アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:空白期間長いってことは先に彼女のことも押し込んでいいと思った。などと供述しており…あと再三の新型フラグと、電撃の行き着く先と百合ヶ丘の伝統(違います)と。
隙間産業というか、グレーなのをいいことに…と詰め込んでたら後付けイベントを食らった図になります。でもあの流れで普通の寮に入れるのも変だしなぁ、という納得が欲しくて。


戦いを終わらせる者─ラーズグリーズ─

 〈一柳隊・控室〉──隊長の名前から取られた通称とはいえ、そう書かれた札が実際に扉の横へ掛けられているとこれまでの扱いから自覚していたつもりでも、緊張したまま廊下で固まる梨璃。

 

「あぅ……い、今からでも白井隊に変更したり、なんかは無理だよね」

 

「あはは、もう梨璃さんが隊長だって提出しちゃいましたから」

 

 新人リリィ同士そうなる気持ちを分かりはすれど、梨璃のレギオンだからと入ったメンバーが多数なのだから今更曲げられない部分ではあると二水も思っているから、これは聞けない相談になるという反応が帰ってくると、梨璃の肩が後ろからバシンと気合いを入れるように叩かれる。

 

「ひゃっ!?」

 

「梨璃よ、ここまで来たら観念するしかあるまい。何よりリリィは度胸じゃ!」

 

「あの時も申し上げましたが、わたくしたちがレギオンと集ったのは偏に梨璃さんの頑張りあってのこと、これはその勲章代わりのような物とでも思えば良いのですよ?」

 

 そんなミリアムとは方向性は違えど楓も梨璃の下で戦うことに不満などなく、むしろその背中を言葉でガンガン押しているのだから神琳と雨嘉も顔を見合わせて頷くと、この流れに乗ることにした。

 

「そうですね。梨璃さんが後方でどっしりと構えてくださるのなら、わたくしも安心して背中を任せられます」

 

「それに、わたしも後ろからなのは変わらないし……一緒に頑張ろうね、梨璃」

 

 こちらの二人は加入時のあれこれもあってか、戦闘面でのことをそれぞれの立場から梨璃を安心させようと伝えてくる。

 

「で、なんか梨璃に言うことないのか?」

 

「……別に、梨璃がちゃんと頑張ってるのはクラスで見てますから。その内ちゃんと成果も付いて来るでしょ」

 

 その様子を眺める鶴紗に梅が絡めば、鶴紗は自分が何をするでもない問題だと割り切っている……というよりはまだ集団での行動に慣れていない風な反応だから、それがなんだか可愛らしくて梅はポンポンと彼女の頭を撫でていた。

 

「な、何するんですか先輩!?」

 

「あの時みたいに『梅様』って呼んでくれていいんだゾー?」

 

 いつぞや神琳が言われていた、あまり押せ押せだと鶴紗には逆効果なのだという話は彼女も近くで聞いてたのだから、それ以上は梅も下手に踏み込まず鶴紗の方から歩み寄ってくれるのに任せると、照れたようにプイッと顔を逸らされる。

 

「……考えておきます」

 

「おう、梅はいつでもウェルカムだからナ!」

 

「……ふむふむ」

 

「神琳……?」

 

 それ故に神琳は自分が遠慮なく絡み過ぎて怒られる時とは違い、程よい距離感が大事なのかと顎に手を当てていると、何故か変な予感がすると疑問符を浮かべる雨嘉。

 ともかく、ここまで騒いでいても未だ梨璃は道中で梅から渡された鍵を手のひらの上に置いてドアの前に立ったままなのだから、いい加減状況を進めるべきだと、彼女のシュッツエンゲルとして夢結が口を開く。

 

「梨璃、経験がないというのが不安ならわたしもそう変わらないわ。初代アールヴヘイム時代は単なる隊員の一人だったのだもの」

 

「じゃあ、なんで今回は副隊長引き受けたのさ?」

 

 そう告げれば、これまで完全に眺めるだけなつもりだった雪華も夢結に場の流れ以上の理由があるのなら聞いておきたいと会話に混ざってくるのだから、少し顔を逸らしながらも夢結はそれに答える。

