アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:やっぱり色々積み重ねてくのと親方!空から何度もリリィが!と。
別にフルブルみたくあのまま勝ちました。でもいいけど、折角だし描写はしっかりとやりたいよね?という欲が詰まっての。
そんな訳で人数足りてる状態では初になる、ノインヴェルト戦術タイム。誰だ屈伸のテーマとか言ったの!



九つの集めた想い

「よっ、と。皆無事だね?」

 

 閃光に紛れて一旦ヒュージの側を離れ、コンテナの影になる部分に集まっていた楓さんたちのところへ私が二水ちゃんを、夢結と梅もそれぞれ梨璃ちゃんと鶴紗ちゃんを抱えて降りてくるのを確かめて一年の皆を降ろしていると、楓さんが仕切るように話し始める。

 

「さて、これにてミッションコンプリート……と行けば良かったのですが」

 

「まあ、ここまで首を突っ込んどいてそしらぬ顔で帰る訳にはいかんじゃろ」

 

 このままあのラージ級を放っておけば間違いなく街に被害が出るだろう、なんていうのは言われなくとも分かる。

 ともかくお礼参りという訳でもないがヒュージを討伐する方向で話が進んでいると、梨璃ちゃんに肩を借りながらフラフラと立ち上がるズタボロな鶴紗ちゃんに駆け寄るのは雨嘉ちゃん。

 

「鶴紗、大丈夫……?」

 

「ん……表はもう塞がってる。まだ痛むけど、動けなくはないよ」

 

「話は聞きましたが、異常な速度で回復するヒュージを相手にマギ量で勝負……というのは全員が雪華様並でもないと非現実的でしょうから、何か手は欲しいところですね」

 

 いや、結構好き勝手言うね神琳さん? まあ片目を閉じながら右の赤い方の目が夢結にチラリと向いているから、フリではあるんだろうけど。

 

「手ならあるわ。この時期なら、一年生も概要くらいは講義で聞いたことがあると思うけれど」

 

「うわ。よく用意できたね、それ?」

 

 夢結が懐から取り出した金色のケース──それはノインヴェルト戦術用の特殊弾の物。百由みたいなある意味一般生徒から逸脱したような立場ならともかく、一発数千万はするそれがまだ始まってもいないレギオンに回されるかというと疑問符が浮かぶが、梅辺りが上手く立ち回ったのかと視線を向ければ首を振られる。

 

「……?」

 

「梅は許可のためにちょっと口を出したくらいだゾ。それは夢結が持ってきたんだ」

 

「わたしも、ただこれを人づてに受け取っただけよ。祀には帰ったらお礼を言わないといけないわね」

 

 なるほど、夢結のルームメイトさん経由。私も前に彼女を頼ったし確かに納得出来る経路ではあるが、少し過保護にも──

 

「……まあでも、ほっとけないってのはよく分かるかな?」

 

「ふふ、だナ!」

 

「…………」

 

 あ、夢結が目逸らした。ちょっとからかいすぎたか……さてと。

 

「とはいえモノがあるなら話は早い。やつを駆逐するとしようか、ノインヴェルト戦術で!」

 

「よーし、皆思いの丈ぶちまけながら回せ!!」

 

「え、ええぇぇぇ!? どどどどど、どういうことですかーーーっ!?」

 

 それは涙目で戦慄する二水ちゃんへの梅からの罰ゲーム──という訳ではなく、れっきとした意味のある行動だ。

 

 以前も人数不足とはいえ依奈たちとやったけど、ノインヴェルト戦術とは専用に用意された特殊弾へとマギを込め、それを複数人で回すことで個々人で作るより遥かに強力なマギスフィアを育て、いかなるヒュージをも駆逐する──そういった趣旨の連携攻撃になるが、当然込められるマギが強力であればある程その威力は上がるし、そのために“感情を吐き出しながらマギを込める”というのは偶然発見された現場仕込みの裏技になる。

 

 つまり古来より魔法とは『想いの力』とされるのだから、不馴れなりに想いを込めてパワーを上げるんだ……という内容を伝えると、半信半疑ながら一年生組も理解はしたようなので、後は開始するだけだ。

