アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:企業説明とオリキャラ&オリCHARM解説となんか意味深な軍人さんたちと。
オリジナルCHARMのためにそれを作ったアーセナル付属させるのはともかく、企業とかの製造元ごと生やすパターンも結構多い気がするのが、この界隈。
引き続き横浜出張タイム、伝えたい感情は──
あと、とっくに使ってるから今更ですけど舞台LM前に出てた家庭環境本由来の情報もあります、ネタバレ注意。近頃りりぃずたいむで安売りしてますケド。



それでも、手を伸ばして

「さて、これであんたと〈シスターゼロ〉への義理は果たしたよ〈星を眺めるヒト(スターゲイザー)〉さん?」

 

『あー、『支配人』も動いてました? だったら余計なことだったですかね』

 

 鶴紗を降ろした帰りなトラックの車内、昔の二つ名を呼ばれてな霊奈の通信先でのぼやきに、彼女やお互い違う呼び方をした相手と繋がっていたらしい元リリィで軍人な女性はニヤリと笑う。

 

「そうでもないさね、向こうさんに頼まれたのは少しでも早くあの子をこっちに移してくれってだけ。どうにも海老名の連中に怪しげな動きがあったとかで」

 

『だから実験が本番になる前に鶴紗ちゃんを?』

 

「そ、流石に実験体と一日に二回もなんて馬鹿げてる。だから奴さんたちのゴタゴタを突いての運び屋さ」

 

 もっと言えば強化リリィへの国からの仕打ち自体が馬鹿げているが、それを“なんとかする”にはまだ色々と足りていない……だから今はこうしてせめてもの『悪巧み』が限界だ。かつてリリィであったからこそ、後輩たちが不当な扱いを受け続ける現状が許せなくとも。

 

「そしてそっちからは場所の指定を受けた。なら、後はなんとかするんだろう?」

 

『まあ、私が直接そっちに出張る訳でもないんですけど』

 

「……だろうね。ありゃあ外野が何言っても届かんだろうさ、飽きるくらい見てきた顔だ」

 

 希望など知らない、今を受け入れられずとも他に道はない、そんなこの世界が作り過ぎる絶望に飲まれた相手に、外からしてやれることなどそうはない。

 ──だから、躊躇わずに一歩踏み込む勇気が必要になる。

 

◆◆◆

 

「そう、ですね。ではこっちも準備があるので、ごきげんようです」

 

『ははっ、もう何時ぶりの挨拶だろうねぇ。ごきげんよう』

 

「ふぅ……」

 

 通信を切った霊奈が白衣を脱ぎ捨て、代わりに纏うのは紅いマント。その下のスーツも含めかつて百合ヶ丘にて仲間と共に戦場を駆けたレギオン制服をベースに改良を加えたそれは、派手な見た目に負けじと徹底した対弾・対刃処理に認識阻害の術式や対ビームコートと、これでもかと自身の持ちうる技術を注ぎ込んである。

 そうして気合いを入れるように眼鏡を指で押し上げながら振り向けば、その先で雪華や梨璃も同じ物を身に付けていた。雪華はスーツはスーツでも動きやすさ重視なパンツスタイルだし、梨璃の方は単に制服の上着代わりにマントを羽織っただけになるが。

 

「また懐かしい……って程でもないか、先輩たちいたのまだ今年のことだし」

 

「えっと、霊奈さん。これって?」

 

「まあ、気休め程度にしてもせめてものカモフラージュですよ。変に騒がなければヒュージはともかく、普通の人やカメラ程度なら誤魔化せますし」

 

 なんて説明をしながら梨璃と肩を組むと、そのまま壁際へ寄って霊奈はそっと耳打ちをしてくる。

 

(それと、これからもうちの『末っ子』のこと頼みますよ? 格好付けてるようで、毎度無茶しかしない困ったちゃんなんで)

 

(あ、あはは……むしろ最近はわたしたちの方が面倒見てもらってますけど)

 

