アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:ストレイキャット+包帯たづとオリ組に強化社会人(?)増えましたと、まだ顔も見せてないケド。
ということでいざ横浜、しばらくは分散するから視点もとっ散らかりますわ…あと、専用機の元ネタは色々お察し。


越えていく者

 横浜市内に入ってしばらく──ある建物の地下、そこの駐車場へ入りエレベーターの近くに停まったからと、車から降りて私がボタンを押して呼び出す間に梨璃ちゃんは運転席の方へ。

 

「あのっ、ありがとうございました!」

 

「いえ、お嬢様が百合ヶ丘に通われるようになってからの日々は梨璃様の存在があってこそだと伺っています。なのでどうか、お気を付けて……それと、入学式の日はとんだ失礼をいたしました」

 

「あはは……あれはわたしも確認せず渡ろうとしてましたし、おあいこで?」

 

 はて、余所見でもしてて轢かれかけたとかそんな話だろうか。そこら辺中で聞いてみようと思っているとチン、とエレベーターの到着した音がして扉が開くのだから、私からも一応の挨拶を。

 

「そっちも万一ってことはないと思いますけど、もし襲撃されたらこっちになんでもいいんで連絡ください。主任の“目”が届くなら一発なんで」

 

 ともかく窓ガラスを下げている運転席を見ながら大仰(おおぎょう)にコンタクトでも外すような手振りをするとそれがあるレアスキル持ちのリリィたちがやるルーティンの真似だとは伝わったようで、運転手さんはクスリと笑みをこぼすと「了解しました」と敬礼を返してくれる。

 

◆◆◆

 

「それで、烏山重工ってどんな企業なんですの?」

 

「いや、そこはおぬしがCHARMメーカーの令嬢として同業者の解説とかする流れではないのかのう?」

 

「同じ重工系のメーカーでも〈天津(あまつ)重工〉のような大手ならともかく、そこら辺の中小企業までは把握しきれませんわ」

 

 部屋に戻り雪華からの連絡待ちの間に暇な時間を持て余しベッドの上で適当なクッションを抱きながらな楓のぼやきには、タブレット端末を持つ二水が答える。

 

「コホン、烏丸重工──その大本は前世紀の町工場で、今世紀初頭のヒュージの出現・マギの発見から連なる技術革新の中比較的早い段階からCHARM絡みの事業に舵を切り、今は東京に本社を構えながら主に関東各地のガーデンへCHARMやそのカスタムパーツを卸している企業になりますね」

 

「結構、古いんだね……?」

 

「ですが当分の間は細かいパーツの調達や技術者の派遣によるCHARMの整備が主体で、その活動がいっぱしのCHARMメーカーらしくなるのは先代の社長が百合ヶ丘の工廠科を卒業し、先々代より会社を受け継いだタイミングになります」

 

 その頃から二十数年経った今日(こんにち)まで掲げられる『共に戦い、共に生きる』という標語は去年まで雪華の所属していた先代社長の娘である零夜の率いていたレギオン〈烏丸隊〉においても使われており、この会社の機体は取り回しや機能性を重視しいつまでもリリィと共にあるCHARMとして、決して主流とはなれずとも密かな愛用者が多いとか。

 

「確かにあそこのCHARMはコンパクトにまとまっていて、過剰な変形や大型化は避けている傾向にあったと思うわ」

 

「その分威力は物足りないって言われがちだけどナ。実際雪華サマもメイン火力はよく他のCHARMに頼ってるし」

 

 戦場で見聞きした記憶を手繰る二年生の言葉を肯定するように、二水がテーブルに置くタブレットから投影されている盾型のCHARMと剣型のCHARMは、縮尺を抜きにしてもそう大型に感じない。

 

「盾の方はともかく剣の方は大分小さいのう、この感じじゃとグングニルの大体半分くらいか?」

 

「公開されているデータで比較しても、大体それくらいですねー」

 

 とはいえ斜めに立て掛けてもこの中で一番背の高い神琳並なグングニルの半分となれば、それでも十分な長さではあるのだが。

 