 

「じゃ、私はあいつの足止めしとくから」

 

「え、雪華様は参加されないんですか?」

 

「いや、流石にちゃんとした練習もなしだと基本人数の九人までじゃないと危ないからさ。梨璃ちゃんだけじゃなくて、二水ちゃんとミリアムちゃん辺りも見るのはともかく、やるのは初でしょ?」

 

 梨璃ちゃんへ返事をしながら同じく今年からの新人二人の方を見ると、大体その通りなリアクション。

 

「は、はい……うぅ、わたしのせいで失敗したらどうしよう……」

 

「まあ理論だけは頭に入れておるが、こればっかりはのう」

 

 それに現状私の代わりにやつとデュエルでタイマン張れそうなのは、どう考えても二年組の二人のみ。なら結局初心者三人抱えるのに変わりはないのだから、その点はもうどうしようもない。

 

「とはいえ他に手もないだろ。ヒュージの真ん前で呑気に訓練だなんて言うには、流石に無理があるしナ」

 

「そうですわね……万一に備えて梨璃さんたちには誰かが必ずフォローできる位置につくように。今回はこれだけを徹底して下さいまし」

 

 梅のもっともな言葉に加え楓さんの補足を聞くと、鶴紗ちゃんはそっと梨璃ちゃんの手を握る。

 

「分かった。梨璃、わたしの側を離れるなよ」

 

「うん、鶴紗ちゃん!」

 

 おや、いつぞやの雨嘉ちゃん同様、今度は鶴紗ちゃんへの梨璃ちゃんからの呼び方が変わっている。こっちに来てからいったい何があったのだろうか。

 そこは楓さんも気になってはいるようだが、今はやるべきことに集中するため、咳払いと共に気持ちを切り替えていた。

 

「んんっ。おふたりに何があったかは後で問い詰めるとして……二水さん、付いてきなさいな」

 

「わ、分かりました!」

 

 思った以上にスムーズに担当が決まると、夢結がミリアムちゃんに例のケースを手渡す。

 

「そうなるとミリアムさん、あなたから開始して頂戴。スタート役ならそこまで負担はないわ」

 

「心得た。こりゃあ責任重大じゃのう」

 

 とはいえ口ほどは緊張していないのか、夢結から受け取ったそれの封を開け中の特殊弾をCHARMへ装填しながら挑戦的な笑みを浮かべるミリアムちゃん。さて、これで後は流れでやってもらうとして、私もそろそろお仕事と行きますか。

 

「じゃあ作戦開……ああいや、ここは私じゃなくてリーダーのが相応しいか」

 

 そうチラリと夢結の方に目線を向けると、言いたいことは分かっているとばかりに頷いてくれる。

 

「そうですね──梨璃、あなたが隊長よ。号令を頼めるかしら?」

 

「え? わ、わたしでいいんですか!?」

 

「当然ですわ! ここにいるのはみな梨璃さんが集めた、梨璃さんだけのレギオンメンバー! 他の誰にも、そのリーダーの資格はありませんのよ?」

 

 楓さんはそう言うが、もし彼女が辞退したら自動的に夢結辺りが繰り上げになるとは思うけど……そうはならないんだろうなと感じているのは、多分私だけではないだろう。

 

「そうですよ! わたしも楓さんも、梨璃さんがレギオンを作るからって協力したんです!」

 

「わ、わたしも……梨璃が背中を押してくれたから、今ここにいられるの!」

 

 ズイッと近寄りながら梨璃ちゃんを勇気付けるようにその熱意をぶつける二水ちゃんと雨嘉ちゃんの二人を、一歩下がった位置で見ているのもまた二人。

 

「ふむ、そうなるとデータ取り目当てのわしは動機が不純な方に入るのかのう?」

 

「さあ? ミーさんにはミーさんなりの理由がある、でよろしいかと。それに、わたくしもあまり人のことは言えませんし」

 