 

「それは……梨璃が、わたしなんかのためにレギオンを作ってくれたのです。だから、梨璃にだけ責任を負わせる訳にはいきませんもの」

 

「ふふっ、お姉様としての格好があるって?」

 

 いい関係になってんじゃん。と雪華は茶化すが、夢結の言い方に少し卑屈な部分があったと気になった梨璃は彼女の目の前まで来る。

 

「そういうの、良くないと思います!」

 

「梨璃?」

 

「お姉様はお姉様です。わたしの、自慢のお姉様なんです! だから、もうお姉様も自分で自分のことを虐めないでください! お姉様こそ、もう一人で背負わないでいいんですから!」

 

 お姉様お姉様と繰り返し過ぎているが、これまでのことから夢結には自罰的な傾向があると梨璃にまで見抜かれている、というのは伝わった。だから左右から梅と雪華に「どうするんだお姉様?」という雰囲気で挟まれずとも、夢結の取る行動は決まっていた。

 

「そうね……理想的なシュッツエンゲルとは多分、そういう物なのでしょう。だから、改めて誓わせて頂戴『これからは幸せな時も、困難な時も。健やかなる時も、病める時も。お互いを尊重し、支えあうこと』を」

 

「それって……!」

 

 梨璃の手を取りながら夢結の告げた文言、それは一言一句違わずシュッツエンゲルの契りを結ぶための誓約書に書かれている物で、それを今引用したのは……後ろ向きな気持ちのまま梨璃と契ってしまったことへの、懺悔だろうか。

 

「あの頃のわたしは、あなたのわたしとシュッツエンゲルを結びたいという気持ちを、わたしの都合だけで軽んじてしまっていた……わたしなんかと契っても後悔するだけだと、閉じ籠って……楓さんにあそこまで言わせておいて、結局わたしはシュッツエンゲルという関係のことを何も分かっていなかったのよ」

 

「ぐっ、そこでそのことを言われると口の挟み辛い……!」

 

「いや、何があったのさ楓さん?」

 

 とはいえ楓もぐぬぬとした顔こそしても実際に割り込まないのは口にした通りなのだから、そのまま大人しくしているのなら雪華もそこまで追及できない。

 

「だから、梨璃がこれからもわたしのシルトでいてくれるのなら、わたしもあなたのシュッツエンゲルであると胸を張れるようになるために……」

 

「はい、わたしも改めて誓います! これからもずっとずっと、わたしはお姉様のシルトでいたいから!」

 

 結局梨璃の側からの気持ちは何も変わらないのかもしれない。けれどこの誓いは夢結なりのけじめで、なあなあで梨璃の想いに甘えたまま済ませてはいけない問題だからこそ、レギオンとして二人の関係が更に先へ進む前に済ませておきたかったのだとは、他のメンバーにも分かる。

 

「ですが、いつまでも廊下というのも格好が付かないと思うので、そろそろ入りませんか?」

 

「ここでそれ、言えるんだ……?」

 

 いくら話が纏まったとはいえ、この雰囲気で口を挟めるのは神琳の度胸が凄いのか、それで皆の前だと思い出したシュッツエンゲルの顔が真っ赤になったのだから、単に梨璃と夢結が二人の世界に入りすぎていただけなのか。少なくとも、二水は満足そうにメモ帳を閉じていた。

 

◆◆◆

 

 少しドタバタとはしたものの、控室に入るとそれぞれ備え付けの椅子なりソファなりに腰掛けるので、皆が座ったのを確かめると真ん中の机に当面の議題となる書類をひとつ置いてみる。

 

「で、とりあえず真っ先に決めないといけないことってなると……レギオンの正式名なんだけど」

 

「せ、正式名……っていうと、お姉様たちのいたアールヴヘイムみたいな、ですか?」

 

「まあ、そうなるナ。一応規則だから、早く出さないと期限だって急かされるゾー?」

 

