二次創作をやってるのは、色々と好きを詰め込んで生きているってこと。
そんな訳で大分脇道に逸れながらも軸はアニメ時空という証明のためのソレをやりましょうか、イノチ。
結局あの後戦闘の報告だのいつものCHARM整備の泣き付きだのの諸々を済ませて、部屋に戻るともう時計の針は夜の10時を回っていた。
当然6時からな三年の入浴時間などとっくに過ぎてるけど、逆に自由解放な時間ではあるし私としてはその間に入るのはしょっちゅうなことである。
「……で、なんの用ですか」
「いや、たまたま空いてただけだけど?」
そんな訳で脱衣場で湯浴み着に着替え大浴場に入ると洗い場にて目的の紫髪を見つけたので、髪を洗っているその横に自分としても随分白々しいことを言いながら腰かける。
同じ紫髪でも向こうの方で泡を流しているミリアムちゃんの方が色味が薄くて青っぽいし、加えて髪のボリューム以外は全体的にサイズがミニマムだから「なんか失礼な視線を感じるぞい」……ともかく二年の依奈と見間違えることもない。
「はぁ……説教なら勘弁ですよ?」
「天下のプランセスにそこまで偉そうにできる程、調子乗ってるつもりはないよ。とりあえず、折角だし頭流そっか?」
なんて依奈の前のシャワーに手を伸ばそうとすると、そこへ横から先回りする手が。
「残念ながらそれはルームメイトなあたしのお仕事なので。終わったらこっちもお願いねー」
「はいはい、いつもやってるでしょ」
その手の主は勿論天野天葉。随分と慣れた手付きで流している様子を見るに、依奈の言うように普段からお互いそうしているようだ。
上下の学年とそれぞれシュッツエンゲルの契りを結び、同室の相手とも仲睦まじいとは〈蒼き月の御使い〉殿は中々の充実っぷりである。
「ふう、お熱いことで」
◆◆◆
「ねぇ神琳……昔のこと、二水からちょっとだけ聞いたよ」
「……そうですか」
今大浴場にいるのは元々学年別の時間に入らないのが当たり前になっているような工廠科の生徒が数人と、第三演習場での戦闘のメンバー。当然その中には雨嘉と神琳もおり、二人はいつものように背中合わせになりながらも、今日はどこか真剣な雰囲気を漂わせている。
「では、幻滅しました?」
「ううん、そんなことない。こう言ったら失礼かもしれないけど……少し、安心したかも」
「安心?」
「神琳も、完璧じゃないんだって。あ、勿論悪口とかそんなんじゃなくて、その……だから、頑張れるのかなって」
雨嘉も自身が口下手な自覚はある、それ故今ので神琳もまだ『完璧』というゴールにたどり着けていないからこそ、そこを目指して努力し続けているのだろう──などと思ったことがちゃんと伝わっているのか、あたふたしている様子から不安だけは無駄に伝わっているのではないかと、言葉とは裏腹に心配を強めながらも最後まで言葉を紡いだ。
「そう、見えますか?」
「うん……だから神琳は凄い、って思うよ。わたしだったら、一度でも上手く行かなかっただけで、もう心が折れちゃいそうだから」
雨嘉が故郷を離れ日本に来たのも、過度な期待を前に失敗して周りに失望されるより先に、誰も知り合いのいない場所へ行けばもし失敗してもそこまで期待を裏切ることもないだろう、なんて無意識下の考えがあったのかもしれない。
だからといって抱える不安を姉や友人に相談したままあっさりと日本行きを決めたのも、それはそれで残された側が色々大変だったとは電話の向こうから言われたり、上の
◆◆◆
「二人ともアツアツだナー」
「ず、随分と見せ付けてくれるじゃない……」
それはそうと今雨嘉ちゃんと神琳さんがいるのは大浴場のど真ん中、湯船に浮かぶ孤島のようになっているそこで話していては浸かっている他の面々からも丸見えで、縁にもたれながら茶化す梅はともかく依奈はただただ呆れている。
という訳で同じ一年生として色々見てきてそうな、今夜の特別ゲストに聞いてみようか。
