アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:拾い物と通りすがりと当面のキャスティング完了と。
彼女に関しては正直言うと展開含め色々ツッコミたいことはありますけど、個々の属性としては好きな部分もありはしますし、ハマる人はハマるタイプだろうなぁとは。
あと、各メディアにちりばめられてる情報的にそろそろかなというネタも──



それぞれの行き着く先で

『例の少女が目覚めました』

 

 というのが彼女を拾ってから数日後、私たちのレギオン──名前はまだ決まっていないそのメンバーに周知メールとして流された物の、一番下に添えられた一文。

 チャット越しでの話し合いの結果、代表して隊長の梨璃ちゃんと最年長の私とがその様子を見に行くことになったので、昼休みになりメールに書いてあった部屋を探せば──

 

「ここか」

 

 素性が分からない故に名札がなくとも、流石に正解を見ながら間違えるなんてことはないだろうとドアをノックすれば「どうぞ」と治療室の中から落ち着いた声が。勿論くしゃみを聞いただけなあの少女の声ではないけど、聞き覚え自体はある。

 

「失礼します。どうにもすいませんね」

 

「いえ、こちらの仕事でもありますから」

 

 そんな風に私を迎えるのは肩まで伸ばすふわりとしたグレーの髪に紫の瞳な、新学期から何度か電話越しに話した相手──(はた)(まつり)さんである。つまりは生徒会、ひいてはガーデン側としても件の彼女のことには色々と注目しているようだが、そんな拾われ少女は今ベッドの上でキョトンとしている。

 

「おー?」

 

「ごきげんよう、素面だとはじめましてかな? 私がそのマント貸してあげた人こと、黒紅雪華だよ」

 

「んー?」

 

 壁に掛けられている私の貸したマントを指差しながら挨拶をしてみるが、返ってくるのが首を傾げたままのなんとも言えないリアクションばかりなのはなんなのかと、隣の祀さんを捕まえて二人でひそひそ話。

 

(……なんか反応軽くないです?)

 

(そうですね……私や梨璃さんが話し掛けても似たような感じでした。恐らく、今の彼女はまともに喋れない状態かと)

 

(梨璃ちゃん? 先に来てたのか。それにしても、まともに喋れないねぇ)

 

 本人に伝える術がない以上なんとも言えないが、漂流による一時的なショック状態故なのか『何かをされてそうなった』のかで色々と状況は変わってくるだろう……どちらにせよ、こんな小さな子にして許される所業じゃないことに違いはないけど。

 なんて心の奥底でまた怒りの炎がチラチラしだしていると、少女に背を向けて話していたことで目の前になるドアが空き、昼食のトレーを両手に持つ梨璃ちゃんが入ってくる。

 

「お待たせしまし……あ、雪華様来てたんですか?」

 

「梨璃ちゃん?」

 

「り、り!!」

 

 今の状態でも同じ音を繰り返すだけな梨璃ちゃんの名前は言いやすいようで、ベッドの上の子も彼女の姿を見るやかなり嬉しそうに呼んでいる。

 

「あはは、待たせちゃったかな? あ、おふたりも昼食がまだでしたら今の内にどうぞ」

 

「ん? まあ任せていいんなら、だけど」

 

「はい! これでもわたしお姉ちゃんですから、下の子の面倒見るのには慣れてます!」

 

 ベッドの上の机に二人分のトレーを置いてから少女側に寄せる梨璃ちゃんにむんと自信満々に告げられては無下にするのも悪いかと思い、祀さんの方を見ればコクリと頷かれたのだからそれでいいのだろう。

 

「じゃあお言葉に甘えて。なんかあったら連絡してよね? それよりナースコールのが早いかもだけど」

 

「分かりました!」

 

 そのまま部屋を出ると廊下にコツコツと二人分の靴音を響かせながら、私たちのやり取りに口を挟んで来なかった祀さんを横目で見る。

 

「で、二人に聞かせたくない話があるって感じです?」

 