 そんな神琳さんからの突然のあだ名呼びに「ミーさん?」と首を傾げるミリアムちゃんだけど結局そこの二人も、皆の様子を笑顔で見守る真のレギオン仕掛人な梅も、生きて帰れたらレギオンに入ると約束した鶴紗ちゃんも、勿論直々にスカウトされた私も含めた全員が、梨璃ちゃんが夢結のためにとメンバーを求めたから集まった……他ならぬ、誰かのために頑張る梨璃ちゃんのために。

 だから、それを纏める大黒柱は彼女以外であってはならない。命を預ける仲間とは、おそらくそういうモノだから。

 

「さあさあさあ、それでは梨璃さん、一発ドカンとお願いしますわよ!」

 

「い、一発? え、えーと……こ、これよりわたしたちはノインヴェルト戦術を開始します! 出撃っ!!」

 

 いや、もう外には出てるよ。なんて突っ込むのも野暮だろうし、出ろと言われたからには出ましょうか。

 

「ふふ、了解。黒紅雪華、行きます!」

 

 なんて格好付けてもカタパルトなんて小洒落た物はないので、コンテナ群を飛び越えながら変わらず元の位置にいたヒュージの前にその姿をさらすと、シューティングモードのアステリオンを構えるのに合わせ複数の武装を備えるシールドの先端もまた前を向く。

 

「では改めてごきげんようヒュージ殿、散り行く者に名乗る名もないけどさ!」

 

 アステリオンの射撃モードはバスター、マルチランチャーの弾種は徹甲榴弾、それにレーザーバルカンを合わせた一斉射撃をヒュージの顔面に叩き込むと、着弾による煙の晴れない内に背後へ回ってアステリオンをアックスモードへと切り替え、その体表を切り裂く。

 

「ちっ、流石に特製ヒュージともあればまだまだ余裕かい」

 

 しかし分かっていたとはいえ効き目は薄く、付けた傷が即座に塞がっていくのを横目にバルカンを牽制に撒いて少し後退。ヒュージの気を引きながら空いている右手にシールドから射出されたソードガンを逆手に持ち、変則的な二刀で再度切り込む。

 

「さあて、久々に遊ぼうか相棒(ライザー)──私と戦場を舞え!」

 

◆◆◆

 

「雪華様、ヒュージと交戦を開始しました! こちらに背を向けさせるよう引き付けています!」

 

 その上で離れ過ぎないよう、かつコンテナに囲まれた位置へ誘導しているのは妨害の危険性を減らすのと、ノインヴェルトのフィニッシュショットを避けられにくくするためだろうと『鷹の目』で戦況を確認する二水は思うが、わざわざ口にせずとも隣にいる楓を始めとする大多数は分かっているだろうから、少し広がったポジションに就くと楓の『レジスタ』の感覚を受けながら自身のレアスキルを解き、開始に備える。そしてその始まりは──

 

「興味本位で入ったレギオンではあるが、どうにもみな面白いやつらばっかりじゃ。この仲間たちとなら、なにやら大きなことを成し遂げられそうな気がするぞい! のう神琳、おぬしはどうじゃあ!!」

 

 言葉とマギに想いを乗せて、大きく振りかぶられたミリアムのニョルニールからマギスフィアが射出され、神琳がマソレリックでそれを受け止める。

 

「そうですね、途中からなわたくしはまだそこまで馴染めているとは言えませんが、その点には同意させてもらいます。だから……あなたならやれるわ。しっかり繋いでください、雨嘉さん!」

 

 続けてどこか優雅さも感じる居合いのような横薙ぎと共に、マギスフィアはマソレリックから雨嘉のアステリオンへ。

 

「うん、神琳……! こんな自信のないわたしでも、梨璃は認めてくれた。神琳も、他の皆もそう……だから今は、全力で狙い撃つ。行くよ、二水っ!」

 

 アステリオンで打ち上げたマギスフィアの落下に合わせ、雨嘉がシューティングモードへ切り替えたCHARMの銃口で突くようにそれを撃ち出し、次は二水のグングニルに。

 

「うわ、わっ!?」

 

「落ち着きなさいな二水さん、まだ制御不能な程ではありませんわ!」

 

「は、はい!」

 