「また、烏丸重工のCHARMの特徴として『固有の名を持たない』という物があります」

 

「それは、モチーフとする神話を持たないということですの?」

 

 楓の問いへの答えは首肯。例えばミリアムが比較にも出した、二水たちの使うCHARMであるグングニルのメーカーであるユグドラシル社ならば世界樹の名を冠する通りに北欧神話由来のそれを、楓の実家なグランギニョル社ならばシャルルマーニュ伝説に纏わる物をCHARMの名前に使うなど、大多数のメーカーはそういった神話体系をモチーフとして取り入れており、リリィたちがCHARMを使う際のイメージしやすさに一役買っている。

 

 しかし烏丸重工の場合『使い手が名付けることで愛着を持ちやすくする』という理由からそういったメーカー単位でのモチーフを持たず、渡されたリリィ自身がそのCHARMの名付け親となるスタンスを取っており、それにはアーセナルとして自作の機体を持つミリアムも納得できる物があると腕を組みながら頷いている。

 

「分からん理屈でもないのう。わしのニョルニールとて自ら手掛け自ら名付けた唯一無二のCHARMじゃ、愛着というなら他の誰にも負けんぞい」

 

「まあ、より納得の行く本音の方もあるようですが」

 

 そう言いながらタブレットを操作する神琳の拡大した、古いインタビューに載っている先代社長の「だってもう大体の神話は他所に取られてるし……」とのぶっちゃけた発言が理由の大部分ではあるのだろう、世の中は基本的に早い者勝ちなのだ。

 

◆◆◆

 

 そんな烏丸重工は横浜支社の中──奇しくも向こう側と同じような説明をしながら梨璃の先を歩くのは赤い髪を後ろで三つ編みにして青のカチューシャを付けた、黒縁眼鏡の下に翡翠色の眼を覗かせる雪華より少し背の低い女性。

 

「軽い説明はこんなものですかね、自分のイノチを預けるCHARMなんですから、自分で名前を付けた方が愛着もひとしおというものです」

 

「あの、霊奈様」

 

「あ、様付けなんていいですよ? もう私はOGですし、今年からな梨璃ちゃんと同じ時期には百合ヶ丘に通ってませんからねー」

 

 たどり着いた部屋でスーツの上に白衣姿という、ものぐさなのか効率重視なのか分からない格好で梨璃にモニター前の椅子へ座るよう促す彼女が鳥船霊奈──色々個性的な雪華絡みの装備を手掛けた、元烏丸隊のアーセナル。

 彼女は百合ヶ丘の生徒としての癖を出す梨璃に対し堅苦しいのはいいと言う、その辺りは雪華の先輩らしく自分好みの距離感というところか。年下相手にも丁寧語を崩さないことといい。

 

「それと建前にすぎない見学をちゃんとやってる理由ですが、例の鶴紗ちゃんはまだ横浜に着いてないみたいですからね。あんまり先に動いても怪しまれるだけですよ」

 

「そうなんですか?」

 

「少し裏口なこっちと違って、向こうは一応正規ルートですからねー。それに、調べたところによると本命の実験は夜中にやるみたいですし」

 

 言われて思い出してみれば、電話先の彼女は今回の一件を初めから知っている風だった。つまりやり口や誰が巻き込まれているのかはともかく、元々実験には介入するつもりで準備をしていたのだろう。

 

「まあ、そうなったのも相当急なことだからみたいですけど。鶴紗ちゃん、最初は違うところへ呼ばれていたんでしょう?」

 

「はい、海老名市の方だって言ってました」

 

「どうにもそっちでの案件が途中だっていうのに、こっちのラボが昔の縁だとかで無理矢理彼女を呼びつけたみたいなんですよね。向こうも一枚岩でないと言いますか」

 

 だからこそ付け入る隙は十二分にある。勝手な足の引っ張り合いをしている余裕があるのなら、それは油断とイコールなのだから。

 

「昔の……」

 

「まあ色々あるとして、そういうのに立ち向かうのは私たち“大人”の役目。梨璃ちゃんは、自分の助けたい人だけを見てればいいんですよ」

 