「そうですね……まず例の少女についてですが、ここしばらくの行方不明者で彼女に該当する人物はいませんでした」

 

「意味深だねぇ。いなくなったのがしばらくじゃないのか、届けも出されていないのか……となると、良心の呵責に耐えかねた研究員辺りに逃がされた被験者、なんて可能性も?」

 

「今の情報だけでは、なんとも。一人の独断であれば隠れ蓑の企業を通して捜索の要請くらいは出ていそうな物なのですが……そういえば昨夜、雪華様が見たのは空のドック、でしたか」

 

 ああ、やっぱりその情報は共有されてたか。結局あそこで何が行われていたのかまでは教えて貰えなかったから、祀さんというか学院側も同じなんだろうけど。

 

「そうですね……ま、教えてくれたのはそれだけですけど」

 

「そしてあの漂着物の中には、人工物も結構な数が混ざっていたと報告にはありましたが」

 

 そういう風に言われれば皆まで言われずとも理解はする、ピースを填めろと言わんばかりに事実が並べられているのだから。

 

「つまり、あの子が『積み荷』だったと?」

 

「状況としては大いにありますし、仮にそうだとするのならゲヘナ絡みの案件なのはほぼ確実です。なので彼女のことは今はガーデン内で留め、他言無用でお願いしますね」

 

 裏の話はここまでとして、話を彼女のこれからに移すとあの子のスキラー数値──主にレア・サブスキルの扱いに関する数値で、50以上あればCHARMが使えリリィとして認められるそれはちょうどギリギリのラインな50であるという。

 であれば百合ヶ丘の権利として彼女を『天涯孤独のリリィ』という立場として保護することは可能であり、学院に生徒として通わせることも出来るとのことだ。

 

「となると、やっぱり特別寮へ?」

 

「はい、セキュリティの最も強いエリアに部屋を用意します」

 

 表向きは学費などの都合で入ることになるとされる特別寮だが、学院に保護された強化リリィや心身の問題で療養の必要な生徒などが所属するのがその実態で、彼女の場合強化の有無はともかく間違いなく只事ではない背景を抱えているのだから、そういった事情から外部の接触を遮断しやすいそこへ入ることになるのだろう。

 

「それと、学院生活では梨璃さんたちと同じクラスを予定していますし、レギオンでの活動もそちらでお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「いいっちゃいいですけど、随分と手回しがいい……まさか、同盟の話もそういうことです?」

 

 祀さんのことを生徒会役員とは言ったが、その詳細は百合ヶ丘の生徒のトップたる〈生徒会三役〉がひとつ、事務仕事などを受け持つ最も普通の生徒会らしい役割な〈オルトリンデ〉の代行というかなり高い地位になる。慣れない敬語なのも、まあそういうこと。

 で、その彼女が隊長なレギオンであるエイルと結成したてなうちの隊で同盟を……という話が上がっているのは、どうにも色々裏を勘繰ってしまう訳で。

 

「あら、そちらは夢結さんに頼まれただけですよ? まだリリィとして不慣れな子も多いからと、時々でいいからうちの隊と合同で訓練をして欲しいと」

 

 しかしそれはこっちからお願いした形になるらしく、夢結が彼女と同室だということも考えれば特に不自然でも……というか、そのことを話す祀さんかなりご機嫌だし。

 こうしていると生徒会だのな堅苦しい肩書きより、年相応な面が見えるなと釣られてこっちの言い種も少し柔らかくなる。

 

「夢結に頼られたの、そんなにいいことだった?」

 

「ええ、とても。だってあの夢結さんからのお願いですよ? お礼だって今年度の頭に言われたので何時ぶりかだったのに、今度はもっと素直に私のことを頼ってくれたんですよ?」

 

「ははぁ、そっちも苦労してるんだねぇ」

 