 ともかくそれの基本としては百合ヶ丘がモチーフとしているらしい北欧神話由来のネーミング──一応ドイツ語でもいいらしいけど、そういうのなんてその手(厨二病)の子か重度のゲーマーでもないと咄嗟に出てくるような物でもないようで、考えに詰まったのか「あぅ」と梨璃ちゃんは頭を抱え込んでしまっていた。

 

「ふむ」

 

 その様子にどうしたものかと顎に手を当てていると、向かい側のソファに座る神琳さんが手を軽く挙げて私に質問してくる。

 

「これは参考までになのですが、雪華様が以前いたレギオン──烏丸隊はどのように正式名を決められたのですか?」

 

「うちは結構ざっくりだったかなぁ。リリィ=戦乙女みたいなもんでしょ? ってなって、そのまま北欧神話のヴァルキリーの中から多数決で〈シグルーン〉意味は『勝利のルーン』ってまあ無難なとこにはなったけど……なんか後から調べると生徒会長の役職のひとつ(ジーグルーネ)と由来同じっぽいのに通ってたしで、正直よくわかんない」

 

 ある意味ではリリィの証でもあるルーンの刻まれた右手の指輪を見ながら神琳さんの質問にそう答えるけど、その隣の雨嘉ちゃん含めなんともな反応が多い。

 

「そ、そんなアバウトな……?」

 

「いやうん、アールヴヘイムとかの有名どころ以外はわりと通称の方しか使われないしね、百合ヶ丘の場合はさ」

 

 ただ、たまに外征で行ってた東京の方のレギオンは正式名称のまま名乗ってる所が多いので、土地柄というかガーデン柄なのだろうけど。

 

「ヴァルキリー、ヴァルキリーかぁ……いっぱいいるよ~」

 

「梨璃さん、こういうのは験担ぎも兼ねて意味の方で選ぶのも手ですよ!」

 

「有名どころは結構使われてるのも多いから、そこんとこ気をつけるんだゾー」

 

 百合ヶ丘内だと汐里ちゃんたち水夕会の正式名なレギンレイヴ、こないだの日羽梨がいるサングリーズル、祀さんのところなエイル辺りになるか。なんて半端な知識を頼りにそれとなく思考を巡らせていると、タブレットの画面とにらめっこしていた梨璃ちゃんがその一点を指差しながら上げた声に、現実に引き戻された。

 

「えーと、これで!」

 

「なになに〈ラーズグリーズ〉か。いいじゃん」

 

 どことなく主役らしい響き、不思議と火力をマシマシにしたくなる──なんて私が趣味全開な感想を抱いていると、楓さんからの補足が。

 

「その名の冠する意味は『計画を壊す者』あるいは他の意訳と纏めて『戦いを終わらせる者』ですわね。その心は?」

 

「折角だしそれくらいの意気込みで挑みたいなぁ、なんて……ちょっと背伸びしすぎかな?」

 

 梨璃ちゃんは頬を掻きながら自信なさげに言うが、ともあれ目標が高いのはいいことだ。最初から届かないだろうと諦めるより余程頼もしいし。なんて納得していると、鶴紗ちゃんは満足そうに頷いていた。

 

「いいんじゃないか? うん、最初の意味も気に入った」

 

「響きも強そうでよいではないか」

 

「格好いい、と思うよ」

 

「ふふ、戦いを終わらせる者ですか。臨むところです」

 

 そんな風に神琳さんたちの反応からも概ね手応えがあるなと眺めていると、夢結が場をまとめるように告げる。

 

「特に反対意見はなさそうね、二水さん」

 

「はい! ではこのまま申請しておきますね!」

 

 LG〈ラーズグリーズ〉、通称一柳隊。人数も十二分だし6月も頭にして正式に始動ってところかな? なんて話が終わったつもりでいると、毎度のように楓さんが手を叩いて仕切り直す。

 

「さて、もうひとつ報告というか共有しておきたい物があるのですが。神琳さん?」

 

「ええ。皆さん、これを」

 

