やりたいこと一つ目を終えて…今回はフラグというか裏方というか、何故こんな感じになっていたかの説明も兼ねた次への繋ぎ。まあ状況としては戦闘終わりのウイニングラン気分なので、長さは自己紹介レベル。
コードネーム〈クロコ〉──ゲヘナにより改造された強化ヒュージの最期をスコープ越しに見届けた後、CHARMを壁に立て掛けながら自身もまたその横へ背中を預けている霊奈。彼女は今、戦闘終わりの雪華と通話中だった。
『とりあえずこっちはこのまま退散するんで、後始末任せちゃってもいいですかね?』
「はいはいお任せを……別にやるのは私じゃないですけど。にしても、学生さんは大変ですねぇ」
『そっちもこないだまで
どうやら気が逸れたのか通信も切れたので、霊奈も耳から端末を離すとため息をひとつ。
「これにて一件落着……でもないんですけどね」
場当たり的な対処しか出来ない身で言うことではないが、こうしたゲヘナの陰謀を本当の意味でどうにか出来るだけのピースはまだ集まっていないのだから、今はこれが精一杯。
「結局、本命には逃げられちまったみたいだな」
そんな霊奈とCHARMを挟んで向かい側、屋上のドアを開けながら入ってくるのは灰色の癖っ毛に男口調な強化リリィ──かつてシルトであった雪華と同じ仕様の隊服に身を包んでいるのが、今回の件の裏で極秘の研究が行われていたとの情報を持ってきた張本人である、烏丸零夜。
「ええ、もう少し早く実行出来てれば……なんてのはたらればですけど」
「悪い、それについては俺の方の問題だ。どうしても掴んだのがギリギリになっちまったからな」
「それだけ急いでいたのか、単なる見切り発車だったのか……そっちは抜かりなかったです?」
「監視してた連中は全員御用だよ。そうやって見下してばかりいるから、足元を掬われるんだっての」
鶴紗が聞いたスピーカー越しの襲撃──それを行っていたのが零夜ではあるが、下っ端ばかりで思ったより収穫はなかったようで、腕を組み開けたままのドアにもたれながら不機嫌な様子を隠しもせずにいた。
「でも、一人は救えただけ前進ですよ。結局、ほとんどあの子たちの力ですけど」
「……分かってる。俺にやれるのなんて、どうせ壊すことだけだからな」
なんて零夜が自虐的に呟くと、いつの間にか目の前に来ていた霊奈が額を重ね合わせてくる。
「そういうのは言いっこナシですよ。名無しの被験者ナンバー07が今こうして〈鳥船霊奈〉としてここにいるのは、他ならぬあなたに助けられてたからなんですから」
ゲヘナ時代、二人は同じラボで実験を受けさせられていた……その縁が今でも続いていると言えば聞こえはいいが、結局零夜を救おうと実家の主導で近場のガーデン複数を巻き込んで行われた救出作戦の際、たまたま他の被験者の中で生き残っていた何人かも救助されたというだけであり、彼女自身が何かをした訳ではないのだから現状への歯痒さの方が勝ってしまう。
「……正直、お前を巻き込んでるのも結構不本意なんだぜ?」
「それこそ心外、というやつです。私は巻き込まれてなんていませんよ、勝手に飛び込んでるだけですから」
そこで霊奈は離れると、手を体の後ろで組んではにかんでみせる。彼女の姿に気負った様子はなく、好きでここにいるだけだと告げていた。
「そうかよ……とりあえずデータの方は問題なかったか?」
「残されてた分は全部、ですかね。とはいえ責任者が誰だとかそういう部分はなしな、概要だけですが」
それが今回霊奈がこの建物の地下に潜入した理由……ここを出港した船の積み荷と、その目的の調査。彼女が端末を操作すると零夜のそれに取れたてのデータが転送されるが、その内容を見た零夜は狐につままれたような顔になる。