「……二水ちゃんや、あの二人いっつも『こんな』なの?」
「はい、リリィオタクの間ではおふたりが二人きりの世界を構築する様は『イノチ感じてる』などと言われてます!」
「なんの隠語よそれ……そんな言われ方して思い浮かぶの、雨嘉ちゃんが神琳さんにベッドの上で押し倒されて『そういうコト』されてる様子なんだけど?」
もう夜中だからって遠慮の欠片も無い物言いになるけど、そんなことには構わず依奈の向こう側から二水ちゃんに向け言葉が飛んでくる。その声の主はアールヴヘイムがアーセナルの一人、弥宙ちゃんだったか。相変わらず顔が広いことで。
「で、神琳さんの昔の話って……あのこと?」
「恐らくは。わざわざ司令塔な依奈様とご自分を比較するような言い方となると、中等部レギオン予備隊の格付けのことかと……」
「あー、弥宙たちが出禁食らってたやつ」
「それを言うなら殿堂入りよ! 壱盤隊はわたしたちが中等部の頃から成果を上げすぎてたから、もし出てたら一番になってて当然なの!」
なんて隣の辰姫ちゃんから投げられる茶々へ律儀に対応すると、咳払いをして弥宙ちゃんは話を軌道修正する。
「それに、言っちゃあれだけど昨年度は負けるべくして負けたところはあるでしょうね」
「おや、結構な自信で」
「
〈聖メルクリウスインターナショナルスクール〉──楓さんの古巣であり、そこの中等部最後の年で世界一の格付けを得た直後にそのまま百合ヶ丘に引き抜かれたものだから〈百合ヶ丘の至宝〉だなんて彼女への称賛とガーデンの強奪癖への皮肉が混ざった呼び名が生まれる程だけど、それを抜きにしても弥宙ちゃんの楓さんに対する評価が高そうだとなんとなく感じたので、少し突っついてみようか。
「ところでさ、弥宙ちゃんだっけ。楓さんのこと好きなの?」
「ま、まあリリィオタク的な意味では『推し』と言っても過言じゃないとは言えなくもないですけど? なのになんで素人のレギオンなんかに……」
なんか言い回しがツンツン過ぎるけど、ギリギリ分からなくもない。中等部世界一の栄光の先にしては、高等部からリリィになったメンバーが多いレギオンに入るなどあまりにこじんまりし過ぎていると、弥宙ちゃんが言いたいのはそういうところなのだろう。
まあ、そもそも楓さんって百合ヶ丘に来たのも夢結目当てだとか言ってたし、いざ入学したらマッハで梨璃ちゃんに落ちてた以上、ハナっからそんなこと気にしてもいないんだろうけど。
「だからこそ、じゃないかな。梨璃ちゃんってスペック面はともかく、経験とか技術とかはからっきしだし」
私としては見たままのことを告げたつもりでも、そんなことを話しているのではないと、バサッと水音を立てながら弥宙ちゃんは立ち上がっていた。
「それこそシュッツエンゲルである夢結様が全部教えれば済む問題じゃない! わざわざ楓さんじゃなくても「今の楓さんは、例えアールヴヘイムの司令塔の椅子を用意したって、決して首を縦に振ることはないと思うよ」
「ちょっと雪華様!?」
「まあまあ、あくまで例え話だから」
ヒートアップする弥宙ちゃんの言葉を静かに遮りながら、思い出すのは先日の寮の部屋での楓さんとのやり取り。
例えで突然クビにされたからと苦情がありそうな依奈の相手は彼女を宥める天葉に任せ、ともかく今は私の知るたったひとつの真実から考えつく答えを。
「で、その心は?」
「やりたいこと、いたい場所ってのはある日突然フッと生まれるもの。楓さんにとっては梨璃ちゃんの隣であの子の力になってあげることが、今はそうなんでしょ」
梅に続きを促されて語り終えると、そこで天井を見上げ左手を照明にかざしてみる。手を伸ばす、というのはそう難しいことではない……それがちゃんと届くかは別問題として。
あと、楓さんの場合よく伸ばす先が梨璃ちゃんのお尻だってところに問題アリだけど。風紀委員!