 そう言って神琳さんがテーブルに置くのは、レギオンのフォーメーション表。名前の書かれている部分をひとつひとつ指差しながら、その説明が始まる。

 

「こちらは皆さんの実力やレアスキル、その他諸々を加味してわたくしと神琳さんとで決めたフォーメーションになります」

 

「まず前線になるAZ──アタッキングゾーンは左寄りの先頭へ夢結様、その斜め後ろに鶴紗さんという配置で」

 

「分かったわ」

 

「了解。後ろは任せた」

 

 CHARMの特性や本人たちの経験などを考えて、最前列の一番危険なエリアだからこそ相応の実力者を配置するというのには特に異論はなく、本人たちも聞かずとも役割は分かる雰囲気ならと神琳さんも続けて中衛の説明に。

 

「次に陣形の要となるTZ──タクティカルゾーンには中央前に雪華様、その後方に楓さん、そして左右にわたくしと梅様で十字の配置となります」

 

「ああ、一応私も組み込む想定のフォーメーションなのね?」

 

「なるべく早めに雪華様抜きの陣形に慣れるべきなのでしょうが、しばらくはこれでお願い致しますわ。それに、そこのおふたりが突撃しいなのはこれまでの戦闘や過去の記録を見れば一目瞭然ですし? なので初めから人数は多めに取っております」

 

「んー?」

 

「あんたとあたしでしょ、TZ配置の突撃バカは」

 

 分かっているだろうにわざとらしく首を傾げて惚けるのだから、そんな梅の頭を手刀でペチリ。

 

 とはいえわざわざ口にされた以上、それはそれで求められている役割のひとつではあるのだろうけど。私たちのスキルによる配置を越えた突撃を可能とする程のスピードは、すなわち周りのフォローへ素早く駆け付けられるということでもあるのだから。やっぱり揃って慣れたことでもあるし。

 

「まあ梅様はともかく、雪華様は本人の気質やスキル構成と実際の戦闘スタイルが微妙に噛み合っていない、という印象が強いのもありますもの」

 

「……ま、流石にこう何度も戦場を一緒にしてれば分かるか」

 

 そもそも私の専用機なオーバーライザーが、レアスキル覚醒前から無理に今のスタイルを実現するために作られたCHARMになる。その大前提を抜きにここ数ヶ月は『円環の御手』こそあるとはいえらしくないことを続けていたのだから、多少慣れた目があれば依奈に続いて楓さんたちにもそこの歪みはバレるだろう。

 

「実際個人的な適性はその通りだとは思うよ。前のレギオンでAZ配置だったのも、結局は私のワガママを聞いてもらってただけだし」

 

「それでも絶妙に最前線にしていない辺り、先輩がたも分かっていたようですが。ともかく、必要とあればわたくしか楓さんが指示を出しますので、その時はおふたりとも思う存分暴れてくださって構いませんよ」

 

「おう!」

 

「ま、それくらいでいいんだろうね。『あたし』の場合はさ」

 

 自覚もある以上神琳さんの言葉に否定出来る材料もなく、ある種の隠し球扱いもされているのならそれで構わないかと納得していると、横道に逸れるのもここまでだと最後の説明へ。

 

「それでは後衛となるBZ──バックゾーンですが、こちらは全体を見渡せる最後尾に梨璃さんと二水さんを配置し、左翼と右翼をそれぞれミリアムさんと雨嘉さんで固める形になります」

 

「梨璃さんたちの立ち位置はわたくしたちの『目』になります、こちらにも四人というのはそれだけ重要ということですわ」

 

「えっと……つまり周りを警戒するように、ってこと?」

 

「そうなりますね! わたしの『鷹の目』に梨璃さん持ち前の視野の広さを合わせて、皆さんの背中をお守りしましょう!」

 

 噂に名高い司令塔二人から任されたのもあってか、二水ちゃんはぐいっと梨璃ちゃんに寄りながら気合いの入った様子でいると、残りの二人は比較して落ち着いていた。

 

「となると、わしらは梨璃たちの護衛兼後方からの火力支援役というところじゃろうか? 『フェイズトランセンデンス』が唸るぞい!」

 