「……おい、こりゃなんかの冗談だろ?」
「だといいんですけどねぇ、やってる側は本気みたいなのがどうにも」
ゲヘナには倫理観とかそういった物が欠落している──なんていうのは今更だが、それでもこれは色々と言いたくなるレベルだと、霊奈は肩をすくめていた。
「頭いてぇ……神にでもなったつもりかよ」
「ゲヘナという名前が聖書から取られてるって話からすると、そういう思い上がりくらいは当たり前として、流石に限度って物があるとは思いますが……」
とはいえこうして記録として残されている以上、実験の成否はともかく実行はされてしまったらしい。ことゲヘナ絡みにおいてはいくら非常識だろうと嘘ならばという希望的観測はやめておいた方がいいし、仮に事実ならこれはとんでもない爆弾だ──『命を弄んだ』というケースにおいてそれ以上の物はそうそうないクラスの愚行など。
「
「自分たちはそうはならないと思っているのか、そこまで考えてもいないのかは分かりませんが……まだしばらくは警戒が必要ですかね?」
「だろうな」と零して苛立ち混じりに頭を掻く零夜。どうにも世の中はままならないことだらけだとでも、言いたそうに。
◆◆◆
「で、振り分けどうするのこれ?」
その頃の雪華たちは、帰りの足として楓の呼びつけた車の前で相談中だった。流石に行きより大型のそれを二台も用意しておいて片方に全員詰め込むのはないだろうとして、どういう組み合わせで乗るつもりなのかと。
「そりゃあ勿論わたくしが梨璃さんと「手を貸せ二水。こやつはわしらとじゃ」「し、失礼しまーす!」あっ、ちょっ」
サービスタイムは終わりですわと梨璃の腕を取って車に連れ込もうとした楓が、逆にミリアムと二水に片方の車内へ詰め込まれバタン。とドアが閉められると残された面々の間に漂う空気もまた静まり返るが、言う前からないだろうなーと思いながらも雪華が口を開く。
「……残り七人で向こう?」
「いやいや、流石にバランス考えたら限界は六人くらいじゃないか? CHARMも積まないといけないんだし」
「一理ある。じゃあ私向こうにするわ」
梅の言葉に頷きながら、この状況で綺麗にペアの出来る六人を引き裂く訳にもいかないなと雪華が率先して楓側の車に乗れば、他の面々は残りの方へ。
「それにしても、こっぴどくやられたナ?」
「……まあ、これくらい慣れっこです」
梅の斜め向かいに座る鶴紗の制服は腹部やその裏の背中側にぽっかりと穴が空いており、上着の袖やスカート、ソックスも所々破れていて挙げ句全体的に血が滲んだり飛び散っている。
血は何度か密着している梨璃の服にも多少移っているとはいえ、改めて見ると中々悲惨なそれも『リジェネレーター』で直せるのはあくまで肉体のみなのだからいつものことだと鶴紗はそこまで気にしていない風でいると、向かい側の梨璃からバサッと何かを掛けられる。
「おぉー」
「ん……これ」
「そのマント、返さなくていいって言われちゃってたから。これでお腹冷えないよね?」
梨璃が飛び込んで来る際ヒュージの注意を引くために投げ捨てられた烏丸隊の赤いマント、ヒュージを撃破した後ノインヴェルトの爆風に飛ばされていたらしいそれは存外丈夫だったようで、梨璃のグングニルとヒュージの触手とがぶつかった箇所に破れた跡がある以外そこまでダメージはなさそうだった。
そろそろ夏前ということもあり車内は程よく冷房が効いているが、それ故お腹を出しっぱなしでは流石に堪えるだろうとのことか。
「じゃあ、巻いた方がいいのかな?」
「そう、かもね」
