢いのまま着地し滑り跡を地面に残す彼女の背後から聞こえるのは、妖精郷(アールヴヘイム)の将が号令。

 

「今っ! 皆、トドメを!」

 

 いくら通常より大型に成長したラージ級のヒュージといえど生物の(てい)を取っている以上頭部は急所に変わりなく、特にこのタイプのラージ級はヒュージとしての弱点でもあるコアも頭部に納まっているということもあって度重なるダメージを受けた上でそこをCHARMの一斉射撃にさらされ蜂の巣にされては、大爆発という末路を辿るしかなかった。

 

◆◆◆

 

 致命傷を受けその体を崩壊させながら爆発する、大型過ぎたラージ級……ところでかなり今更な疑問だけど、ある程度以上の大きさのヒュージって、なんで倒すと爆発するんだろうか。

 機密保持のための自爆? はアニメや特撮の見すぎとして、マギの影響……の場合、リリィも死に方次第じゃあ、爆発する?

 

「わっかんないなぁ」

 

 まあどうでもいいかと頭を振って思考を切り替え、中々に無茶をしたなと残る半分の刀身も接続部がガタガタなダインスレイフを杖代わりにして、所々が痛む体を起こす。

 

『こちら水夕会、確認されたケイブは全て撃破しました! そちらは?』

 

『おう、親玉のラージ級は無事駆逐された。後は小型のヒュージばかりになるが、最後まで気を付けるんじゃぞ』

 

 通信越しに聞こえる汐里ちゃんとミリアムちゃんの会話から周囲の掃討は駆け付けた水夕会が引き受けてくれるようで、演習場に残る皆がこっちへ集まってくる。私を含め一年から三年まで計八人、一切の欠けはない──“私”は“あたし”を越えられたのだろうか。

 

「怪我人はゼロかな? なら上々でしょう」

 

「……嫌味のつもりですか」

 

「まさか。全員無事って結果が、今日の戦闘の全てでしょ?」

 

 ひねくれた依奈の様子は、結局戦闘中のミスから立ち直れていなかったこともあって読めていたしとそこまで気にせず事実だけを返す。

 大体、損害という意味なら借り物のCHARMを壊した私の方が客観的には上だろうし。こうしてかつてのジンクスこそ吹き飛ばせても、違う意味でこの系列のCHARMには苦手意識ができそうだ。なんて破損したダインスレイフを眺めていると、百由が依奈の側へ。

 

「……やっぱり、まだ無理そう?」

 

「やっぱりって何よ、やっぱりって」

 

 こうもあからさまに言われれば反発するだけの気力はあるようだけど、はたしてなんの話なのか。なんて私の目線に気付いてか、百由が眼鏡をクイッと上げながら説明してくる。

 

「ああ、ちょーっと依奈に実験動物になってもらおうって話がありまして」

 

「依奈……短い付き合いだったけど、骨くらいは拾ってあげるからね……」

 

「勝手に殺すな!」

 

 思ったより元気じゃん。なんて茶化し続けていても話は進まないかと、とりあえず百由に続きを促す。

 

「まあここしばらくこんな様なんで発破になればいいかなと、試作CHARMのテスターを頼もうとしてるんですよ」

 

「……それって、私の頼んだやつ?」

 

「いえ、別口です。というかアレはまだまったく手付けれてないんで」

 

 そうですか……と相変わらず後輩からの扱いが軽いのはまあ自業自得として、試作CHARMとは恐らく第4世代CHARM──依奈の持つグンフィエズルの非実体なビットソードとは似て非なる、完全に本体と独立したビット兵器の運用を目指した精神連結式の機体。世界各地で開発は進められているが安全性の問題から未だ安定した運用まではこぎ着けられていないそれを、百由は『まだ』諦めていない。

 だからこそ私に『先輩』のコネであの機体のテスターが回って来たのだから、当たり前ではあるけども。

 

「『彼女』、ようやく目覚めたばっかりなんでしょ?」

 