 それも雪華自身はなんでもないようにこなしているだけで、結局端から見れば無理に押し通っているだけ。だから一人にするなと、あの子を『先輩』でいさせてやってくれと霊奈が頼み込んでいると、何かを探している様子な雪華からの声が。

 

「で、主任。例のヤツは?」

 

「そこの引き出し。上から二つ目に入れてありますよー」

 

「ここか……よし」

 

 霊奈の指差す机の引き出しを漁る雪華が取り出したのは指輪。しかしそれはリリィとして右手に付ける内側にルーン文字が刻まれ宝石のはめ込まれた金色の物でなく、形はほぼ同じながら銀色のものへ雪華は左手の人差し指を通す。

 

「えっと、なんですかそれ?」

 

「んー、切り札?」

 

 なんてわざと隠すのを楽しんでいる様子で説明を省く雪華の顔はイタズラっぽく笑っているから、先程梨璃が彼女に感じた「下のきょうだいみたいだ」というイメージはより強まっていく。それは久しぶりにレギオンの先輩の元を訪れたからなのか、なんにせよ普段の雪華より今の雪華の方が素に近いのだとは──

 

(ううん、多分どっちも本当の雪華様。どれもあの人の本音で、なんにも変わらないんだ)

 

 裏表があるようでその実自分に正直なだけ、案外子供っぽいのも先輩風を吹かしたがりなのも、カッコつけたがりのようでその奥にどうしようもない怒りを秘めていたのも、全部全部全部全部黒紅雪華という一人のリリィが抱える要素のひとつでしかないのだと、これまでのことから梨璃は感じ取っていた。

 

◆◆◆

 

 百合ヶ丘においてのレギオン単位でガーデンを離れての外征任務というのは、最低でもギガント級ヒュージの討伐かそれに比肩する功績が必要となり、まだ正式な結成もしていない夢結たちでは本来それは叶わないはずだった。

 しかし楓の部屋を出る間際に梅が話題に出すよう彼女にこっそり言ってきた初代アールヴヘイムで二人の上げた成果のこと、それにより例外的ながらも梨璃探索のための出撃許可が降りた帰り道──

 

「白井さん、今少しいいかしら」

 

「……吉阪先生?」

 

 校舎を出るかどうかのタイミングで自身を呼ぶ声に夢結が振り向くと、そこには一年の学年主任教導官にしてシルトの担任でもある一人の教導官の姿が。

 

「聞いたわよ、一柳さんがトラブルに巻き込まれた“ことになった”って」

 

「……ええ、その通りです」

 

 バレバレなのは元から承知の上だし、だからこそ昔のことまで持ち出して強引にでも押し切った。だから吉阪にそうと指摘されれば肯定する他ないが、よく聞けば彼女の声音や表情からは咎める類いの雰囲気はなく、むしろ夢結へポケットから取り出した何かを差し出してくる様子は随分と穏やかだ。

 

「これ、あなたのルームメイトからの贈り物よ」

 

「祀から? いえ、ですがこれは」

 

 夢結のルームメイトである(はた)(まつり)は既に自身のレギオンであるLG〈エイル〉通称〈秦祀隊(しんしたい)〉を結成しており、その隊長という立場から『それ』を持っているのは分かる。しかしそれを今の横紙破りをしているような自分に贈るというのは、彼女の生徒会役員でもあるという立場からすると少し意外にも思えると受け取るのを躊躇っていると、吉阪から背中を押すように言葉を投げ掛けられる。

 

「それだけあなたは心配されているということよ、ありがたく頂いておくように」

 

「……はい。わざわざありがとうございます、先生」

 

 やはり吉阪の言い方にネガティブな色はなく、つくづく自分は周りに恵まれているなと噛み締めて夢結は『金色のケース』を受け取る。その中身が必要となる事態を想定されているのならば、先程持ち出した初代アールヴヘイムの名に懸けて全力で当たるのみだと、心の奥底で決意を強めながら。

 

◆◆◆

 