「普通、それだけで生徒会直属レギオンからの勧誘まで蹴るもんなんです?」
「うちだって亜羅椰がそんなでしょ。壱と樟美を食うぞ~って、私情全部」
そう辰姫ちゃんが亜羅椰ちゃんの真似なのか「がおー」と襲うような構えをしてくれば、弥宙ちゃんとて現実を認めざるを得ないだろう。世の中には自分の感情に素直過ぎる人間も、それなりにいるのだということを。
なんてのを眺めていると、横から二水ちゃんの「ちなみに辰姫さんはその亜羅椰さんとは寮では同室です!」との補足が。
「……そうだった。うちにもそういう不条理なのいたわ」
「不条理て。じゃあ折角だし聞くけど、弥宙ちゃんは楓さんが見るからに困ってるのを見たら、そのまま通り過ぎるの?」
「ま、まあ? どうしてもっていうんなら、助けてあげないこともないですけど?」
「うわー、今時テンプレ過ぎるツンデレ。そういうの狙ってやってるの?」
「辰姫はいちいち茶々入れるな!」
自由に混ぜっ返す辰姫ちゃんはともかく、「そういうことなんだよ、皆ただ自分がいたいからいたい場所にいるだけ」──なんて締め括る。
「……それ、あたしにも言ってます?」
「伝わったなら幸いだよ。お節介焼きの真似をしてみても、どうにもあたしゃあ元が焼かれる側だからね」
言ってしまえば今の私は高等部も三年目になってようやく先輩の自覚を持とうとしている、そんな段階だ。だからどうにも遠回しなやり方ばかり選んで、結果手間も時間もかかる。
「だから聞くよ、依奈はどうしてリリィを続けてるの?」
「それは、ソラがまた一緒にやろうって……」
「じゃあ、今のアールヴヘイムにいる理由は? 噂じゃ予備隊の頃リーダーだった壱ちゃんとは、なんか揉め気味なんでしょ」
「……そんなのじゃないですよ。あたしが不甲斐ないからあの子が怒ってるだけ、嫌われて当然って話」
「「えっ」」
そこに突然上がるのは、他のアールヴヘイム三人の思わずといった感じの驚いた声。
「「???」」
何か認識のズレがあるのだろうかと、依奈と揃って首を傾げていると依奈はアーセナル二人にそそくさと連れて行かれ、代わりに私の隣へ天葉が座ると素早く耳打ちしてくる。
「な、何よちょっと」
「えーと?」
(とりあえず、依奈と壱は似たタイプ。ってことだけ頭に入れといてください)
(あっはい)
つまりは自分にも他人にも妥協を許せず、中々素直になれないタイプ……ということでいいのだろうか。
あるいはリリィとしての方向性の話かもしれないけど、多分どちらにせよ大差はない気がする。
「まあ、その辺りはそこまで複雑じゃないってことで」
なんて結論を裏付けてくるのは、依奈たち三人が離れて空いたスペースへ浴槽の縁に端末を乗せながら潜り込んでくる百由。
そこら辺は見てきた時間の差か……てか、入浴中までアーセナルとしてのだろう仕事か何かを持ち込むとは落ち着きのない。いやむしろ作業してるのが当たり前になってると、逆に何かしてないと落ち着かないとかそういう話なのか。
◆◆◆
その間に神琳たちの方にはミリアムが来ており、二人のいる台の縁に手を置き顎を乗せながら話に混ざっていた。
「その辺りは分かったが、結局何故おぬしは楓のいるレギオンに入ることにしたのじゃ?」
「あら、わたくしは『梨璃さんの』レギオンとして入ったつもりですが?」
「んむ?」
あのような関係があって神琳が楓のことをまるで気にしていない──なんてこともないのだろうけれど、それはこの話においてさほど重要ではないということなのか、あるいは理由の一端だけを告げて誤魔化されているのかは、微妙に判断がつかない。
とはいえ梨璃のレギオンだからという部分に嘘はないようで、神琳の言葉は続く。
「梨璃さんはあんなに一生懸命な方なのです、応援したくなるのも自然でしょう?」
「まあ、あやつはそれ故に危なっかしいからのう」
「……それは、見てて思ったかも」
入学式前から実戦経験もなしに逃げ出したヒュージの討伐へ付いていったり、この間も暴走する夢結の元へ迷いなく突っ込んでいったりと梨璃は変に度胸がありすぎてすぐ危険な方危険な方へ飛び込んでいるのだから、色々な意味で目が離せない相手だというのが三人からした彼女の共通認識になる。