「れ、霊奈さん……?」

 

「結局人は力を持てばそれを他人に向けたくなる。マギという魔法の力であっても変わらないその愚かしさが、今の世界を作ってしまった──そんなのは、純粋に誰かを助けたいって素敵なことの前では、どうでもいいモノですから」

 

 そうやって無理に笑ってみせる彼女もまた雪華同様世界に、人に失望したままそれをくだらないと思い戦い続けている……『それでも』と足掻けることを素敵だと言いながら、彼女はその裏でそこまで自分はまっすぐになれないと諦めているのを、なんとなく梨璃は感じてしまった。

 そんなことはないと、霊奈も今自分たちに手を貸してくれているとこの場で梨璃が言ったとしても、多分彼女の心には届かない。拒絶ではなく、憧れ故に──だから、聞かせてもらいたい。

 

「どうして、そのことをわたしに?」

 

「梨璃ちゃんからは、こんな世界の闇に飲まれたりはしない“強さ”を感じたから。じゃあ、ダメですか?」

 

「……だとしたら、それはわたしだけの強さじゃないです」

 

  霊奈の言っていることは間違ってはいないが、梨璃の主観とは少しズレがある。だから、そこだけはしっかりと言葉にして伝えよう。

 

「多分、わたし一人じゃ今ここにいることも、鶴紗さんが世界に苦しめられているなんてことを知ることもできませんでした。でも、皆がわたしのことを見守ってくれて、わたしの行く道を照らしていてくれるから……」

 

 そこで言葉を切った梨璃は、自身のサイドテールを束ねる四つ葉のクローバーの髪飾りに触る──どこか、懐かしい思い出に浸るように。

 

「だから、そんな皆の想いに応えられるようにわたしも頑張っていられるんだ……って、偉そうなこと言ってるみたいですけど、ただいつも目の前のことに精一杯なだけなんです」

 

「そして、そんな一生懸命な梨璃ちゃんの姿に皆も付いてくる。ということですね? あの雪華ちゃんが珍しく入れ込むのも納得です」

 

 そんな風に話す二人の目線の先には、シミュレータールームにてVRで再現されたヒュージ相手に普段より数段増しにCHARMをクルクルクルクルと回しなら、久々な愛機の調子を確かめる画面越しな雪華の姿が。

 彼女の様子はまるで新しい玩具を買ってもらったばかりの子供にも見える程生き生きとしており、鼻歌のリズムに合わせながら宙に出たターゲットを射抜く余裕も伺える。

 

「なんだかこうして見てると雪華様って先輩っていうより、下のきょうだいとかそんな風に見えちゃいますね」

 

「うちのレギオンでは最後まで唯一の最年少でしたからねぇ。なんだかんだ皆で可愛がってましたし、そこら辺は中々抜けきらないもんですよ」

 

 そんなモニターの向こうの雪華は梨璃の見慣れた姿から背中のアーマーに追加で備え付けた機械腕(サブアーム)越しに二枚の盾型CHARMを背負い、そして両腰のアーマーにも新たに直剣型のCHARMを二機携えていた。

 

「元々烏丸の製品である第1世代の盾型、そして第2世代の銃・剣両用の二種類二機ずつを〈マギクラウドコントロールシステム〉により一組の第3世代CHARMとして私が百合ヶ丘在学中にまとめあげた雪華ちゃん専用機、それを何度も強化・改修したこの子を『オーバーライザー』──越えていく者、と雪華ちゃんは名付けました」

 

 目の前の壁を、敵を、歪んだ世界の道理すら越えていく、雪華が自らの相棒に求めるのは、それを叶えるための力──

 持ち込んだアステリオンを左手に、腰から引き抜いた銃剣(ソードガン)を右手に構え、シールドを肩の辺りに動かし銃口の付いた先端を前に向ける彼女が普段以上の弾幕を構築するのを見ながら、霊奈がその専用CHARM群を詳しく解説する。

 