 横浜市内──急な呼び出しのくせに予定の時刻までは大分空き時間があるからと、どうしたものかと結構な時間目的もなく市街地を彷徨っていた鶴紗の前を、不意に赤い外套(コート)が通りすぎる。

 

「──っ」

 

 見間違いだと思った。いや実際見間違いではあったのだが、鶴紗が視線で追うかつてこの地での実験で〈技術実証隊〉の一員として着ていた赤いコートだと思った物はその実色味が似ているだけのマントであったし、その下は見慣れた百合ヶ丘の制服でそれらを着用しているのもまた見覚えがある先程ぶりのクラスメイト。誰を探しているのか、落ち着きなくキョロキョロと辺りを見回すのは──

 

「梨璃?」

 

「あ、鶴紗さん!」

 

 その姿にふと名前を呼んでしまえば鶴紗の声を聞いて振り向いた少女はぱあっと笑顔を咲かせてこちらへ駆けてくるのだから、間違いなく梨璃が自分を探してここまで来たのだというのは鶴紗にも分かった──だからこそ、彼女は機嫌の悪い様子を顔に張り付ける。

 

「……勧誘ならちゃんと受けたでしょ」

 

「そうだけど、そうじゃなくて……その」

 

 横浜は結構な大きさの都市といえどこのご時世日が暮れだせばもう人通りはまばらだ、しかしゼロではない以上道の真ん中でCHARMケースを担いだ地元のガーデンの所属でないリリィが二人というのは、どうしても悪目立ちする。ならばと鶴紗は返答に困る梨璃の手を取り、近くに見えた公園へ連れ込む。

 

「こっち」

 

「わわっ!?」

 

 それに対し抵抗するでもなくされるがままの梨璃を目についたベンチに座らせる鶴紗は、その前で腕を組み仁王立ちすると梨璃へ圧を掛ける。

 

「それで、どういうつもり?」

 

「……だって、鶴紗さん死んじゃうかもって」

 

 余計な部分まで喋りすぎたとは鶴紗にも自覚はあったが、それだけでここまで追ってくるとは梨璃の行動力を、そして彼女の周りからのバックアップ体制を侮っていたということなのか。

 

「あんなの、あくまで例えだから。そんな本気にされても困る」

 

 そう言ってはいるが梨璃から逸らす鶴紗の視線の先は公園の入り口で、どう話を切り上げて梨璃を帰らせるか、あるいは逃げ出すかを考えているのだろうと思えてしまったから、先んじて梨璃も立ち上がり鶴紗の手を取る。

 

「でも、先輩たちは帰って来なかったって!」

 

「……あの人の仕業か」

 

 ゲヘナ絡みでそこまでのことを話せる人間は、鶴紗の知る範囲で梨璃の周りには黒紅雪華ただ一人。知るのは一方的な噂程度で直接の面識は何度か話しただけなあの最上級生が思っていたより欲張りで、梨璃の行動の後押しに荷担したというのはこれではっきりとした。自分を見付けてからの梨璃が誰と連絡を取ったでもない今が、振り切る絶好の機会だとも。

 

「とにかく、これは私の問題だから。書類への署名なら明日きちんとする」

 

「だけど……」

 

「くどい。それに私は『戦犯の娘』、これ以上構うな」

 

 ──結局ここまで言ってしまった。今年からリリィになった梨璃は鶴紗のそんな事情までは知らず、彼女の身がゲヘナのいいようにされているとだけ聞いて、助けようとここまで来たのだろう。

 だからこれを言えば諦めるだろうと、そんな冷たい計算から視線を逸らしながらも語気を強めた言葉に返ってくるのは、手を更に強く握られる感触と顔を寄せてくる梨璃の必死な様子。

 

「そんなの関係ない! って何も知らないわたしが言ったら失礼かもしれないけど……4月の戦いで助けてくれたのも、猫さんのことが好きなのも、鶴紗さんが鶴紗さんだからで、誰の子供だからとかそんなのじゃないでしょ?」

 

「……梨璃」

 

