これも今更ですがそろそろ時空混線と独自解釈・展開による破壊具合が激しくなって来ますわ、この子出す時点で察する人は多そうですが。まだ色々と仕込み時…
横浜からの朝帰りになった車内で入った学院からの、祀さんからの連絡──それは近くの浜辺に異常が見られたのを調査して来るようにという内容で、ちょうど外にいた私たちに白羽の矢が立ったということなのだが……まあ、学院側としては今回の無茶を許す代わりに、その分はしっかり働くようにって話なのだろう。
名目上行方不明になったリーダー予定者の救助のためとはいえ、レギオン自体も正式結成前の段階で、所属するメンバーの過去の功績により許された強引な外征──その上一発数千万もするノインヴェルト戦術用の特殊弾まで持たせてもらったのだから、この程度の奉仕活動で許されるのなら安いものか。
「……って、思ってたんだけどなぁ。うぇっ」
調査の理由として昨夜こちらの沖合いでは嵐があったらしく、その影響でここ由比ヶ浜には雑多な物が漂着しているんだけど……その中の“これら”が問題だ。
「ヒュージの亡骸だなんて、高々嵐程度でこんな風に流れ着く物なんですの?」
「自然現象なんぞにヒュージがやられてくれるんなら、わしらリリィもいらんじゃろうに」
楓さんとミリアムちゃんの言うように、朝起きたらヒュージが勝手に死んでいました。なんて都合のいい話などあるはずもなく、辺り一面に転がるヒュージの亡骸は何者かに
横浜で出てきた人為的なレストアのことを考えると、これもあれ同様
「無理そうなら離れて休んでたら……どうです?」
「いや、ゆうべ死にかけてた鶴紗ちゃんだって出てるのに、今回皆を焚き付けた主犯の一人な私が、そういう訳にもいかんでしょ……」
で、この状況の何が酷いってヒュージとて一応生物であり、死骸がそこら中に転がってるということは自然の摂理として時間が経てば腐敗し、その結果なるべくなら味わいたくない類いの臭いが漂う訳で……
ちょうど夏前の暑くなりだした頃に一晩そのままだったろうそれは、中々筆舌にし難い惨状なのですよ。こうしてCHARMを杖代わりに、鶴紗ちゃんの肩も借りてなんとか立ってる状態でえずくのも仕方ないでしょうに。
「あ、お墓はよく海が見えるよう端の方にでも建てといて……ごへぇ」
「いや、死ぬな死ぬな」
ミリアムちゃんからのツッコミに何かしら返す余裕すらなく、ぐえーと俯いていると誰かに背中をさすられたので振り向けば、見えるのは赤と黄のオッドアイ──つまりは神琳さん。
「ん、ありがと……」
「まあ、こればっかりは体質の問題もあるかと」
「でも、このくらいならまだマシな方……」
当然のように彼女の隣にいる雨嘉ちゃんも手で鼻と口を覆っており、私よりマシとはいえ言葉程は平気じゃなさそうだ。
「ふぅ……少しは楽になったかな」
「そうですか、ではこちらはこれだけいれば十分でしょう。雨嘉さん、わたくしたちはあちらを」
「分かったよ、神琳」
確かにこの人数で固まっていても仕方ないなと、先に梅や夢結の行った方に向かう神琳さんと雨嘉ちゃんの二人を見送った後、一応持ち込んではいたものの使われなかったらしい山ほどの荷物を背負っているミリアムちゃんの方を向く。
「で、ミリアムちゃん。なんかないの……?」
「ふむ、万一連中が街中で非人道的ななにがしを使った場合に備えてと渡された、百由様特製のガスマスクが人数分あるにはあるが」
「じゃあ、それでいいや……」