「だからこそよ。『冬佳(とうか)』が自分のせいだって気にすることはないって、単にあの時の“あたし”が第4世代CHARMを完成させられてなかっただけだって、今度こそ証明したいんですよ」

 

 眼鏡が日光を反射して百由の目はよく見えない。それでもその言葉には、親友だと言われる彼女への確かな想いがあった。一方の依奈は、どこかなげやりに肩を竦めているが。

 

「……そのダシに使われる側は、たまったもんじゃないですけどね」

 

「あら、依奈様ならやれると思いますわよ?」

 

「神琳さん?」

 

 ここで意外な子が割り込んでくる。いや、よくよく考えれば神琳さんと依奈は同じ百合ヶ丘生え抜き組、ある意味では彼女はこの中の誰よりも長く依奈のことを見てきているのか……まあ、生え抜きだっていうのなら一応百由もだけど、二人とは学科違うし?

 

「気休めなら結構。あなたもさっきのは見ていたでしょう?」

 

「ええ、わたくしでしたら最初に届かなかった時点で諦めるしかなかったでしょう。ですが依奈様は諦めず、もう片方のCHARMでマギスフィアを確保されました」

 

「そして、無様にも目標からズレたフィニッシュショットを放った、それが全てよ。皆の想いとマギを無駄にしたことだけが、この場であたしの残した結果」

 

「そうでしょうか? わたくしの見た物は依奈様の一撃を皮切りに先輩がたが次々とあのヒュージへ攻撃を浴びせ、無事駆逐した様子でしたが」

 

(え、何この圧?)

 

 やさぐれる依奈の突き放すような態度に、逃げることは許さないと猛追する神琳さん。その様子に依奈も興味は抱いたようで、試すように口を開く。

 

「……何が言いたいのかしら?」

 

「“わたくしと違い”初代アールヴヘイムとして伝説となった番匠谷依奈様に、そのように腐った姿は似合わないと。それだけです」

 

「……神琳?」

「…………あっ」

 

 当人たちだけが分かるような言い方に雨嘉ちゃんのみならず疑問符を浮かべているが、二水ちゃんだけは何か思い当たったようで、それ故に何も言えない様子で口を挟めないでいた。

 

「八つ当たりのつもり?」

 

「それこそまさか、です。わたくし、依奈様には憧れておりますのよ?」

 

「憧れって、理解から最も遠い感情とも言うみたいだけど」

 

「ええ、ですので後塵を拝するわたくしにご教示ください。他ならぬ依奈様自身の選択で」

 

 つまり今の依奈は状況に流されているだけだと、神琳さんは暗に告げている。戦線離脱を余儀なくされていた仲間の代わり、そんな用意された“役目”に甘んじているだけだと。

 

「す、すみません依奈様! 神琳って、時々……ううん、しょっちゅう言うことがキツくて……!」

 

「それ、なんのフォローにもなってないと思います……」

 

「……………………」

 

 そこまで言うとなると流石に慌てる雨嘉ちゃんと対極的にもう色々と諦めてそうな二水ちゃんの様子にも構わず、神琳さんの二色の(まなこ)は真っ直ぐ依奈を捉えて離さない。

 

「えっと、お邪魔でした?」

 

「あ、汐里さん!」

 

「いえ、ちょうど終わりましたので。皆さん、お疲れ様でした」

 

 そんな中掃討を終えたのだろう水夕会の面々がぞろぞろとやってくるから、神琳さんはお嬢様らしいお辞儀を残すと依奈から離れて二水ちゃんたちの方へ。返事も待たずに行くことに、依奈はなんとも言えない表情になっているが。

 

「なんなのよ、もう……」

 

「とりあえず撤収しよっか、主将さん?」

 

「はい……依奈、行こう」

 

 状況は終了。しかしこっちの方はまだ見積もりが甘かったか? どうにも真似事じゃ限界があるか、身内以外のことに首を突っ込むだなんてのは。そんなことを思いながら、夕暮れの中を各々帰路に就く。

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