 確か祀さんが同室になったのは高等部に上がってしばらくしてからとはいえ、あの時期の大分メンタルがやられていた夢結と一年近く一緒というのはかなりのハラハラ物だっただろう。それが今はこうして素直に周りを頼れる程落ち着けたのなら、笑顔の理由にもなるか。

 

「ま、それはそうと私たちで見付けた以上、彼女については責任持つつもりではいますけど……梨璃ちゃんには?」

 

「先程、彼女の食事を取りに行く前に今言った話の表側の説明は済ませています。二つ返事で、こっちが心配になるくらいでしたが」

 

「あはは……ま、今の梨璃ちゃんってばお姉ちゃんモード発動しちゃってるしね、仕方なくはあるか」

 

 それにそこまで囲う用意をしている以上、警戒が必要なら私辺りにやれと言っているのだろうし……だから、万一の時は全てを背負うとしようか。なんて考えていたのが顔に出たのか、一瞬むっとした表情を見せた祀さんにやんわりと注意される。

 

「あまり気にしすぎるのもいけませんよ? あの子は身体をゲヘナにどうこうされているのだろうとしても、見ての通り普通の女の子ですから」

 

「……そんなに分かりやすいかね、私」

 

「はい、かなり」

 

 まあ、気負いすぎるのも良くないか。何かあったらその時に考えればいい、今はひとつの命を救えたことだけを素直に喜ぶべきなのだろう。話している間に学食も見えてきた訳だし。

 

「さてと、それはそれとしてお昼にしますか」

 

「雪華様はまたカレーですか? ずっと同じメニューでは栄養が偏ってしまいますよ」

 

 そんなに言われる程有名なのだろうか……こないだのインタビューのせい? なら今日はカレーうどんにするか。そういう問題じゃない?

 

◆◆◆

 

『こっちはオッケーです、いつでもどうぞ!』

 

「「はぁっ!!」」

 

 放課後の訓練スペース──百由の代理を押し付けられたという工廠科一年の子のスピーカー越しな合図を聞いてCHARMを両手に打ち合うのは、私と汐里ちゃん。とはいえ目的が新型のテストということもあり、お互いの装備は普段と違っているが。

 私は右手に新型の本体になるシールドと左手にその子機のひとつであるソードガンの発展型──より長く大型な『ソードライフル』を持ち、対する汐里ちゃんは右手にダインスレイフ・カービンを、左手にはいつものテーピングでティルフィングのショートブレードを固定していた。

 

 ちなみに言うと、ティルフィングの刀身パーツは今修理に出しているとか。あの後席を探してる途中に見掛けたミリアムちゃんが「また汐里のやつがCHARMをあじゃぽじゃにしおった~!」って二水ちゃんとご飯食べながら嘆いてたし、まあそういうことなんだろう。

 

「汐里、もうあまり時間がないのだからそんな先輩さっさとやっつけちゃいなさい」

 

「やっつけて……って、今日は雪華様の新型のテストだよね?」

 

 そんな風に汐里ちゃんを焚き付け、汐里ちゃんからの反応も気安いのは深緑の髪を二本のおさげにして肩から垂らしている……あれ、この髪型実は結構人気? この子は茜たちとは違って、汐里ちゃんみたいに三つ編みに結んでるとはいえ。

 ともかくそうして壁際で不機嫌そうに腕を組んでこの手合わせを眺めているのが、汐里ちゃんのルームメイトにして水夕会のメンバーでもある一年の牛田(うしだ)琶月(わつき)ちゃん。曰く大型のCHARMばかりを好んで扱うパワータイプのリリィらしく、なんかこう圧が強い。

 

「でも、予定があったんなら長引かせるのも悪いかな……さて」

 

 新型の調整に時間取られていたのは事実だし、急かされるのなら先輩の余裕として応えてあげるとしましょうかと、シールドを斜めに背負ってヘッドセットに触れバイザーを降ろすとシールドがキャリアーを兼ねる六基のソードビット──先端の二基以外バイザーに表示される情報では飛行機能にロックが掛かっているが、約束を破るつもりは元よりないのだから予定通りその二基に意識を集中させる。