「うん、そうなる、かな? ただ、ミリアムはあんまりレアスキルばっかり使うと、切れた後のフォローが大変……」

 

 それぞれの配置と役割の確認を終えると、再度楓さんが仕切るように声を上げる。

 

「最終的には九人でのフォーメーションを基本に、休息のための交代や不在時に空きの出るところへ雪華様を代わりに入れるようにするのが理想ですわ」

 

「……なるほど、つまり私はどこでも行けるようにしとかないといけない訳だ」

 

 三年とはいえ期待が重いが、それくらいの方がやり応えはある。過剰な期待には、応えるしかないということだ。

 

◆◆◆

 

「きゅう……」

 

 それからしばらく経った日の放課後、控室にて梨璃はソファの背もたれ側に引っ掛かるように伸びていた。

 近頃はこの前拾った少女の面倒を見ながら彼女のリハビリに付き合っていたり、今日からは秦祀隊(エイル)との合同訓練が始まったのもあったりと、リリィとしてまだまだ新米な梨璃にとっては学業との両立もあってそろそろキャパオーバー気味のようで。

 

「ああ、おいたわしや梨璃さん……」

 

「んにゅぅ……楓さん、くすぐったいよぅ」

 

 そんな彼女の横にさっと陣取ると、肩や腰を優しくマッサージしている楓。今日ばかりは彼女も素直に労る気持ちが強く、無防備な梨璃を前にしても私欲に走ることはないらしい──というのを斜め隣の一人掛けのソファから眺める夢結は、何処か珍妙な物を見ているような感じになってしまう。

 

「……意外ね」

 

「そう? 寝込みを襲ったりとか弱みに付け込むなんてことだけはしないイメージがあるけど、セクハラするにしても真っ向から正々堂々とが楓さんでしょ」

 

 それはそれで風紀の問題がある気がするが、テーブルを挟んだ向かい側に座る雪華の言うように楓も梨璃の警戒心を刺激しないよう際どいところへは絶対に手を伸ばさず、彼女のマッサージを受けている梨璃が段々と気持ち良さそうな顔になっているのを見ていると、夢結とて今日くらいはこの程度のスキンシップを許しても構わないかという気持ちにはなる。勿論ヒートアップするようなら即座に引き剥がせるよう、決して気は抜かずに。

 

 なんて夢結と楓の間の駆け引きとも行っていない予防線は置いておいて、雪華の興味は梨璃がグロッキーになっている一因の方へ。

 

「それで、例のあの子は最近どうなのさ?」

 

「えっと、段々ちゃんと喋れるようにはなってきましたし、リハビリの方も何度も一緒になる先輩がよくしてくれてて……あ、その人ってうちのクラスの子のシュッツエンゲルな方なんですけど、綺麗な深緑の長髪で赤いリボンの──」

 

「……そう、冬佳が」

 

 長谷部冬佳──彼女が件の少女を気遣う余裕があるということは、夢結にとってもかつてのチームメイトの復帰がそう遠いことではなさそうだと、少しの間から複雑な気持ちが覗くが今は素直に喜んでいいのだろうという雰囲気でいるところへ、そういえばという気楽さで雪華が話を向ける。

 

「冬佳と言えばさ、百由とはわりと仲良かったよね夢結は」

 

「……事故は事故です。誰が悪いと言うのも違いますし、冬佳自身がまだ第4世代CHARMのテスターでいたいと言うのならば、それはあくまで当人たち同士の問題ですから……だから、彼女たちにはもう二度とあの時のようにはならないで欲しいと、二人の友人として祈っています」

 

「そっか。まあ出会いってのは大切にしとかないとね、一期一会ってやつ?」

 

 などとこの場では上級生の間だけで分かる会話をしていると、控室のドアをバタンと開けながら勢いよくおさげを跳ねさせて入ってくるのが一人。

 

「うわ、二水ちゃん?」

 

「少しはしたないわよ、二水さん」

 

「あっ、すみません先輩がた……それよりも!」

 