なんの備えだよと言いたくなるけど、ともかくミリアムちゃんの背負うそこまで減らせてない大荷物の中から出されたそれを受け取ると、急いで装着する……よし。
「コー、ホー……」
「やりたい気持ちは分かりますけれど、何故急に古い映画の敵役の真似なんですの?」
「いや、ちょうどレーザーブレードというか私のマギの色も赤系だしやれるかなーって」
等と無駄にナギナタ状態で出していたソードガンを楓さんからツッコミも来たしで光刃を消して軽く回した後シールド裏に納めていると、二水ちゃんが『鷹の目』で見えたのか何かを見付けたように駆け出すので、それを駆け足で追ってみる。
「ん、何事よ二水ちゃん」
「ああいえ、あれを見て下さ……って、雪華様こそなんなんですかそのマスク?」
「生き残りたい。以上」
まあそんなのはいいや。さて、二水ちゃんの見付けた物とは──潰れた半透明のようなブヨブヨの何か。とにかく上手く言えないけど、そんなよく分からないモノが何かしらの残骸に紛れて海岸へ無数に流れ着いていた。
そうしていると私同様に二水ちゃんの様子に気付いたミリアムちゃんたち三人も、同じくそれらを見ては疑問符を浮かべている。
「なんじゃなんじゃ、ヒュージの脱け殻という訳でもあるまいに」
「……繭、か何かのようにも見えますけれど」
「でも、全部潰れてない?」
「ですね……え、ちょ、梨璃さん!?」
二水ちゃんが軽く全体を眺めてから二度見するのは、全滅かと思われた繭のような物の内唯一無事だったその側に、いつの間にか梨璃ちゃんがいた様子。というより、彼女に繭の方が隠れていただけか?
「あー、多分間に合わんでしょこれ」
そんな梨璃ちゃんは恐る恐るグングニルの切っ先を繭に向けており、今から止めようにもそれより先に触れるか、無理に止めようと叫べばそれにびっくりして結局触れるか、なんて近さ。
「しゃーない、ミリアムちゃんは向こうの皆を呼んできて。最悪梨璃ちゃんだけでもすぐ逃がすから」
「合点承知じゃ。まったく梨璃も怖い物知らずというか」
「ともかくわたくしたちは先に行きますわよ。二水さん、鶴紗さん!」
「わ、分かりました!」
「了解。好奇心は猫をも……いや、梨璃の場合犬も歩けばの方か」
ミリアムちゃんに反対側を探している四人へのメッセンジャーを任せると、こっちのメンバーは足早に梨璃ちゃんの方へ……けどまあやっぱり気付くのが遅かったようで、近寄る頃には梨璃ちゃんは触れた感触か何かにびっくりしたのか、反射的にグングニルを繭から離していた。
そして、それと同時に聞こえたのは──
「ん、ルーンの音……?」
見たところ梨璃ちゃんのグングニルはとっくに稼働状態だというのに、なんでまたこのタイミングで? しかし梨璃ちゃん本人はグングニルを眺めて不思議そうな反応をしているのだから、意図した事態ではないのは間違いないだろうが。
「え、今の……?」
「「梨璃さんっ!!」」
「梨璃っ!!」
「み、皆慌ててどうし「梨璃ちゃん、後ろ!」ふぇっ!?」
繭の様子がおかしい。マギかCHARMか
「お、女の、子……?」
「…………?」
こちらに振り向いていた梨璃ちゃんが改めて前を見ると、繭がパチンと弾けた跡には明るめな紫色の長髪を垂らした全身ずぶ濡れの女の子が、生まれたままの姿で首を傾げてそこにいた。
「……どうしてこんなところに子供がいるんですの?」
「さ、さあ?」
「拐われてた、とか?」
「拐ったって、ヒュージが? なんのために?」
私に聞かないでよ鶴紗ちゃん。いくら徹夜明けで頭回らないからって、我ながら流石にこれはないなって思ってるし……なんて頭を抱えていると砂浜を何かが滑る音が聞こえたので、そっちを向けば見慣れた緑髪とその背に乗っかるド級のツインテールが。