「そんなライザーの子機で基本の攻撃機になるソードガンはレーザー攻撃を主軸に置き、シューティングモードはグリップ周りの稼働のみに抑えてシンプルにまとめ、連射や散弾モードへの切り替えに加え今回の強化ではシールドと連結しての砲撃形態を実装しています! 近接面においても刀身側面の銃口から発振するレーザーブレードに、二機をグリップ側で連結させたナギナタモードと小型ながらリーチを補う手段は複数用意してありますよー」

 

「そ、そうなんですか」

 

 これは二水と同じタイプ(オタク系)だ。と梨璃が圧倒されるのを気付いているのかいないのか、そのまま霊奈のマシンガントークは続く。

 

「そして主機となるシールド、こちらは中央に備えた展開式の大型フィールドジェネレーターにより自身のみならず近くの味方をカバーすることが可能で、固定武装は先端表面に二門のレーザーバルカンのみですが裏面に各種装備を装着可能なハードポイント──雪華ちゃんは多数の弾種を扱える四連マルチランチャーばかりを選択してますね。また他にもCHARMのラックとしても機能するように設計されてあるので、他のCHARMを懸架し持ち込み機数を増やすこともできます」

 

 霊奈の付け加える言葉は雪華が実際にソードガンをシールド裏に懸けているのを見ながらで、シールドの先端を後ろに向けながら彼女はそのまま駆け出す。

 

「そしてこれがオーバーライザーのオーバーたる由縁、側面のスリット部に備えた〈高機動マギスラスター〉! 寒冷地仕様の機体から移植したビームソードと兼任させたそのユニットは名前の通りただマギを推力として放出するのですが……時に梨璃ちゃんってテレビゲームはやりますか?」

 

「ま、まあ人並みには」

 

「でしたら分かりやすく言えば空中ダッシュとか二段ジャンプ、そういうことがやれると思えば分かりやすいです」

 

 確かに走った跡にマギの光を残して駆ける雪華は床を蹴って跳ぶと空中で進行方向を変えながら急加速し、天井スレスレに残った標的をアステリオンで突き刺している。

 

「おおー?」

 

「とはいえ流石に元がビット用のを無理矢理積んだから出力とか諸々の問題で本来想定していた継続的な飛行・浮遊が叶わなかったからこそのそんな例えですけど……それでも空中にあっても瞬時の加速や急制動を可能とすることで機動性という面では破格の恩恵をリリィにもたらしま「あれ?」

 

 その時落下の勢いをスラスターで相殺しながら、アンカーを使い天井にぶら下がってゆっくりと降りる雪華を追った梨璃の視界の隅に映り込む棚。

 今いる霊奈個人の研究室のそれに飾られているのはアニメに出てくるような人型ロボットのプラモデルとアクションドール──後者はリリィを題材としており、ドール本体のみならず各地のガーデンの制服やCHARM・アーマーなどを再現したそれらを自由に組み替えられる〈カスタムリリィ〉と呼ばれる物だったはずだ。

 

 しかし何故かプラモデルの方がCHARMを持ちカスタムリリィが恐らくプラモデルの物だろう装備を身に着けており、ドールの方は百合ヶ丘の制服に黒髪なのも合わさってどことなく今の雪華のように見えなくも……

 

「……気付きました?」

 

「え?」

 

 そう梨璃に告げる霊奈はバツが悪そうに頬を掻いている。この場に二水がいれば「『ナマモノ』はその辺り難しいですからねー」と訳の分からないフォローを入れていただろうが、どの道梨璃には分からない世界である。

 

「えっと、つまりこれって」

 

「……雪華ちゃんをドールで再現して、リアルのCHARMでそっちの機体の装備を再現しました。はい」

 

 オタクに妄想を叶える技術力を与えた結果がこれということで、なんか色々な意味で雪華様の先輩なんだなぁと不思議な納得をしてしまう梨璃であったが、その間に部屋に入ってきた雪華は状況に付いてこれず頭にハテナを浮かべていた。

 

「何この空気?」

 

◆◆◆

 

 その頃の百合ヶ丘は楓の部屋──日が暮れてきてクッションを抱くのにも飽きてきた部屋の主は、投げやりに後ろへクッションを放りながらぼやく。

 

「……まだ雪華様からの連絡はないんですの?」

 

「そうね、まだ……まだ連絡は来てないわ、まだ」

 

(おい二水ぃ、このままだと楓と夢結様の二人だけでも殴り込みに行きかねんぞい。なんかこう話題とかないんか?)