「それよりも?」

 

 丁度楓のマッサージも終わった梨璃が振り向けば、二水が両手で持ったタブレットをじゃーんと見せ付けており、何か新しいことでもあったのかと先に部屋にいた四人の視線が集まると、そこへ見覚えのある姿が投影される。

 

「え、わたし!?」

 

「はい! ようやく今年の新入生分のデータが集まりまして!」

 

 そこにはちょこんとミニサイズな梨璃が制服姿のホログラムとして、様々なプロフィールのデータと並んで表示されているが、本人としては憧れのお姉様の前で自分の情報が丸裸にされる恥ずかしさより先に、目についた違和感が口に出る。

 

「……あれ? 身長、前に測った時のになってる?」

 

「え、どこですか?」

 

「ほらここ。入学してから測ったら156㎝だったのに、これだと153㎝ってなっちゃってるよ。しかもスキラー数値も、最初に測った時の50のまま……?」

 

「他ならぬ梨璃さん自身が仰るのなら、こちらが間違っているのに決まっているのでしょうが」

 

 こうなるとデータの打ち込みミスか何かだろうかと二水が画面を「あーでもないこーでもない……」といじっていると、一瞬映像にノイズが走ったと思えば梨璃の口にした正しい数字に直っていた。

 

「ふぅ、いくつか古いファイルが混ざっていたみたいです。お騒がせしました」

 

「まあ、人数が多いとそういったミスも出るのでしょう。では、あ・ら・た・め・て♪梨璃さんのスリーサイズを……ふむふむ、上から80「わぁーっ! わぁーっ!?」おふっ!?」

 

 邪なのか正々堂々なのか分からない楓の視線を遮ろうとした梨璃がそのまま楓側に倒れ込んで「これはこれでアリですわー!」ともつれ合って彼女を喜ばせていると、騒ぎに我関せずという風を装いながら紅茶を飲んでいた夢結の目線がある一点へ向くと同時、同じように梨璃のプロフィールを見ていた雪華から声が上がる。

 

「ふんふん……あれ、梨璃ちゃん誕生日明日なの?」

 

「あ、はい!」

 

「ぶふっ……!?」

 

 いや、雪華は雪華で横から梨璃のプロフィールを眺めていただけで、夢結の目線を追った訳ではないと一拍置けば分かるが、不意に考えていたことと同じ内容を言われると夢結とて吹き出しかけて飲んでいた物が変なところに入りもする。つまりはむせていた。

 

「お、お姉様大丈夫でうわぁっ!?」

 

「うっ、ええ。へ、平気よ、少し紅茶が……けほっ」

 

 そのままカップを置いて口元を押さえる夢結の様子に気を取られてソファや楓ごと梨璃がひっくり返ってしまっているのだから、どっちもあまり大丈夫そうではない有様になっていると、各々用事や居残り訓練で遅れていた残りのメンバーが入ってくる。

 

「あ、あわわわ……」

 

「……何があったのでしょうか?」

 

「わしも今来たところだから分からんぞい」

 

 タブレットを抱くようにしながらパニックになっている二水の様子に、何がなんだかと混乱している神琳とミリアムの二人はともかく、その後ろから入ってくる三人はそれぞれ大変そうな組の元へ。

 

「夢結、変なとこ入ったか?」

 

「そ、そうね……ん、くっ……」

 

 梅に背中をさすられながら「無理に喋ると余計辛いゾー」と言われれば、夢結もそのまま静かにして身を任せていた。

 

「よい、しょっと」

 

「梨璃、大丈夫?」

 

「う、うん。ちょっとはしゃいじゃった……」

 

 雨嘉と鶴紗に両手を引かれて起こして貰うと、梨璃もこれは端から見たら子供が遊んでるみたいだったかと自覚して、照れ隠しに頬を掻く。

 ちなみに楓は下の方でまだ幸せそうにしているので急いで助けなくてもいい扱いなのだろうが、それはそれとして倒れたソファは戻さなければいけないだろうと、雪華が後ろに回る。

 