「だったら梨璃のためにも、いいレギオンにしようね。二人とも」
「おう、わしが参加するからには最強のレギオンを目指してやろうぞ!」
「ふふ、そうですね。それくらいの目標の方が挑み甲斐があります」
そんな風に三人が意気込んでいると、湯船を泳ぐようにして近寄ってくるのは梅。
「だったらその話、梅も混ぜてくれないか?」
「ん? むしろわしゃあ梅様はとっくに入っておるものだとばかり思っておったのじゃが」
「そうですね。あの時も先程も一緒に戦った仲なのですから、今更他人事だというのはなしですよ?」
梅としては今回のご褒美なつもりだったのだろうそれも、後輩からは何を今更と左右から肩を掴まれる。
「おっと、こりゃ訓練サボったら怒られそうだナ」
「……普通、訓練はサボらないんじゃあ?」
根が真面目な雨嘉からすれば天才肌らしく気紛れな梅のスタンスはよく分からないなとなっていると、梅のいた方の端にいた二水が顔を手で押さえながら浴槽の外を向いているのが見える。
「ま、まさか初代アールヴヘイムの鬼札とまで言われた梅様まで……しかもこれで遂に九人揃いましげふぁ……」
「あー、一応忘れてないと思うけど私サブ希望だからね?」
いつものように鼻血を吹き出しながらも湯船の中に垂らさないようにするだけの分別は残っていた二水はそのまま雪華に背中をさすられていて、それを眺めていた梅は人数こそ揃っていても厳密には埋まってはいない現状にどうするのかと、浴槽の縁にもたれながら頭を斜めに倒して聞いてくる。
「唯一の三年生はあんなこと言ってるけど、そこんとこどうなんだ?」
「見当はついているのですが、手応えの方はなんとも」
梅への返答は名前こそ出していないが、神琳が近頃ご執心な相手など周りからすればバレバレなのだから、雨嘉やミリアムも少し言葉が厳しくなる。
「神琳の場合、ちょっと遠慮が無さすぎだと思うよ」
「じゃの。あれでは誰だって逃げ出すぞい」
二人はあれで囲おうとしているつもりなら逆効果だと言いたげだが、当の神琳は何か秘策でもあるのか自信ありげに腕を組みながらドヤ顔をしている。
「二水さんのみならず先程雪華様からも証言は得ています、やはり猫さんが全ての鍵でした!」
「……神琳がこういう顔する時、大体痛い目見てる気がする」
頭突きや顔面にボディソープまでされてまだ懲りないとなると、そろそろ神琳は鶴紗に口も聞いてもらえなくなりそうなところではあるが、そこまで言われると梅の方も神琳が誰狙いなのかは理解した。
「なるほどナー。けどあいつは手強いゾ?」
彼女がそう簡単に素直になれるのなら毎度毎度猫に警戒されることもないだろうにと、そうなってしまったのも仕方ないと見守る方向でいた梅としてはお手並み拝見といったところ。
「ええ、承知しておりますわ。元より教室でも中々捕まらないのですから、放課後の猫の集会所が勝負です!」
「いや、じゃからおぬしのやり方では……」
◆◆◆
そんな風に相変わらずどこかズレている神琳さんはともかく、少しは落ち着いただろうかと二水ちゃんに話を振る。
「同じクラス組は、大体そんな感じ?」
「ふがふが……んんっ、そうですね。神琳さんだけでなく梨璃さんも気にしていることもあって、次のメンバーは鶴紗さん狙いで間違いないです」
ともかく私が今年度限りだからと多めに集めろとは言ったし、目処が付いてるのなら何より……って言うべきなんだろうけど。
「鶴紗ちゃんねぇ……」
別に彼女が悪いとは言わない。無愛想組かと思えば猫相手に躍起になっていたりと雨嘉ちゃん……というよりは彼女らにご執心な神琳さんみたく案外と可愛いところもあったし、実力も噂通りなら申し分ないだろう。
だからまあ、これはどちらかというなら私の方の問題か。中等部の傷を乗り越えたら、次は高等部の傷──というには少し縁が遠すぎるけど、結局ひとつひとつ潰していくしかない。
「まったく、なんだったのよあの二人……」
「あ、依奈お帰りー」
「いや、さっきのあんたの差し金じゃないの?」