 三人分のマギの込められたそれは多少のブレこそあるが、CHARMでしっかりと受けさえすれば抑えは利く。

 伝えられるコースを追っていて思わずぶつかった楓の背中にその身体を支えられながらも助言とマギスフィアを受け取った二水は、最初こそ慌てはしたがそこを理解すると自分の足のみでしっかりと立ち、その重さを確かめると想いを吐き出す。

 

「補欠合格のわたしが綺羅星のようなリリィの皆さんと一緒に戦えるなんて、今でもなんだか夢みたいで……でもこの重さは、この輝きは決して夢や幻なんかじゃない! この“繋がり”を夢で終わらせないために……楓さん、お願いします!!」

 

 そのまま振り向きざまにCHARMとCHARMの間にマギスフィアを挟み込むようにして、ちょうど真ん中になる五番手楓のジョワユーズへと。

 

「承りましたわ二水さん! 折角梨璃さんの望んだレギオンが結成されようというのです。その邪魔をするというのならばゲヘナだろうがなんだろうが、例え天地神明が許そうとこの楓・J・ヌーベルだけは絶対に許しませんわ!」

 

 マギスフィアを受け取りながらも威風堂々と見栄を切るような動きをして楓から更に広がる力──その場にいるだけで仲間の力を向上させる楓のレアスキル(レジスタ)、それがジョワユーズの切っ先が地を差すと同時にその出力を限界まで上げ、範囲を今一人でヒュージを食い止める雪華の方まで広げる。

 

◆◆◆

 

「せい、やぁっ!!」

 

 左右のシールドを連結させ一枚の大型盾とした物を右手に持ってヒュージを突き飛ばし、横に向けたそれの上に構えた左手のアステリオンでのレーザー五連射を叩き込むがその結果は先程までと変わらず、即座に再生される。

 

「先に鶴紗ちゃんとやってたんだし、そろそろ底が見えるんじゃないかとは思いたいけど……なんともまあ」

 

 などとあまりのタフさに呆れていると、私の物ではない銃声と辺りに広がる力の感覚──

 

「おっと?」

 

「雪華様、加勢致します」

 

 レジスタだろうそれにより体が軽くなった、と思えばヒュージの触手のひとつを蜂の巣にしながらラージ級を挟んで反対側に見事な三点着地で降り立つのは神琳さん。

 見渡せば辺りのコンテナの上にはミリアムちゃん、雨嘉ちゃん、二水ちゃんと他のノインヴェルトのパスを終えたのだろう面子もいて、このままこちらに加わるようだ。

 

「オーケイ、このまま囲んで釘付けにする!」

 

「「はい!」」

「おう!」

 

 とはいえ私以外はパスを回した後でそれなりに消耗しているだろう、ならば矢面に立つ役は譲らず支援に徹してもらうとしようかとシールドを分離させアーマーのサブアームに戻しながらアステリオンを背負い、ソードガン二挺を構えて触手をシールドで弾きながら反撃に連射モードを叩き込む。

 

◆◆◆

 

「さて、わたくしたちも突入して残りを込めますわよ、夢結様っ!!」

 

「ええ!」

 

 掬い上げるようにジョワユーズにて打ち上げられたマギスフィアに飛び付く夢結は、ブリューナクを軸に回りながら着地すると一気に駆け出す。

 しかしそれを見ている梨璃としては、このままこの辺りでパスを回し終えるのではなかったのかと疑問符を浮かべていた。

 

「えっ、なんでわざわざヒュージの近くへ?」

 

「ヒュージの近く程マギは強くなり、リリィの力もパスを回すノインヴェルト戦術の威力もまた高まるのです。今回は相手がラージ級というのもあって最初の方こそ安全を取りましたが、ここからはセオリー通りですわ!」

 

 ミリアムと二水という一番危なっかしいちびっこ組はもう終えたのだからと、そんな説明をしながら梨璃の手を取ろうとした楓だが、彼女の手は虚しく宙を切る。

 

「あら?」

 

「そういうことだ。梨璃、行くぞ!」

 

「うん。一柳梨璃、行きます!」

 