 

(え、えぇー……?)

 

 そろそろ痺れを切らして飛び出しそうな楓の様子に、表情だけは取り繕っても梨璃のことが心配で心配で仕方ないのか腕を組みながら右手の人差し指で左腕をしきりに叩き爪先も床をトントンと鳴らしていている夢結まで便乗しかねんと、ミリアムが二水を捕まえて無茶振りをしているとちょこんと手を挙げた雨嘉から声が。

 

「その、先輩たち……あ、雪華様の前いたレギオンのだけど、その人たちの話、聞いてもいいかな?」

 

「あ、はい! えーと、烏丸隊のデータは……」

 

 話題も尽きてきたところだし渡りに船だと二水が慌ててタブレットを手にフォルダを漁っていれば、肩越しに梅がその画面を覗いてくる。

 

「うわ、凄い量だナ……というかこれ、百合ヶ丘の分だけじゃないだろ? 『幸恵(さちえ)』とか『千香瑠(ちかる)』、『(ゆずりは)』に『(ほたる)』の名前まであるし」

 

「そうですね。実際にガーデンまで行ったり気になって調べたりだったりで、関東周辺の主だったリリィのデータは大体こうしてます!」

 

 パパッとスクロールする画面に時折見覚えのある戦友の名前を見付けては反応する梅に返しながら、忙しなく探していた二水はとりあえず話題にできる二人を見付けた。

 

「……あー、さっきの通話で名前の出たおふたりのなら!」

 

「いいんじゃないか? 隊長と副隊長ってのも鉄板だし」

 

「え、そう、なんですか?」

 

 霊奈の顔写真と並んで表示されている灰色をした短髪に赤目のリリィが雪華の『隊長』と呼んでいた相手だというのは察していたが、彼女までがそういう立場だというのは雨嘉も知らないと食い付けば、補足する二水も水を得たとばかりに乗って来る。

 

「そもそも烏丸隊の始まりが“希望しての同室”でもあったおふたりですからね、そのまま自然とトップに納まった感じです!」

 

 百合ヶ丘の寮生活というのは基本的には学院側が部屋割りを決めるのだが、『双方の希望があれば望んだ相手と同室になれる』という制度がある。

 

「あぅ……」

 

「雨嘉さん……?」

 

 このメンバーの中だと神琳と雨嘉もそうで、指名され受けた側だというのに入寮の日の神琳への態度は我ながら『なかったな』と思い出した雨嘉は恥ずかしそうに視線を誰もいない方へ逸らしていたが、幸いにしてその心の内は誰にも悟られなかった。

 

「そんな零夜様ですが、『ルナティックトランサー』持ちの強化リリィという非常に稀有な存在になります!」

 

「アールヴヘイムの辰姫のやつもそうじゃとか話に聞くが、そんなもんなのか?」

 

「ルナティックトランサー自体が負のマギを扱うレアスキル、ということを考えれば強化の副作用と合わせて……そんなところかしら」

 

 結末こそ口にしなかったが、ただのリリィである夢結自身ですらこのスキルに深く飲まれた時は自分で自分が抑えられなくなるのだから、そこへ強化による負荷も合わさればどれ程の苦痛に襲われるのか……心が引き裂かれるようなそれを耐えられるかと聞かれても、恐らく自分には無理だろうという結論しか出なかった。

 

「ともかく烏丸隊はルナティックトランサーを全開にした零夜様が一人突出するのを他のメンバーが全力で援護する、そんな戦闘スタイルになります!」

 