なんてやっているとアーセナルコンビを振り払って依奈が天葉の隣へ戻ってくる……あれ、そういえばいつの間にか彼女のこと主将さんって呼んでないや。まあいいか、もうすれ違ったとかそういうレベルじゃないし、余所余所しいままってのも逆に変か。
「で、話を戻すけど。そこまでして無理にリリィを続ける理由、あるのかな?」
「……ありますよ。あたしは〈プランセス〉一度そう呼ばれたからには、投げ出すなんてことだけはできないので」
「へぇ、何を?」
「初代アールヴヘイムの名も、その司令塔って立場も、プランセスの称号も……ソラ、お姉様、後輩たち、他のレギオンに行った仲間たち、先に逝った先輩たち、迎撃戦の仲間たちだって、皆色々な意味を込めてあたしをそう呼んでくれた」
異名だ二つ名だというのは勝手に付けられ勝手に呼ばれる、そういう物だと私は思っている──だけど、好き好んで背負う自由くらいは呼ばれる側にだってあるのだろう。
そしてそれは、依奈みたいなタイプにとって自身を奮い立たせるには十分過ぎる理由だった、そういうことか。
「それに『後輩にここまで言われて黙ってちゃあリリィが廃る』んでしょう?」
「ふふっ、何さ格好付けちゃって」
自分の空元気もこうして人に真似されると大分キザったらしく聞こえるけど、それはそれで先輩っぽいからいいのかもしれない。
「そうでもないと復活劇の主役に相応しくないでしょ。やってやるわよ、どんなCHARMだろうと使いこなしてこその〈
「そんなに気負わないの、あたしたちだっているんだから。ね?」
そう言いながら天葉が依奈の横に並ぶと、自然な仕草で肩を組んでいる。神琳さんと雨嘉ちゃんみたくどこかしっとりとしたそれというより、こちらの同室コンビは彼女の性格もあって比較的カラッとした関係なのだろうか。
「あの天葉にそこまで言われちゃあ、いよいよ後には引けないんじゃない?」
「……ちょっと、なんで急にソラの呼び方変えてるんです」
「え、ここで地雷踏んだ!?」
「おー、依奈のヤキモチ焼きも久しぶりに見るナー」
雨嘉ちゃんたちの方から飛んでくる梅の冷やかしを聞きながら、天葉を私から遠ざけるように両手で抱き寄せつつこっちにはペシッと手でお湯を弾くようにかけてくる依奈から向けられるのは、あからさまな警戒の視線。いやだから私はイノチ感じる趣味は無いんだってば……前言撤回、どいつもこいつもイチャイチャしやがって!
とお湯の散った顔を拭いながら半ばお手上げ状態でいると、見かねたのか面白がってるのか分からない様子なアーセナルコンビから茶々が入る。
「いやー、モテるリリィは辛いですねー天葉様?」
「人たらしー」
「あはは、それ程でも~」
「どこも! 誉めて! ないでしょ!?」
うん、まあ、あれだ。こんな賑やかなレギオンにいるのなら依奈も下手な心配はいらないのだろう。多分。
「ところで百由様、例のCHARMについて取材させていただきたいのですが……」
「あら、依奈がいいって言うなら後日
こっちはこっちで二水ちゃんが何か企んでいるけど……なんかもう疲れた、さっさと上がろう。
◆◆◆
翌日──朝一番に天葉と共に百由の工房を訪ねた依奈だったが、予想していたとはいえいざ見覚えしかない深緑の長髪な『彼女』までいるというのは、少し来る物があった。
「あっ……」
「……冬佳」
天葉にその名を呼ばれて振り向くのが
冬佳の復帰がガーデンから正式に認められれば彼女たちも今のアールヴヘイムと同盟を結んでいる
「依奈……」
「分かってる、全ては覚悟の上よ。あなたが寝てる間、あたしも百由も立ち止まってなんかいなかった……それを見せてあげるわ」
彼女に代わって……いや、〈プランセス〉復活の舞台にそんな後ろ向きな理由は必要ない。ただ見せつけてやればいいだけだ、冬佳だけでなくリリィとして関わってきた全ての相手に、自分は──アールヴヘイムの
「おーい、一応わたしの部屋なのに勝手に盛り上がらないで欲しいんですけどー」
「よくこの空気で口が挟めるのう……」