隣に座る雨嘉からの提案に乗ろうとした鶴紗だが、マントを持ち手を後ろに回そうとした直後、分かりやすく痛みに顔をしかめる。
「うっ……」
「鶴紗ちゃん!?」
「まだ、痛む……? わたしがやろっか?」
「ああ、お願い……それと、梨璃は心配し過ぎ。傷は塞がってるから」
とはいえ少し動かせばまだ至るところが痛むし、戦闘直後でマギも回復しきっていないから内側は全然大丈夫ではないのだろう。大人しく雨嘉にマントを胴体へ巻かれると、鶴紗はスイッチが切れたように瞳を閉じて静かに寝息を立て始める。
「ん……すぁ……」
「鶴紗さんも、雨嘉さんには大分気を許しているのね?」
「ええ、羨ましい限りです」
「…………?」
その様子を見た夢結は少し意外そうに言葉を零すが、対する神琳の返しはよく分からない具合に。
「確かに鶴紗ちゃんと雨嘉ちゃん、お風呂だとよく一緒にゆったり浸かってるかも」
「ふーん、あの鶴紗が大人しく? わんわんも意外な才能があるんだナ!」
「わ、わんわん?」
またしても後輩に謎なあだ名──雨嘉の苗字から取ったのだろう物を付ける梅はともかく、梨璃が言った内容から恐らく彼女たちのどちらかかあるいは両方への嫉妬だろうかと、夢結も面倒な者同士として神琳への理解を深めていたら、こちらの準備を待ってくれていたのか車が動き出す。
◆◆◆
港を出てしばらく車内で揺られ、特にやることもないしでボーッとしていると梨璃ちゃんと引き裂かれたせいかアンニュイな感じで窓の外を眺める楓さんはともかく、反対側に座る二水ちゃんとミリアムちゃんはうつらうつらとしていた。
「おや、徹夜慣れしてそうな二人が意外だね?」
「そりゃあ、普段通りなら徹夜明けでもここまでではないんじゃが……」
戦闘後の乗り物移動だから、予想外に眠気が来ると。
「あー、分からんでもないけど、慣れといた方がいいと思うよ? 百合ヶ丘って外征任務多い方だし」
レギオン結成間もないどころかまだ結成直前、鶴紗ちゃんを助け出せたことによりようやくスタメン九人を確保しスタートラインに立つ資格を得た段階で言うには早いかもしれないけど、私たち上級生組が全員その手の任務に慣れっこなのだから遅かれ早かれだと思っているところ、会話に参加していなかった二水ちゃんの頭が不意にこてんと横に垂れた。
「すぅ……すぅ……」
「二水は寝たか。ならわしも……仮眠を取らせて……もら……んぅ」
そのままミリアムちゃんも彼女に続くのを眺めて「起こすのは私って流れかぁ」と観念して頭の後ろに手を回せば、楓さんが窓側に頬杖をつきながら視線を向けてくる。
「あら、わたくしはまだ行けるので雪華様もお休みになって構いませんのよ?」
「上級生の意地だよ、一応ね。ま、このまま話していてもいいけどすぁ……ん?」
楓さんはあくびを手で隠す私よりはマシだと言いたそうにしているけど、ポケットに突っ込んでいた私のケータイが着信をバイブレーションで告げるのだから、何はともあれ出ようか。
「こんな時間に電話ですの?」
「まあ、陽は昇ってるしね。はい、黒紅です」
『もしもし。生徒会の秦祀です、雪華様』
「祀さん?」
「あら、お噂の」
その通話相手は、時々話に上がる夢結のルームメイトにして生徒会役員の秦祀さん。このタイミングかつ生徒会と名乗ったとなれば、主任の方から連絡でも行っていたのだろうか? なんて考えを巡らせているところへ彼女が告げるのは──
『お疲れのところ申し訳ないのですが、皆さんには百合ヶ丘に戻る前に寄って頂きたい場所があるのです』
──それは、世界に打ち込まれたもうひとつの出会いの始まり。
新衣装
解放
黒紅雪華/レイヴンズスーツ