「雪華様、みなを連れてきたぞい!」
「なんだなんだ? ミリアムが急いでこっち来いって言うから来たけど」
そんな訳でミリアムちゃんを背負ったままずさーっと駆けてきた梅を先頭に、反対側を調査していた残りのメンバーも集まってくる。
「あら、元気なお子さんですわね」
「……神琳、それわざと言ってるよね?」
「梨璃、これはいったいなんの……?」
漫才やってる神琳さんと雨嘉ちゃんはともかく、夢結の言葉が途中で詰まるのも分かる。いきなりこんなところに全裸の女の子がいたら誰だって混乱する、私だって絶賛混乱中。
「へくちっ」
「わあっ!?」
「……とりあえずタオルか何かない? このままじゃ風邪引くよこの子」
いくら夏が近いとはいえ朝からこれじゃあ寒いだろうなと、くしゃみをした後人肌で暖を取ろうというのか梨璃ちゃんの腰に抱き付く彼女には、ひとまず私のマントでも被せておくか……
──それにしても、これまた鶴紗ちゃんの案件同様録でもない何かの前触れなのやら。
◆◆◆
さっきの子についてはあの後すぐ気を失った事もあり、衰弱具合から結局ガーデン側の医療班に丸投げするしかないと、送り届けた後はもうお手上げ状態。
そういう訳で今は特にこちらから眠り姫にアクションが取れるでもないと、何か言い様のない引っ掛かりを感じながらもリリィとしての学生生活に戻っての放課後──
「百由様ー、おるかー……返事がないのう」
「でしょ? 思えば演習場での一件から百由のこと外で見掛けてないし、まーたなんかやらかしてないか心配なんだけど」
あくび混じりに午後の訓練をこなしていたら用事があると百由からメールが入っていたので、終わり次第工廠科の地下にある彼女の工房へ向かいドアを叩いたのだが返事がなく、電話も応答なしな上に鍵も閉まっているからとお隣に工房を構えるミリアムちゃんにどうにかしてと連れ出したのが、今の状況。
「まったく百由様はしょうがないのう……こんなこともあろうかと、合鍵を作っておいてよかったぞい」
「よし、カチコミじゃー」
特に意味もなくメンテ帰りのグングニル・カービンをクルクルクルクルと回しながら気合いも空回りさせていると、ツッコミもなくそそくさと鍵を開けたミリアムちゃんが工房へ入っていく。
「のうもーゆーさー……ま?」
「ん、どしたの?」
作業台の影にでも倒れているのかと、そこを覗き込んだまま固まったミリアムちゃんに続けば、姿が見えたのは床に突っ伏している長髪が二人……二人?
「いや、いったい百由に何されたのさ依奈?」
「く、薬を……」
誰かと思えば、アールヴヘイムのプランセス。しかしそこら中にCHARMのパーツらしき物が散乱しているのは百由の工房じゃ日常茶飯事だからともかく、件の依奈はどこか痛むのか見覚えのないヘッドセットを付けた頭を押さえながら、自力では立ち上がれそうにない状態だ。
「で、その薬とやらは机の上の──これか。ねえミリアムちゃん、この薬大丈夫なやつ?」
「うむ、何度か見たことはあるが単なる痛み止めじゃな。そもそもいくら百由様とて、雪華様の危惧するようなアブナイ薬はそうそう持ち出せんじゃろ」
いや、むしろ百由だからこそアウト判定食らいそうではあるけど。
ともかくその錠剤と近くに置いてあるミネラルウォーターのペットボトルを依奈に渡すと、倒れたままながら口に薬を放り込むと素早く水で流し込んでいる。なんか手慣れてない?