そんなこの工房の主な百由のある意味普段通りな様子には今回の件に助手として駆り出されたお隣さんなミリアムも感心というか最早呆れるしかないが、やることはやらなければいけないというのもその通りなのだから、依奈も意識を作業台の上に置かれたCHARMへ向ける。
「……これが」
「そう、第4世代精神連結式CHARM『エインヘリャル』……本当にいいのね?」
「でなかったらこんな朝早くに地下まで潜らないわよ」
そのCHARM──エインヘリャルは腰に装着しビットのキャリアーとなるスカートアーマーのような本体の他、頭へ装着するブレードアンテナを備えたサブコントロールデバイスが二基、加えて第4世代としてのメインとなるひとつひとつが小型のCHARM程のサイズがある剣型のビットユニットが五基、それらには銃口らしき穴も見えることから射撃も当然可能なのだろう。
「……見た目は、変わってないのね」
「お姉様……」
「機械ってのは中身で勝負よ。あれから起動させられないなりにバージョンアップは欠かしてないし、冬佳に無茶させた分のデータだって磨り切れるくらい見直した……もう二度と、この子にリリィを傷付けさせたりはしないわ」
エインヘリャルを見つめる冬佳の体は無意識なのだろうが少し震えており、隣のルイセも心配そうにしていた。だから百由も二人を安心させられる事実だけを述べる、それが彼女の友人として以上にこの機体を作ったアーセナルとしての義務だから。
「分かった……依奈、この子をお願い。とんでもないじゃじゃ馬だったけど」
「上等、じゃじゃ馬の相手なら昔から慣れてるわよ。あたしがいったいどのレギオンで司令塔をやってきたと思ってるのかしら?」
「あっ、それあたしのこと言ってる? 別にすぐ突っ込むのなら初代の頃から梅とかだってそうでしょー」
金髪仲間としてルイセ共々付き添いとして事の行く末を見守るだけのつもりだった天葉も、いきなり飛び火したとなれば流石に反論のひとつも出てくるがそれはむしろ逆効果、心に火が付いた今の依奈には油を注ぐだけだ。
「それをフォローする立場にもなりなさいって言ってんの! あの頃から夢結は無理してるの見え見えな状態で戦い続けるし、梅までそれを追ってしょっちゅう深入りしてその上ソラまで隙あらば前線に上がってるとか、あたしまでそうしないと誰がそのまま敵地で孤立しかねないあんたたちの面倒見るっていうのよ!?」
「ふふっ……」
溜め込んでいた物が爆発した依奈が昔のことを持ち出したからか、冬佳も懐かしさと共に笑みを溢す。道が別れようとかつて共に歩んだという思い出までは消えない、まるで自分が眠る前に戻ったようだと。
──だが時は流れた。今の冬佳は既にアールヴヘイムの一員ではないし、依奈たちの“今いるアールヴヘイム”も初代の名を受け継いだだけで、あくまで別のレギオンだ。感傷に浸るのは、全てを終えてからでいい。
全員それは分かっているから、百由が手を叩いて話の流れを戻すのならば逆らう者はいなかった。
「ともかく、まずは依奈が使用する時のデータ取りから始めるからちゃっちゃと装着してよね」
言われるままヘッドセットを手に取る依奈の表情に、もう迷いも躊躇いもなかった。プランセスとしての誇りを取り戻したのなら、後はもう結果を出すだけなのだから。
◆◆◆
「へぇ……ほぉ……ふーん?」
それから数日が経っての放課後、今日の工房への来訪者は椅子に座るとリリィ新聞の号外を時々何かしら呟きながら読んでいた──いやまあ私なんだけど。
「あのー、皆わたしの工房を溜まり場か何かと思ってません?」
「それで間違っちゃいないでしょ、ねえ汐里ちゃん?」
「え、その……ノーコメントで」
いつも通りと言ってしまうとそろそろ工廠科生徒一同にスパナやらハンマーやらでタコ殴りにされそうだけど、それ以外言いようがないCHARMの破壊者たちがその整備のために百由の工房を訪れている、それが今の状況。
私の場合はこの前壊したダインスレイフの受け取りだけど、汐里ちゃんの方はまた見事に破損したCHARMを抱えている。いや、シャルルマーニュのレーザーアックスユニットふたつともモゲてるんだけど?