 

「行けよ、ビット!」

 

「へぇ」

 

 二基のソードビットはそれぞれが意思を持つように─実際私が意識を向けて操作している訳なんだけど─背中のシールドから飛び出すと頭の中で思い描いた通りの軌跡で汐里ちゃんへ迫るのを見て、琶月ちゃんが思っていたよりは動いているのに対してか声を溢す。

 

「──っ!」

 

「やぁっ!」

 

 しかしどうにも軌道はともかくタイミングにはまだ少しズレというか思考の引っ掛かりを感じているのもあり、フェイントのつもりな動きのまま失速したビットは汐里ちゃんの二刀流の前に敢えなく弾かれて一基は床を転がり、もう一基は空いた右手で軽く頭を押さえる私の元へ飛んでくる。

 

「ならさ!」

 

 落とされた方には空中への復帰を命じ、もう片方にはグリップの展開をさせると弾き飛ばされて来るのを逆手に掴んで跳び、そのまま回転の勢いを乗せて上から突き刺すようにソードライフルと合わせた二刀を振るう。

 

「おっと」

 

 とはいえ刃渡りに関してはショートブレード相手でようやく互角か少し負ける程度、加えて本体か子機かの差もあって上からというのに若干押され気味。

 そして反対側で打ち合うソードライフルも長さはともかく厚さに関してはカービンタイプであろうとそこまで変わらないダインスレイフ相手だと、何よりそれを振るうのが汐里ちゃん(不動劔の姫)だというのなら心許ない……なら、行けるかどうか試してみようか。

 

「そらっ!」

 

「……てやぁっ!」

 

 死角から飛翔するソードビットに合わせ、後ろに飛び退きながら右手のソードビットも投擲、それを汐里ちゃんが二刀による回転斬りでまとめて弾くのを見て、再度の突撃指示に合わせて私自身もシールドを右手に構え突貫する。

 圧倒的な手数をもって捉えた相手を動くことも許さずに仕留める──それ故の〈不動劔の姫〉。ならばそんな汐里ちゃんのスタイルに対抗するには、こちらも手数を増やすしかない。シールドにマウントしたままのソードビットもそのままで十分ブレードとして使えるのだから、射出しているビットも合わせた三方向からの実質的な四刀流で「雪華様~」ん?

 

「梨璃さん?」

 

 私の背後、入り口側から聞こえた声に汐里ちゃんの雰囲気が抜け、私もビットの制御を手放しながらヘッドセットを外して振り向けば、そこには手を振る梨璃ちゃん。はて、何か予定があっただろうか……予定?

 

「え、待って。今何時何分?」

 

「はぁ……」

 

 琶月ちゃんのやれやれと言いたげなため息を聞きながらケータイを取り出すと、()()()()()()()()だというのが分かった。

 

「うげ、やらかした!? 出発前に直接会うつもりだったのに」

 

「あたくしたちは下から見送ればいいでしょう。行きますわよ汐里」

 

「う、うん。えっと、雪華様は急ぐのは分かってますけど、怪我だけはしないでくださいね?」

 

 なんて信頼されてるのかされてないのかな言葉を残して汐里ちゃんたちは先に行くけど、こっちはどうしたものか。

 

「とりあえず、これ百由んとこ返しといてくれる?」

 

『……分かってますよ、分かってましたとも! 百由先輩に逆らえなかった時点で、この件は最後までわたしがやらないといけないってことは! ああもう、わたしだって見送り行きたかったのにぃ!!』

 

「あ、あはは……」

 

 まあ、データのまとめや新型の返却なんかは窓越しな押し付けられてた子に丸投げとして、入れ替わりに壁へ立て掛けていたライザーを腰のアーマーに付ける。

 

「雪華様?」

 

「よし……時に梨璃ちゃん、()のガード大丈夫?」

 