 つまるところ、鶴紗に先に手を引かれて梨璃は跳び立った後だった。単にそれだけの話。

 そうして立ち尽くしている内に梅も夢結に続いて先に前へと進んでいるから、この場に楓一人だけ取り残された形になる。

 

「ふぅ。まあいいでしょう、今夜の主役は鶴紗さんなのですし」

 

 そもそもこの状況が元より鶴紗を助けるために出来上がった物なのだ、ならばこのつきあかりの下でだけは楓とて愛しの梨璃さんの隣を譲るのも吝かではない。

 ──そんな折り合いを付ける必要がある時点で実際の内心はそれほど穏やかではないのだが、生憎それを察してくれる相手はもう誰もいないのだからと、楓もそれ以上は黙って後を追うのみだった。

 

 その頃先頭を行く夢結に並んだ梅は、速度を合わせながら久方ぶりに戦闘中に生き生きとした様子を見せる彼女へと問い掛ける。

 

「なあ夢結、梨璃にレギオンを作れって言ってよかったろ?」

 

「あなたに言われた通りの無理難題として投げ付けたつもりだったけれど、あの子はこうしてやり遂げてみせた……でも、こんな大掛かりなことになってしまったのは、流石の梅でも予想外でしょう?」

 

「アハハ、勿論ビックリだゾ。まさかレギオンの仲間を集めるために百合ヶ丘を飛び出すなんて……なんだか、色々飛び回ってた初代アールヴヘイム時代を思い出すナ?」

 

 結成から解散までの一年にも満たない日々で繰り広げられた数々の激闘や、その中での出会いと別れ──未だに癒えきらない傷もあるが、それでもその経験があったからこそ今の自分たちはあるのだと少しだけ過去に想いを馳せると、夢結の目は現実(いま)だけを見据える。

 

「そうね……でも今はあの頃とは違う。わたしたちは今度こそ最後まで誰一人も欠けずに、全員無事で百合ヶ丘に帰る。そのために、あの子たちの道はわたしたちで作るわよ、梅!!」

 

 二人の接近に気付いたヒュージから伸びる触手を数本まとめて十字に切り払い、夢結はCHARMを振り切った勢いを乗せたまま体を捻り、ブリューナクでマギスフィアを前方へ放り投げる。

 

「おう! 梅たちも今は先輩なんだ、ここらでカッコいいとこ見せとかないとだゾ──《縮地》ッ!!」

 

 そこで夢結に合わせていたスピードからレアスキルを使い一気に最高速へギアを上げた梅はそのままマギスフィアすら追い抜いて、躊躇いなく銃火飛び交うヒュージの真正面まで飛び込むとCHARMの引き金を引き、至近距離からラージ級へ砲撃を叩き込む。

 

「うわっ! ま、梅様。気は確かですか!?」

 

「皆の腕を信じてるからナ。狙ってないところに突っ込めば逆に安全だゾ、ふーみん!」

 

 もうそろそろ心臓が口から飛び出るのではないかという程驚き続きな二水の様子を尻目に、彼女へ謎なあだ名を付けながらヒュージの胴体を蹴飛ばし再度の砲撃の反動も合わせ月夜に舞う梅のシルエットはマギスフィアの光と重なり、それをブレードモードにしたタンキエムの上を走らせる。

 

「今梅は夢結と一緒に戦えてすっごく嬉しい。それはあの時から止まっていた夢結の時間を、梨璃がほんの少し動かしてくれたから……だからわたしは、っ!」

 

 ヒュージの狙いが自分に向いた。それを殺気から感じた梅だが、今は空中とはいえ着地してから撃たれる前に『縮地』で再度加速すれば何も問題はないと──

 

「梅様っ!」

 

 そこで自身を呼ぶ声と共に送られる、初めて見るビジョン。マギがそこまで残っていないからかほとんど一瞬だけだった鶴紗のレアスキル(ファンタズム)は、梅にそのままでいろと告げていた。

 

「これって……まったく、過保護な後輩と先輩だゾ!」

 

「さぁて、ド派手に幕を開けますか!」

 