「それにしても、雪華様がノーマルのダインスレイフを使われたなんて珍しいですね。あたしはてっきりカービンタイプしか使わないのかとばかり」
「そういえばダインスレイフ・カービンの試作1号機って、改造元は汐里ちゃんが使ってたダインスレイフだっけ? まあCHARMとリリィっていうのも色々とあるのよ」
ちなみにその機体の末路は戦場より逃亡するヒュージへ投げ飛ばした結果、もろともに墜落してコア回りにもダメージが入り無事大破だとか。大型故に相応の耐久性がある方なはずのダインスレイフ系列で大破……? なんて、先日見事にこの子を半壊させた私に言えたことでもないか。
「なんです、うちの
「いやいや、私の方も人のこと言える程お上品な戦い方はしてないしね」
そして前にも言った通り、汐里ちゃんが工廠科を訪れる時は大抵彼女のシュッツエンゲルな
谷口聖──〈百合ヶ丘の恋人〉だなんて呼ばれる程の人気者な彼女だけど、その性格はかなり気さくで人懐っこい。故に相当早い段階から私に対しても敬語は崩さずともその物言いから遠慮は消えていたりと、学年を問わない分け隔てのなさが人気の秘訣なのかなんなのか。あとは今も咥えている棒付きキャンディを常に持ち歩いている、なんて甘い物好きにも程があるギャップも?
流石に戦闘中までそれをキメてるっていうのは、拘りより先に喉に詰まらせないか危ないだろと思わないでもないけど、元初代アールヴヘイム組かつ今は百合ヶ丘でも高ランクに位置する水夕会の一員、そして世代どころか歴代トップクラスの『ファンタズム』使いとしてはその程度ではハンデにもならないのか。
……どうでもいいけど、初代アールヴヘイムってこの手の青黒系の髪色多くない? いや、総数としては梅たちみたいなカラフル組のが多かったけどさ。
「んー、あたしの顔に何か付いてます? 残念ながらあたしはもうしおりんのですけどねー♪」
「わわっ! 先輩たちも見てますってばお姉様」
「えー、先輩っていっても百由と雪華様だけなんだし、今更でしょ?」
それと、あだ名で呼ぶくらい親密なのもあってか人前だってのに遠慮なく抱き付くくらい彼女はシルトである汐里ちゃんのことを溺愛している。なんてところも。
すなわちここにもイチャイチャ組がまたひとつ……そんなだから皆して他人もそこら辺見境ないと思うんじゃないかなぁ? とはいえ恥ずかしさを誤魔化すように話題を変えてくる汐里ちゃんは、そこまでは行ってないようだけど。
「それはそうと、その新聞何が書いてあるんですか?」
「あー、昨日のアールヴヘイムの戦闘。宣伝役も兼ねてって貼り出す前に二水ちゃんから渡されてさ」
聞かれたからにはと、ペラッとイチャイチャシュッツエンゲルへよく見えるように新聞の一面を向けて持つ。
内容はアールヴヘイムが市街地に出現したギガント級を撃破したとのことで、その際に第4世代CHARMを使用した依奈の活躍だとかを主に扱っているからか、記事にはこんな表題が付けられていた──〈プランセスの帰還〉と。
「おめでとう、でいいのかな?」
「こんなのスタートに過ぎませんよ。早いとこ御台場の〈ロネスネス〉に提供するCHARMの残りも仕上げないといけませんし、冬佳も冬佳で復帰でき次第リベンジするからそれ用のCHARMを用意しろって言って聞かないし、それが終われば雪華様の持ってきた案件もあるしで、第4世代CHARMの研究はまだまだこれから」
そこで言葉を切った百由は、工房のドアの方へわざとらしく視線を向けて続きを告げる。
「だから、これからも頼らせてもらうわよ──ぐろっぴ?」
「……気付いておったのなら、もっと早く言って欲しかったぞい」
「盗み聞きしたわるーい後輩にはおしおきが必要でしょう?」
そのために、自動ドアの反応しないギリギリの位置にこっそり立っていたミリアムちゃんのことも今の今まで黙っていたと。百由め、相変わらず逃げ道を塞ぐのに抜かりない。
「ま、こいつが根を詰めすぎないよう見張っててよ、ミリアムちゃん?」
「おう、わしが何か言わんと百由様は三日三晩工房に籠りっきりなんてしょっちゅうじゃからの」
「あーらら、これじゃどっちが先輩だか分からないわねー?」
「いやいや、持つべきは出来る後輩だと思わない?」
聖にミリアムちゃんとの関係を茶化されても百由はどこ吹く風……なんかこのコンビも一歩進んだらイチャイチャしてそうだなぁ。さ、寂しくなんかないし。