「ふぇ? 今はかぼちゃパンツ履いてますけど……うわぁ!?」

 

 答えを聞き切らない内に部屋の外を見て廊下にある開け放しの窓の縁へ袖口からアンカーを射出、梨璃ちゃんを背負ってそこから外へ飛び出す──彼女を巻き込んだ理由? いや、その場の勢いで、つい。

 

◆◆◆

 

「えっ、ちょ……ひゃぁぁぁっ!?」

 

 そんな風に大した理由もなく先輩の奇行に巻き込まれてしまった梨璃だが、窓からジャンプした雪華が続けて空中に出した足場へアンカーを打ち込んでは引っ張る勢いと腰に付けたライザーからのマギ噴射とで飛び越えるように上へ上へと向かうものだから、落とされないよう必死にしがみつくことしか出来ないでいると、そういえばと思い出すことがひとつ。

 

(もしかして、4月の時もこうやって上から降って来たのかな?)

 

 あの時はライザーを修理に出していたとはいえ、マギの足場を造り出すこと自体はリリィとしての技術のひとつとしてあるというのは、梨璃も授業で聞いてはいる。

 とはいえマギ消費の問題から雪華のように気軽に乱発するような物ではないし、このような使い方は本来想定外のそれなのだろうが……いくら非常識だろうと、彼女にとっては戦闘で自然と組み込むくらいには慣れ親しんだやり方なのだろう。

 

「……案の定滅茶苦茶やってますけど?」

 

「まあ、雪華様だから?」

 

 彼女らの下で中庭を行く琶月と汐里は二人を見上げる形になりながらなんともな空気になっているが、そのまま目的地方向へすっ飛んで行く雪華とその背の梨璃を見送ると、いよいよ時間がないなと歩みは次第に走りに変わる。

 

◆◆◆

 

「ラスト、一気に行くから気を付けてね!」

 

「へ? うひゃあ!?」

 

 何度か足場を使って空を翔けた後、最後にシールドのランチャーからマーカー弾を放てばそれを追うように袖口からはマギのワイヤーが伸び、引っ張られるようにしてマーカーの向かう百合ヶ丘の敷地内にある飛行場へ梨璃ちゃんの悲鳴をBGMに落ちていくと、逆噴射をかけて着地した先でどう反応したものか困ってそうな声を掛けられた。

 

「……何をしているのですか、雪華様」

 

「確か新型のテスト入ってたんだろ? だからって大分派手にやったナー」

 

「けど、これでギリギリ間に合ったでしょ?」

 

「さっきからしてた変な予感の正体は雪華様の暴走だったかー。つまり、うちのしおりんが遅れてるのもそういうことと」

 

 そんなゴールである飛行場の入口付近には百合ヶ丘の生徒がかなりの人数集まっており、先頭に近い位置にいた夢結と梅と聖には梨璃ちゃんを背中から降ろす様子に呆れた顔をされるけど、挨拶こそ出来ずとも見送りにはなんとか、といった結果なのだから呼びに来た梨璃ちゃん共々終わってから到着よりはよっぽどいい。

 

「汐里ちゃんのことはごめんて、調整がズレて若干予定より伸びてたせいだからさ」

 

「ふーん?」

 

 さて、言い訳も済ませたところでこの集まりが誰が何をしに行くのを見送るのか。という話になるけど、アルトラ級──前にも多少触れたいわゆる女王蟻のような存在であるヒュージで、ネストの設営や維持・そこでのヒュージの生産で消耗するのもあって滅多に振るわれることはないが自身もまたギガント級をも上回る最大級のサイズに見合った戦闘力を持つ、まさしく最強最悪の化け物。

 その内最も脅威的であるとされる〈七大アルトラ級〉の一体『ファーヴニル』が新潟の佐渡島にネストを作り、それにより受けた被害で現地のガーデンである〈柳都女学館〉のみではこれ以上の対処ができないと、少し前所属リリィ同士の個人的な伝手を頼りに百合ヶ丘へファーヴニル討伐への協力が打診された。それ故の今回の外征任務──麻嶺がわざわざホームの新潟から百合ヶ丘に来ていたのも、そういう背景があってのこと。