 こちらが先に拒絶するような言い方をしても、自身から言うそれに対しては咄嗟のことだったと謝るのだから梨璃は、この子は優しいのだろう。それこそ自分には勿体無いくらいに──だから、鶴紗は彼女の側にはいられない。

 

「分かった」

 

「え、ホント!?」

 

 その答えに驚きか喜びかで梨璃の手が緩んだ隙に、鶴紗は彼女を置き去りに公園の入り口へ向け駆け出すと顔だけを振り向かせて、努めて突き放すように告げる。

 

「だから、今すぐ百合ヶ丘に帰って。梨璃はこんなところにいるべきじゃない」

 

「あっ、待って鶴紗さ「梨璃さん?」ふぇ?」

 

 それを追おうとした瞬間、背後から掛けられた声に梨璃は半端に振り向いてしまい、その先にいたのは楓、二水、ミリアムの三人でどうやら彼女たちも横浜入りしていたみたいだが、タイミングが少し悪かった。

 

「今の、鶴紗じゃったのか?」

 

「う、うん……」

 

 そのまま駆けていった鶴紗を見失ってしまったことに梨璃がシュンとしていると、心配無用とばかりにその身体を抱き寄せる楓が自慢気に語り始める。

 

「わっ、楓さん?」

 

「案ずることはありませんわ梨璃さん。だからこそわたくしたちが梨璃さんたちの側に回されたのですから!」

 

「おぉー、流石は〈百合ヶ丘の至宝〉楓さん! 今からでも鶴紗さんを追える秘策が「ちびっこ1号」あ、わたしですか……」

 

 つまりは『鷹の目』で探せと、そういうオーダーならばやるだけだとレアスキルを発動し周囲を探る二水はそう時間を掛けず先程チラリと見た通りな金のポニーテールにCHARMケースを背負った鶴紗の姿を見付けたが、何故かそれを()()()()()()かのようにアーケードの屋根の下へ彼女の姿は消える。

 

「あっ……」

 

「見失ったのかのう?」

 

「いえ、視点を下げて追ってみま……あれ? うそ……なんで……?」

 

 それこそ上手く使えば建物の中だろうと丸裸にする、一度見付けた獲物を逃がさないが故の鷹の目はしかし、ほんの一瞬見失っただけでそれ以降鶴紗の姿を捉えることはなかった。

 

「す、すみません……見失っちゃいました」

 

「えっ、どういうこと?」

 

 見付けた時と同じかそれ以上にあっさり見失うことに梨璃が不思議そうにしていると、顎に手を当てるミリアムが神妙そうに呟く。

 

「……鶴紗の『ファンタズム』か」

 

「ですわね。味方ならともかく、相手に回すとこれ程厄介なレアスキルもそうないとは」

 

 そのレアスキルによる未来視の力により二水の鷹の目に見付かり再度梨璃に捕まる未来を避け続けることによる、実質的な先読み。それが二水が不自然なまでにあっさりと鶴紗を見失ったカラクリだと、楓は告げる。

 

「じゃあ、もう鶴紗さんは……」

 

「だとしても、ゴールでまでは逃げることは出来ませんわ。これを」

 

 そこで楓から手渡されるのは、以前雪華に付けられた物と同じインカム。となればその通信の先にいるのは──

 

◆◆◆

 

「ん、了解。そっちの方だと……横浜港方面か」

 

「いくつか候補はありますが、まあしらみ潰ししかないですかね?」

 

 下の階の応接室にて鶴紗ちゃんには逃げられたという梨璃ちゃんたちからの報告を聞いて、これは悪巧みのし直しになるなと通信の向こうの四人とこちらに合流してきた夢結たち四人へ、テーブルに広げた地図を見ながら主任との説明タイムになる。

 

「そういう訳だから、ここからは二人ずつでこのポイントを……」

 

「……雪華様たちは、配置されていないみたいですが?」

 

「ああ、私たちですが」

 