 嬉しそうに言葉を溢す梅が視線を向けた先で雪華が左手を頭上に掲げて指を鳴らすと、空中にいるはずの梅の足元に──否、それ以外にもヒュージを囲うようにいくつもマギの足場が生成される。

 それを先程のビジョンで知らされていた梅はその足場のひとつを蹴り、近くのコンテナの上へ転がり込んだ。

 

「空気を読まず人の花道邪魔するやつは、ここで散れ!」

 

 両手に構えるソードガンからレーザーブレードを発振させた雪華は『インビジブルワン』の速度で足場へ跳び上がりながら、そこから別の足場へ移りつつ何度も何度も通りがけにヒュージを二刀で斬りつける。

 

「へぇ……噂には聞いてたけど」

 

「え、あれって雪華様……うわ、二水ちゃん!?」

 

「ぶはっ……」

 

 遅れて鶴紗と共に到着した梨璃が見たのはそんな雪華の暴れっぷりと、二人の降り立ったコンテナの上で鼻を押さえながら膝から崩れる二水の姿だった。

 

「あぁ、まさか噂の()()をこの目で見られる日が来るなんて……!」

 

「え、えっと、あれって雪華様の?」

 

「はい! 雪華様の専用機、オーバーライザーのシールド部分に搭載された特注の大型フィールドジェネレーターとサブスキル『聖域転換』の力、更には対ヒュージ戦の最中にマギが切れたことのほとんどないという雪華様の桁外れの継戦能力を合わせ、広域に自在に展開される結界の足場! それは聖域転換の特性をそのままに空中でさえ自分の領域とする雪華様の隠し種たる〈疑似空戦機動〉! 紅きマント翻すかつてのレギオン制服(レイヴンズスーツ)で果敢に舞い踊るその姿は、二刀流のレアスキルと合わせ〈円環(えんかん)赫星(かくせい)〉とあだ名されていた程なんです!!」

 

 二水がいつものオタクモードで熱弁する間にも雪華は時に袖口からのアンカーを、時にシールドのスラスターを、時にランチャーの反動さえも利用して自らの支配する第二の大地を駆け回る。

 宛てられた『赫』の文字に相応しい勢いで怒れる星となりてヒュージを刻み続ける雪華だが、基本的に出した足場の方へ動くからと支援射撃もその配置の向いていない方から行えば、梅の言うように存外通るようだ。

 

「でも……」

 

「どうやらやつのマギも底無しみたいだね」

 

「そんな、皆さんがあれだけ攻撃を与えてるのに……」

 

 並のヒュージであれば例えラージ級であろうと既に再生が追い付かず、傷の上から幾度も更に深い傷を刻まれているだろう量の攻撃を囲まれながら浴びせられていても、鶴紗の場合と違いヒュージのリジェネレーターはその勢いを衰えさせる様子がないことに二水は不安がるが、それを払拭するようにその隣へ赤茶のウェーブ髪がフワリと優雅に降り立つ。

 

「ですが、そのためのノインヴェルト戦術でしてよ!」

 

「だナ! 梨璃は今夜鶴紗にもその手を届かせられた。そんな梨璃になら、このパスも受け取れるはずだ、ゾ!」

 

「梅様……皆さんの想い、確かに受け取りました!」

 

 ようやく追い付いた楓の言葉に頷きながら、グルンと勢いを付けて回っての梅からのパス。夜空に弧を描くそれをしっかりとグングニルの側面で受け、そちらを上にするとマギスフィアを手で押さえ付けるように梨璃はマギを込めると、最後にその手を強く握りしめる。

 

「この感覚って……?」

 

 その時彼女の近くにいた二水が感じたのは、4月の戦闘でも受けた梨璃から何かが広がるような感覚。あの時程勢いが強くないのもあって上手く言葉には出来ないが、不思議と悪い気はしなかった。

 

「わたしは一人じゃない。たくさんの人たちに、仲間たちに支えられてここまで来れたんだ……それに鶴紗ちゃんだってもう、わたしたちの仲間なんだよ! 絶対に、絶対に一人で戦わせたりなんてしないからね!」