 

 つまりは今離陸し浮かび上がるガンシップ『ナグルファル』その初代からの主であるアールヴヘイムが件のファーヴニルを討伐するためにということで、初代組の三人が前の方にいるのもその縁からなのだろう。なんて振り返り終えていると、バタンと入り口のドアが開かれた。

 

「あ、汐里さんたち!」

 

「な、なんとか……ぜぇ……間に合い、ました……」

 

「もう……ほとんど、出発してます……けれど……」

 

 それをしたのは結局全力疾走になったのか息も絶え絶えでドアや壁にもたれかかる汐里ちゃんと琶月ちゃんで、二人の言うようにまだ下から手を振るのくらいは見えるだろうと、可愛いシルトに何をさせてるのとでも言いたげな聖から刺さる視線を無視して私も周りに倣って手を思いっきり振ってみる。

 

◆◆◆

 

「相変わらず百合ヶ丘は騒がしいみたいね?」

 

「いやー、あの人を基準にされると……あながち間違ってもいないか」

 

 ナグルファルの機内──柳都への帰還のため同乗している麻嶺の窓から地上を眺めてな言葉には、否定材料がどこにもないなと頬を掻く天葉。

 

「ほらいっちゃん、もっと寄らないと見えないわよ?」

 

「いや、この高さだともう……カメラのフラッシュ、二水さん?」

 

「確か、この前取材のために新しいのに買い換えたって言ってたよ」

 

 何故ならそんな二人の左右には一年生が集まっており、右側の窓では亜羅椰が左右に壱と樟美を抱き寄せようとしていて、壱には抵抗され樟美には下の景色に興味の度合いで負けといった手応えのなさという空振り具合。とはいえこの程度ならいつものことだと、本人は特に堪えもしていないが。

 

「ヤッホー、梨璃ちゃん見えるー?」

 

「まったく、あの人はまためちゃくちゃやってるし……」

 

「とりあえず弥宙も手ぐらい振っとけば?」

 

 左側の月詩、弥宙、辰姫は特に纏まりもなく思い思いに窓から下を眺めているし、百合ヶ丘が賑やかなガーデンだというのはアールヴヘイムという1レギオン内ですらこの有り様なのだからその通りでしかない……というのに不満というか不服そうというかな様子なのは、反対側で壁際の席に座る依奈。

 

「まったく、ピクニックじゃないんだから」

 

「でも、緊張でガチガチになってるのよりはいいんじゃないかしら?」

 

「……まあ、変に気負ってないのはいいと思うけど」

 

 それでも隣の茜から宥められれば、司令塔として気を抜ききらないようにしているだけだという空気になっていると、からかうように声を掛けられる。

 

「依奈、この間みたいに後輩のところに行かなくていいの?」

 

「お、お姉様!?」

 

 ここで話に割り込んだのは依奈のシュッツエンゲルである岡田(おかだ)綺更(きさら)──三年生で風紀委員長やアールヴヘイムのスーパーサブといった立場以上に、そのサディスティックな性格から来る異名の〈吸血姫〉の方が有名かもしれない彼女の嗜虐性はシルト相手であろうと一切の加減はなく、少し前にも煮え切らない距離を縮めようと壱と二人きりで話していたところへ急に現れた姉になじられたばかりなものだから、そこを再度突かれてはさしもの依奈もたじたじだ。

 

「あらあら。同じレギオンに二組もノルンがいるのって素敵だと思うけれど?」

 

「わ、若菜(わかな)様まで……」

 

 その上同じくスーパーサブな綺更のルームメイトにして天葉のシュッツエンゲルである(まき)若菜(わかな)まで性格の違いから綺更程の圧はないとはいえ、話にはしっかりと乗ってくる。