 追尾に気付く前に鶴紗ちゃんの逃げていた方向から怪しいポイントは四つ、そこへそれぞれ二人ずつとなると勿論二人余る訳で。わざわざ装備を整えておいてお留守番もないだろうと夢結は言いたいのだろうけど、梅もそこは同じようで追撃の質問が。

 

「まさか、それ持ち出したってことは『昔のノリ』ってことなのか?」

 

「昔の、ノリ……?」

 

「あくまで噂程度ですが、烏丸隊は『特務レギオン紛いのことをしょっちゅうしていた』とのことで」

 

 神琳さんの聞いたという噂は概ねその通り。〈特務レギオン〉──基本的にその出身から世界の裏側を知る強化リリィのみで構成されるガーデンからの特命で動くレギオンで、それは百合ヶ丘の場合、もっぱら対ゲヘナの活動において投入されている。

 うちの隊の場合は初期で半数、私の入った時点では約1/3しか強化リリィがいないからあくまで正規のそれでなく真似事にはなるけど、隊長な『姉さん』のゲヘナへの恨み辛みが相当だったのもあって任務帰りに“たまたま”見付けた施設を強襲したのなんて一度や二度ではないし、なんなら本物の特務レギオンである〈ロスヴァイセ〉の任務と目標がかち合って厳重に注意されたことすらあった。

 

「そうだね、だから悪いけど私は今日だけはまた去年までの〈烏丸隊の黒紅雪華〉でいさせてもらうよ……イノチを弄んだことへの“ケジメ”は、付けさせてやる」

 

「結局、決して表沙汰にならないよう裏で密かに──くらいしかないんですよ。今の世界では」

 

「…………分かりました。ご武運を」

 

 立ち上がりながら告げた私たちのやろうとすることを分かった上で、少し目を閉じ考えた後で夢結は送り出してくれる。本当に、持つべきは出来た後輩だよ。

 

「け、ケジメって……」

 

 とはいえこういう荒事に馴染みのない雨嘉ちゃんは私たちの言い回しについてこれてないようだけど、雰囲気で察した梅が変わりに説明してくれる。

 

「意味は色々あるけど、この場合は相手のやったことへ相応の報いを……ってことになるナ」

 

「お二方がやり過ぎた場合を除いて、同情の余地はないかと」

 

 今の世の中、全てとは言わないがリリィ絡みの不幸は大抵その裏にゲヘナの影がある……ヤツらがリリィを食い物にするのなら、私たちにも黙って食われてやる義理はない。それだけだ。

 

◆◆◆

 

 そして通信は繋いだままだったのだから公園を出ようとしていた楓たちにも当然雪華の宣誓は聞こえていた以上、その反応はなんとも言えない。

 

「まったく、雪華様も大概頑固な方だとは薄々思っていましたが……ここまで曲がれないとは」

 

「そういう人なんじゃよ、あの御仁は。許せないことにはとことんまでこうなるタイプじゃ」

 

 互いに百由を訪ねたついでに会うことも多く、ほんの少し彼女のことを他の三人よりは知っているミリアムは雪華ならこうなるのも不思議ではないと、若干の呆れ混じりに語ると左を向く。

 

「ともかくわしらはこっちじゃな、梨璃と二水も先走らんようにの」

 

「むむむ。確かにわたくしと二水さんを分けるのはレアスキルの都合上分からなくもないですが、どうしてまたしてもちびっこ2号と一緒なんですの!?」

 

「わしに言われても組み合わせは先輩たちが決めたんじゃろうが」

 

 鷹の目は元より『レジスタ』もサブスキル相当とはいえ同じように俯瞰視野が使えるのだから、そこはいい。しかし向こう側は夢結と梅、神琳と雨嘉なんて組み合わせなものだから、この流れで楓が梨璃と別れるのに文句を言いたくなるというのは分からなくも──

 

「いや、さっぱり分からぬ。ほれさっさと行くぞい」

 

「あっ、こら離しなさいなミリアムさ……梨璃さぁ~ん、お気を付けてー」

 