「んぐっ……んぐっ……ぷはっ、助かりました」
「で、こんなになるまで何してたのさ? しょっちゅうこうなってそうな百由はともかくとして」
「まあ、その百由に頼まれたからなんですけど……百由?」
なんてヘッドセットを外しながら体を起こす依奈はもう大丈夫そうだからともかく、聞こえてるのなら何かしら反応するだろう百由の方を二人して見れば「モーユーサーマー」と呼び続けるミリアムちゃんに何度もユッサユッサされているが、一向に目覚める気配がない。
「こうなりゃ昔ながらの斜め45度しかないか」
「いや、そんなことにCHARM使う人初めて見るんだけど?」
そこら辺に置いてあった整備中なのかパーツの外れてあるほとんど棒なアステリオン──多分今朝預けたやつを持って素振りをしていると、依奈に敬語も忘れてツッコまれてしまう。
とはいえ流石に己が身の危険を感じたのか、ミリアムちゃんのユッサユッサの勢いが残像出るくらいのおかしなスピードになってきたからかはともかく、百由がズレにズレていた落ちかけの眼鏡を直しながら上半身を上げたので、この物理的に過ぎる緊急ミッションは実行されない訳だけども。
「んぁ……せかいがまわるぅ…………あー、ぐろっぴ? いまなんじ……」
「大体17時前じゃ。依奈様まで巻き込んでいったい何をやっとるんじゃ百由様」
「にゃにって、そこのそれ」
まだ意識がハッキリしないのか若干呂律が怪しい百由だが、指差すのは依奈の近くに落ちている縦長の盾。ひっくり返って裏側に嵌め込まれたコアが見えていることから、CHARMだというのは分かるが。
「──てかこれ例の新型じゃん。テストなら私呼んでくれてよかったのに」
よく見ればそれは4月に私が百由に預けた機体で、ほとんど二月近く経ってようやく順番が回ってきたようだ。
「いや、第4世代CHARMは某夢結様以上に気難しいからのう。こないだ百由様の作った機体を使っておった依奈様がまずは、というところじゃろ」
一切隠す気がないし──その時シルトとの団欒を楽しみにしている誰かさんがくしゃみをしたのは、今の私たちには関係のない話。
「ま、そんなところね。今は安請け合いしたの後悔してるけど……いくらあたしの『
「円環の御手ねぇ」
依奈に同じくな私の持つそのレアスキルと強引に第3世代相当、あるいはそれ以上に仕上げられたライザーによる複数CHARMの同時並列使用への慣れ──それが私がこの新型というか試作機のテスターに選ばれた一番の理由らしいけど、それ以外にも広域化のスキルである『約束の領域』やマギのあれこれに関与するとされる『聖域転換』といったサブスキルの保有者であり、それ以外の諸々も合わせて見て私はこのタイプの装備への適性が非常に高いとのことだが、イマイチ一部の繋がりが分からない。
「大体ピキーン的な感覚なら、百由も持ってる『この世の理』とかはどうなのさ?」
「あー、そういえば試した記憶ないわねー。でも多少動かしやすくなるとは思いますけど、数って意味ならサークリットブレスには及ばないかなー?」
話す合間に工房に備え付けの冷蔵庫からエナドリを数パック一気にキメて復活した─そんなだからブッ倒れるんでは?─ともかく百由としては、一応今後のチェック項目にはなったらしい。
まあ、近頃百由自身が手ずから仕上げ御台場のレギオンに提供した第4世代の機体は子機の数をメインのコアひとつに対して一基と、一般的な複数運用タイプの第3世代CHARMと同様の割り当てにする事で円環の御手持ちでなくても気軽に……かはともかく比較的安全に扱えるよう、負担を抑える方向のアプローチをしているようだけど。
が、設計段階で百由でなく企業──というより大半が主任とあたしの“趣味”による産物なこの機体は、親機が一に子機七基でその方向性が完全に真逆。
その内のひとつは私が使ってるソードガンの後継モデルな手持ち装備だからまだしも、小型とはいえソードタイプのビット六基も追加となるとこの前円環の御手の力をもって最大五基のビット兵器を実戦で同時に使用した依奈とて、急にやれっていうのはお手上げのようだ。