 

「ああ、分かってる……!」

 

 最後は梨璃から鶴紗へ、CHARMからCHARMへ静かに、転がるようにマギスフィアが託される。そのままティルフィングを両手で持ち、最後の一撃を放とうとする鶴紗──だが、その腕は上がらず、返ってくるのは激痛のみ。

 

「う、ぐっ……限界、か……」

 

 そもそも梨璃が来てからずっと騙し騙しだったのだ。ここ一番でダメになるのも、仕方のないことか……

 そう諦めようとするのを、またしても遮るのは梨璃だった。彼女は自分の手を鶴紗の手に重ね、優しく包み込むようにしてくれている。

 

「梨璃?」

 

「前に言われたんだ。『誰かと手と手を繋げば、どこまでもこの手は伸ばせるんだ』って……だから大丈夫。鶴紗ちゃんだけじゃ挫けて届かない分は、わたしも頑張って届かせるから!」

 

「そっか……じゃあ、最後は二人で!」

 

 その言葉に勇気付けられたかどうかは分からないが再度胸に感じた温かさと共に、少しずつティルフィング越しにマギスフィアが持ち上げられるようになった。

 だとしても傷が完全に直った訳ではないのでその度に痛みは強くなるが、もうこんな痛みなど、梨璃が隣にいてくれるのならなんてことはない。一人じゃ耐えられないそれも、仲間となら平気だから。

 

「させませんわよ!」

 

「「はぁぁぁぁぁっ!!」」

 

 原理は分からずともトドメを刺そうとしている──というのを本能で察知したのか、ヒュージが二人に振り向こうとしたが当然そんなことを黙って見過ごすようなリリィはこの場にはおらず、囲んでの集中砲火の中を雪華と梅のアステリオンとタンキエムによる斬撃が(はし)る。

 

「こいつ、かなりしぶといゾ!」

 

「ならさ──いい加減に、落ちろよぉぉぉぉぉッ!!」

 

 ヒュージ越しに梅とすれ違ったままコンテナの側面とその先に出した足場とを駆け上がり、そこから落下の勢いと回転も加えた雪華のアックスモードのアステリオンでの一撃はその刃を近頃酷使の続いた反動で砕け散らしながらもヒュージを地に叩き落とし、アスファルトの地面を砕きクレーターを作る。

 

「──ッ、これで大人しくしてな!」

 

「皆離れて、巻き込まれるわ!」

 

「承知ですわよ!」

 

 吐き捨てながらアンカーを近くのクレーンに打ち込んだ雪華が離脱し、鶴紗と梨璃がいつでもマギスフィアを放てるよう構えたのを見た夢結の号令に従い、射撃を続けながらも続々と離れる仲間たち。

 それを確認した鶴紗は一度視線を隣の梨璃に向けると、彼女が無言で頷いたのに合わせ何度目かの復活を果たしたばかりで未だ動きの覚束ないヒュージを見据える。

 

「「やぁああああああああああっ!!」」

 

 示し合わせることもなく、お互いの手から感じる確かな繋がりを信じて振り下ろされるティルフィングから放たれたマギスフィアは、狙い違わずヒュージの中心へ着弾しその体を跡形もなく吹き飛ばした。

 本来はおおよそ20m以上とされるギガント級より上の大物に対して使われるのがノインヴェルト戦術なのだから、いくらゲヘナの手が入っていようとそれに遠く及ばないラージ級では、こうなるのも必然だろう。その様子を眺め、昔のことを思い出しながら鶴紗は告げる。

 

「悪いね、結局お前だけ先にあの世行きだ……わたしには、まだ生きなきゃいけない理由が出来たから」

 

 もし死後の世界なんて物があればその内また〈クロコ〉という識別名だったかなあのヒュージと出会うかもしれないが、少なくともそれは今じゃない。だからその時まではこのお節介な『仲間たち』と生きるのも悪くないと、全てを諦めていた鶴紗をそんな風に思えるようにしてくれたのは、隣の──

 

「あっ……」

「うわあ!?」

 