 もう話にならんぞとそのまま腕を掴んでミリアムが楓を引き摺るようにして出発するのだから、残された二人としてはなんとも言えなくなる。

 

「い、行っちゃったね」

 

「あはは……わたしたちも行きましょうか」

 

 気を取り直して指定された港近辺のエリアの内、自分たちに割り振られた場所へ向かい移動を始める梨璃と二水。その中で先程の鶴紗との会話の内容を共有していると、彼女の残した『戦犯の娘』というワードに引っ掛かりを感じる二水。

 

「え、鶴紗さんが自分からそう言ったんですか?」

 

「う、うん」

 

「そう、ですか……」

 

 そこで二水が意味ありげに視線を逸らすから、彼女がその裏にある意味を知っているのではないかと感じた梨璃は、思わず二水に詰め寄っていた。

 

「お願い、教えて二水ちゃん! わたしそのことの意味も知らずに、勝手なこと言っちゃったから……だから!」

 

「……分かった」

 

 梨璃の勢いに一度だけ語尾を崩した二水は「情報が錯綜しているので憶測な部分も含まれますが」と前置きをして、鶴紗の父親──安藤(あんどう)総逸(そういつ)について語る。

 

「彼はかつてあった〈南極戦役〉というヒュージとの大規模な戦いにおいての貴重な生き残りで、軍人として、男性の〈CHARMユーザー〉として相当な実力者でした」

 

「えっと、確か昔は上手く扱えない男の人でもCHARMを使ってたんだっけ?」

 

「はい、百合ヶ丘の理事長代行なんかも件の戦いで名を轟かせ、ミリアムさんのお父様のローター氏もその一人になります」

 

 とはいえここは触りの段階、オタクとして知識を語りたい部分と今必要な部分との切り分けをして、二水は話を続ける。

 

「生還後総逸さんは南極で見たゲヘナの危険性を訴える傍ら、その戦役に参加していたリリィの方──こちらは個人情報が完全に抹消されていてどんな人物だったのかすら分からないのですが、その方と結婚されて鶴紗さんが産まれました」

 

「え……?」

 

 高々一個人な元リリィの情報が消されており、その夫は反ゲヘナ思考……この情報だけでも梨璃はゲヘナ側のやり口からひとつの可能性が浮かぶが、それについては肯定も否定もなく、不明な情報は置いておいて二水は本題を告げる。

 

「そして、当時最前線であった陥落前の静岡でのヒュージとの戦闘において総逸さんは戦死してしまったのですが……その前後の流れがあまりにも不自然なんです」

 

「不自然……?」

 

「記録に残っている限り、彼の指揮に問題はありませんでした。元々防衛軍だけで勝てるヒュージの規模ではなかったみたいですし……ですが、市民を守りながらの早期撤退を訴えた総逸さんの命令に『何故か』従わなかった現地の部隊の暴走による戦線の崩壊、その結果彼も市民を逃がすための盾となり残った部隊と……そしてその後の調査の結果“まるでゲヘナのやっていたような実験に関する責任まで負わされて”政府から彼がこの戦いの戦犯であると、断じられ……」

 

「──っ」

 

 なんだそれは、という類いの言葉すら出てこない。つまりはゲヘナにとって、政府にとって都合の悪い存在であるから、死人に口なしとありもしない事実をでっち上げて彼の死後その名誉を不当に貶めた。これはそういう話だ。

 

「そして、両親を失った鶴紗さんは、ゲヘナに連れ去られて……強化実験を……」

 

「教えてくれてありがとう、二水ちゃん」

 

 今は路地裏を歩いているから周りの目を気にしなくてもいいからと、お礼を言うと梨璃は二水を優しく抱き締める。彼女の身体は言葉同様に少し震えていたから、辛い話を言わせてしまったのだと深い感謝を込めて。