「いや、本体のシールドとソード使って自分自身も戦闘しながら、平行してビット複数の制御もしろってのはかなりヤバいコンセプトでしょ」
一方依奈の使った百由製作の第4世代CHARMであるエインヘリャルはビット制御に全振りな使用中の本人の戦闘行動はほとんど考慮されていない仕様だったらしいし、この新型のビットと共に戦場を駆け回れという正反対なコンセプトではその経験も活かせるかというと微妙なところか。
「あのー、世界でもトップクラスに第4世代慣れしてるだろう、天下のプランセス様のコメントがこれなんだけど?」
「だーかーら約束の領域持ちな雪華様に頼んでるんでしょ? 流石に『テスタメント』持ちと常に二人三脚ってのは、試すまでもなく絶対効率悪いし」
確かに私自身たまに約束の領域で他のスキルを受け渡すこともやるしで言いたいことは分かるけども、サブスキルとはいえきっちりリソース食われるのだから完全に影響ない訳じゃないんだけどなぁ。
「防御面の心配ならこのビット自体グリップを展開しての手持ち使用も想定されてて下手なCHARMより強靭だし、個別にバリアも張れるしでそっちでフォロー利きますよ?」
「それを使うために本体の防御削ることを考えたら、若干本末転倒ではないかのう?」
ミリアムちゃんの言うことはもっともだ。けどまあ、あたしの趣味的にはビット兵器というのはものすごーーーーーーく魅力的なので、そんな物の使い手になれるだなんて言われれば多少の躊躇いだって消し去れてしまう。
なのでとりあえず床に落ちたまんまだった本体のシールドと、依奈が外していたビット制御のためだろうヘッドセットを手に取る。
「で、これどうやるの?」
「あ、今日はそもそも雪華様の脳波データ取るだけですよー。流石にちゃんとした調整もせず、ぶっつけで使える代物じゃないですし」
これでも基本となるマギクラウドなんたらを使っている第3世代CHARMや、この間の稼働データなんかも使って開発当初と比べ大分制御難度は易しくなったらしいけど、それでも脳波でコントロールをする以上通常のCHARM以上に個人個人へしっかり合わせた調整が必須らしい。
それも無しにぶっつけ本番などやればどうなるかなど……わざわざ第一人者な百由の前で言う話でもないか。件の彼女こと冬佳も、まだまだリハビリの最中らしいし。
「ふむ、しかし円環の御手の対象拡大か……考えたこともなかったなぁ」
「そうなのかのう? 雪華様のことじゃからライザーを使いながらのカービン二挺持ち一斉射撃くらい、とっくの昔に試しておるとばかり思っておったが」
「ライザー使う時は前線に立ってばかりだったし、乗り換えてからは防御薄くなるデメリットの方だけ気にして若干持て余してたのは否定しないよ。うん」
そもそも、ある種相反する防御強化の聖域転換が私の一番使うサブスキルな時点でお察しくださいである。とはいえ試してみる価値は大いにありそうだと、今後の楽しみが増えたということにしておこうか。
なんて結論が出たところで、手に持ったままだったバラし中のアステリオンを手に百由へ振り向く。
「あ、ところでこの子の代わりだけど」
「そんな毎回すぐには用意できませんよ? 大体今はアールヴヘイムの遠征前だしで、依奈にも結構無理言って時間取って貰ってるんですから」
「あっはい……ん?」
なんて話をしていると、工房のドアが開き入ってくるのは見慣れない制服の上からダボり気味なパーカーを着崩した、銀の長髪──
「百由、さっき届いたCHARMなんだけど」
「あれ、
ああいや、思い出した。
本来の所属は新潟県全土を守る〈
「『
百合亜……ルド女って〈東京御三家〉のガーデンのことだし、麻嶺も参加してた迎撃戦繋がりの? とはいえ本人の言うように今はその話はいいか。
「なるほど、結構バタバタしてるみたいだし救援登場って訳だ」
「どうしてもうちのCHARMは癖が強いもの、大一番の前ってなるとちゃんと設計者に見てもらわないと」
「あー、そんなこと言ってると弥宙ちゃんたち泣いちゃうわよ依奈?」
まーた百由は後輩をちゃん付けしてるし。その基準はどこだよとツッコむより先に、麻嶺が床に落ちていた新型のビットを拾って寸評している。