 図に出されるそのフォーメーションはAZの最前線に零夜を、そこから一歩引いた位置に雪華を、そしてTZではその二人の真後ろに霊奈が控え彼女を中心に残り六人が左右へ広がり、一点突破の取り残しを処理していく。そういうタイプのレギオンだったと言う。

 

「随分と前のめりな戦法ですが、これでは中央の負担が相当なものなのでは?」

 

「それだけ零夜様の実力を信頼しているのか……あるいは本人がそう望んだか」

 

 楓と神琳の推察に答えを返せる存在はいないが、神琳の方は中等部時代に聞いた風の噂から半ば確信染みてはいた。それと先程聞いた犠牲の話とが繋がるのなら……そうしたくなる気持ちも、理解はできてしまうから。

 

「続いて霊奈様ですが、彼女は打って変わって純後衛型のリリィとなり、ご自身でカスタムされたアステリオン『ストラトス』にS級の『天の秤目』を合わせた針の穴を通す精密砲狙撃戦により敵を近寄らせることなく殲滅します」

 

「あの人、S級なんだ……?」

 

 天の秤目といえば雨嘉も持っているレアスキルだが、流石に三つ上の世代となればその最高ランクをも使いこなすということかと関心していると、ミリアムの目線は霊奈のCHARMへ。

 

「ふむ、こりゃあ完全に可変機構は取っ払っとる感じかの? その分出力周りに回してなそのスタイルと」

 

「ですねー、どうにも霊奈様は射撃はともかく接近戦の方はからっきしのようなので『じゃあそれより先に全て撃ち落とせば解決です!』とのことで」

 

 そんなカスタムしたというアステリオンはアックスモードのままブレード部が銃口側に寄ったような見た目で、スコープやグリップなどの増設から完全にその運用は射撃一本となっているとのことだ。

 

「で、ついでにそんなおふたりに前後を挟まれる雪華様ですが、最終的なフォーメーションにおいては専用機と各種スキルを合わせた対応力から零夜様と後衛との橋渡し、あるいはどちらかへの緊急のフォロー役として駆け回っていたそうです」

 

 そこで表示されるのは雪華の専用機であるオーバーライザー、二水の手元にあるのは少し前のデータにはなるが、基本構造は今の物と大して変わっていない。

 

「ふむ、オーバーライザーのう。やりたいことは分かるが、これマギ消費とんでもないじゃろ」

 

「そうなのか? わりと気軽に使ってたイメージがあるけど」

 

 梅としては見慣れたそれも、技術者として見ればロマンと実用性の天秤が狂っているとミリアムは語る。

 まず元が小型とはいえ四機ものCHARMをひとまとめに起動させる時点で要求されるスキラー数値やマギ保有量は跳ね上がるし、スラスターもそもそもが人間サイズ用に作られた物ではないのだから、仮に空中での姿勢制御用にしたって効率が悪すぎるのだと。

 

「雪華様はマギ保有量に関して学年でも五本の指というのもありますが……うーん、戦譜(スタッツ)を見てもそこまで不自然に消耗してる感じはないんですよねぇ」

 

「ふむ、何かCHARM側に秘密があるのか、あるいは体質的なあれこれなのか……いっそ百由様に解析してもらうかのう?」

 

「それ、雪華様だったナニかが帰ってくるってオチになりません?」

 

 そんな楓たちのやり取りの中、夢結の携帯が着信を告げる──すなわち、作戦が次の段階へ移行するということだ。

 

「もしもし、白井です。はい……はい……分かりました、雪華様」

 

 内容は聞こえずとも、その名前が出たのなら間違いはないだろうと、グッと伸びをしながら梅も立ち上がる。

 

「よし、こっからが本番だゾ!」

 

「ええ、わたくしたちは準備をするといたしましょう」

 

「そうね、わたしが外征の許可を取る間に済ませておいて頂戴」

 

 とはいえその内容はバレバレだろうと周りを騙すようなやり口で気が進まないが、夢結は梨璃のシュッツエンゲルであるのだから──否、そうでなくとも彼女を助けに行こうというのに他の誰かに行かせるのでは格好が付かない。