 そして、これはある意味で雪華の言っていた『家族を人質に』という予想も、あながち間違ってはいなかったということになる。恐らくは親の名誉回復を盾に、鶴紗は百合ヶ丘に保護されてからも時折ゲヘナの実験に連れ出されていたのだろう。だから、さっきも目を逸らしながらこのことを辛そうに話していたのだと。

 

「やっぱり、わたしは鶴紗さんに手を伸ばしたい。こんなこと、絶対に間違ってるから」

 

「梨璃さん……」

 

 今の話を知識として持っていた二水自身、いざ口にするとなると最後まで冷静ではいられなかった内容にも、梨璃は真っ直ぐに立ち向かっている……いや、二水にも自分のそれとは違う震えが伝わって来たから、梨璃とて不安がまったくないということはないはずだ。

 だとしても誰かのためにならそれを抑えて戦える、そんな彼女が自分を友達だと頼ってくれるのなら、自分も出来る限り応えたいなと二水も勇気が持てたのだと思えた。

 

◆◆◆

 

 横浜コンテナターミナル──夜の帳が下りきった頃その端に鶴紗が一人腰掛けて少し波が騒がしい海を眺めていると、いつの間に迷い込んだのか猫が近くにいたのに気付き、気紛れに声を掛けてみる。

 

「……お前も一人?」

 

「なぁ?」

 

 無防備に首をかしげられても今は猫を愛でるような気分でもないし「分からないか」とだけ零して視線を前に戻すとまたしばらく何もない時間が過ぎ、退屈そうに体を丸める猫が何度目かのあくびをした後、鶴紗の携帯にメールの着信が。

 

「『ヒュージの出現予測地点へ向かえ』か。予定の間違いだろうに」

 

 とはいえ今回の研究員は『モルモット』である自分に余計な情報を渡すつもりはなさそうだし、そんなやつらの言い回しなどどうでもいいかと携帯をポケットに戻すと、猫の方を向く鶴紗。

 

「そういうことだからここも危険だ、お前もどこかに「ふしゃっ!」っ……」

 

 逃げるようにと告げながら手を伸ばしてはみたが、警戒するようにその手の甲を引っ掻いてから猫が去っていくのを、鶴紗は呆けたように眺める。

 

「ふふ……こんな()()()に心配されたって困るか」

 

 だが自嘲する鶴紗の引っ込めた手にもう傷は残っていない、強化リリィが〈ブーステッドリリィ〉とも呼ばれる所以のひとつであるヒュージ側の力〈ブーステッドスキル〉という物がある。

 数度の強化施術を行われた鶴紗が複数持つそれらのひとつ〈リジェネレーター〉──持ち主のマギなどのエネルギーを使い傷を瞬時に直すそのスキルによりこの程度のかすり傷は文字通り跡形も残らないが、それでもまだしばらくその跡がジンジンすると感じてしまうのは……

 

(どうでもいいか)

 

 そんなものは『必要のない情報』だと意識の外に追いやると、鶴紗は傍らに立て掛けていたティルフィングを手に立ち上がる。結局自分の目的を果たすには戦って、戦って、戦い続けるしかないのだ。そのためには自分のことなど……どうでもいい。

 

「……お前、あの時の」

 

 だとすればこれも因果だろうか、予定されていた地点にたどり着いた鶴紗の前にいるのは胴長な浮遊タイプであるクラッシャー種はラージ級のヒュージ。体のあちこちの無理に補強されたような様子からレストアとなったその姿は、百合ヶ丘に保護される前の遠い記憶にあるここ横浜で技術実証隊として戦っていた頃に上から捕獲を命じられたヒュージのそれと重なり、その時に自分が発した言葉が脳裏を過る。

 

「はは、だから言ったでしょ……『死んだ方がマシだ』って。どうせ生きてたって、ロクなことにならない」

 

 自分の立場かヒュージの有り様か、どちらに対してかも分からない乾いた笑いに反応してヒュージがこちらを向いて来るから、鶴紗もティルフィングを真正面に構える。

 

「なら……化け物同士、楽しみましょう!」

 

 ──夜明けは、まだ遠い。

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