「ふーん、このデザインの癖は烏丸のCHARMね。近頃動きがないと思ったら第4世代を……でもこれ、子機の数多すぎない?」
「問題はそこなのよねぇ……雪華様、とりあえずテストの方は最初稼働数絞って、何基かは飛ばさず手持ち使用のみで行きたいと思いますんで」
「え、あ、うん」
そのままあれよあれよと話は進んでいるけども、まあ結局現場専門のリリィな私のやることなどアーセナルが調整したそれを限界まで使い倒すだけなのだから、その限界を向こうから言われたのなら黙ってそれに従うだけである。
◆◆◆
それはそれとして、病室送りとなったのは件の厄ネタそうなアンノウン少女だけでなく、私たちの側にも一人いるからとその子のお見舞いに百由の工房を出てから向かった訳なんだけども。
「──お邪魔しました?」
「……待って。この状況はわたしが聞きたい」
大事を取って今日一日は安静にしておけと、学院に戻った途端保険医の先生にベッドへ叩き込まれていた鶴紗ちゃんの横には、椅子に座りながら上半身をベッドに乗せてスヤスヤと幸せそうに眠る見覚えしかないピンクのサイドテールが一人……まあ梨璃ちゃんなんだけど。
「とりあえず話は聞こうか」
「……起きたら、梨璃が寝てた」
ふむ、状況を見るに多分梨璃ちゃんも鶴紗ちゃんのお見舞いに来たものの、肝心の鶴紗ちゃんが寝ていたしで起こすのも忍びないと見守っていたら、ゆうべの疲れもあってそのまま自分もスヤァ……ってところだろうかと、腕を組みながら頷く。
「ま、楓さん辺りがまたぐぬぬしそうな案件ではあるけど、他意がないなら猶予付くでしょ」
「なんの猶予だ……」
「とはいえ、思ったより元気そうだね?」
「……食事は、好きにしていいって言われましたから」
少し恥ずかしそうに視線を逸らす鶴紗ちゃんの周りには、私たち以前にお見舞いに来た誰かしらが置いて行ったのかお菓子なりの差し入れが結構な量積まれており、ゴミ箱にもその残骸らしき物が詰め込まれている。なるほど?
「『リジェネレーター』って、確か燃費悪いんだっけ?」
「というより、再生に色々エネルギー使うから……簡単に言えば、お腹が空く」
あぁ、あの子を見付けて車に戻るまでの途中梨璃ちゃんと雨嘉ちゃんに左右から支えられてたのって、眠さとかよりそっちか。
「なるほどね? ならこれはちょうどいいでしょ」
そう言って鞄から取り出すのは、何故か購買に置いてあった業務用サイズの板チョコ。普通に考えれば花の女子高生とっ捕まえて渡すようなカロリーじゃないけど、そんな事情なら大丈夫だろうと。
「……汚さないように食べるの大変だとは思うけど、つい勢いで」
「そんなことだろうと思いましたよ……それと、ひとつ聞いていいですか」
他の皆がいない、あるいは寝ている梨璃ちゃんだけなこのタイミングで私に聞きたいこと──となると。
「夜中、何かあった?」
「はい。梨璃や先輩たちが来る前、ゲヘナの仕掛けていた監視装置が誰かに狙撃されて、その上ゲヘナの連中も直接襲撃されていた……どこまでがそっちの仕業?」
「前者は私の同行者、後者は……多分私の元シュッツエンゲル。寮ですれ違ったことくらいあるでしょ?」
強化リリィに限らずワケ有りの子たちが入ることになる〈特別寮〉──確かそこは中高問わずだったはずだからと鶴紗ちゃんに聞けば、その返事は首肯。
「……遠目にも、随分ギラついた人だなとは」
「隙あらばカチコミ考えてた人だしね、そうもなるか」
主任から裏で動いているのを聞いたも同然とはいえ、卒業後は実家の仕事もあって少しは落ち着くかなと思ったら、むしろエスカレートしていたというのが現実になる。
「ま、姉さんが狙った以上今回の件は真っ黒だったと」
「……そうなんですか?」
「あの人基本相手に泣き付く隙与えないからさ、襲撃するのは大体バックが薄いか崖っぷちな連中。ふん縛って情報だけ吸い出したら、あとはいっつも反ゲヘナ勢力のどこかへポイ捨てよ」
その後どうなるかは、そいつらのやって来たことがそのまま自分に跳ね返るだけ──つまりは自業自得だと、あの人はよく言っていた。
「烏丸零夜様、か……シルトだった先輩からは、どう見えてたんです?」