「とりあえずソファ起こすよー……聞いてないや。仕方ない、ちょっと誰か手貸して」

 

「ほいきた、まったくこやつは欲望に忠実過ぎるというか」

 

「だからこそ、楓さんらしいと言えるのでしょう」

 

 手の空いていたミリアムと神琳との三人で横になっている楓ごとソファを起こし、ひとまずは元通りに。

 

(とはいえ明日か……今からなら、ギリギリかな)

 

 そこで雪華はチラリと横目で時計を確認し、往復にかかる時間から夕飯を後にするか向こうで済ませるかでどうにかなるだろうと、頭の中でざっとこの後の予定を立てる。

 

◆◆◆

 

「さて、何にしたもんか。鳩サブレ、は流石にベタだしハムはなんか違う……ていうか、こういう時って食べ物かなぁ?」

 

 そんなこんなで鎌倉市の市街地、あの後グダグダ過ぎる状況に各自解散となって微妙に暇な時間が出来たからと、かつて鎌倉府が神奈川県と呼ばれていた頃から変わらず栄えているこの街まで来た訳なんだけど……梨璃ちゃんの好きな物、食べ物や飲み物しか知らないものだからどうしたもんかと入った百貨店の中で色々と迷っているのが、今の状況。

 

「あら、確か三年生の雪華様……でしたよね?」

 

「ん?」

 

 そうしていると同じく百合ヶ丘から来ている生徒に見付かったかと、聞こえた声に振り向けばそこには青っぽい黒髪の……またこの系統の髪色か!

 けど色味は夢結たちともまた微妙に違うし、他の面々との一番の差異として白いカチューシャを着けてるってことは──

 

「あーっと、一年の伊東(いとう)(しず)さんだよね? 『三姫様(さんひめさま)』で生徒会の」

 

「ええ。ですが、雪華様には梨璃さんのルームメイトと名乗るべきかもしれませんね」

 

 〈三姫様〉──百合ヶ丘の幼稚舎からの生え抜きな一年生の中でも、将来の生徒会三役候補と言われる程のリリィたち。入学前からの楓さんや神琳さんたちといい、あまり個人的な接点がなくともこれくらいの有名人は流石に名前と顔は一致する。

 というより、百合ヶ丘に関しては世界トップレベルのガーデン故にそこら中が有名人だらけなのに加え、周りのリリィオタク組の話を聞いている内に気付けば一通り覚えていたというのが正しいのかもしれないけど。去年までならレギオンの先輩たち、今だと二水ちゃん辺りの。

 

 しかも彼女の場合、生徒会の一員かつ今年度から結成の新興レギオンながら百合ヶ丘内でも上位になる格付けSランク越えの〈13レギオン〉のひとつで、現生徒会長の一人まで所属するLG〈シュバルツグレイル〉において主将を務め、リリィ個人としてもその実力と冷静沈着な指揮から〈氷帝(ひょうてい)〉との二つ名で呼ばれる程なのだから、大分有名度合いは高い。

 あと、二水ちゃんから弥宙ちゃんを交えた三人でよく夜中まで話しているとかなんとか前に聞いたし、私のことが知られていたのといい人材方面の知識も相当に……いや、これって普通に二水ちゃん経由の可能性あるか?

 

「この感じ……雪華様は梨璃さんの誕生日プレゼント選び、といったところでしょうか?」

 

 なんて色々考えていると、謎にお土産でも買おうと手に取っている私の様子から、街まで出て何をしていたかを分析された訳だけど。

 

「はは、まあ滑り込みだし分かるよね……そっちはもう用意してある感じ?」

 

「はい、万事抜かりなく。なので、わたしでよろしければ相談に乗りましょうか?」

 

 ふむ、渡りに船とはまさにこのことか。情報が思ったより不足しているところに普段から寝起きを共にしている同室相手からの提供は、ありがたすぎるってレベルじゃない。

 

「じゃあお言葉に甘えて。食べ物ってのもベタ過ぎてなんか違うかなぁってなってたところだし、同室だからこそって梨璃ちゃん情報、なんかない?」

 