 ちなみにノルンとは一年生から三年生まで繋がったシュッツエンゲルのことで、二年生の天葉が上下の学年の二人と契っていることで成立したこのノルンは、各々のCHARM捌きの巧みさから『百合ヶ丘で最も華麗なノルン』と呼ばれていた。

 

 ともかく、二対一では分が悪いと依奈もここまでどこの会話にも巻き込まれていない、2代アールヴヘイム最後の一人を頼るしかなくなる。

 

「ちょっと乃彩(のあ)、見てないでなんとかしてよ。『カリスマ』持ちの乃彩様なんでしょ?」

 

「いや、ここであたしに頼られても困るんですけど?」

 

 話を振られたサブメンバーの中で唯一の二年生な毛綱(もづな)乃彩(のあ)は他人からよく『いい人』だと言われてはいるが、だからといって煮え切らない関係性に急かされている状況をなんとかしろと言われてもという反応だ。

 大体彼女が持つ稀少スキルであるカリスマも名前通りに圧倒的なカリスマ性にて場を引っ張る──だとかそんな便利な何かではなく、戦場におけるマギのやりくりというかそういう感じのコントロールを要求される物なのだから、傾向として人当たりの良いリリィがよく覚醒するらしいとはいえ、とてもこの場で役立つような代物ではなく、色々な意味で経験の差がある三年生二人相手に助太刀しろと言われてもどうにもならない。

 

「──でしょ?」

 

「あはは……」

 

 そんな風に機内のあちこちでメンバーが騒いでいるのを麻嶺に確認するように見渡されると苦笑しか返せない天葉だが、だからこそ信頼出来る仲間たちであるのも確かなのだから、最後に窓から大分遠くなってしまった百合ヶ丘の校舎を見詰めて呟く。

 

「いってきます」

 

◆◆◆

 

「……いってらっしゃい」

 

 空の向こうへ新潟に向かっていくガンシップを見送ると、集まっていた面々もぞろぞろと解散する中で私たちは知り合い──というよりレギオンメンバーで集まっていた。

 

「なんじゃ、結局全員来ておったのか」

 

 実際のところ一年組は向こうのメンバーと知り合いなりクラスメイトなりな子も多いし、二年の夢結と梅は何度も言っているけど天葉たちとは元チームメイトだ。故に縁という意味なら十二分にあるのだから、言葉程は意外そうでないミリアムちゃんの反応通りというか。

 

「まあ、こういったイベントを逃す手はないかと」

 

「皆、無事に帰ってこれたらいいね……」

 

「大丈夫でしょ、他からも援軍来るみたいだし」

 

 神琳さんの片目を閉じながらの冗談めいた言い方に続く雨嘉ちゃんと鶴紗ちゃんを見てて思うけど、そういえば鶴紗ちゃんって雨嘉ちゃん相手には言い方が気持ち優しい? いつぞや神琳さんの鶴紗ちゃんへの無遠慮な構いっぷりを雨嘉ちゃんが嗜めていたことといい、その辺りで懐いてたりするんだろうか。

 なんてことを考えていると、夢結の咳払いに皆の視線が集まる。

 

「こほん。ともかく皆いるのならちょうどいいわ」

 

「さっき鍵も貰って来たしナ!」

 

 なるほど、梅の取り出す鍵には私も見覚えがある。これで人数だけでなく正式にいっぱしのレギオンと認められたってことになるか。

 

「あ、梨璃さんたちの控室今日からなんですね? おめでとうございます!」

 

「ありがとうございます! でも、まだちょっと書類は残ってるんだけど……」

 

 それにしたって残り数枚だし、全員集まれる場所で決めた方がいいと後回しでも構わないと言われているのだから梨璃ちゃんも汐里ちゃんからのお祝いを受け取っているのはいいけど、直後の汐里ちゃんの状態にはツッコミを入れるべきか否か。

 

「すんすん」

 

「……へ?」

 