「どう、かぁ。身勝手な大人の悪意に怒りの炎で立ち向かう人……ってのは少し夢見すぎかな?」
多少美化した言い方にはなるが、根本的に世界の悪意への『怒り』が姉さんの原動力であり、ゲヘナの悪意
「だから多分、あの人が救われるのはどういう形にしろ
「……そこまで、ですか」
「そこまで、だよ。だから私はあの人に守られるシルトではあったけど、彼女を守る盾になるには小さすぎた」
私自身こんな世界を造り維持することにばかり躍起な大人『は』滅んでしまえと思うし、だからこそ姉さんを止めようという気にもなれない。いくら御大層なお題目を並べようが、私たちリリィをくだらない欲望のままに切り刻むことなんて許されるものか。
「ともかく、うちの隊長に言えるのはそれだけ。あの人が卒業してからはそっち側に巻き込みたくないからなのか、連絡も避けられがちだしね」
なんてお手上げですとポーズで示して締め括ると、しばらくしてベッドの上の梨璃ちゃんが目を擦りながらモゾモゾと起き上がる。ようやくお目覚めのようで。
「んみゅ……あれ? ここどこ……」
「おはよ。随分寝てたね?」
「せ、雪華様……うわわ、鶴紗ちゃん!? ふ、二人ともなんで!?」
寝起きで混乱しているのかキョロキョロしている梨璃ちゃんだが、流石に寮の部屋とも教室とも違う光景となると、気付くのも早いようだ。
「あっ、そっかお見舞い。ごめん、鶴紗ちゃんが気持ち良さそうに寝てたから……つい?」
「まったく、気抜きすぎなんじゃない?」
そう言いながら頭を拳でコツンと軽く押せば「あはは……」と申し訳なさそうに頭を掻く梨璃ちゃん。まあお疲れ様と言うべきなんだろうけど、外出る度にそれじゃあ大変だよと……ん?
「起きてるよー」
「いや、それわたしの台詞……」
なんてやっていると聞こえた慎ましげなノックの音に鶴紗ちゃんに代わって勝手に返事をすれば、揃って入ってくるのはもう随分と見慣れた二人組。
「し、失礼します」
「失礼致します」
「あ、雨嘉ちゃん!」
「と、神琳か。なんの用だ?」
梨璃ちゃんに手を振られて歓迎されてる雨嘉ちゃんの方はともかく、話に聞く限り普段から散々変な絡まれ方をされていることもあってか神琳さんには流石の鶴紗ちゃんも警戒心むき出しで、私や梨璃ちゃんの影に隠れるようにベッドの上で体を動かしている。
「いえ、約束を果たして頂こうかと思いまして」
「約束って……あぁ」
そんな神琳さんが両手で持っているのは、クリップ付きのファイルに挟まったレギオン加入のための契約書。そこにリーダーな梨璃ちゃんと共に署名すればようやく彼女も正式にレギオンメンバーとなり、そうして出発前の約束は果たされると……いや、それはそうと約束したの神琳さんじゃなくね?
「ん、分かった」
「はい、鶴紗」
ともかく今更逃げる理由もないが、神琳さんでは警戒されているからと中継役になる雨嘉ちゃんからそれを受け取った鶴紗ちゃんは、クリップ部分に引っ掛けてあったペンで契約書に自分の名前を書くと最後に右手の指輪でルーンの判を押して梨璃ちゃんに渡す。仕組みはよく分からんけど、便利よねそれ。
「梨璃、あとお願い」
「うん!」
そのまま梨璃ちゃんも同じようにすると、感無量という風に契約書を両手で持って掲げていた。
「これでわたしの、わたしたちのレギオンがようやく始まるんだ……!」
「まだいくつか追加で書類の提出が必要ですし、本来人数だけなら既に揃っていたはずなのですが」
「んぐ……だから私は来年いなくなるからのサブ希望だって言ってるでしょ?」
お役所仕事についてはともかく、流石に「レギオンに残りたいから留年します」なんて情けないことも言ってられないし、来年にはリリィとしての衰えも出てくるだろうから仕方ないと言い張るが、こっちを向いて半端に閉じられる神琳さんの二色の眼は「本当にそれだけですか?」と言いたげだ。
「ところで、今更だけど本当にわたしでよかったの?」
「うん、鶴紗ちゃんがいいの!」
まあ、嬉しそうに鶴紗ちゃんの手を取る梨璃ちゃんの姿が見られたのならそう悪い気はしないから、私はまだしばらくこのポジションでいるとしようか。