「そうですね……あっ」

 

「お、いいのあった?」

 

 少し考える仕草をした閑さんがすぐに思い当たったのかハッとしたのだから、これは中々の物が聞けそうだと期待を強めていると、その答えはイタズラっぽく告げられる。

 

「実は梨璃さんって、夜はCHARMを抱いて寝ているんです。ほんのり暖かいからと」

 

「え、CHARMをって……グングニルを?」

 

「はい、流石に折り畳んでシューティングモードにはしていましたが。故郷の夜は冷えるからって癖になっちゃってたみたいですけど、変な子ですよね」

 

 お、おう。また不思議な情報が。とはいえ閑さんはクスリと笑いながら話すものだから、梨璃ちゃんのチャームポイントだとでも言いたいのだろうけど。

 

「んー、まあ参考にはなったかな?」

 

「ふふ、それは何よりです。わたしはもう少しこの辺りを見てから帰るつもりでしたが、ご一緒しましょうか?」

 

「いや、流石に選ぶのは自分でやるよ。そういうのも送る側の気持ちのひとつだろうしね、じゃあごきげんよう」

 

「はい、ごきげんよう」

 

 手を振りながらその場を離れると、エレベーター横の案内板を見てお目当ての売り場を確認、そのまま上から降りてきたエレベーターに乗り込むと目的の階へ──

 

◆◆◆

 

「あれ、帰りの便同じだった?」

 

「奇遇ですね雪華様……あら、プレゼントは?」

 

 そんなこんなで帰りの電車内、まばらな乗客の中にさっき見た顔がいればつい隣に座りながら声も掛けてしまう訳で。ちなみに私の状態は先程と変わらず鞄以外特に何も持ってはいないから、閑さんに疑問を持たれるのは仕方ないとして。

 

「いや、ちゃんと買えたけど流石にそのまま持って帰るにはちょっとかさばるやつだからね。お店の方で明日の朝ガーデンへ他の諸々のついでに送ってくれるよう手配して貰ったのよ」

 

「一応、わたしの部屋でもあるので、あまり大きな物だと困るのですが……」

 

「ははは、大丈夫大丈夫。ベッドには乗るし、普段使いも考えてるから」

 

 ベッドには、の部分と先程の話で何かを察してくれたのか「なるほど……」といくつかの可能性は浮かんだみたいだけど、敢えて聞かないのは同室相手として少しは楽しみにしてくれている、ということでいいのだろう。

 

「ところで、私のことって主に誰から聞いたの? なんとなく気になっててさ」

 

「それなら梨璃さんや二水さんからですね、クラスも同じですしレギオンの話が出る前から『知り合いに変わった先輩がいる』と揃って。まあ、生徒会の先輩がたからもある程度は聞いていましたが」

 

 あ、そこもある? いや、でも前のレギオン時代を考えたらそうか。問題児たちに鍛えられた最後の一人、何をしでかすか分からないって。

 

「それで、その辺り聞いた上で実際に会っての評価はどんなもん?」

 

「横浜での一件の流れから先輩がたの仰っていたこともなんとなく理解しましたが、今は梨璃さんたちの意見寄り、でしょうか」

 

 そこで生徒会側でありながら問題児とまでは言わず変わった人止まりなのは比較的好意的な側とお互い親しいから、と思っていいのだろうか。

 

「それと、個人的なことを言わせて頂けば読み甲斐のある方だな、とは」

 

「読み甲斐?」

 

「はい。わたしの見立てですと雪華様の戦闘スタイルは一見突拍子もないことばかりをされているようで、その裏にはリリィとしての経験と過剰な程の装備から取れる手段の多さに裏打ちされた無自覚の法則があるように──」

 

 ……しまった。二水ちゃんたちの同類というのなら、方向性が違うだけでスイッチが入るとこうなるか。とはいえ自分では意識して考えてもいない部分の癖について他人からの分析を聞けるのなら移動時間の暇潰しには悪くないかもと、その続きを聞きながら電車に揺られ続けることにする。

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