 だからこれは嘘ではなく都合の悪い事実を話せないだけだと己を納得させながら、一人楓の部屋を後にすることに。

 

◆◆◆

 

「……ん」

 

 寝ていたか。と鶴紗が自覚したのは軍用トラックの荷台に揺られながら、海老名市での実験が本格的になる前にこちらへ呼びつけられたこともあって向こうでは軽い戦闘止まりだったとはいえ、近頃こういった呼び出しが増えていたこともあり思ったより疲れていたようだ。

 

「よう嬢ちゃん、ガムいるかい?」

 

「……いただきます」

 

 そんな鶴紗を運んでいるのは、珍しくゲヘナ絡みでなく軍の人間だ。とはいえこんな雑用をさせられている以上は上からの扱いはよくないのだろうなと思いながら、運転席側の小窓から一粒差し出されるそれを手に取ると口に放り込む……ブルーベリー味だった。

 

「それにしても人使いが荒いよねぇ、いったい誰に守ってもらってると思ってんのさお偉方は」

 

「鶴紗さんはともかく、先輩はもうリリィ引退したでしょうが。今じゃグングニルだって満足に動かせないくせに」

 

「いいや分かんないよ? 何せ昔は男だってちゃんと扱えなくともCHARMを手にヒュージと戦ってたんだ、まだ三十路のあたしがやってやれない道理はないね!」

 

 運転している男性の方に絡んでいる先程鶴紗にガムを渡してきた女性はかつてリリィだったようで、そんな二人の様子を見て特に意識したつもりはなくとも鶴紗は言葉を零していた。

 

「……あなたたちは、『私』を運ぶことに文句はないんですか?」

 

「ん? まあ指令内容が不透明だってのはそうだけど、そんなの今更だしなぁ」

 

「先輩、鶴紗さんが言ってるのはそういうのじゃないと思いますけど」

 

 運転手の方は『安藤鶴紗』がそう口にする意味を分かっているようだが、隣の彼女も含め特に嫌な空気は出していない。

 

「“あの話”かい。上のボンクラどもが自分達の無能の責任を現場に全部押し付けて『私は悪くありませーん』なんていつの世もザラだし……でなきゃ、かつてヒュージ斬りのエースと鳴らしたこのあたしが今じゃ後方で荷物運びの日々だなんて、常識で考えてあり得ないでしょ?」

 

「あなたはスキラー数値落ちてからも隙あらば突撃するのが危なっかしいから、こうして後ろに回されたんでしょうが……まあ、上の押し付けたがりな事なかれ主義は否定しませんけど」

 

「………………」

 

 いつもはゲヘナの息のかかった連中ばかりが迎えに来ていたから、手空きだからと今回の役目を回された“窓際軍人”からのそんな反応には、鶴紗も覚えがなくて対応に困る。

 

「噂は噂、真偽がどっちにしろあたしには関係のない話さね。まあお偉方はそこら辺都合よく“勘違い”しやがるからこうしてあちこち飛ばされるんだとして、あんたもそんなのは程々に付き合ってノルマだけこなして帰りゃいいのさ」

 

「完全にダメ上司からの文句を適当に流すOLとかの思考でしょそれ。鶴紗さん、大人になってもこの人みたいにだけはならないでくださいよね?」

 

「え、はい……」

 

 どんな組織でも末端の下っぱなどこんなものだと上にも同僚にも遠慮の欠片がない二人にノリが追い付かない鶴紗だが、トラックが止まり慣性に体の引っ張られる感覚がしたことから、目的地に着いたのだと理解する。

 

「さてと、あたしらはここまでだ。あんまり軍が街中入るとアホどもが色々うるさいんでね」

 

「……ありがとうございました」

 

 鶴紗がCHARMケースを背負いながら降りるとそこは程よく寂れた街外れ、ここがギリギリ生活圏と言えない場所ということか。すなわち日常(非日常)非日常(日常)のボーダーライン、誰にとって表で誰にとって裏なのかはともかく。そのままトラックの離れる音を聞きながら、鶴紗の姿もまた横浜の街中へ消えて行った。

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