 一言で言うと吸われていた。誰にどういう感じにと聞かれれば……シュッツエンゲルの聖に、後ろから抱き付かれて、身長差的に顔がちょうど髪に当たるからとそのまま。

 

「……『シルト吸い』かぁ、久しぶりに見た」

 

「後学のためですが、一体いつ何処で誰のを?」

 

 なんの後学よ楓さん……というのは置いておくとして、この程度はシュッツエンゲル同士の過度なスキンシップの一種として百合ヶ丘ではそんなに珍しい物でもない。なのに久しぶりなのが何故かと言えばまあ、私の交遊関係の問題と言いますか。いや、汐里ちゃんたちにしたってシュッツエンゲル揃っては今年度からの付き合いだし?

 あと、シルト吸いって呼び方もあくまで生徒間での俗称で、猫の集会所みたく非公式なそれになる。というか、ガーデンが推奨していてたまるかこんなもん!

 

「とりあえずこれの前ってなると……」

 

「……夢結?」

 

 私が視線で指し示す先、それに続いた梅や他の皆も梨璃ちゃん相手に夢結がやっていたとかでないのはなんとなく察したのか特に何も言わないが、本人が口を開くのなら許しが出たでいいのだろう。

 

「いつの、ですか?」

 

「確か私が一年の時、あいつの部屋でだったかな? 気になるって言ってた資料渡しに探してたらもう帰ったって聞いたからさぁ」

 

 名前こそ直接出さなかったが、つまりは夢結が吸われる側のシルトであった頃──美鈴にさらっと髪を吸われているのを見たということになる。いや、指で髪すいて「夢結の髪は綺麗だね」って誉めながらやったらなんでも許されるワケでもないだろと見ながらフリーズしていたのもあって、半端に開けたドアをそっと閉めて資料も部屋の前に置いて立ち去ったけど。

 

「えっと、お姉様もやりたいん……ですか?」

 

「──っ!!」

 

 あ、そこで甘え声の上目遣いはヤバいでしょ梨璃ちゃん、固まった夢結の表情からしてこれ理性と色々ライン越えそうな何かが戦ってる感じするし。とりあえず、横から見てただけなのに勝負にもならず梨璃ちゃんにハアハアしてる楓さんは羽交い締めしとこう。

 

「二水ちゃんとミリアムちゃんは足よろしくー」

 

「な、なんですのー!?」

 

「お、おう。わしら三人もろとも引き摺って行きかねんのうこれは……」

 

「楓さん、蹴られたくなければ大人しくしときましょうよ……」

 

 それでもジタバタするもんだから二人の手を借りるけど、確かにこれは下手すると力負けしかねない……なんて周りがバタバタしているとショックから立ち直ったのか、汐里ちゃんが顔を真っ赤にして声を上げていた。

 

「……って、急に何してるんですかお姉様!? 皆さん見てるじゃないですか!」

 

「え、何って最近あんまりしおりん摂取できてなかったからシルト分の補給を」

 

「…………」

 

 ここにはもう元チームメイトな夢結たち込みな私たちと汐里ちゃんたち三人しかいないからほとんど身内判定が出てるんだろうとはいえ、琶月ちゃんは無言で入り口側から凄い不満オーラ垂れ流してるし、こっちはこっちで数人変な影響出てるしでまあうん。

 

「う、うぅ~……それにここまで走って来たから、汗もかいちゃってますし」

 

「そう? 汗くらいでしおりんの魅力は落ちないでしょ?」

 

 そこで汐里ちゃんを抱き締めたまま、軽く持ち上げてグルンと回る聖。いや危ないな?

 

「とりあえず私たちはそろそろ行くけど、ほどほどにね?」

 

「はーい」

 

 本当に分かってるのか怪しい気楽な返事を聞きながら、こっちはこっちでやることがあるのだからと飛行場を後にする。最後に一番後ろの梅が手を振りながら出るまで、汐里ちゃんはきっちりホールドされてたけど。

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