 気を抜いたのはどちらか、あるいは両方なのかフィニッシュショットを放った後巻き込まれないよう後ろに飛び退いていた鶴紗と梨璃は、上手く着地出来ずに揃ってCHARMを取り落とすと、ドサリと鶴紗が下になり梨璃を受け止めるような形で倒れる。

 最後になんとも言えない感じになってしまったが、こうなれば恥ずかしついでだと鶴紗が口を開く。

 

「さっきの話だけど……わたしの父さんは、軍人だったんだ。けど、いつだったか命を賭けて人々を守ったのに作戦の責任を、それ以外にもあることないことを全部押し付けられて、戦犯だって言われて……わたしは、それをなんとか晴らしたくて……」

 

「鶴紗ちゃん……」

 

 二水からの情報として知ってはいても本人から直接、どこか諦めているように言われると梨璃も余計な口を挟まず、続きを待つことしか出来ない。

 

「でも本当は分かってたの。父さんをハメたゲヘナの連中に従っていても、汚名は絶対に晴らせないって……だから多分、『私』はただ理由を付けて、死に場所を探していただけなんだと思う」

 

 そう言って懐から私用の携帯を取り出した鶴紗はそれを放り投げると梨璃に「貸して」と短く告げ、また先程と同じように二人でCHARMを構えてグングニルの引き金を引きそれを射抜く。これでもう、自分から残していたゲヘナとの繋がりも断ち切った。

 

「よかったの?」

 

「ええ、大事な番号は、ちゃんとここに覚えてるもの」

 

 ──だから、これでいい。自分で自分を縛る必要も、死に急ぐ理由もなくなったのだから。そう鶴紗は自分の頭を指差してから、続けて言葉を紡ぐ。

 

「ずっと怖くて、痛くて、苦しくて、でも自分から死ぬなんて真似もできなくて……無茶ばかりしていつか死ねればそれでいい、なんてぼんやり思ってた」

 

「でも今は、違うんだよね?」

 

「……そうね。世界はそれだけじゃないって、思い出させてもらったから」

 

 グングニルを脇に置きながらしばし見つめあっていた二人だが、そんな彼女たちを照らすように水面(みなも)から太陽が顔を覗かせる。

 

「夜明け……」

 

「そうだよ、新しい朝!」

 

 太陽の眩しさに手で顔を庇いながら、昨日まではただ一日が始まるだけだなんて感じるのみだった日の出も、今だけは鶴紗たちを祝福してくれているように思えた。

 

「……それで、いつまでわたしの上に乗ってるの。梨璃?」

 

「え? えーっと、実はもうほとんど動けなくて……ごめんね?」

 

 そのまま腕の力で体を起こすのも諦めた梨璃は謝りながらその体を鶴紗に委ねるようにして、そう高くもない位置からぽすんと降ってくる。

 

「ぐぬぬ……流石にこれはサービスが過ぎるのでは?」

 

 それを遠くから見る楓は露骨に悔しそうにしているが、彼女の肩を左右から掴む夢結と雪華が黙って首を振る様子に何も言えずその場に佇んでいるのが梨璃の頭の向こうに見えて、なんとも騒がしい仲間たちだなと鶴紗の頬も自然と緩む。

 

「鶴紗ちゃん?」

 

「とりあえず、わたしたちもこのままじゃ動けそうにないから助けてもらわないと」

 

「あははは、そうだね……みーんーなー、た~す~け~て~」

 

「言い方」

 

 仲間になって初めての頼み事がこんなのでいいのかと思わないでもないが、笑顔で駆け寄ってくる仲間たちは何も気にせず引き受けてくれるだろうと信じられる自分に気付くと、鶴紗もまた笑っていた。

 

(もう少しだけ、わたしもこの子たちと一緒に進んで行くよ……だから、心配しないで)

 

 そのまま力を抜き切ってぐてーっと伸びる梨璃に押し倒されて夜の闇が晴れて行く朝焼けの空を見上げながら、鶴紗はその向こう側にいるのだろう家族へ届くと信じて想いを紡ぐ──これからはもう、一人ぼっちじゃないから。

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